退職金の源泉徴収を徹底解説|退職所得控除・2分の1課税・申告書の有無で変わる税額

源泉所得税

退職金を支払うときの源泉徴収は、給与とは別のルールで計算します。退職所得の受給に関する申告書が提出されているかどうかで税額が大きく変わり、勤続5年以下の役員や従業員には2分の1課税の制限もあります。本記事では、退職金の源泉徴収の仕組みを、退職所得控除・2分の1課税・申告書の有無・例外まで、計算例を交えて深掘りします。

目次
  1. 退職所得は「分離課税」
  2. 退職所得の計算式
  3. 退職所得控除(勤続年数で決まる)
  4. 申告書の有無で税額が激変する
  5. 2分の1課税の例外①:特定役員退職手当等
  6. 2分の1課税の例外②:短期退職手当等
  7. 計算例
  8. 住民税・源泉徴収票
  9. まとめ

1. 退職所得は「分離課税」

退職金は、給与所得や事業所得とは別の退職所得として、他の所得と分離して課税されます(分離課税)。長年の勤労に対する報償的な性格から、退職所得控除・2分の1課税という税負担を軽くする仕組みが設けられています。

退職金には、いわゆる退職一時金のほか、解雇予告手当や、確定給付企業年金・確定拠出年金の一時金なども含まれます。支払者は、支払の際に所得税・復興特別所得税を源泉徴収します。

2. 退職所得の計算式

退職所得の金額は、原則として次のように計算します。

退職所得の金額 =(収入金額 − 退職所得控除額)× 1 / 2

この退職所得の金額に、所得税の累進税率(分離課税の速算表)を適用して税額を計算します。2分の1を乗じることで、税負担が大きく軽減されます(ただし後述の例外あり)。

3. 退職所得控除(勤続年数で決まる)

退職所得控除額は、勤続年数に応じて次のように計算します。

勤続年数 退職所得控除額
20年以下 40万円 × 勤続年数(最低80万円)
20年超 800万円 + 70万円 ×(勤続年数 − 20年)
勤続年数の1年未満の端数は切り上げます(例:30年3か月→31年)。勤続20年を超えると1年あたりの控除が40万円から70万円に増えるため、長く勤めた人ほど控除が大きくなります。例えば勤続38年なら、800万円+70万円×18年=2,060万円が退職所得控除額です。

4. 申告書の有無で税額が激変する

退職金の源泉徴収で最も重要なのが、「退職所得の受給に関する申告書」が支払者に提出されているかどうかです。

申告書 源泉徴収
提出あり 退職所得控除・2分の1課税を適用した正規の税額を計算して源泉徴収。原則として確定申告不要
提出なし 退職所得控除等を適用せず、収入金額 × 20.42%を一律源泉徴収。本人が確定申告で精算
申告書の提出がないと、退職所得控除も2分の1課税も適用されず、支払額全体に20.42%がかかります。本来なら控除で税額ゼロになるような退職金でも、申告書がないと多額の源泉徴収をされてしまいます(本人が確定申告すれば精算され戻りますが、手間がかかります)。退職金を支払う前に、必ず申告書を本人から提出してもらうことが実務の鉄則です。この申告書は会社で保管し、原則として税務署への提出は不要です。

5. 2分の1課税の例外①:特定役員退職手当等

勤続年数が短い役員の退職金には、2分の1課税が適用されません。

特定役員退職手当等

役員等としての勤続年数が5年以下の人が、その役員等勤続年数に対応して受ける退職手当等。この場合、退職所得の金額は次のとおりで、2分の1を乗じません

退職所得の金額 = 収入金額 − 退職所得控除額(×1/2なし)
短期間で役員に就任して高額の退職金を取り、2分の1課税の恩恵を受ける、といった節税を防ぐための規定です。役員勤続5年以下の役員退職金は、退職所得控除は引けても、その後の2分の1がない点に注意してください。1年未満の端数は切り上げるので、「4年6か月」も5年として5年以下に含まれます。

6. 2分の1課税の例外②:短期退職手当等

役員でない従業員等でも、勤続年数が短いと2分の1課税が一部制限されます(令和4年1月1日以後)。

短期退職手当等

役員等以外で勤続年数が5年以下の人が受ける退職手当等。退職所得控除後の金額のうち、300万円を超える部分については2分の1課税が適用されません。

  • (収入金額 − 退職所得控除額)が300万円以下の部分 → ×1/2あり
  • 300万円を超える部分 → ×1/2なし(全額が退職所得)
役員(特定役員退職手当等)と従業員(短期退職手当等)で制限の仕方が違う点が要注意です。役員勤続5年以下は2分の1が全くないのに対し、従業員勤続5年以下は、控除後300万円以下の部分には2分の1が残り、300万円超の部分だけ2分の1がなくなります。同じ「勤続5年以下」でも、役員か従業員かで計算が変わります。

7. 計算例

例1:勤続30年・退職金2,000万円(申告書提出あり・一般)
  • 退職所得控除 = 800万円 + 70万円 ×(30 − 20)= 1,500万円
  • 退職所得 =(2,000万円 − 1,500万円)× 1/2 = 250万円
  • この250万円に分離課税の税率を適用して所得税・復興特別所得税を計算
例2:役員勤続4年・役員退職金500万円(特定役員退職手当等)
  • 退職所得控除 = 40万円 × 4年 = 160万円
  • 退職所得 = 500万円 − 160万円 = 340万円(×1/2なし)
例3:従業員勤続4年・退職金600万円(短期退職手当等)
  • 退職所得控除 = 40万円 × 4年 = 160万円
  • 控除後 = 600万円 − 160万円 = 440万円
  • 300万円以下部分:300万円 × 1/2 = 150万円
  • 300万円超部分:(440万円 − 300万円)= 140万円(×1/2なし)
  • 退職所得 = 150万円 + 140万円 = 290万円

8. 住民税・源泉徴収票

  • 住民税:退職所得に係る住民税も分離課税で、支払時に特別徴収(天引き)して市区町村へ納入する。所得税と同様、退職所得控除・2分の1(例外あり)を適用した退職所得に税率(道府県民税4%+市町村民税6%)を乗じる
  • 退職所得の源泉徴収票・特別徴収票:支払者は作成・交付する。令和8年1月1日以後に提出すべきものから、税務署・市区町村への提出範囲が役員のみから全ての受給者に拡大された
なお、同じ年に2か所以上から退職金を受ける場合や、前年以前に他の退職金を受けている場合は、勤続期間の重複排除など退職所得控除の調整が必要です(前の退職金の勤続期間と重なる部分の調整)。この調整ルールは改正の動きもあるため、複数の退職金がある場合は最新の取扱いを確認してください。

9. まとめ

この記事のポイント
  • 退職所得は分離課税。退職所得 =(収入 − 退職所得控除)× 1/2
  • 退職所得控除は20年以下=40万円×年、20年超=800万円+70万円×(年−20)(端数切り上げ)
  • 退職所得の受給に関する申告書の提出がないと、収入金額×20.42%を一律源泉徴収
  • 役員勤続5年以下(特定役員退職手当等)は2分の1なし
  • 従業員勤続5年以下(短期退職手当等)は控除後300万円超の部分だけ2分の1なし
  • 住民税も分離課税で特別徴収。源泉徴収票は令和8年から提出範囲が全受給者に拡大
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※本記事は作成時点の法令・通達・国税庁の取扱いに基づく一般的な解説です。複数の退職金がある場合の調整や改正事項は個別に確認が必要です。具体的な判断は税理士へのご相談をおすすめします。

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