貸倒引当金の繰入限度額|法定繰入率と実績率の有利選択を解説

法人税

貸倒引当金は、将来の貸倒れ(取引先の倒産などで売掛金や貸付金が回収できなくなること)に備えて、あらかじめ損失の見込額を費用計上する制度です。会計上は多くの企業が計上しますが、法人税では損金に算入できる法人が限られ、しかも繰入限度額が細かく定められています。会計上の繰入額が税務上の限度額を超えると、その超過分は申告で加算調整が必要になります。

本記事では、貸倒引当金を損金にできる法人の範囲、個別評価と一括評価の区分、一括評価での貸倒実績率法と法定繰入率法の選択、そして別表調整までを、国税庁タックスアンサー(No.5501)と条文に沿って整理します。とくに中小法人が使える法定繰入率の業種区分と、有利選択の考え方を具体的に押さえます。

この記事のポイント
  • 貸倒引当金の損金算入ができるのは、資本金1億円以下の中小法人など一定の法人に限られる(法人税法52条)
  • 繰入限度額は「個別評価金銭債権」と「一括評価金銭債権」に区分して別々に計算する
  • 一括評価は貸倒実績率法(原則)と法定繰入率法(中小の特例)の選択で、限度額が大きい方を選べる
  • 法定繰入率は業種別(卸・小売・飲食10/1000、製造8/1000、金融・保険3/1000など)
  • 会計上の繰入額が限度額を超えたら、別表四・別表五(一)で加算調整する

貸倒引当金とは・貸倒損失との違い

貸倒引当金は、まだ貸倒れが確定していないものの、将来発生すると見込まれる損失をあらかじめ計上するものです。これに対して貸倒損失は、実際に回収不能が確定した損失です。見込みか確定かが両者の違いで、貸倒引当金は「備え」、貸倒損失は「結果」と整理できます。

なぜ税務では制限があるのか

会計では、財政状態を正しく示すため、回収可能性に応じて幅広く引当金を計上します。一方、税務では、確定していない損失の見積りを課税所得の計算に無制限に反映させると、恣意的に利益を圧縮でき、課税の公平が損なわれます。そのため、損金算入できる法人と限度額が法律で厳しく定められています。

損金算入できる法人の範囲

平成23年度の改正で、貸倒引当金の損金算入は原則として廃止され、現在は一定の法人だけに認められています。中心となるのが資本金の額または出資金の額が1億円以下の中小法人等です(法人税法52条)。

区分 損金算入の可否
資本金1億円以下の中小法人等 可(法定繰入率の特例も使える)
銀行・保険会社等 可(一定の金銭債権に限る)
資本金1億円超の大法人 原則不可
大法人の完全子会社等 中小法人から除外(不可)

落とし穴:資本金1億円以下でも使えないことがある

資本金1億円以下でも、資本金5億円以上の大法人に完全支配されている子会社などは、中小法人から除外され、貸倒引当金を損金算入できません。また、法定繰入率の特例は、適用除外事業者(その事業年度開始前3年以内に終了した各事業年度の所得金額の年平均額が15億円を超える法人等)には適用されません。形式的な資本金だけでなく、資本関係と所得水準もあわせて判定が必要です。

個別評価と一括評価の区分

繰入限度額は、金銭債権を個別評価金銭債権一括評価金銭債権の2つに区分し、それぞれ別々に計算します(法人税法52条1項・2項)。計算の順序は、まず個別評価を行い、そこで個別評価した債権を除いた残りを一括評価する、という流れです。

区分 対象
個別評価金銭債権 更生手続・再生手続・破産・債務超過など、特定の事由で一部に貸倒れの見込みがある債権。債務者ごとに評価する
一括評価金銭債権 売掛金・貸付金など通常の金銭債権のうち、個別評価の対象を除いたもの。まとめて実績に基づき評価する
通常回収に問題のない売掛金でも、一括評価では引当てが認められます。現実に貸倒れの危険がなくても、翌期に一定割合の貸倒れが統計的に生じると見込まれるためです。すでに個別評価した債権は、一括評価の対象から除く点に注意してください(二重計上の防止)。

一括評価の繰入限度額(2つの計算方法)

一括評価金銭債権の繰入限度額には、原則の貸倒実績率法と、中小法人等に認められる特例の法定繰入率法の2つがあります。中小法人等は、この2つを両方計算して、繰入限度額が大きくなる方を選べます(措法57の9)。実務では、まず両方を計算して有利な方を採用するのが一般的です。

(1) 貸倒実績率法(原則)

繰入限度額 = 期末の一括評価金銭債権の帳簿価額の合計額 × 貸倒実績率

貸倒実績率は、過去3年間(その事業年度開始の日前3年以内に開始した各事業年度)の貸倒損失などの発生額をもとに計算し、小数点以下4位未満を切り上げます。過去に貸倒れが多かった企業ほど、この率が高くなり有利になります。

(2) 法定繰入率法(中小法人等の特例)

繰入限度額 = (期末一括評価金銭債権 - 実質的に債権とみられない金額) × 法定繰入率

法定繰入率は業種ごとに定められています。「実質的に債権とみられない金額」とは、同じ取引先に対する買掛金など、相殺できる債務に相当する金額で、これを控除してから率を掛けます。

業種 法定繰入率
卸売業・小売業(飲食店業・料理店業を含む) 10/1000
製造業(電気業・ガス業・修理業等を含む) 8/1000
金融業・保険業 3/1000
割賦販売小売業等 13/1000
その他の事業(サービス業・不動産業など) 6/1000
設立間もない会社や、過去に貸倒れがほとんどない会社は、貸倒実績率が低くなりがちです。そうした会社では、業種ごとに一定率が使える法定繰入率法の方が有利になることが多いです。中小法人は毎期、両方式を試算して有利な方を選ぶのが基本です。

個別評価の繰入限度額(3つの区分)

個別評価金銭債権は、債務者の状態に応じて3つの基準で繰入限度額を計算します(法人税法施行令96条1項)。債務者ごとに、取立て・弁済の見込みがない金額を基礎に算定します。

基準 概要
長期棚上げ基準 更生計画認可の決定などで弁済が猶予され、事業年度末の翌日から5年を経過する日までに弁済されない金額
実質基準 債務超過が相当期間継続し、事業好転の見通しがないなど、取立て見込みがないと認められる金額
形式基準 更生手続開始の申立て、手形交換所の取引停止処分などがあった場合。担保等でカバーされる部分を除いた金額の50%

形式基準は、法的手続の申立てや取引停止処分といった外形的な事実があれば、その債権(担保等でカバーされる部分を除く)の50%まで引当てが認められる、比較的使いやすい基準です。個別評価は債務者ごとに要件を確認し、該当する基準で計算します。

別表調整と損金算入の要件

貸倒引当金を損金にするには、損金経理(会計上、費用として繰り入れること)が要件です。そのうえで、会計上の繰入額のうち税務上の繰入限度額に達するまでの金額が損金になります。限度額を超えて繰り入れた分(繰入超過額)は、損金になりません。

項目 扱い
会計上の繰入額 ≦ 限度額 全額が損金算入(調整なし)
会計上の繰入額 > 限度額 超過額を別表四で加算(損金不算入)、別表五(一)に留保
明細書 別表十一(一)(個別評価)・別表十一(一の二)(一括評価)に記載

貸倒引当金は、翌期に全額を取り崩して益金に戻し(戻入れ)、あらためて当期末の債権をもとに繰り入れる「洗替え」が基本です。前期の戻入額が当期の繰入額より大きいと、差引きで所得を押し上げることがあります。節税効果が大きく出るのは、引当てを始めた初年度が中心で、2年目以降は戻入れと繰入れが相殺され、効果は限定的になる点も理解しておきましょう。

計算例

前提:卸売業の中小法人(資本金3,000万円)、期末売掛金6,000万円

個別評価対象の債権はなし。実質的に債権とみられない金額(同一取引先への買掛金相当)500万円。過去3年の貸倒実績率は0.004(0.4%)とする。

この会社が使える2つの方法を比べます。

方法 計算 限度額
貸倒実績率法 6,000万円 × 0.004 24万円
法定繰入率法 (6,000万円 - 500万円) × 10/1000 55万円

この例では、法定繰入率法の55万円の方が、貸倒実績率法の24万円より大きくなります。したがって、繰入限度額は55万円を採用するのが有利です。会計上55万円を繰り入れれば、全額が損金になります。もし会計上70万円を繰り入れると、限度額55万円を超える15万円が繰入超過額として別表四で加算されます。このように、業種の法定繰入率が使える中小法人では、法定繰入率法が有利になるケースが多く見られます。

想定Q&A

Q1. 資本金1億円超の会社は貸倒引当金を損金にできますか?

原則としてできません。平成23年度改正で貸倒引当金の損金算入は原則廃止され、現在は資本金1億円以下の中小法人等や、銀行・保険会社等の一定の法人に限られています。大法人は、会計上は引当金を計上しても、税務では損金にならず別表で加算します。

Q2. 実績繰入率と法定繰入率はどちらを使うべきですか?

中小法人等は両方を計算して、繰入限度額が大きくなる方を選べます。過去に貸倒れが多かった会社は実績率が高く実績率法が有利、貸倒れが少ない・設立間もない会社は法定繰入率法が有利になりやすいです。毎期、両方を試算して有利な方を採用するのが実務の基本です。

Q3. 「実質的に債権とみられない金額」とは何ですか?

同じ取引先に対して売掛金(債権)と買掛金(債務)の両方がある場合、相殺できる部分は実質的に貸倒れのリスクがない、と考えます。この相殺相当額が「実質的に債権とみられない金額」で、法定繰入率法では、これを一括評価金銭債権から控除してから法定繰入率を掛けます。控除を忘れると過大計算になります。

Q4. どんな債権が一括評価の対象になりますか?

売掛金・貸付金などの金銭債権で、個別評価の対象を除いたものが一括評価金銭債権です。ただし、預貯金の未収利子、保証金・敷金・預け金、仕入割戻しの未収金など、実質的に貸倒れのリスクがないものは一括評価金銭債権に含まれません。対象範囲の判定を誤ると限度額が変わるので注意が必要です。

Q5. 個別評価の形式基準はどんなときに使えますか?

取引先について、更生手続開始・再生手続開始の申立て、破産手続開始の申立て、手形交換所の取引停止処分などの外形的な事実があった場合に使えます。この場合、その債権(担保等でカバーされる部分を除く)の50%まで引き当てられます。法的手続の申立てという明確な事実があれば適用できるため、実務でよく使われる基準です。

Q6. 貸倒引当金で毎年節税できますか?

大きな節税効果が出るのは、基本的に引当てを始めた初年度です。貸倒引当金は翌期に全額戻し入れ(益金)て、あらためて繰り入れる洗替えが基本のため、2年目以降は前期戻入れと当期繰入れが相殺され、債権残高が横ばいなら効果はほとんど残りません。恒久的な節税策ではなく、初年度に一度だけ課税を繰り延べる効果が中心と理解してください。

Q7. 会計上の繰入額が税務の限度額を超えたらどうなりますか?

超えた金額(繰入超過額)は損金になりません。別表四でその超過額を加算し、別表五(一)に留保として記載します。翌期にはその引当金を戻し入れるため、加算した分は翌期に減算されて解消されます。限度額の計算を正しく行い、超過額を適切に別表調整することが必要です。

Q8. 個人事業主も貸倒引当金を使えますか?

青色申告をしている個人事業主は、事業所得の売掛金・貸付金などについて一括評価の貸倒引当金を計上できます。ただし対象は事業所得に係る債権で、不動産所得や山林所得は対象外です。法人とは制度の細部が異なるため、個人の場合は所得税の規定に沿って計算します。本記事の内容は主に法人税を前提としています。

Q9. 貸倒実績率はどうやって計算しますか?

その事業年度開始の日前3年以内に開始した各事業年度の貸倒損失等の合計額(個別評価の繰入・戻入も調整)を、同じ期間の一括評価金銭債権の帳簿価額の平均で割って求めます。月数による年換算を行い、算出した率は小数点以下4位未満を切り上げます。過去の貸倒れが多いほど率は高くなります。

Q10. 貸倒引当金と貸倒損失はどう使い分けますか?

貸倒れが「見込み」の段階なら貸倒引当金、「確定」した段階なら貸倒損失です。回収不能がまだ確定していないが将来のリスクに備えるなら引当金を繰り入れ、実際に回収不能が確定したら貸倒損失として処理します。貸倒損失には独自の要件(法律上・事実上・形式上の3区分)があり、引当金とは別の判定が必要です。

まとめ

貸倒引当金は、資本金1億円以下の中小法人等が使える将来の貸倒れへの備えです。繰入限度額は個別評価と一括評価に分けて計算し、一括評価では中小法人が貸倒実績率法と法定繰入率法の有利な方を選べます。会計上の繰入額が限度額を超えたら別表で加算調整が必要です。節税効果は初年度が中心で、洗替えにより2年目以降は限定的になる点も踏まえて活用しましょう。

この記事のまとめ
  • 損金算入できるのは資本金1億円以下の中小法人等に限られる(大法人は原則不可、大法人の完全子会社等も除外)
  • 繰入限度額は個別評価金銭債権と一括評価金銭債権に区分して別々に計算する
  • 一括評価は貸倒実績率法と法定繰入率法(中小の特例)の有利な方を選択(法定繰入率は業種別)
  • 個別評価は長期棚上げ・実質・形式(50%)の3基準で債務者ごとに計算
  • 会計繰入額が限度額超なら別表四で加算・別表五(一)に留保。効果は初年度中心で洗替えにより限定的

※本記事は作成時点の法令・公表資料(法人税法52条、法人税法施行令96条、租税特別措置法57条の9、同施行令33条の7、国税庁タックスアンサーNo.5500・No.5501等)に基づく一般的な解説です。適用要件や率は改正により変わる場合があるため、具体的な判断は最新の条文・国税庁公表情報の確認、または顧問税理士へのご相談をおすすめします。

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