役員給与の損金算入ルールは、役員が自らの給与額を決められる立場から生じる利益調整を防ぐために設けられています。この規制は、登記上の役員だけを対象にしたのでは貫けません。実質的に会社の意思決定を握る人物を使用人の形にしておけば、規制を潜脱できてしまうからです。そこで法人税法は、会社法上の役員より広く税法上の役員を定義し、実質で役員と同視できる者を取り込みました。これがみなし役員です。判定の軸は2つ、使用人以外か使用人か(類型)と経営に従事しているかです。この記事では、根拠条文と2つの類型、経営に従事の判断基準、同族会社の使用人に課される株式所有割合の3要件を判定表に整理し、配偶者・親族への給与・賞与の否認リスクと事前確定届出給与の実務までを、通達・裁決ベースで解説します。
この記事のポイント
- みなし役員とは、会社法上の役員として登記されていなくても、法人税法上は役員として扱われる者(法人税法2条15号、同法施行令7条)
- 類型は2つ。①使用人以外の者で経営に従事する者(相談役・顧問・会長など)、②同族会社の使用人で株式所有割合の3要件を満たし経営に従事する者
- 両類型に共通する中核要件は「経営に従事していること」。株式を持っていても経営に従事していなければ該当しない
- 該当すると給与は定期同額給与、賞与は事前確定届出給与の届出がなければ損金不算入。配偶者・親族を使用人扱いで賞与を払っていた場合の否認が典型的な税務調査リスク
目次
みなし役員とは(税法上と会社法上の役員の違い)
役員には会社法上の役員と税法上の役員の2つがあり、両者は範囲が一致しません。会社法上の役員は取締役・会計参与・監査役などの登記された者です。これに対して法人税法上の役員は、登記の有無を問わず実質で判定され、会社法上の役員に加えて一定の者を役員に含めます。この上乗せ部分がみなし役員です。
法人税法2条15号は役員を、取締役・執行役・会計参与・監査役・理事・監事・清算人に加え、これら以外の者で法人の経営に従事している者のうち政令で定めるものと定義します。この「政令で定めるもの」を受けるのが法人税法施行令7条で、次の2類型を役員に含めます。
| 類型 | 根拠 | 対象者 |
|---|---|---|
| 1号型 | 施行令7条1号 | 使用人以外の者で経営に従事する者(相談役・顧問・会長など) |
| 2号型 | 施行令7条2号 | 同族会社の使用人で株式所有割合の3要件を満たし経営に従事する者 |
1号型は「使用人以外の者」が対象なので、株式を1株も持っていなくても該当し得ます。相談役や顧問が典型です。2号型は逆に「使用人」が対象で、同族会社のオーナー一族の従業員が実質的な経営者であるケースを捕捉します。実務で判定に迷うのは圧倒的に2号型です。前提となる同族会社の判定は同族会社の判定と別表二を参照してください。
執行役員はみなし役員に該当するか
多くの会社が導入している執行役員制度は、指名委員会等設置会社の執行役とは別物で、法令に基づかない任意の制度です。取締役を兼ねる執行役員は登記上の役員ですが、取締役でない執行役員は原則として法人税法上の役員ではありません。ただし、その執行役員の地位が職制上の使用人としての地位とはいえず、経営に従事していると認められる場合には、みなし役員(1号型)に該当します。「執行役員だから役員ではない」と一律に言い切れない点に注意が必要です。
判定の中核「経営に従事している」とは
1号型・2号型のいずれにも共通し、判定の分岐点になるのが経営に従事しているかです。この文言に法令上の定義規定はありませんが、国税不服審判所の裁決では、経営に従事しているとは主要な業務執行の意思決定に参画していることと解されています。単なる助言や補助的な事務にとどまる場合は含まれません。
| 経営に従事と判断されやすい行為 | 従事にあたらないとされやすい行為 |
|---|---|
| 重要な取引先との契約・大口受注の決定 | 上司の指示に基づく現場作業・定型事務 |
| 仕入・設備投資・資金調達の決定 | 決裁権限のない経理・記帳の実務 |
| 従業員の採用・給与や賞与の額の決定 | 決定済みの方針を伝達・実行するだけの立場 |
| 予算・決算方針や事業計画の策定 | 助言・意見具申の域にとどまる関与 |
実際の裁決では、同族関係者である使用人が株式を一定割合以上保有していたものの、現場作業に従事しているだけで重要事項の決定は代表者が専ら行っていた事案について、経営に従事しているとは認められないと判断され、その者への賞与の損金算入が認められた例があります。株式を持っていることと経営に従事していることは別問題であり、後者が欠ければみなし役員にはならない、という点を示す重要な事例です。
ヒント:「経営に従事」は肩書ではなく実態で判断されます。職務分掌規程だけでなく、稟議・決裁の記録、取締役会や経営会議への出席状況、実際に誰が決めているかという運用実態がセットで見られます。
同族会社の使用人の株式所有割合3要件(2号型)
2号型に該当するには、その使用人が(同族会社であること・経営に従事していることに加えて)株式所有割合について次の3要件をすべて満たす必要があります。1つでも欠ければ2号型のみなし役員にはなりません。
| 要件 | 内容(施行令7条2号) |
|---|---|
| 50%基準 | 株主グループを所有割合の大きい順に加え、初めて50%超となるまでのグループ(第1〜第3順位のいずれか)に属していること |
| 10%基準 | その者の属する株主グループの所有割合が10%を超えていること |
| 5%基準 | その者本人(配偶者、および本人と配偶者で50%超を持つ他社を含む)の所有割合が5%を超えていること |
この3要件は、法人税法施行令71条1項5号(使用人兼務役員とされない役員)の要件と同じ内容です。つまり、2号型のみなし役員に該当する持株水準の者は、そのまま使用人兼務役員にはなれない者にも該当します。株主グループとは、一の株主等とその者と特殊の関係のある個人・法人をまとめた単位で、親族などの持株を合算して判定します。
ヒント:所有割合は原則として、発行済株式総数(自己株式を除く)に占める持株割合で判定します。ただし議決権制限株式や、子会社が持つ親会社株式など議決権を行使できない株式がある場合は、持株割合のほかに議決権割合による判定も必要で、持株割合で該当しなくても議決権割合で該当することがあります(法人税基本通達1-3-1)。また5%基準・10%基準はいずれも「超」であり、ちょうど5%・10%は該当しません。
具体例での当てはめ
社長(60%)、社長の妻(15%)、社長の弟(15%)、第三者A(10%)が株主の同族会社を例にとります。社長・妻・弟は親族として同一の株主グループを構成し、その所有割合は合計90%。第1順位グループだけで50%を超えるため、50%基準を満たすのは第1順位グループです。
| 対象者 | 3要件の充足 | 判定 |
|---|---|---|
| 妻(使用人・経営に従事) | 3要件すべて満たす | みなし役員 |
| 妻(使用人・従事せず) | 3要件すべて満たす | みなし役員でない |
| 持株なしの使用人 | 5%基準を満たさず | みなし役員でない |
妻は本人15%で5%基準を満たし、属するグループ90%で10%基準を満たし、そのグループが50%超のグループに属します。したがって3要件をすべて満たすため、あとは経営に従事しているかどうかだけで結論が分かれます。持株のない一般従業員は5%基準を満たさないため、経営に関与していても2号型のみなし役員にはなりません(ただし1号型に該当する余地は別途検討します)。
みなし役員に該当する典型パターン
実務でみなし役員が問題になる代表的なパターンを類型別に整理します。
| パターン | 類型 | ポイント |
|---|---|---|
| 退任した会長・相談役・顧問 | 1号型 | 取締役を退いても実質的に経営を握れば該当。持株の有無は問わない |
| オーナーの配偶者(専務待遇の使用人) | 2号型 | 持株と経営従事の両方を満たすと該当。最も否認されやすい |
| オーナーの子(後継者候補の使用人) | 2号型 | 株を承継し経営に関与し始めた段階で該当し得る |
| 非常勤の親族(名目のみの使用人) | 2号型 | 勤務実態が乏しくても意思決定に参画すれば該当。逆に持株を満たしても関与しなければ非該当 |
使用人兼務役員との違い
みなし役員と混同されやすいのが使用人兼務役員です。両者は方向が正反対で、みなし役員は「役員でない者を役員として扱う」制度、使用人兼務役員は「役員でありながら使用人分の役員給与規制を一部外す」制度です。そして重要なのは、2号型のみなし役員の持株水準を満たす者は、施行令71条1項5号により使用人兼務役員にはなれない点です。
| 比較項目 | みなし役員 | 使用人兼務役員 |
|---|---|---|
| 登記 | 登記されていない | 役員として登記されている |
| 立場 | 使用人だが税法上は役員扱い | 役員が使用人の職務も兼ねる |
| 使用人分賞与の損金算入 | 不可(役員給与規制が全面適用) | 使用人分は他の使用人と同時期支給等で可 |
| 経営従事の要否 | 必要(判定の中核) | 持株要件で判定(経営従事は不要) |
言い切ると、持株水準を満たす同族オーナー一族は、部長などの職制を持っていても使用人兼務役員として賞与を損金算入できません。詳しくは使用人兼務役員の判定と賞与で整理しています。
みなし役員の給与・賞与の取扱い
みなし役員は法人税法上の役員であるため、その給与には役員給与の損金不算入規定(法人税法34条)がそのまま適用されます。損金算入できるのは、原則として定期同額給与・事前確定届出給与・業績連動給与のいずれかに該当する場合に限られます(中小同族会社では業績連動給与はほぼ使えないため、実質は前2者です)。
| 支給形態 | みなし役員での取扱い |
|---|---|
| 毎月定額の給与 | 定期同額給与に該当すれば損金算入。期中の増額改定は原則不可 |
| 賞与(ボーナス) | 事前確定届出給与の届出を期限内に行い届出どおり支給した場合のみ損金算入。届出がなければ全額損金不算入 |
| 不相当に高額な部分 | 過大役員給与として損金不算入(法人税法34条2項、施行令70条) |
| 退職金 | 役員退職給与として損金算入可。功績倍率法等で過大部分は損金不算入 |
賞与には注意が必要です。みなし役員は同族会社の使用人であるため、事前確定届出給与のうち届出が不要とされる例外(定期給与を支給しない役員への金銭給与で、同族会社に該当しない法人が支給するもの)は使えません。したがってみなし役員に賞与を出して損金算入するには、必ず事前確定届出給与の届出が必要です。届出の実務は事前確定届出給与に関する届出の記載方法・提出を、定期同額給与の要件は定期同額給与とはを参照してください。なお、みなし役員への経済的利益(無償・低額での資産譲渡や貸付など)も役員給与に含めて判定されます。
立証と税務調査対応
みなし役員該当性は「経営に従事」という実態で決まるため、税務調査では実態を裏づける客観資料が鍵になります。非該当を主張するには、その者が意思決定に参画していない(意思決定は他の役員が専ら行っている)ことを示す資料を平時から整えておくことが有効です。
| 論点 | 整えておきたい客観資料 |
|---|---|
| 意思決定への非関与 | 職務分掌規程、決裁権限規程、稟議書・決裁書の押印者の記録 |
| 使用人としての勤務実態 | タイムカード・出勤簿、業務日報、担当業務の分かる組織図 |
| 経営会議への不参加 | 取締役会・経営会議の議事録(出席者の記載) |
| 給与体系の整合 | 他の使用人と同一基準の賃金規程、給与改定の稟議記録 |
実務の落とし穴
落とし穴:配偶者を従業員扱いで賞与:配偶者を「従業員」として賞与を支給し全額を損金算入していたところ、調査でみなし役員と認定され、事前確定届出給与の届出もないため賞与が全額否認されるケース。中小同族会社で最も多い否認類型です。
落とし穴:株を持たせた後の関与:相続や生前贈与で親族に株式を持たせた後、その親族が経営に関与し始めて2号型の3要件を満たし、それ以降の賞与が役員賞与扱いになっていることに気づかないケース。株主構成が変わったらみなし役員判定を再点検する必要があります。
落とし穴:非常勤という肩書への過信:非常勤だから役員ではないと考えて過大な給与を支給していたところ、相当の頻度で職務に従事していた事実から常勤の役員と判断され、過大役員給与として否認された裁決例があります。肩書だけでは規制を免れません。
落とし穴:持株を下げれば安全という誤解:みなし役員該当を避けるため株式を5%以下に調整しても、経営への従事が続いていれば1号型(使用人以外の者で経営に従事)に該当しないかの検討が別途必要です。持株を下げれば安全とは限りません。
想定Q&A(みなし役員の判定)
Q1. 株を持っていない配偶者はみなし役員になりませんか
2号型は株式所有割合の3要件が前提なので、株を全く持たない配偶者は2号型には該当しません。ただし経営に実質的に従事していれば1号型(使用人以外の者で経営に従事)に該当する余地があります。持株ゼロでも安全とは限らず、実態での従事の有無を確認します。
Q2. みなし役員に賞与を払っても損金にできますか
できますが、事前確定届出給与の届出を期限内に行い、届出どおりに支給することが条件です。届出がなければ全額損金不算入になります。届出金額と実際の支給額が1円でも異なると、その支給は全額が損金不算入となる点にも注意が必要です。
Q3. みなし役員の給与を期中に増額できますか
通常の役員と同じく、定期同額給与は原則として期首から3か月以内の改定に限られます。それ以外の時期の増額は、増額後の上乗せ部分が損金不算入になるのが原則です。臨時改定事由や業績悪化改定事由に該当する場合の例外は、通常の役員と同様に適用されます。
Q4. 非常勤の親族もみなし役員になりますか
勤務日数の多寡ではなく、経営の意思決定に参画しているかどうかで判定します。非常勤であっても重要な意思決定に関与していれば該当し、逆に持株要件を満たしていても意思決定に一切関与していなければ2号型には該当しません。
Q5. みなし役員は使用人兼務役員になれますか
なれません。2号型の持株水準を満たす者は施行令71条1項5号により使用人兼務役員から除外されます。したがって部長などの職制があっても、使用人分の賞与を損金算入することはできません。
Q6. みなし役員に退職金を支給できますか
支給でき、役員退職給与として損金算入の対象になります。金額は在任期間・最終報酬月額・功績倍率などで適正額を算定し、不相当に高額な部分は損金不算入です。算定方法は役員退職金の損金算入限度額を参照してください。
Q7. みなし役員の給与も「不相当に高額」の規制を受けますか
受けます。みなし役員も法人税法上の役員であるため、過大役員給与(施行令70条)の規制対象です。過大かどうかは、職務内容や類似法人の支給状況などによる実質基準と、定款・株主総会の決議で定めた限度額による形式基準の、いずれか多い金額で判定され、不相当に高額な部分は損金不算入になります(定款・株主総会で限度額を定めていない会社は実質基準のみで判定されます)。判断枠組みは不相当に高額な役員給与を参照してください。
Q8. 経営に従事しているかは何で判断されますか
主要な業務執行の意思決定に参画しているかどうかで判断されます。売上・仕入・資金調達・設備投資・人事などの重要事項の決定に関与していれば従事にあたり、上司の指示に基づく現場作業や定型事務だけであれば従事にあたりません。裁決でも現場作業のみの部門責任者は非該当と判断されています。
Q9. みなし役員は社会保険や雇用保険に加入できますか
健康保険・厚生年金は勤務や報酬の実態に応じて加入します。雇用保険は役員は原則として被保険者になりませんが、使用人としての実態が強く認められる場合に例外的に加入できることがあります。加入可否は個別の実態で判断されるため、社会保険は税務とは別に確認が必要です。
Q10. 株主グループとは誰の株を合算するのですか
その会社の一の株主等と、その者と特殊の関係のある個人・法人をまとめた単位が株主グループです。親族(配偶者・血族・姻族など)や、その株主が支配する会社の持株が合算されます。本人の持株が少なくても、親族グループとして50%基準・10%基準を満たすことがある点に注意します。
Q11. みなし役員に該当すると気づいたら過去分はどうなりますか
過去に賞与を損金算入していた場合、その事業年度について役員賞与として損金不算入の修正が必要になり得ます。自主的な修正申告と税務調査での指摘では、加算税・延滞税の負担が変わります。判定が微妙なケースは、株主構成と実態を整理したうえで早めに方針を固めるのが安全です。
判断フロー(みなし役員の判定)
| 手順 | 判断内容 |
|---|---|
| 1 | 使用人以外の者か。使用人以外(相談役・顧問など)で経営に従事していれば1号型のみなし役員 |
| 2 | 使用人の場合、その会社は同族会社か。同族会社でなければ2号型の検討は不要 |
| 3 | 株式所有割合の3要件(50%・10%・5%)をすべて満たすか |
| 4 | 経営に従事しているか。3要件を満たし経営に従事していれば2号型のみなし役員 |
| 5 | 該当すれば給与は定期同額給与、賞与は事前確定届出給与の届出を前提に損金算入を検討 |
まとめ
- みなし役員は会社法上の役員でなくても法人税法上は役員として扱われる者で、1号型(使用人以外で経営に従事)と2号型(同族会社の使用人で3要件充足かつ経営に従事)の2類型。
- 判定の中核は「経営に従事」しているか。株式を持っていても意思決定に参画していなければ該当しない。
- 該当すると給与は定期同額給与、賞与は事前確定届出給与の届出が損金算入の前提。配偶者・親族を使用人扱いで賞与を出していた場合の否認が最大のリスク。
- 株主構成が変わったら判定を再点検し、経営従事の実態を裏づける客観資料を平時から整えておく。
あわせて読みたい(役員給与シリーズ)
出典・参考(条文・通達・裁決)
- 法人税法2条15号(役員の定義)、34条(役員給与の損金不算入)・同条2項
- 法人税法施行令7条(役員の範囲)、70条(過大な役員給与の額)、71条1項5号(使用人兼務役員とされない役員)
- 法人税基本通達9-2-1(経営に従事している者の範囲)
- 国税不服審判所 公表裁決事例(役員の範囲・過大役員給与の判定)
※本記事は令和8年8月時点の法令・通達・裁決(法人税法2条・34条、法人税法施行令7条・70条・71条、法人税基本通達9-2-1、国税不服審判所公表裁決事例)に基づく一般的な解説です。個別の判定は事実関係により異なるため、具体的な適用は顧問税理士または所轄税務署にご確認ください。

