研究開発税制は、企業が支出した試験研究費の一定割合を法人税額から直接控除できる制度です。所得を減らす損金算入ではなく、税額そのものを減らす税額控除であるため、効きが強いのが特徴です。控除率や控除上限が試験研究費の増減に応じて変動し、3つの類型に分かれるなど計算が複雑で、令和8年度改正でも見直しが入りました。この記事では、制度の全体像から控除率・控除上限・改正点・申告の注意点まで、計算例つきで整理します。あわせて、令和8年4月から始まった防衛特別法人税との関係という見落としやすい論点も解説します。
この記事のポイント
- 試験研究費の額に控除率を乗じた金額を法人税額から控除する税額控除制度
- 一般型・中小企業技術基盤強化税制・オープンイノベーション型の3類型。一般型と中小は選択適用
- 控除率は大企業1〜14%、中小12〜17%。試験研究費の増減で変動する
- 控除上限は原則「法人税額の25%」。増減割合等で変動し最大60%まで
- 令和8年度改正で重点産業技術試験研究費(40〜50%)を新設、海外委託費に制限
- 研究開発税制で法人税をゼロにしても、防衛特別法人税は控除前の基準法人税額で課税され得る
目次
研究開発税制とは(税額控除の仕組み)
研究開発税制は、青色申告法人が試験研究費を支出した場合に、その試験研究費の額に控除率を乗じた金額を、その事業年度の法人税額から控除できる制度です。民間の研究開発投資を後押しし、イノベーションを促す狙いがあります。
税額控除額の考え方
税額控除額 = 次の①②のいずれか少ない金額
① 試験研究費の額 × 控除率
② 法人税額 × 控除上限割合
ポイントは2つあります。第一に、所得(課税対象)を減らすのではなく、計算された法人税額そのものを減らす税額控除である点。第二に、控除には法人税額を基準とした上限がある点です。そのため、赤字で法人税額がない事業年度は、その期の税額控除を受けられません(一定の繰越措置はあります)。
3つの類型と選択関係
研究開発税制は次の3類型で構成されます。それぞれ控除率と控除上限が異なります。
| 類型 | 内容 |
|---|---|
| 一般型 (一般試験研究費) |
試験研究費の総額に適用。大企業・中小企業とも利用可。控除率は増減で変動 |
| 中小企業技術基盤強化税制 | 中小企業者等が一般型に代えて適用。一般型より高い控除率(12〜17%) |
| オープンイノベーション型 (特別試験研究費) |
大学・他社等との共同・委託研究等に適用。控除率20〜30%。別枠の控除上限 |
選択・併用の関係
一般型と中小企業技術基盤強化税制はいずれか一方の選択適用です(両方は使えません)。一方、オープンイノベーション型は別枠のため、一般型または中小企業技術基盤強化税制と併用できます。ただし、同じ試験研究費を一般型とオープンイノベーション型で二重に計算することはできません。オープンイノベーション型の対象にした特別試験研究費は、一般型・中小の計算基礎から除きます。
対象になる「試験研究費」の範囲
対象となるのは、製品の新規開発や既存製品の改良などを目的とした試験研究費です。研究者の人件費、原材料費、外注費、委託研究費などが含まれます。一方、次のものは対象外です。
- 通常の生産活動や品質管理(製造ラインの維持、量産品の検査等)に係る費用
- 製品マスター完成後のソフトウェアの機能維持・障害除去
- 一般的な情報収集、市場調査
ヒント:令和の改正で、対象範囲に「対価を得て提供する新たな役務(サービス)の開発」や「デザインの試作・設計」が加わるなど、製造業以外でも使える余地が広がっています。自社の開発活動が試験研究費に当たるかは、業務の区分管理と根拠資料の整備が前提になります。研究専門部署がなくても、プロジェクト単位で従事状況を区分できれば対象になり得ます。
控除率|試験研究費の増減で変動
控除率は、過去3年平均(比較試験研究費)と比べた当期の試験研究費の増減割合に応じて変動します。研究開発投資を増やした企業ほど控除率が高くなる「メリハリ」の仕組みです。
| 類型 | 控除率の範囲 |
|---|---|
| 一般型(大企業等) | 1〜14% |
| 中小企業技術基盤強化税制 | 12〜17% |
| オープンイノベーション型 | 20〜30% |
中小企業技術基盤強化税制は一律12%を基礎に、試験研究費の増加割合に応じて最大17%まで上乗せされます。一般型より下限が高く、中小企業に有利な設計です。オープンイノベーション型は相手方に応じて控除率が分かれ、大学・特別研究機関との共同研究は30%、研究開発型スタートアップは25%、技術研究組合・高度研究人材の活用等は20%です。
控除上限|原則は法人税額の25%
税額控除には、法人税額を基準とした上限があります。原則は法人税額の25%ですが、試験研究費の増減割合や売上に占める研究開発投資の割合に応じて変動し、最大で法人税額の60%まで引き上げられる場合があります。
| 区分 | 控除上限(法人税額に対する割合) |
|---|---|
| 原則 | 25% |
| 増減割合等による変動・別枠込み | 最大60% |
| 設立10年以内等のベンチャー企業 | 上乗せあり(例:40%) |
赤字だと使えない:控除のベースが法人税額のため、欠損で法人税額がない事業年度は、その期の税額控除を受けられません。研究開発型のスタートアップで赤字が続く場合、控除枠を活かせないことがあります。一定の繰越控除はありますが、繰越して使う年度に試験研究費が比較試験研究費を超えていることなどの要件があります。
中小企業技術基盤強化税制の計算例
計算例:中小企業・試験研究費2,000万円・法人税額600万円
① 試験研究費 × 控除率(一律12%の場合)= 2,000万円 × 12% = 240万円
② 控除上限 = 法人税額600万円 × 25% = 150万円
よって①②のいずれか少ない金額なので、税額控除は150万円
この例では、試験研究費ベースの控除額(240万円)より控除上限(150万円)の方が小さいため、控除額は150万円に頭打ちになります。試験研究費が多い会社ほど、控除上限に到達しやすくなります。増減割合が大きい場合や売上に占める試験研究費割合が高い場合は、控除上限が引き上げられ、より多く控除できる可能性があります。
大企業の適用要件(特定税額控除の不適用措置)
中小企業者等以外の法人(大企業)は、研究開発税制などの税額控除を使うために、賃上げや国内設備投資の要件を満たす必要があります。これを「特定税額控除規定の不適用措置」といい、所得が前期より増えている大企業が次のいずれの要件も満たさない場合、研究開発税制等を適用できません。
- 継続雇用者の給与等支給額が前年度を一定割合超えて増加していること(賃上げ要件)
- 国内設備投資額が当期の減価償却費総額の30%(一定の場合40%)を超えること(設備投資要件)
- その対象年度の所得金額が前事業年度の所得金額以下であること
ヒント:この不適用措置は、利益を上げているのに賃上げも設備投資もしない大企業に税優遇を与えない趣旨です。中小企業者等には適用されません。賃上げ促進税制とセットで、大企業は賃上げ・設備投資の状況を毎期確認しておく必要があります。
令和8年度改正のポイント
重点産業技術試験研究費の新設(40〜50%)
令和8年度改正で、AI・先端ロボット、量子、半導体・通信、バイオ・ヘルスケア、フュージョンエネルギー、宇宙といった重点産業技術の研究開発を対象とする枠が新設されました。産業技術力強化法の重点研究開発計画の認定を受けた場合、重点産業技術試験研究費の40%(特別重点は50%)を税額控除できます。控除上限は当期の法人税額の10%(別枠)で、控除限度超過額は3年繰越できます。
海外委託試験研究費の制限
研究拠点の国内回帰を促す観点から、国外で行う委託試験研究費は原則として対象額の50%相当額に制限されます。ただし経過措置として、令和8年4月1日から令和9年3月31日までの間に開始する事業年度は70%相当額とされます。海外委託の比率が高い企業は、控除額が目減りする点に注意が必要です。
控除率カーブの段階的見直し
令和9年4月1日以後に開始する事業年度から、一般型の控除率・控除上限のカーブが見直され、増減試験研究費割合に応じた計算式が変わります。研究開発投資を増やすほど有利になる方向の調整が、段階的に施行されます。
防衛特別法人税との関係(重要)
研究開発税制で法人税ゼロでも防衛特別法人税は課税され得る
令和8年4月から始まった防衛特別法人税の課税標準は、税額控除を適用する前の基準法人税額です。研究開発税制で法人税の納付額をゼロまで圧縮していても、控除前の基準法人税額が500万円を超えていれば、防衛特別法人税が課税されます。研究開発税制をフル活用する企業ほど、この点を見落とすと税額の見積りが狂います。
例:基準法人税額600万円を研究開発税制で全額控除した場合
法人税の納付額 = 0円(研究開発税制で控除)
防衛特別法人税の課税標準 = 基準法人税額600万円 − 基礎控除500万円 = 100万円
防衛特別法人税 = 100万円 × 4% = 4万円(納付が必要)
なお、地方税(法人住民税)の課税標準となる法人税額は、原則として税額控除前の額を用いますが、中小企業者等の試験研究費の税額控除については控除後の額を用いるなど、税目ごとに扱いが異なります。研究開発税制を使う場合は、法人税・住民税・防衛特別法人税それぞれへの波及を分けて確認することが重要です。
想定Q&A
Q1. 赤字でも研究開発税制は使えますか
その期は使えません。控除のベースが法人税額のため、欠損で法人税額がない年度は税額控除が生じません。ただし一定の繰越控除があり、繰り越して使う年度に試験研究費が比較試験研究費を超えているなどの要件を満たせば、後の黒字年度で控除できる場合があります。
Q2. ソフトウェア開発も対象になりますか
新規開発や機能向上を目的とした試験研究は対象になり得ます。一方、製品マスター完成後の機能維持・障害除去や、システム運用管理、ユーザーサポートは対象外です。性能向上を目的としないことが明らかな開発業務も除かれます。区分管理が前提です。
Q3. 一般型と中小企業技術基盤強化税制は両方使えますか
いずれか一方の選択適用で、両方は使えません。中小企業者等は控除率の高い中小企業技術基盤強化税制を選ぶのが一般に有利です。一方、オープンイノベーション型は別枠なので、一般型または中小企業技術基盤強化税制と併用できます。
Q4. 賃上げ促進税制と研究開発税制は併用できますか
できます。両者は別制度なので併用可能です。ただし、いずれも控除上限(法人税額の一定割合)があり、複数の税額控除を合わせても法人税額を超えて控除はできません。さらに、研究開発税制等で法人税をゼロにしても防衛特別法人税は控除前の基準法人税額で課税される点に注意してください。
Q5. 大企業ですが、利益が出ています。研究開発税制を使えますか
所得が前期より増えている大企業は、賃上げ要件または国内設備投資要件のいずれかを満たさないと、研究開発税制などの税額控除が適用できません(特定税額控除の不適用措置)。利益を上げているのに賃上げ・設備投資をしていない場合は使えないため、毎期の充足状況を確認してください。中小企業者等にはこの制限はありません。
適用の判断フロー
| 手順 | 判断内容 |
|---|---|
| 1 | 青色申告法人で、税法上の試験研究費に該当する支出があるか確認 |
| 2 | 中小企業者等か(適用除外事業者でないか)。該当なら中小企業技術基盤強化税制を優先検討 |
| 3 | 大企業は、賃上げ要件・国内設備投資要件など不適用措置の充足を確認 |
| 4 | 控除率(増減割合)と控除上限(法人税額の25%〜)を算定。①②の少ない方が控除額 |
| 5 | 共同・委託研究があればオープンイノベーション型(別枠)の併用を検討 |
| 6 | 控除後も基準法人税額が500万円超なら防衛特別法人税の課税を確認(控除前で判定) |
まとめ
- 研究開発税制は試験研究費の額に控除率を乗じて法人税額から控除する税額控除。
- 3類型(一般型・中小企業技術基盤強化税制・オープンイノベーション型)。一般型と中小は選択、OI型は別枠で併用可。
- 控除率は大企業1〜14%・中小12〜17%、控除上限は原則法人税額の25%(最大60%)。
- 赤字では使えない。大企業は賃上げ・設備投資要件(不適用措置)の充足が必要。
- 令和8年度改正で重点産業技術(40〜50%)を新設、海外委託費に制限。
- 研究開発税制で法人税ゼロでも、防衛特別法人税は控除前の基準法人税額で課税され得る。
出典・参考
※本記事は令和8年6月時点の法令・公表資料(租税特別措置法、国税庁タックスアンサーNo.5441、令和8年度税制改正大綱、経済産業省資料等)に基づく一般的な解説です。控除率・控除上限の計算は増減割合等により細かく変動し、計算例は概算です。適用にあたっては最新の法令・国税庁資料の確認、顧問税理士への相談をおすすめします。


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