優秀な人材確保のため、給与・賞与に加えて株式報酬(ストックオプションやRSU)を導入する企業が増えています。これらはいつ・どの所得区分で課税されるかが種類で大きく異なり、誤ると想定外の納税や申告漏れにつながります。本記事では、税制適格・非適格ストックオプション、RSUの課税タイミングと税率、令和6年改正、計算例まで深掘りします。
目次
- 株式報酬の種類
- 税制非適格SO(2回課税)
- 税制適格SO(売却時1回)
- 税制適格の主な要件
- 令和6年改正(行使限度額の引上げ)
- RSU(権利確定時に給与課税)
- 計算例で比較
- 会社の源泉徴収義務
- 納税資金の注意
- まとめ
1. 株式報酬の種類
- 税制適格ストックオプション:一定要件を満たし、権利行使時非課税・売却時のみ課税
- 税制非適格ストックオプション:要件を満たさない無償SO。行使時と売却時の2回課税
- 有償ストックオプション:時価で新株予約権を購入。売却時に譲渡課税のみ
- RSU(譲渡制限付株式ユニット):一定期間後に株式が交付される。権利確定時に給与課税
最大のポイントは課税のタイミングと所得区分です。給与所得になると総合課税(累進・最大55.945%)、譲渡所得になると分離課税(20.315%)です。同じ株式報酬でも、種類によって税負担が大きく変わります。
2. 税制非適格SO(2回課税)
- 権利行使時:行使時の株価 - 権利行使価額 = 経済的利益が給与所得(総合課税)。発行会社は源泉徴収が必要
- 株式売却時:売却価額 - 行使時の株価 = 譲渡所得(分離課税20.315%)
税制非適格SOは権利行使時(まだ株を売って現金化していない時点)に給与課税される点が大きな負担です。総合課税で累進税率が適用され、給与が高い人ほど最大55.945%(所得税・住民税・復興特別所得税)に達します。役員の退職に基因して行使可能となる場合は退職所得になることもあります。
3. 税制適格SO(売却時1回)
- 権利行使時:課税されない(給与課税が売却時まで繰り延べ)
- 株式売却時:売却価額 - 権利行使価額(払込金額) = 譲渡所得(分離課税20.315%)。課税は1回のみ
税制適格SOは、権利行使時の給与課税がなく、売却時に譲渡所得(20.315%)として一度だけ課税されます。総合課税(最大55.945%)を回避でき、現金化のタイミングで課税されるため、付与される側に有利な制度です。スタートアップの人材獲得で広く使われます。
4. 税制適格の主な要件
- 付与対象者が自社・子会社の取締役・使用人等(一定の社外高度人材を含む)。大口株主等は除く
- 権利行使は付与決議日後2年経過日から10年(一定の会社は15年)以内
- 権利行使価額が付与時の時価以上
- 年間の権利行使価額の合計が限度額以内(次章)
- 権利行使で取得する株式が譲渡制限株式で、発行会社等により管理されること
- 新株予約権の譲渡禁止など
これらの要件を1つでも欠くと税制非適格となり、権利行使時に給与課税されます。例えば権利行使価額を時価より低く設定した、権利行使期間が2年未満、といったケースは非適格です。適格要件は租税特別措置法29条の2に定められています。
5. 令和6年改正(行使限度額の引上げ)
年間の権利行使価額の限度額
- 原則:年間1,200万円
- 設立5年未満の会社:年間2,400万円に引上げ(令和6年改正)
- 設立5年以上20年未満で非上場、または上場5年未満の会社:年間3,600万円に引上げ
令和6年度改正で、スタートアップの人材獲得力向上のため限度額が引き上げられました。あわせて、適格SOで取得した株式を証券会社等で管理する方法も認められ(従来は発行会社による株式管理が必要)、非上場株式の管理の負担が緩和されました。限度額を超える部分は税制非適格扱いになります。
6. RSU(権利確定時に給与課税)
RSU(譲渡制限付株式ユニット)は、一定期間の勤務等を条件に株式が無償で交付される報酬です。権利確定時(株式交付時)に、交付された株式の時価が給与所得として課税されます(外資系企業の日本法人従業員が本国親会社のRSUを受けるケースが典型)。その後、株式を売却したときは、売却価額と権利確定時の時価との差額が譲渡所得(20.315%)になります。RSUは権利確定時点で給与課税されるため、株価が下落しても課税時の時価で税負担が生じる点に注意します。外国親会社から付与される場合、日本の会社が源泉徴収していないことが多く、本人の確定申告が必要になります。
7. 計算例で比較
設例:権利行使価額200円、行使時株価800円、売却時株価1,000円、1万株
税制非適格SOの場合
- 権利行使時:(800 - 200)×1万株 = 給与所得600万円(総合課税・累進)
- 売却時:(1,000 - 800)×1万株 = 譲渡所得200万円 → 税 = 406,300円(20.315%)
税制適格SOの場合
- 権利行使時:課税なし
- 売却時:(1,000 - 200)×1万株 = 譲渡所得800万円 → 税 = 1,625,200円(20.315%)・課税1回のみ
非適格は給与600万円が総合課税(他の給与と合算され高い累進税率)になり、合計の税負担が適格より重くなりやすい構造です。適格は売却益全体が分離課税20.315%で、税率が一定です。給与所得の累進税率が高い人ほど、適格と非適格の差が大きくなります。
8. 会社の源泉徴収義務
税制非適格SOの権利行使益・RSUの権利確定益が給与所得となる場合、発行会社(雇用主)は源泉徴収義務があります。現物(株式)で支給され金銭の給与がない場合でも、その経済的利益に対する源泉所得税を、ほかの給与から徴収するか本人から徴収して納付します。外国親会社が付与し日本法人を経由しないRSU等は、源泉徴収されないため本人が確定申告します。給与所得として年末調整・源泉徴収票への反映も必要です。
9. 納税資金の注意
税制非適格SOの権利行使益・RSUの権利確定益は、株式を売却して現金化していない時点で課税されます。株式を保有し続けると、納税資金が手元にないのに高額の税金が生じる事態になり得ます。権利行使・権利確定の際は、納税資金分の株式を売却するなど、納税原資の確保を計画します。その後に株価が下落しても、課税は行使時・確定時の時価で行われるため、税負担が売却代金を上回るリスクもあります。
10. まとめ
この記事のポイント
- 税制非適格SO:行使時に給与課税(総合課税・最大55.945%)+売却時に譲渡課税の2回
- 税制適格SO:行使時非課税・売却時に譲渡課税(20.315%)の1回のみ
- 適格要件(行使期間2年〜10年・行使価額が時価以上・限度額・株式管理等)を欠くと非適格
- 令和6年改正で行使限度額が2,400万/3,600万円に引上げ・株式の証券会社管理も可
- RSUは権利確定時に給与課税。非適格SO・RSUは現金化前に課税のため納税資金に注意
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出典・参考
- 経済産業省「ストックオプション税制」
- 国税庁「ストックオプションに対する課税(Q&A)」
- 租税特別措置法29条の2、所得税法施行令84条
※本記事は作成時点の法令・国税庁等の取扱いに基づく一般的な解説です。要件・限度額は改正される場合があります。具体的な判断は国税庁の最新情報の確認および税理士へのご相談をおすすめします。


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