中小企業の設備投資税制を比較【令和8年度改正対応】投資促進税制と経営強化税制の違い・選び方

法人税

中小企業が機械や設備を導入したときに使える代表的な優遇税制が、中小企業投資促進税制中小企業経営強化税制の2つです。どちらも特別償却または税額控除を選べますが、手続きの手間と減税効果の大きさが大きく異なり、しかも同じ設備に両方を重ねて使うことはできません(少額の資産なら少額減価償却資産の特例も選択肢です)。「どちらを選ぶべきか」で必ず迷うところを、令和8年度改正を反映して比較で整理します。事前手続の要否、対象設備、適用期限、そして特別償却(課税の繰延)と税額控除(恒久的な減税)の本質的な違いまで、計算例つきで解説します。

この記事のポイント

  • 投資促進税制は事前手続が不要で手軽。30%特別償却または7%税額控除
  • 経営強化税制は経営力向上計画の認定が必要だが、即時償却または最大10%税額控除と効果が大きい
  • 両制度は選択適用で、同じ設備に重複適用はできない
  • 適用期限は投資促進が令和9年3月末、経営強化が令和10年3月末(2年延長)
  • 令和8年度改正で工具・器具備品の取得価額要件が30万円から40万円へ引上げ
  • 特別償却・即時償却は課税の繰延、税額控除は恒久的な減税という性質の違いで選ぶ

2つの設備投資税制の全体像

どちらも青色申告の中小企業者等が、一定の設備を取得して指定事業に使った場合に、特別償却(または即時償却)か税額控除を選択適用できる制度です。大きな違いは、経営力向上計画の認定という事前手続が要るかどうかと、それに伴う減税効果の大きさです。

ざっくりの使い分け

手間をかけずに手軽に使いたいなら投資促進税制、ひと手間かけても効果を最大化したいなら経営強化税制、という関係です。利益が大きく出た年に設備投資を一気に費用化したいなら、即時償却ができる経営強化税制が有力になります。

中小企業投資促進税制とは

機械装置などの対象設備を取得した場合に、取得価額の30%の特別償却または7%の税額控除を選択適用できる制度です。事前の計画認定が不要で、確定申告だけで使える手軽さが特徴です。

  • 対象法人:資本金1億円以下等の中小企業者等。ただし税額控除は資本金3,000万円以下の法人と個人事業主に限られ、資本金3,000万円超1億円以下の法人は特別償却のみ。
  • 主な対象設備:機械装置(1台160万円以上)、測定工具・検査工具(1台30万円以上かつ複数合計120万円以上等)、一定のソフトウェア(70万円以上)、車両総重量3.5トン以上の貨物自動車など。
  • 対象外:中古品、貸付用設備、器具備品(電子計算機・デジタル複合機等は平成29年度改正で対象外)。
  • 適用期限:令和9年3月31日まで。

中小企業経営強化税制とは

中小企業等経営強化法の経営力向上計画の認定を受けた事業者が、計画に基づく設備を取得した場合に、即時償却(取得価額の全額を初年度に費用化)または取得価額の10%の税額控除(資本金3,000万円超1億円以下は7%)を選択適用できる制度です。手続きの手間がある分、即時償却や高い控除率と、効果が大きいのが特徴です。

  • 対象設備の類型:生産性向上設備(A類型)、収益力強化設備(B類型)、デジタル化設備(C類型)、経営資源集約化設備(D類型)など。類型ごとに証明書・確認書が必要。
  • 事前手続:原則として設備取得前に工業会証明書または経済産業大臣の確認書を取得し、経営力向上計画の認定を受ける必要がある。取得日から60日以内に計画が受理される等の例外あり。いずれも事業年度内の認定が必要。
  • 適用期限:令和10年3月31日まで(令和8年度改正で2年延長)。
  • 令和8年度改正の除外:従業員数400人超の法人が新たに適用対象外に。

ヒント:経営強化税制で最も多いミスが「設備を買ってから計画申請しようとして間に合わない」ケースです。原則は取得前の証明書取得・計画認定で、例外(取得後60日以内の受理)も事業年度末までの認定が前提です。設備の発注前に手続きスケジュールを逆算しておくことが不可欠です。

比較表|一目でわかる違い

項目 投資促進税制 経営強化税制
償却 特別償却30% 即時償却(100%)
税額控除 7%(資本金3,000万円以下等) 10%(3,000万円超は7%)
事前手続 不要(申告のみ) 必要(経営力向上計画の認定)
手間 小さい 大きい(証明書・計画申請)
対象設備 機械装置・工具・ソフト・一定の貨物車等 機械・工具・器具備品・建物附属設備・ソフト(類型別)
適用期限 令和9年3月31日 令和10年3月31日

税額控除を選ぶ場合、両制度を合わせた控除額はその事業年度の法人税額の20%が上限で、超過分は翌事業年度に繰り越せます。なお、同じ設備に両制度を重ねて適用することはできず、申告時にどちらか一方を確定させて選びます。一度申告すると後から別の税制へ更正することは原則できないため、事前の試算が重要です。

特別償却と税額控除はどちらが得か

どちらの制度でも「特別償却(即時償却)」と「税額控除」のどちらかを選びます。両者は性質がまったく異なります。

本質的な違い

特別償却・即時償却=課税の「繰延」。早く償却する分、初年度の税負担は減るが、その後の年度の償却費が減るため、設備の耐用年数を通算した償却費の総額は通常償却と変わらない。

税額控除=「恒久的な減税」。通常の減価償却に加えて、取得価額の一定割合を法人税額から直接控除できる。償却費が減るわけではないので、トータルで純粋に税負担が軽くなる。

トータルの節税額だけを見れば、税額控除の方が有利になることが多いです。一方、特別償却・即時償却は、利益が大きく出た年度に税負担を先送りして当年のキャッシュを手元に残すのに向きます。黒字が一時的で翌年以降は利益が小さくなりそうな場合や、当面の資金繰りを優先したい場合は、償却を選ぶ意味があります。

計算例で見る効果の違い

計算例:500万円の機械(耐用年数7年・資本金3,000万円以下)

通常の減価償却(定額・初年度):約71万円を損金

投資促進・特別償却30%:初年度に 通常71万円+特別150万円=約221万円を損金

経営強化・即時償却:初年度に 500万円を全額損金

投資促進・税額控除7%:35万円を法人税から控除(+通常償却も継続)

経営強化・税額控除10%:50万円を法人税から控除(+通常償却も継続)

即時償却は初年度に500万円を一気に費用化できるため、利益が大きい年の納税を大きく繰り延べられます。一方、税額控除(経営強化10%なら50万円)は通常の減価償却を続けながら税額を直接減らせるため、長い目で見た節税額では有利になりやすい、という関係です。どちらが得かは、その年と翌年以降の利益見通し・資金繰りによって変わります。

令和8年度改正のポイント

  • 工具・器具備品の取得価額要件の引上げ:両制度とも、対象となる工具等の最低取得価額が30万円以上から40万円以上へ引き上げられました。これは少額減価償却資産の特例の上限が30万円未満から40万円未満へ引き上げられたことに連動するものです。30万円台の設備は対象外になる可能性があるため注意が必要です。
  • 経営強化税制の適用期限延長:令和7年度末で期限を迎える予定だった経営強化税制が、省力化投資の支援のため令和10年3月31日まで2年延長されました。
  • 経営強化税制の対象除外:従業員数400人超の法人が新たに適用対象外となりました。規模の大きい中小企業は確認が必要です。
  • 投資促進税制:控除率や基本的な仕組みに大きな変更はなく、適用期限も令和9年3月31日まで引き続き利用できます。

選び方の判断軸

こんな場合 向いている選択
手続きの手間をかけたくない 投資促進税制
利益が大きい年に一気に費用化したい 経営強化税制の即時償却
トータルの節税額を最大化したい 税額控除(経営強化10%が有力)
器具備品・建物附属設備が対象 経営強化税制(投資促進は対象外)
設備をすぐ買う必要がある(事前手続の余裕なし) 投資促進税制

赤字なら税額控除は効かない:税額控除は法人税額があって初めて効きます。赤字や繰越欠損金が多い年度は、税額控除を選んでもその期は控除できません。逆に特別償却・即時償却は赤字を拡大させて繰越欠損金を増やすだけになることもあります。利益見通しを踏まえた試算が前提です。

想定Q&A

Q1. 同じ機械に両方の税制を使えますか

使えません。1つの設備に投資促進税制と経営強化税制を重ねて適用することはできず、申告時にどちらか一方を選びます。一度申告すると後から別の税制へ更正することは原則できないため、事前の税額シミュレーションが重要です。

Q2. 資本金5,000万円の法人です。投資促進税制で税額控除できますか

できません。投資促進税制の税額控除は資本金3,000万円以下の法人と個人事業主に限られます。資本金3,000万円超1億円以下の法人は特別償却(30%)のみです。税額控除を使いたい場合は、経営強化税制(資本金3,000万円超は7%)を検討します。

Q3. 中古の機械は対象になりますか

なりません。どちらの制度も新品(新規取得・製作)が対象で、中古品や貸付用の設備は対象外です。自社の事業の用に供する新品設備であることが前提です。

Q4. パソコン(35万円)は対象になりますか

令和8年度改正で工具・器具備品の取得価額要件が40万円以上に引き上げられたため、35万円のパソコンは両制度の対象になりにくくなりました。なお、投資促進税制ではそもそも電子計算機等の器具備品は対象外です。少額減価償却資産の特例(30万円未満から40万円未満への引上げ)の活用も含め、別の制度を検討します。

Q5. 設備を買った後に経営強化税制を使いたいと気づきました

経営強化税制は原則として取得前の証明書取得・計画認定が必要です。例外として取得日から60日以内に経営力向上計画が受理されれば認められますが、事業年度内に認定を受ける必要があります。間に合わない場合は、事前手続が不要な投資促進税制(対象設備に該当すれば)を検討します。

Q6. 税額控除を選んだら、減価償却はできなくなりますか

いいえ。税額控除は通常の減価償却と併用できます。通常どおり減価償却費を計上しながら、取得価額の一定割合を法人税額から直接控除できます。これが、税額控除がトータルで有利になりやすい理由です。

適用の判断フロー

手順 判断内容
1 青色申告の中小企業者等か(経営強化は従業員400人超を除く)を確認
2 設備が新品で、取得価額要件(機械160万円・工具器具40万円・ソフト70万円等)を満たすか
3 事前手続の余裕があるか。あれば経営強化税制(効果大)、なければ投資促進税制
4 当年と翌年以降の利益見通し・資金繰りから、特別償却(繰延)か税額控除(恒久減税)かを選ぶ
5 税額控除なら法人税額の20%上限(両制度合計)を確認。超過分は1年繰越
6 明細書・認定書の写し等の添付書類を準備して申告

まとめ

  • 投資促進税制は事前手続不要・30%特別償却または7%税額控除(控除は資本金3,000万円以下)。
  • 経営強化税制は経営力向上計画の認定が必要・即時償却または最大10%税額控除と効果が大きい。
  • 両制度は選択適用で同じ設備に重複不可。税額控除は両制度合計で法人税額の20%上限。
  • 適用期限は投資促進が令和9年3月末、経営強化が令和10年3月末。
  • 令和8年度改正で工具・器具備品の取得価額要件が40万円へ。経営強化は従業員400人超を除外。
  • 特別償却・即時償却は課税の繰延、税額控除は恒久減税。利益見通しと資金繰りで選ぶ。

出典・参考

※本記事は令和8年6月時点の法令・公表資料(租税特別措置法、中小企業庁の各制度ページ・ガイドブック、国税庁タックスアンサーNo.5434、令和8年度税制改正大綱等)に基づく一般的な解説です。対象設備・要件・手続の細部は類型により異なり、計算例は概算です。適用にあたっては最新の中小企業庁資料や所轄税務署、税理士にご確認ください。

コメント

タイトルとURLをコピーしました