付加価値割の賃上げ控除を解説|外形標準課税の課税標準控除と令和8年度改正

法人税

資本金1億円超の法人にかかる外形標準課税には、賃上げをした場合に給与等の増加額を付加価値額(課税標準)から控除できる仕組みがあります。法人税の賃上げ促進税制が「税額」を直接控除するのに対し、こちらは「課税標準」を減らすタイプで、赤字でも適用できるのが大きな特徴です。令和8年度税制改正で、この制度は中小企業向け以外(大企業)が令和9年3月末で廃止、それまでの間も対象限定と要件強化が入る方向です。仕組みと改正を整理します。外形標準課税そのものの対象判定は、外形標準課税の対象法人とはで詳しく解説しています。

外形標準課税と付加価値割のおさらい

外形標準課税は、資本金1億円超の法人を対象に、所得だけでなく企業の規模(外形)に応じて法人事業税を課す制度です。法人事業税は「所得割」「付加価値割」「資本割」で構成され、このうち付加価値割は、企業が生み出した付加価値額を課税標準とします。

付加価値額の構成

付加価値額 = 収益配分額(報酬給与額 + 純支払利子 + 純支払賃借料)± 単年度損益

給与・賞与・手当などの報酬給与額が付加価値額に含まれるため、賃上げをするほど付加価値割の負担が増える構造になっています。これでは賃上げの妨げになるため、賃上げ分の増加額を課税標準から控除する措置が設けられているわけです。

ヒント:令和6年度改正で、資本金1億円以下でも一定の減資対応・100%子法人対応に該当する法人は外形標準課税の対象に加わる見直しがありました。資本金だけで対象外と判断せず、グループ内の資本剰余金や親会社規模も確認が必要です。

賃上げ控除の仕組み(課税標準控除)

この制度は、要件を満たすと雇用者給与等支給額の対前年度増加額(雇用安定控除を反映した額)を、付加価値額から控除できるものです。法人税の賃上げ促進税制が税額そのものを控除するのに対し、付加価値割では課税標準を圧縮します。

赤字でも使えるのが最大の利点

付加価値割は所得ではなく付加価値に課税されるため、所得が赤字で法人税の賃上げ促進税制(税額控除)を使えない法人でも、付加価値割では控除を受けられます。実際、多くの自治体の案内でも「所得が欠損である等の理由で法人税の特別控除を受けない法人についても、事業税では適用される」と明記されています。

負担軽減のイメージ

給与等の増加額が2,000万円、付加価値割の税率を約1.2%とすると、付加価値割の負担は概算で約24万円軽くなります(税率は標準税率の概算。実際は自治体・年度により異なります)。

適用要件(増加率・マルチステークホルダー・中小特例)

要件は、原則として法人税の賃上げ促進税制の計算の例によります。改正前(令和9年3月末までの本則)の基本要件は次のとおりです。

  • 雇用者給与等支給額 > 比較雇用者給与等支給額(前年より給与総額が増えていること)
  • 継続雇用者給与等支給額の増加率 ≧ 3%(継続雇用者ベースで判定)
  • 一定規模の法人はマルチステークホルダー方針の公表・届出(受理通知書の写しを添付)

外形対象の中小企業者等は1.5%でOK(中小特例)

令和7年4月1日から令和9年3月31日までに開始する事業年度について、外形標準課税の対象となる中小企業者等に該当する場合は、継続雇用者の増加率要件が3%ではなく1.5%以上に緩和されます。資本金1億円超でも中小企業者等の定義を満たすケース(減資対応等で外形対象になった法人など)で効いてきます。

マルチステークホルダー方針が必要な規模

資本金10億円以上かつ従業員1,000人以上、または従業員2,000人超(令和6年4月1日以後開始事業年度から)の法人は、方針の公表・届出と受理通知書の写しの添付が必要です。法人税側と同じ枠組みで、これを欠くと付加価値割でも控除を受けられません。

雇用安定控除との関係

付加価値割には、人件費の比重が高い企業の負担を緩和する雇用安定控除があります。報酬給与額が収益配分額の70%を超える場合、その超える額を付加価値額から控除する仕組みです。

賃上げ控除の対象となる増加額は、この雇用安定控除を反映した額で計算します。雇用安定控除と賃上げ控除の二重取りにならないよう調整されるため、人件費比率が高い労働集約型の企業では、単純な給与増加額より控除額が小さくなることがあります。計算は明細書の算式に沿って行います。

令和8年度改正(大企業除外・4%・廃止)

令和8年度税制改正大綱では、法人税の賃上げ促進税制の見直しに合わせ、付加価値割の賃上げ控除も縮小されます。改正の内容は段階的です。

対象 改正内容
中小企業向け以外(大企業) 適用期限(令和9年3月31日)の到来をもって廃止
令和8年4月1日以後開始事業年度(廃止までの間) 適用対象を従業員2,000人以下の法人に限定し、要件を継続雇用者4%以上(現行3%以上)へ強化

大企業は段階的に対象外へ

令和8年4月1日以後開始事業年度では従業員2,000人以下に対象が絞られ、さらに令和9年3月末で中小企業向け以外の措置自体が廃止されます。規模の大きい外形標準課税法人ほど、賃上げ控除を使える期間が短くなります。

国税の見直しに伴う住民税への波及

大綱では、法人税(国税)側の賃上げ促進税制の見直しに伴い、税額控除制度を中小企業者等に係る法人住民税に適用する措置も示されています。地方税側でも、中小企業者等への配慮を残しつつ大企業向けを縮小する方向で整理されています。

手続き・添付書類と実務の注意点

  • 使用様式:「給与等の支給額が増加した場合の付加価値額の控除に関する明細書(第6号様式別表5の6の3)」を申告書に添付します。様式は都道府県共通です。
  • マルチステークホルダー方針:該当規模の法人は、経済産業大臣への届出に係る受理通知書の写しを添付します。法人税側で準備したものを地方税申告にも使います。
  • 労働者派遣・非課税事業がある場合:派遣を行っている場合は増加額を所定の算式で調整し、非課税事業・収入金額課税事業を併せ行う場合は按分計算が必要です。
  • 赤字でも検討を:所得が赤字で法人税の税額控除を使えなくても、付加価値割では控除できる場合があります。外形対象法人は赤字年度でも適用可否を確認しましょう。

まとめ

  • 外形標準課税法人は給与増加額を付加価値額(課税標準)から控除できる。
  • 税額控除ではなく課税標準控除のため、赤字でも適用できるのが利点。
  • 要件は継続雇用者の増加率(原則3%、外形対象の中小は1.5%)+一定規模はマルチステークホルダー方針。
  • 雇用安定控除を反映した額で計算。労働集約型は控除額が小さくなることも。
  • 令和8年度改正で大企業は段階的に対象外、令和9年3月末で中小向け以外は廃止。

出典・参考

※本記事は令和8年6月時点の情報に基づく一般的な解説です。税率は自治体・年度により異なり、計算例は標準税率の概算です。改正内容は関係法令により細部が定まります。実際の申告にあたっては都道府県税事務所または税理士にご確認ください。

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