賃上げ促進税制の計算・申告実務とQ&A|給与の範囲・雇用安定助成金・出向・組織再編・添付書類

法人税

この記事は、賃上げ促進税制の計算と申告でつまずきやすい論点をQ&A形式でまとめた実務編です。給与等の範囲、助成金や補填の控除、出向や組織再編、添付書類など、ガイドブックを読んでも判断に迷う箇所を整理します。制度の全体像は賃上げ促進税制の総まとめ(ハブ記事)を、区分別の解説は中小企業向け・全企業中堅向けの各詳細記事を参照してください。

この記事のポイント

  • 給与等は賞与・手当を含み退職金は除く。集計方法は前事業年度と当年度で継続する
  • 賃上げを補填する助成金や出向先からの給与負担金は控除。処遇改善加算等の役務対価は控除しない
  • 決算期変更による月数差や合併・分割は専用の調整計算。通常計算で進めない
  • 教育訓練費の上乗せは令和8年4月以後廃止。くるみん等の認定は適用年度中の取得が原則
  • 赤字でも繰越のため明細添付が必要。繰越年度は全雇用者の賃上げ継続が条件

給与等の範囲(何が入って何が入らないか)

Q. どこまでが「給与等」に含まれますか

対象は国内雇用者(賃金台帳に記載された使用人。パート・アルバイト・日雇いを含む)に対する給与・賞与・各種手当です。退職金は給与所得に当たらないため原則含みません。役員やその特殊関係者、個人事業主の特殊関係者は国内雇用者から除かれます。

ヒント:所得税法上非課税の通勤手当などは、含めずに計算する方法も、合理的な方法で継続して含める方法も認められます。いずれにせよ前事業年度と適用年度で同じ集計方法を継続することが重要です。

助成金・補填の控除

Q. 受け取った助成金は給与から引くのですか

給与等に充てるため他の者から支払を受ける金額(賃上げを補填する助成金など)は、給与等支給額から控除して計算します。さらに、雇用調整助成金などの雇用安定助成金額は、控除対象雇用者給与等支給増加額の上限となる調整雇用者給与等支給増加額の計算で控除されます。

控除しないものもある

看護職員処遇改善評価料や介護職員処遇改善加算など、役務の提供の対価として支払を受ける金額は「他の者から支払を受ける金額」から除かれ、控除しない取扱いに整理されています。助成金か役務対価かで扱いが分かれるため、性質を確認して処理します。判断に迷う補助金は税務署に確認するのが安全です。

出向者の給与の扱い

Q. 出向者の給与はどう扱いますか

出向元が出向者に給与を支払い、出向先から給与負担金を受け取っている場合、その負担金は「他の者から支払を受ける金額」として給与等支給額から控除します。実質的に自社が負担した人件費の増加分だけが対象になる、という考え方です。出向の有無や負担金の流れは、給与等支給額の集計に直接影響するため、契約関係を確認して正確に処理する必要があります。

設立・合併・分割と月数調整

Q. 前期と当期で月数が違うときはどうしますか

決算期変更などで前事業年度と適用年度の月数が異なる場合は、比較できるようガイドブックの算式に従って月数按分を行います。たとえば前事業年度が3か月、適用年度が12か月といったケースでは、前事業年度の給与等支給額に一定の調整係数を乗じて比較対象を整えます。

合併・分割があった場合:組織再編があった事業年度は、比較給与等支給額の計算が特殊になります。ガイドブックに専用の計算方法(再編相手の給与等を取り込む等)が定められているため、該当する場合は必ず該当ページを確認し、安易に通常計算で進めないことが重要です。

教育訓練費・認定の論点

Q. 教育訓練費の上乗せは令和8年4月以後も使えますか

使えません。令和8年4月1日以後に開始する事業年度では、全区分で教育訓練費の上乗せが廃止されます。それより前の年度で上乗せを使う場合は、教育訓練費の明細書(様式自由)を保存し、適用年度だけでなく前事業年度の対象費用の書類も作成しておく必要があります。なお前事業年度の教育訓練費がゼロでも、適用年度の教育訓練費が雇用者給与等支給額の0.05%以上であれば上乗せ要件を満たし得ます(廃止前の年度)。

Q. くるみん・えるぼしの認定はいつ取ればよいですか

くるみん認定・くるみんプラス認定・えるぼし認定(2段階目以上)は、税制を適用する事業年度に認定を受けていることが要件です。過去に取得した認定をもって上乗せを受けることはできません(プラチナ認定は事業年度終了の日に取得していればよいなど、種類で取得時期の扱いが異なります)。決算直前に申請しても間に合わないことがあるため、+5%を狙うならスケジュールを前もって組む必要があります。

申告・添付書類のQ&A

Q. 適用前に届出などの事前手続きは必要ですか

中小企業向けでは、税務申告より前の特段の手続きは不要です。確定申告書等に、控除対象雇用者給与等支給増加額・控除を受ける金額・その計算明細を記載した書類と、適用額明細書(法人のみ)を添付すれば適用できます。一方、一定規模以上の企業が全企業向け・中堅企業向けを使う場合は、別途マルチステークホルダー方針の公表・届出が必要です(詳細は該当記事参照)。

Q. 赤字や控除ゼロの年でも申告で何かする意味はありますか

あります。中小企業向けでは、控除しきれない額(赤字で控除ゼロを含む)を翌年度以降に繰り越すために、その年度の申告で繰越税額控除限度超過額の明細書を添付しておく必要があります。添付を忘れると繰越枠を確保できません。繰り越した額を実際に控除する年度は、全雇用者の給与等支給額が前年度より増加していることが条件で、その年度の比較雇用者給与等支給額がゼロだと適用できません。

ヒント:繰越制度があるため、中小企業は毎期、賃上げ要件(1.5%/2.5%以上)や上乗せ要件を満たすかを検討する習慣をつけておくと、適用漏れや繰越漏れを防げます。

よくある計算ミスのQ&A

Q. 通勤手当や非課税の手当は給与等に含めますか

所得税法上非課税の通勤手当などは、含めずに計算する方法も、合理的な方法で継続して含める方法も認められます。重要なのは、前事業年度と適用年度で同じ集計方法を継続することです。年度で含める・含めないがぶれると、増加率や増加額が正しく出ず、誤りのもとになります。

Q. 役員報酬は雇用者給与等支給額に含めますか

含めません。対象は国内雇用者(賃金台帳に記載された使用人)への給与で、役員やその特殊関係者、個人事業主の特殊関係者は除かれます。使用人兼務役員の役員分も対象外です。役員報酬の増額で賃上げ要件を満たそうとしても算定には反映されない点に注意してください。

Q. 前期に設立したばかりで、比較対象の前事業年度がありません

設立事業年度は前事業年度がないため、原則として適用を受けられません(比較雇用者給与等支給額が観念できないため)。翌期以降、前事業年度との比較が可能になってから適用を検討します。なお、適用除外事業者の判定でも設立後3年未満は原則として該当しない扱いです。

Q. 控除率を「増加額」ではなく「給与総額」に掛けてしまいがちです

よくある誤りです。控除率を乗じるのは給与の総額ではなく増加額(当年の雇用者給与等支給額-比較雇用者給与等支給額、調整後)です。総額に掛けると控除額が過大になり、過大控除として否認・修正の対象になります。増加額に対して控除率を乗じる、と必ず確認してください。

まとめ

  • 給与等は賞与・手当を含み退職金は除く。集計方法は前期と継続。
  • 補填の助成金・出向負担金は控除。処遇改善加算等の役務対価は控除しない。
  • 月数差・組織再編は専用の調整計算。通常計算で進めない。
  • 教育訓練費上乗せは令和8年4月以後廃止。認定は適用年度中の取得が原則。
  • 赤字でも繰越のため明細添付。繰越年度は賃上げ継続が条件。

出典・参考

※本記事は令和8年6月時点の情報に基づく一般的な解説です。個別の判断は事実関係により異なります。判断に迷う場合は最新のガイドブックや所轄税務署、税理士にご確認ください。

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