赤字(欠損)が出た期に、前期に納めた法人税を取り戻せるのが欠損金の繰戻し還付です。資金繰りに直接効く制度ですが、使えるのは中小企業者等に限られ、資本金1億円以下でも上場企業の完全子会社などは対象外、地方税は戻らない、といった実務上の勘所があります。本記事では、要件・計算・繰越控除との有利選択・デメリットまで、計算例を交えて深掘りします。
- 欠損金の繰戻し還付とは
- 適用できるのは「中小企業者等」だけ
- 適用要件(青色・連続申告・還付請求書)
- 還付額の計算式と計算例
- 地方税の取扱い(住民税の繰越に注意)
- 繰越控除とどちらが得か
- 解散等の特例・災害損失の特例
- デメリット・実務上の注意点
- まとめ
1. 欠損金の繰戻し還付とは
欠損金の繰戻し還付は、ある事業年度に生じた欠損金を、その事業年度開始の日前1年以内に開始した事業年度(還付所得事業年度。通常は前期)に繰り戻し、すでに納付済みの法人税・地方法人税の還付を請求できる制度です(法人税法80条)。
2. 適用できるのは「中小企業者等」だけ
この制度は原則として適用が停止されており、中小企業者等が各事業年度に生じた欠損金と、後述の解散等の事実が生じた場合の欠損金に限って使えます。中小企業者等の範囲が重要です。
事業年度終了時の資本金の額または出資金の額が1億円以下の法人。ただし、次に該当するものは除かれます。
- 大法人(資本金5億円以上の法人等)による完全支配関係がある法人
- 複数の大法人による完全支配関係がある法人 など
3. 適用要件(青色・連続申告・還付請求書)
- 還付所得事業年度(前期)から欠損事業年度(当期)まで連続して青色申告書である確定申告書を提出していること
- 欠損事業年度の青色申告書である確定申告書を、提出期限までに提出していること
- その確定申告書の提出と同時に「欠損金の繰戻しによる還付請求書」を提出すること
4. 還付額の計算式と計算例
還付請求できる法人税額は、次の算式で計算します。
分数の「当期の欠損金額」は、前期の所得金額を上限とします。つまり、前期の所得を超える欠損金は、この計算では使い切れません。
・前期(還付所得事業年度)の所得金額:800万円、納付した法人税額:120万円
・当期(欠損事業年度)の欠損金額:1,000万円
- 分数の当期欠損金額は前期所得800万円が上限 → 800万円 ÷ 800万円 = 1
- 還付請求額 = 120万円 × 1 = 120万円(前期法人税の全額が還付)
- 使い切れなかった欠損金200万円(1,000万 − 800万)は、翌期以降10年間の繰越控除へ
5. 地方税の取扱い(住民税の繰越に注意)
重要な注意点です。繰戻し還付で戻るのは国税(法人税・地方法人税)だけで、法人事業税・法人住民税には繰戻し還付の制度がありません。
- 法人事業税:繰戻し還付の制度なし。欠損金は事業税の繰越欠損金として将来に繰り越す
- 法人住民税:繰戻し還付で還付を受けた法人税額に相当する部分は、「控除対象還付法人税額」として、翌期以降の法人税割の課税標準(法人税額)から控除する形で繰り越される
6. 繰越控除とどちらが得か
欠損金は、前に戻す(繰戻し還付)か、先に繰り越す(繰越控除・10年)かを選べます。長期的に見れば、いつ税負担が軽くなるかの違いで、トータルの税額は大きくは変わりません。ただし、状況によって有利不利が分かれます。
- 今すぐ資金が必要(赤字で資金繰りが厳しい)
- 今後の黒字化が不透明で、繰越控除を使い切れるか不確実
- 前期に高い税率・高い所得で納税していた
- 当面の資金に余裕があり、将来確実に黒字が見込める
- 将来の方が税率や所得が高く、控除の価値が大きいと見込まれる
7. 解散等の特例・災害損失の特例
通常は中小企業者等に限られる制度ですが、解散・事業の全部譲渡・更生手続開始などの一定の事実が生じた場合には、中小企業者等以外の法人でも、その事実が生じた事業年度等の欠損金について繰戻し還付を請求できます(事実が生じた日以後1年以内に請求)。
8. デメリット・実務上の注意点
- 税務調査の端緒になりやすい:還付請求は税務署の調査対象になりやすいといわれます。前期の所得・当期の欠損の両方が見られる可能性を踏まえ、申告内容に不安がないことが前提
- 欠損金を消費する:繰戻しに使った欠損金は、その分だけ将来の繰越控除に使える額が減る(現金が戻る代わりに将来の盾が減る)
- 確定申告と同時提出:還付請求書の同時提出を忘れると使えない
- 連続青色申告が要件:間に白色の期があると使えない
- 地方税は現金で戻らない:事業税は繰越、住民税は控除対象還付法人税額として将来の調整
9. まとめ
- 当期の欠損金を前期に繰り戻し、納付済みの法人税・地方法人税の還付を受ける制度(法人税法80条)
- 使えるのは中小企業者等。資本金1億円以下でも大法人(5億円以上)の完全支配子会社は対象外
- 要件は連続青色申告・確定申告と同時の還付請求書提出
- 還付額 = 前期法人税 ×(当期欠損金〔前期所得が上限〕÷ 前期所得)。超過分は繰越控除へ
- 地方税は現金で戻らない(事業税は繰越、住民税は控除対象還付法人税額として将来調整)
- 資金繰り重視なら繰戻し、将来の節税重視なら繰越控除。併用も可能
- 解散等・災害損失には中小企業者等以外でも使える特例がある
- 更正の請求の実務|期限5年・後発的事由・できない場合
- 決算賞与の損金算入要件|未払計上の3要件と否認されるパターン
- 役員報酬の否認事例|定期同額給与・事前確定届出給与の落とし穴
- 国税庁タックスアンサーNo.5763(欠損金の繰戻しによる還付)
- 国税庁「欠損金の繰戻しによる還付請求書」
- 法人税法80条(欠損金の繰戻しによる還付)、地方法人税法・地方税法の関連規定
※本記事は作成時点の法令・通達・国税庁の取扱いに基づく一般的な解説です。適用可否や有利不利は個別事情により異なります。具体的な判断は税理士へのご相談をおすすめします。


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