相続税は、原則として「相続の開始があったことを知った日の翌日から10か月以内」に、申告と納付を金銭一括で済ませるのが原則です。しかし、相続財産の多くが不動産で手元に現金がない、といった理由で、期限までに現金で払いきれないことがあります。そのための例外が延納(分割払い)と物納(モノで納める)です。
ただし、延納も物納も「払えないなら自由に選べる」ものではなく、要件と順序が厳密に決まっています。まず金銭一括、それが難しければ延納、延納でも難しければ物納、という段階を踏みます。本記事では、申告・納付期限の基本から、延納・物納の要件、利子税、手続きまでを、国税庁タックスアンサー(No.4211・No.4214)と条文に沿って整理します。
- 相続税の申告・納付期限は、相続の開始を知った日の翌日から10か月以内(相続税法27条)
- 納付は金銭一括が原則。困難な場合に延納(分割)、延納でも困難なら物納(モノで納付)の順
- 延納は相続税額10万円超・金銭一括困難・担保提供の3要件。延納期間中は利子税がかかる
- 物納は延納でも困難が要件。財産に順位があり、収納価額は原則として相続税評価額
- 申告期限の延長は原則不可。延納・物納の申請書は申告期限までに提出する
目次
相続税の申告・納付期限は10か月
相続税の申告書の提出期限、そして納税の期限は、いずれも「相続の開始があったことを知った日の翌日から10か月以内」です(相続税法27条)。多くの場合、被相続人が亡くなった日の翌日が起算日になります。たとえば4月10日に亡くなり、当日その事実を知ったなら、起算日は4月11日、期限は翌年2月10日です。期限日が土日祝日なら、その翌平日が期限になります。
申告と納付は同じ期限
申告期限は原則延長できない
相続税の申告期限は、原則として延長できません。遺産分割がまとまらない、財産の評価が終わらない、といった自己都合では延ばせないのが原則です。ただし、相続人の異動(認知・相続放棄・胎児の出生等の特定の事由)があった場合は最大2か月の延長が認められ、災害その他やむを得ない理由がある場合も、申請により期限が延長されることがあります。
納付の原則と3つの方法の順序
相続税の納付方法には、金銭一括・延納・物納の3つがありますが、これらは並列ではなく順序があります。まず金銭一括が原則で、それが困難なときに初めて延納、延納でも困難なときに初めて物納、という段階を踏みます。いきなり物納を選ぶことはできません。
| 順序 | 方法 | 内容 |
|---|---|---|
| 1 | 金銭一括納付 | 期限までに現金で全額納付する(原則) |
| 2 | 延納 | 金銭一括が困難な場合に、担保を提供して年賦(分割)で納付。利子税がかかる |
| 3 | 物納 | 延納でも金銭納付が困難な場合に、一定の相続財産そのもので納付する |
ここでの「金銭で納付することが困難」とは、相続財産だけでなく、相続人がもともと持っている自己資金(預貯金等)を合わせても払えない状態を指します。「手元に現金はあるが分割にしたい」という自己都合では延納は認められません。当面の生活費や事業の運転資金は考慮されますが、金銭的な余裕があると判断されれば、延納・物納は認められません。
延納の要件と利子税
延納は、相続税を一度に払えない場合に、担保を提供して年賦(分割)で納める制度です。次の3つの要件をすべて満たす場合に申請できます(相続税法38条、No.4211)。
| 延納の要件 | |
|---|---|
| 1 | 相続税額が10万円を超えること |
| 2 | 金銭で納付することを困難とする事由があり、その困難な金額の範囲内であること |
| 3 | 延納税額および利子税の額に相当する担保を提供すること |
加えて、申告期限(納期限)までに延納申請書と担保提供関係書類を提出することが必要です。担保は、相続財産に限らず、相続人固有の財産や第三者所有の財産でも提供できます。ただし、延納税額が100万円未満で、かつ延納期間が3年以下の場合は、担保を提供する必要はありません。
延納期間と利子税
延納できる期間と利子税の割合は、相続財産に占める不動産等の割合によって変わります。不動産等の割合が高いほど、延納期間は長く(最長20年)、利子税の割合は低くなります。延納期間中は、この利子税(利息に相当)を分納税額とあわせて納めます。
| 不動産等の割合 | 延納期間(目安) |
|---|---|
| 75%以上 | 不動産等に対応する税額は最長20年 |
| 50%以上75%未満 | 不動産等に対応する税額は最長15年 |
| 50%未満 | 原則5年〜10年 |
利子税の割合は法律で定められていますが、現在の低金利下では「延納特例基準割合」に応じた特例割合が適用され、実際の負担はかなり低く抑えられます。具体的な割合は毎年変動するため、申請時点の国税庁公表値で確認します。なお、延納の対象になるのは本税(相続税)のみで、加算税・延滞税・連帯納付責任額は延納の対象になりません。
物納の要件と財産の順位
物納は、延納によっても金銭で納付することが困難な場合に、相続した財産そのもので相続税を納める制度です(相続税法41条、No.4214)。金銭一括も延納も難しい、という最後の手段であり、次の要件をすべて満たす必要があります。
| 物納の要件 | |
|---|---|
| 1 | 延納によっても金銭で納付することを困難とする事由があり、その困難な金額を限度とすること |
| 2 | 申請財産が定められた種類・順位の財産で、管理処分不適格財産に該当しないこと |
| 3 | 納期限までに物納申請書と物納手続関係書類を提出すること |
物納に充てられる財産の順位
物納できる財産は、相続税の課税価格の計算の基礎となった相続財産のうち、次の順位で選びます。上位の財産がある場合は、原則として下位の財産を物納に充てることはできません。
| 順位 | 財産の種類 |
|---|---|
| 第1順位 | 不動産、船舶、国債、地方債、上場株式等(このうち物納劣後財産は他に適当な財産がない場合に限る) |
| 第2順位 | 非上場株式等(このうち物納劣後財産は他に適当な財産がない場合に限る) |
| 第3順位 | 動産 |
物納財産の収納価額(いくらとして納付に充てるか)は、原則として相続税評価額です。市場での売却価格ではなく、相続税の計算に使った評価額で引き取られる点に注意が必要です。相続時精算課税の適用を受けた財産や、非上場株式等の納税猶予の特例を受けた財産などは、物納の対象にできません。
落とし穴:管理処分不適格財産は物納できない
延納から物納への変更(特定物納)
いったん延納を選んだ後、途中で延納の条件を続けるのが難しくなることがあります。その場合、申告期限から10年以内に限り、まだ分納期限が来ていない税額部分について、延納から物納へ切り替えることができます。これを特定物納といいます(No.4214)。
通常の物納では収納価額が相続時の評価額なのに対し、特定物納の収納価額は特定物納申請の時の価額になる点が異なります。また、特定物納の申請をした場合は、物納財産を納付するまでの期間について、当初の延納条件による利子税を納めることになります。当初は延納で対応できると思っても、後から物納に切り替える道が残されている、と理解しておくと安心です。
期限に間に合わないときのペナルティ
10か月の期限までに申告・納付ができないと、本来払う必要のなかったペナルティが課されます。延納・物納の申請をせずに単に遅れた場合は、次の負担が生じます。
| ペナルティ | 内容 |
|---|---|
| 無申告加算税 | 期限までに申告しなかった場合に、本税に対して課される |
| 延滞税 | 納期限の翌日から納付日までの日数に応じて課される。納期限から2か月を境に割合が上がる |
| 過少申告加算税 | 申告額が少なかった場合に、不足していた本税に対して課される |
| 重加算税 | 財産を隠すなど隠蔽・仮装があった場合に課される(高率) |
納付方法の選択フロー
自分がどの納付方法になるかを、順番に確認するフローです。上から順にたどってください。
| 順 | 確認内容と結論 |
|---|---|
| 1 | 相続財産+自己資金で期限までに全額を現金で払えるか。払えるなら金銭一括納付 |
| 2 | 払えない場合、相続税額は10万円超か。担保を提供できるか。可なら延納を検討 |
| 3 | 延納(分割)でも払いきれないか。かつ物納に充てられる適格な財産があるか。可なら物納を検討 |
| 4 | いずれの場合も、申告期限(10か月)までに申告書・延納/物納申請書を提出する |
想定Q&A
Q1. 申告期限の10か月はいつから数えますか?
「相続の開始があったことを知った日の翌日」から数えます。多くの場合、被相続人が亡くなった日の翌日が起算日です。そこから10か月後の応当日が期限で、期限日が土日祝日なら翌平日になります。申告書の提出だけでなく、納税も同じ期限である点に注意してください。
Q2. 遺産分割が10か月以内にまとまらない場合はどうなりますか?
分割が終わっていなくても、期限までに申告・納税は必要です。この場合、法定相続分で分けたものとして仮に申告・納税します。あわせて「申告期限後3年以内の分割見込書」を出しておけば、後で分割が決まったときに配偶者の税額軽減や小規模宅地等の特例を適用でき、払いすぎた分の還付を受けられます。見込書を出し忘れると、これらの特例が使えなくなるおそれがあるので注意してください。
Q3. 手元に現金があるのに、延納で分割払いにできますか?
できません。延納は「金銭で一括納付することが困難」な場合の制度です。相続財産だけでなく、相続人自身の預貯金などの自己資金を合わせても払えない、という状態が要件です。手元に払えるだけの現金があるのに分割にしたい、という自己都合では認められません。当面の生活費や事業資金は考慮されますが、余裕があると判断されれば延納は使えません。
Q4. 延納で担保は必ず必要ですか?
原則は必要ですが、例外があります。延納税額が100万円未満で、かつ延納期間が3年以下の場合は、担保の提供は不要です。それ以外は、延納税額と利子税に相当する担保を提供します。担保は相続財産に限らず、相続人固有の財産や第三者の財産でも構いません。税務署が担保として不適当と認めた場合は、変更を求められることがあります。
Q5. いきなり物納を選べますか?
選べません。物納は「延納によっても金銭で納付することが困難」な場合の最後の手段です。まず金銭一括、次に延納、それでも難しい場合に初めて物納、という順序を踏みます。金銭で払えるのに物納したい、延納で払えるのに物納したい、という選び方はできません。
Q6. 物納すると財産はいくらで引き取られますか?
物納財産の収納価額は、原則として相続税評価額です。市場での売却価格ではありません。たとえば土地なら、路線価等で計算した相続税評価額で引き取られます。市場価格が評価額より高い財産は、売って現金で納めた方が有利なこともあり、逆に売りにくい財産は物納が有利なこともあります。どちらが得かは財産ごとに検討が必要です。
Q7. どんな財産でも物納できますか?
できません。物納できる財産には順位(第1順位:不動産・上場株式等、第2順位:非上場株式等、第3順位:動産)があり、上位の財産があれば下位は使えません。また、担保権が付いた不動産、境界が不明確な土地、権利関係に争いがある財産などは「管理処分不適格財産」として物納できません。物納を考えるなら、対象財産がこれらに当たらないか事前確認が必須です。
Q8. 延納を始めた後で払えなくなったらどうなりますか?
申告期限から10年以内なら、まだ分納期限が来ていない税額について、延納から物納へ切り替える「特定物納」ができます。この場合の収納価額は、相続時ではなく特定物納申請時の価額になります。延納で始めても、後から物納に変更する道が残されているので、状況が変わったら早めに税務署や税理士に相談してください。
Q9. 延納・物納の申請はいつまでにすればよいですか?
申告期限(納期限)、つまり相続開始を知った日の翌日から10か月以内までに、申請書と関係書類を提出する必要があります。書類は種類が多く、担保や物納財産に応じて準備するものが変わるため、期限直前では間に合わないことがあります。払いきれないと分かった段階で、早めに準備を始めるのが安全です。
Q10. 相続税はクレジットカードや分割で払えますか?
相続税は、国税クレジットカード納付の専用サイトからクレジットカードで納付できます。ただし一度の納付には金額の上限(決済手数料込みで1,000万円未満、かつカードの利用限度額以内)があり、税額1万円ごとに所定の決済手数料がかかります。カード会社側での分割払いは可能ですが、その場合はカード会社の分割手数料が別途かかります。これは税法上の延納とは別の仕組みである点に注意してください。
まとめ
相続税は、相続の開始を知った日の翌日から10か月以内に、申告と金銭一括納付をするのが原則です。一括が難しい場合は延納(分割)、延納でも難しい場合は物納(モノで納付)へと段階的に進みます。延納・物納は要件が厳しく、申告期限までに申請書を出す必要があります。とくに物納は財産の順位や適格性の確認が欠かせません。払いきれないと分かったら、早めに税理士へ相談し、期限内に手を打つことが、余計なペナルティを避ける最善策です。
- 申告・納付期限は相続開始を知った日の翌日から10か月以内(相続税法27条)。申告と納税は同じ期限
- 納付は金銭一括が原則。困難なら延納、延納でも困難なら物納の順序で、いきなり物納は不可
- 延納は相続税額10万円超・金銭一括困難・担保提供が要件(税額100万円未満かつ3年以下は担保不要)。利子税がかかる
- 物納は財産に順位があり、収納価額は原則相続税評価額。管理処分不適格財産は物納できない
- 延納から物納への変更(特定物納)は申告期限から10年以内。収納価額は申請時の価額
※本記事は作成時点の法令・公表資料(相続税法27条・33条・38条・41条〜48条の2、相続税法施行令、国税庁タックスアンサーNo.4211・No.4214、国税庁「相続税・贈与税の延納の手引」「相続税の物納の手引」等)に基づく一般的な解説です。利子税の割合や許可限度額の計算方法は改正・年度により変わるため、具体的な判断は最新の国税庁公表情報の確認、または相続に強い税理士へのご相談をおすすめします。


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