令和9年(2027年)1月から、所得税に上乗せされる防衛特別所得税が始まります。基準所得税額に1%を乗じる付加税ですが、同時に復興特別所得税が2.1%から1.1%へ引き下げられるため、付加税の合計は2.1%のまま変わりません。給与天引きの金額も当面は同じです。ところが、復興特別所得税の課税期間が2037年から2047年へ10年延長されるため、長期的には実質的な負担増になります。「単年度は変わらないのに、なぜ増税なのか」という、わかりにくい構造を、財務省の税制改正大綱をもとに計算例つきで解きほぐします。法人向けの防衛特別法人税との違いも整理します。
この記事のポイント
- 令和9年1月以後の所得から、基準所得税額に1%の防衛特別所得税が新設される
- 同時に復興特別所得税が2.1%から1.1%へ引き下げ。付加税合計は2.1%で据え置き
- 源泉徴収税率(例:15.315%)も当面は変わらない。毎月の手取りへの影響はほぼなし
- ただし復興特別所得税の課税期間が2037年から2047年へ10年延長。長期では実質増税
- 給与は2027年1月支給分から。源泉徴収票・年末調整の様式が変更される見込み
- 基準所得税額の計算・申告・源泉徴収の仕組みは復興特別所得税と同じ
目次
防衛特別所得税とは(目的と位置づけ)
防衛特別所得税は、日本の防衛力を抜本的に強化するための財源を確保する目的で創設される、所得税額に対する付加税です。令和8年度税制改正大綱(令和7年12月閣議決定)で正式に創設が決定し、令和9年(2027年)分以後の所得に適用されます。防衛財源措置は法人税の防衛特別法人税、所得税の防衛特別所得税、たばこ税の引上げの3本柱で、所得税部分がこれにあたります。
家計に配慮した「差し引きゼロ」の設計
防衛特別所得税1%を新設する一方で、復興特別所得税の税率を1%引き下げます。これにより、家計の現状に配慮し、当分の間の年間負担が増えないよう調整されています。給与所得者が源泉徴収票を見て急に税負担が増えたと感じないようにする工夫ともいえます。
付加税率の仕組み|合計2.1%は変わらない
所得税には、本体の所得税に加えて付加税が上乗せされています。令和8年分までは復興特別所得税2.1%のみですが、令和9年分以後は内訳が変わります。
| 時期 | 復興特別所得税 | 防衛特別所得税 | 付加税合計 |
|---|---|---|---|
| 令和8年分まで | 2.1% | - | 2.1% |
| 令和9年分以後 | 1.1% | 1.0% | 2.1% |
いずれも基準所得税額(おおむね所得税額)に乗じる付加税です。合計は2.1%で変わらないため、単年度で見れば納税額に変化はありません。名称と内訳が「復興2.1%」から「復興1.1%+防衛1.0%」に組み替わるだけ、というのが令和9年からの姿です。
負担イメージ(所得税額100万円の場合)
令和8年分まで:復興 100万円 × 2.1% = 2.1万円
令和9年分以後:復興 100万円 × 1.1% + 防衛 100万円 × 1.0% = 1.1万円 + 1.0万円 = 2.1万円
合計は同じ2.1万円。内訳が分かれるだけで、その年の負担は変わりません。
最大のポイント|課税期間の10年延長
「単年度の負担が変わらないなら増税ではないのでは」と感じるかもしれません。この制度の本質的な負担増は、復興特別所得税の課税期間が延長される点にあります。
復興特別所得税は2037年から2047年へ10年延長
防衛財源に充てる分だけ復興特別所得税の税率を下げると、その分だけ復興財源が不足します。これを補うため、復興特別所得税の課税期間が令和19年(2037年)から令和29年(2047年)まで10年延長されます。つまり、当初2037年で終わる予定だった付加税を、あと10年長く払い続けることになります。単年度の税率は据え置きでも、支払う年数が増えることで、生涯ベースの負担総額は増加します。これがこの制度の実質的な増税部分です。
| 付加税 | 課税期間 |
|---|---|
| 復興特別所得税(改正前) | 2013年〜2037年 |
| 復興特別所得税(改正後) | 2013年〜2047年(10年延長) |
| 防衛特別所得税 | 2027年〜「当分の間」(実質無期限) |
ヒント:防衛特別所得税の課税期間は「当分の間」とされ、実務上は無期限を意味します。復興特別所得税(2047年まで)とは終期が異なり、2048年以後は防衛特別所得税だけが残る形になります。長期の税務プランニングでは、この期間のズレも頭に入れておくとよいでしょう。
源泉徴収税率はどう変わるか
付加税の合計が2.1%で据え置かれるため、源泉徴収税率も当面は変わりません。たとえば源泉所得税15%の場合、現行は「15% × 1.021 = 15.315%」ですが、令和9年以後も内訳が変わるだけで合計は15.315%のままです。
源泉税率15.315%の内訳の変化
現行:源泉所得税15% + 復興特別所得税0.315% = 15.315%
令和9年以後:源泉所得税15% + 復興0.165% + 防衛0.15% = 15.315%
(復興は15×1.1%=0.165%、防衛は15×1.0%=0.15%。合計0.315%で従来と同じ)
利子・配当・報酬・原稿料などの源泉徴収率も、合計値は据え置かれます。源泉徴収義務者は、令和9年1月1日以後、所得税と復興特別所得税に加えて防衛特別所得税も併せて徴収・納付することになりますが、税率の数値自体に大きな変動はありません。
給与・年末調整・源泉徴収票への影響
- 給与の源泉徴収:令和9年(2027年)1月支給分から、源泉徴収税額の計算に防衛特別所得税が組み込まれます。国税庁から新しい源泉徴収税額表が公表される予定です。合計税率は据え置きのため、天引き額は基本的に変わりません。
- 給与計算ソフト:防衛特別所得税に対応したアップデートが必要です。クラウド給与システムは自動更新が一般的ですが、パッケージ版は手動更新が必要な場合があります。ベンダーの対応スケジュールを確認しておきます。
- 源泉徴収票・年末調整:年末調整の計算にも防衛特別所得税が反映されます。源泉徴収票の様式が変更され、従来の復興特別所得税額に加えて防衛特別所得税額の欄が追加されるか、合算表示される見込みです。
- 給与明細の表示:「防衛特別所得税」の項目が追加されるか、「復興・防衛特別所得税」として統合表示されるか、ソフトの仕様によります。従業員からの問い合わせに備え、説明資料を用意しておくと安心です。
ヒント:従業員への説明は、前年の源泉徴収票を見ながら「源泉徴収税額のうち1%分が防衛特別所得税に振り替わるが、合計の天引き額は変わらない」と具体的に示すと理解が得られやすくなります。
確定申告への影響と計算例
確定申告でも、基準所得税額に付加税を乗じる流れは変わりません。退職金にかかる源泉徴収については退職金の源泉徴収もあわせてご覧ください。基準所得税額の計算方法、申告・納付の手続きは復興特別所得税と同様です。申告書では、付加税の内訳が復興と防衛に分かれて記載される形になる見込みです。
計算例:基準所得税額50万円(令和9年分)
防衛特別所得税 = 50万円 × 1.0% = 5,000円
復興特別所得税 = 50万円 × 1.1% = 5,500円
付加税合計 = 10,500円(従来の復興のみ50万円×2.1%=10,500円と同額)
譲渡所得や配当など分離課税の所得にも、同様に付加税がかかります。事業承継での株式譲渡など譲渡益が大きい場合、付加税の影響額も相応に大きくなるため、試算に織り込んでおくとよいでしょう。
防衛特別法人税との違い
同じ防衛財源措置でも、個人にかかる防衛特別所得税と、法人にかかる防衛特別法人税は内容が異なります。
| 項目 | 防衛特別所得税 | 防衛特別法人税 |
|---|---|---|
| 対象 | 個人(所得税の納税者) | 法人 |
| 税率 | 基準所得税額 × 1% | 基準法人税額 × 4% |
| 基礎控除 | なし | 年500万円 |
| 開始時期 | 令和9年1月(令和9年分の所得から) | 令和8年4月1日以後開始事業年度 |
| 負担の特徴 | 復興特別所得税の引下げで単年度は据え置き | 純粋な上乗せ(その分だけ実効税率上昇) |
所得税側は復興特別所得税の引下げと抱き合わせで単年度の負担が据え置かれるのに対し、法人税側は引下げの抱き合わせがなく純粋な上乗せです。法人は実効税率が0.8〜1.0%程度上昇します。
想定Q&A
Q1. 令和9年から手取りは減りますか
単年度では基本的に減りません。防衛特別所得税1%が増える代わりに復興特別所得税が1%下がるため、付加税合計は2.1%で据え置きです。源泉徴収税率も変わらないため、毎月の天引き額に大きな変化はありません。
Q2. では「増税」というのは何が増えるのですか
復興特別所得税の課税期間が2037年から2047年へ10年延長される点です。1年あたりの負担は同じでも、付加税を払う年数が10年延びるため、生涯で見た負担総額は増えます。これがこの制度の実質的な増税部分です。
Q3. いつの所得から対象ですか
令和9年(2027年)分以後の所得です。給与の源泉徴収は2027年1月支給分から、防衛特別所得税を含む計算に切り替わります。確定申告では令和9年分(2028年に申告するもの)から反映されます。
Q4. 経理担当として何を準備すればよいですか
給与計算ソフトの防衛特別所得税対応アップデートの確認、国税庁が公表する2027年版の源泉徴収税額表の入手、給与明細・源泉徴収票の表示変更の把握、従業員向け説明資料の準備が中心です。源泉徴収の仕組み自体は復興特別所得税と同じなので、運用フローの大きな変更はありません。
Q5. 株式の譲渡益や配当にもかかりますか
かかります。分離課税の譲渡所得や配当所得の所得税にも付加税が乗ります。源泉徴収される上場株式の譲渡益・配当の税率(合計)は据え置きですが、内訳に防衛特別所得税が含まれることになります。譲渡益が大きい事業承継などでは、影響額を試算に織り込んでおきます。
Q6. 2048年以後はどうなりますか
復興特別所得税は2047年で終了する一方、防衛特別所得税は「当分の間」(実質無期限)続きます。そのため2048年以後は防衛特別所得税だけが残り、付加税の構成が変わります。長期の試算では、この終期のズレも考慮に入れます。
実務対応の判断フロー
| 手順 | 対応内容 |
|---|---|
| 1 | 給与計算ソフトの防衛特別所得税対応アップデートの有無・時期をベンダーに確認 |
| 2 | 国税庁公表の2027年版源泉徴収税額表を入手し、給与計算担当に周知 |
| 3 | 給与明細・源泉徴収票の表示変更(防衛特別所得税の項目)を確認 |
| 4 | 2027年1月支給分から新しい計算で源泉徴収・納付を開始 |
| 5 | 従業員へ「合計の天引き額は変わらない」旨を説明(前年源泉徴収票を活用) |
| 6 | 長期の税務プランニングでは課税期間の10年延長・終期のズレを織り込む |
まとめ
- 防衛特別所得税は令和9年分以後、基準所得税額に1%。所得税の付加税。
- 復興特別所得税が2.1%から1.1%へ下がるため、付加税合計2.1%は据え置き。
- 源泉徴収税率(15.315%等)も当面は変わらず、毎月の手取りへの影響はほぼなし。
- 実質増税は復興特別所得税の課税期間が2037年から2047年へ10年延長される点。
- 給与は2027年1月支給分から。ソフト更新・源泉徴収票変更・従業員説明が実務の要。
- 法人向けの防衛特別法人税(4%・基礎控除500万円)とは仕組みが異なる。
出典・参考
※本記事は令和8年6月時点の法令・公表資料(令和8年度税制改正大綱、令和5年度税制改正大綱、防衛財源確保に関する措置等)に基づく一般的な解説です。源泉徴収税額表の様式や申告書の記載方法は今後公表・変更される場合があります。計算例は概算です。適用にあたっては最新の国税庁資料や所轄税務署、税理士にご確認ください。


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