決算賞与の損金算入要件を徹底解説|未払計上の3要件と否認されるパターン

法人税

利益が出た期の節税策として定番の決算賞与。期末までに支給できなくても、一定の要件を満たせば未払計上で当期の損金にできます。しかし、この要件は厳格で、特に就業規則の定め方ひとつで全額否認されることがある、税務調査で狙われやすい論点です。本記事では、決算賞与の損金算入の3要件と、否認される典型パターン、実務での証拠の残し方までを徹底解説します。

目次
  1. 原則:賞与は「支給した日」の事業年度の損金
  2. 例外:未払計上が認められる3要件
  3. 否認パターン①:就業規則の「支給日在籍要件」(最大の落とし穴)
  4. 否認パターン②:通知後の退職者に支払わなかった
  5. 否認パターン③:1か月以内に支払えなかった
  6. 否認パターン④:通知の証拠がない
  7. 役員賞与は対象外
  8. 社会保険料(法定福利費)は未払計上できない
  9. 実務チェックリスト
  10. まとめ

1. 原則:賞与は「支給した日」の事業年度の損金

使用人に支給する賞与は、原則として実際に支払った日の属する事業年度の損金です(法人税法施行令72条の3第3号)。「当期の利益に対する賞与だから」という理由だけで未払計上しても、原則は当期の損金になりません。決算賞与が利益調整に使われやすいため、未払計上での損金算入には次の厳格な要件が課されています。

2. 例外:未払計上が認められる3要件

次の3つすべてを満たす場合に限り、未払いの決算賞与を当期の損金に算入できます(法人税法施行令72条の3第2号)。

要件 内容
①通知 支給額を、各人別に、かつ、同時期に支給を受けるすべての使用人に対して、事業年度終了の日までに通知していること
②支払 通知した金額を、通知したすべての使用人に対し、事業年度終了の日の翌日から1か月以内に支払っていること
③損金経理 その支給額を、通知した日の属する事業年度(当期)で損金経理していること
この3要件は、未払いでも「実際に支払われたのと同視できる状態」に限って例外的に損金算入を認める趣旨です。だからこそ、金額が1人でも未確定だったり、1人でも支払われなかったりすると、例外が崩れます。「すべての使用人」にはパート・アルバイトも含まれます

3. 否認パターン①:就業規則の「支給日在籍要件」(最大の落とし穴)

最も見落とされやすいのが、就業規則・賃金規程の定めです。多くの会社の賞与規程には「賞与は支給日に在籍する者に支給する」という支給日在籍要件が置かれています。この規定がある会社が決算賞与を未払計上すると、どうなるか。

支給日に在職する使用人のみに賞与を支給することとしている場合、期末日時点では「支給日前に退職すれば支払われない」状態であり、各人への支給額が確定した債務とはいえないため、要件①の「支給額の通知」に該当しないと取り扱われます(法人税基本通達9-2-43)。つまり、通知書を配っていても、就業規則に支給日在籍要件があるだけで損金算入が否認され得るのです。実際に退職者が出たかどうかは関係ありません。
対応としては、決算賞与については支給日在籍要件を適用しない(通知日に在籍する者に支給し、その後の退職者にも支払う)ことを規程・通知書で明確にしておく必要があります。未払決算賞与を使う予定がある会社は、事前に就業規則・賃金規程の賞与条項を点検してください。

4. 否認パターン②:通知後の退職者に支払わなかった

期末までに全員に通知したものの、支給日までに退職した従業員に支払わなかった場合、要件②(通知したすべての使用人への支払)を満たしません。この場合、その退職者の分だけでなく、決算賞与全体の損金算入が否認されます。

「退職した1人分の賞与だけ損金不算入」ではなく、全額が当期の損金から外れる(支払った分は支給日の属する翌期の損金になる)点が、この要件の怖さです。通知したなら、退職者にも通知額どおり支払う、が鉄則です。

5. 否認パターン③:1か月以内に支払えなかった

支払期限は「事業年度終了の日の翌日から1か月以内」です。3月決算なら4月30日まで。資金繰りの都合で5月にずれ込めば、たとえ数日でも要件②を満たさず、当期の損金算入はできません(支払った期の損金になります)。

決算賞与は、法人税・消費税の納税(期末から2か月後)より先にキャッシュアウトが来ます。納税資金と重なる時期の支出になるため、通知前に資金繰りを確定させておくことが実務上の大前提です。また、通知額と支払額は一致が必要で、減額して支払うと要件を満たしません。

6. 否認パターン④:通知の証拠がない

税務調査では、「期末までに、各人別の金額を、全員に通知した」事実が確認されます。口頭の通知では、後から立証できず否認されるリスクが高くなります。

通知の証拠化の実務
  • 日付入りの書面(賞与支給通知書)を各人別に交付する
  • 受け取った旨の本人のサイン(受領印)をもらい、会社で保管する
  • メールで通知する場合も、送信日時と各人別金額が残る形にする
  • 通知日は事業年度終了の日まで(期末日当日も可)。日付の証拠が残る方法で

7. 役員賞与は対象外

この未払計上の制度は使用人に対する賞与の話です。役員に対する賞与は、事前確定届出給与の届出(支給時期・金額を事前に届出)をして、そのとおり支給しない限り損金になりません。決算で利益が出たからといって、役員に臨時の賞与を出しても損金不算入です。使用人兼務役員の使用人分賞与には別途の論点があります(役員給与の詳細は「役員報酬の否認事例」の記事をご覧ください)。

8. 社会保険料(法定福利費)は未払計上できない

決算賞与本体が3要件を満たして当期の損金になっても、その賞与に係る社会保険料の会社負担分は、当期の未払計上による損金算入が認められません。社会保険料の損金算入時期は、保険料の計算の基礎となった月の末日の属する事業年度とされているためです(法人税基本通達9-3-2)。

例:3月決算・4月15日に決算賞与を支給

賞与本体 → 3要件を満たせば3月期の損金
社会保険料の会社負担分 → 計算の基礎となった月は4月 → 翌期(4月以降の期)の損金(3月期の未払計上は不可)

9. 実務チェックリスト

  • □ 就業規則・賃金規程に支給日在籍要件がないか(決算賞与に適用されない建付けか)
  • パート・アルバイトを含む全員に、各人別金額を期末日までに通知したか
  • □ 通知は日付入り書面+本人サインで証拠化したか
  • 期末翌日から1か月以内に、通知額どおり全員に支払う資金繰りが確定しているか
  • □ 通知後の退職者にも通知額どおり支払う運用になっているか
  • □ 当期に損金経理(未払金計上)したか
  • □ 役員分を含めていないか(役員は事前確定届出給与の問題)
  • □ 社会保険料の会社負担分を当期の損金に入れていないか

10. まとめ

この記事のポイント
  • 賞与は支給日の事業年度の損金が原則。未払計上は3要件(全員への各人別通知・1か月以内の支払・損金経理)を満たす場合の例外
  • 就業規則の支給日在籍要件があると、通知しても否認され得る(法人税基本通達9-2-43)。事前の規程点検が必須
  • 通知後の退職者への不支給・1日でも遅れた支払・通知の立証不能は、いずれも全額否認につながる
  • 役員賞与は対象外。社会保険料の会社負担分も未払計上不可(法人税基本通達9-3-2)
  • 通知の書面化・サイン回収・資金繰りの確定を、期末日までに済ませる
あわせて読みたい
  • 役員報酬の否認事例|定期同額給与・事前確定届出給与の落とし穴
  • 短期前払費用の否認事例|1年以内・等質等量・継続適用の要件と注意点
  • 出張旅費・日当の否認事例|旅費規程の作り方と非課税の限界
出典・参考

※本記事は作成時点の法令・通達・国税庁の取扱いに基づく一般的な解説です。就業規則の建付けや支給実務は会社ごとに異なります。具体的な判断は税理士へのご相談をおすすめします。

コメント

タイトルとURLをコピーしました