相続が起きても、すべての人に相続税がかかるわけではありません。相続税には「基礎控除」という非課税の枠があり、遺産の総額がこの基礎控除以下であれば、相続税はかからず、申告も原則として不要です。逆に、基礎控除を超えると、超えた部分に相続税がかかります。つまり、相続税がかかるかどうかの最初の分かれ目が、この基礎控除です。
この記事では、相続税の基礎控除について、国税庁No.4102・相続税法をもとに、計算方法、法定相続人の数え方(相続放棄・養子・代襲相続)、そして相続税がかからなくても申告が必要になるケースまで、わかりやすく解説します。
- 基礎控除=3,000万円+600万円×法定相続人の数
- 遺産が基礎控除以下なら相続税はかからず、申告も原則不要
- 相続放棄をした人も、基礎控除の計算上は法定相続人の数に含める
- 養子は、実子がいれば1人、実子がいなければ2人までしか数に含められない
- 配偶者の税額軽減や小規模宅地等の特例で税額がゼロになる場合は申告が必要
相続税の基礎控除とは
相続税の基礎控除とは、相続財産のうち、相続税がかからない一定の金額の枠のことです。遺産の総額(正味の遺産額)から基礎控除を差し引き、残った金額(課税遺産総額)に対して相続税がかかります。遺産総額が基礎控除以下であれば、課税される金額がゼロになるため、相続税はかからず、申告も原則として不要です。
基礎控除の計算式は、次のとおりです。
法定相続人の数が多いほど、基礎控除は大きくなります。法定相続人の人数ごとの基礎控除額は、次の早見表のとおりです。
| 法定相続人の数 | 基礎控除額 |
|---|---|
| 1人 | 3,600万円 |
| 2人 | 4,200万円 |
| 3人 | 4,800万円 |
| 4人 | 5,400万円 |
| 5人 | 6,000万円 |
法定相続人とは
基礎控除の計算で使う「法定相続人」とは、民法で定められた相続人のことです。誰が法定相続人になるかは、次のように決まっています。配偶者は常に法定相続人になり、それ以外の親族は次の順位で、上の順位の人がいれば下の順位の人は相続人になりません。
| 順位 | 法定相続人 |
|---|---|
| 常に相続人 | 配偶者(必ず法定相続人になる) |
| 第1順位 | 子(子が亡くなっている場合は孫などの代襲相続人) |
| 第2順位 | 直系尊属(父母。父母がいなければ祖父母) |
| 第3順位 | 兄弟姉妹(兄弟姉妹が亡くなっている場合は甥・姪) |
たとえば、配偶者と子2人がいる場合、法定相続人は配偶者と子2人の合計3人です。子がおらず、配偶者と被相続人の父母がいる場合は、配偶者と父母が法定相続人になります。子も父母もおらず、配偶者と兄弟姉妹がいる場合は、配偶者と兄弟姉妹が法定相続人です。
法定相続人の数え方の注意点
基礎控除の計算で使う法定相続人の数には、いくつか間違えやすい注意点があります。ここを誤ると基礎控除額がずれてしまうため、正確に押さえましょう。
相続放棄があっても数に含める
相続放棄をした人は、民法上は初めから相続人でなかったものとみなされます。しかし、基礎控除の計算上は、相続放棄がなかったものとして、その人も法定相続人の数に含めます。相続放棄によって基礎控除が減ってしまうことはありません。これは、相続放棄によって相続人の数を操作し、基礎控除を変えることを防ぐための取扱いです。
養子は数に制限がある
養子も法定相続人になりますが、基礎控除の計算に含められる養子の数には制限があります(相続税法15条2項)。被相続人に実子がいる場合は養子1人まで、実子がいない場合は養子2人までしか、法定相続人の数に含められません。これは、養子を多く迎えて法定相続人の数を増やし、基礎控除を不当に膨らませることを防ぐための制限です。
| 区分 | 数に含められる養子 |
|---|---|
| 実子がいる場合 | 1人まで |
| 実子がいない場合 | 2人まで |
代襲相続人は数に含める
本来の相続人である子がすでに亡くなっている場合、その子(被相続人の孫)が代わりに相続人になります。これを代襲相続といいます。代襲相続人は法定相続人として、基礎控除の計算上も数に含めます。たとえば、被相続人の子が1人亡くなっていて、その子(孫)が2人いる場合、その孫2人が代襲相続人として法定相続人の数に含まれます。
遺産総額の考え方
基礎控除と比べる「遺産総額(正味の遺産額)」は、単に預貯金や不動産を足したものではありません。プラスの財産から、借入金などの債務や葬式費用を差し引き、一定の非課税財産を除いて計算します。また、生前に贈与された財産のうち一定のものは、遺産に加算します。
| 区分 | 主な内容 |
|---|---|
| 加える | 預貯金、土地・建物、有価証券、死亡保険金・死亡退職金(非課税枠超)、一定の生前贈与財産など |
| 差し引く | 借入金などの債務、葬式費用 |
| 除く(非課税) | 死亡保険金・死亡退職金の非課税枠(各500万円×法定相続人の数)、墓地・仏壇など |
特に、死亡保険金と死亡退職金には、それぞれ「500万円×法定相続人の数」の非課税枠があります(相続税法12条)。たとえば法定相続人が3人なら、死亡保険金は1,500万円まで非課税です。この非課税枠を差し引いた後の金額が遺産に加わります。生前贈与の加算については、令和6年(2024年)からの改正で加算期間が順次延長されているため、当サイトの暦年贈与・相続時精算課税の記事もあわせてご確認ください。
計算例
配偶者と子2人(法定相続人3人)で、正味の遺産額が6,000万円のケースを考えます。
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 正味の遺産額 | 6,000万円 |
| 基礎控除(3,000万円+600万円×3人) | 4,800万円 |
| 課税遺産総額 | 1,200万円 |
この例では、遺産6,000万円から基礎控除4,800万円を差し引いた1,200万円が課税遺産総額となり、これをもとに相続税の総額を計算します。もし遺産が4,800万円以下であれば、課税遺産総額はゼロとなり、相続税はかかりません。
税額がゼロでも申告が必要なケース
ここが最も誤解されやすいポイントです。遺産が基礎控除以下なら申告は不要ですが、基礎控除を超えていて、特例や税額軽減を使った結果として相続税がゼロになる場合は、申告が必要です。特例の適用は、申告書を提出することが条件になっているためです。
| ケース | 申告の要否 |
|---|---|
| 遺産が基礎控除以下 | 原則不要 |
| 配偶者の税額軽減で税額ゼロ | 必要 |
| 小規模宅地等の特例で税額ゼロ | 必要 |
| 基礎控除超で相続税が発生 | 必要 |
相続税の申告期限は、相続の開始があったことを知った日の翌日から10か月以内です。期限を過ぎると特例が使えなくなったり、加算税・延滞税がかかったりするため、早めの準備が大切です。
まとめ
相続税の基礎控除は「3,000万円+600万円×法定相続人の数」で計算し、遺産がこの金額以下なら相続税はかからず申告も原則不要です。法定相続人の数え方には、相続放棄をした人も含める、養子は実子の有無で1人または2人までに制限される、代襲相続人は含める、といった注意点があります。また、配偶者の税額軽減や小規模宅地等の特例を使って税額がゼロになる場合は、申告が必要です。まずは自分の家庭の法定相続人の数と基礎控除額を把握し、遺産総額と比べることが、相続税対策の第一歩になります。
- 基礎控除=3,000万円+600万円×法定相続人の数(相続人1人なら3,600万円)
- 遺産が基礎控除以下なら相続税は不要。超えた部分に課税
- 相続放棄をした人も基礎控除の計算上は数に含める
- 養子は実子がいれば1人、いなければ2人まで(相続税法15条2項)
- 配偶者の税額軽減・小規模宅地等の特例で税額ゼロでも申告が必要。期限は10か月
※本記事は作成時点の法令・公表資料(相続税法12条・15条、国税庁タックスアンサーNo.4102・No.4132・No.4170等)に基づいています。個別の取扱いは事実関係により異なる場合があるため、具体的な判断は最新の条文・通達の確認、または税理士へのご相談をおすすめします。


コメント