償却超過額と償却不足額とは|認容の仕組みと別表調整をわかりやすく解説

法人税

減価償却費をいくら計上するかは、本来は会計上の判断です。しかし税務がこれを無制限に認めると、利益の出た期に多額の償却を行い、赤字の期には償却を止めるという操作によって課税所得を自由に動かせてしまいます。そこで法人税法は、損金として認める金額に上限を設ける一方、その上限に満たない部分の計上を強制はしないという枠組みを採りました。この構造から生じるのが償却超過額と償却不足額です。

両者は対になる用語ですが、扱いは対称ではありません。超過額は翌期以降に持ち越されて認容される余地がある一方、不足額はその期限りで切り捨てられます。この非対称性を理解しないまま別表を作ると、本来使えるはずの損金を取り逃がすことになります。本記事では法人税法31条に即して、発生から認容までの流れを整理します。

この記事のポイント
・損金算入されるのは損金経理額のうち償却限度額に達するまでの金額(法人税法31条1項)
・超えた部分が償却超過額となり、別表四で加算して別表五(一)で管理する
・翌期以降に償却不足額が生じたとき、その範囲内で償却超過額が認容され減算される
・償却不足額そのものは切り捨てられ、翌期へ繰り越すことはできない
・法人税は限度額まで任意に償却できるが、所得税は強制償却で選択の余地がない

損金算入額の決まり方

法人税法31条1項は、減価償却資産について損金の額に算入する金額を、その事業年度に償却費として損金経理をした金額のうち、選定した償却方法により計算した償却限度額に達するまでの金額と定めています。つまり損金算入額は、損金経理額と償却限度額のいずれか小さい方です。

関係 差額の呼称 当期の処理
損金経理額が償却限度額を超える 償却超過額 別表四で加算し留保する
損金経理額が償却限度額に満たない 償却不足額 調整不要。切り捨てられる
損金経理額と償却限度額が一致 なし 調整不要

重要なのは、償却限度額まで償却することが義務づけられていない点です。法人税では損金経理を要件とするため、帳簿に計上しなければ損金になりません。裏を返せば、限度額の範囲内であれば償却額をゼロにすることも自由です。この点が所得税と決定的に異なります。

償却超過額が認容される仕組み

償却超過額は当期の損金にはなりませんが、切り捨てられるわけではありません。法人税法31条4項は、損金経理額には過去の事業年度における償却超過額を含むと定めています。つまり過去の超過額は翌期以降の損金経理額に上乗せされ、その期の償却限度額に達するまでの部分が損金になります。

認容の条件
・前期以前から繰り越された償却超過額があること
・当期の損金経理額が当期の償却限度額に満たないこと(償却不足額が生じていること)
・認容されるのは、その償却不足額と繰越償却超過額のいずれか少ない金額

認容される場面は主に2つあります。ひとつは会計上の償却を意図的に抑えた期です。もうひとつは、耐用年数の全期間にわたって会計上の償却が先行した結果、税務上の未償却残高だけが残る最終年度です。後者では会計上の帳簿価額が備忘価額に達しているため損金経理額はゼロですが、繰越超過額が償却限度額の範囲で認容されて消えていきます。

設例で確認する

償却限度額が毎期100の資産について、1期目に150を損金経理し、2期目に60を損金経理した場合の流れです。

経理額 限度額 別表四の調整
1期目 150 100 超過額50を加算
2期目 60 100 不足額40の範囲で40を減算
3期目 90 100 残る超過額10を減算

1期目に加算した50は、2期目に40、3期目に10と分割して認容されます。2期目の損金経理額60に繰越超過額50を加えると110ですが、限度額100までしか損金にならないため、認容されるのは40にとどまるという計算です。

償却不足額は繰り越せない

償却限度額に満たない償却しか行わなかった場合、その不足額は打ち切られます。翌期に繰り越して、翌期の限度額に上乗せすることはできません。繰越欠損金のような繰越制度は用意されていないためです。

ここが超過額との決定的な違いです。超過額は将来の不足額の範囲で戻ってきますが、不足額は将来の超過を吸収する余地を与えるだけで、それ自体が損金になることはありません。繰越超過額がない状態で償却を抑えると、その期に落とせなかった分は限度額の枠として消えます。

もっとも、資産の未償却残高が減るわけではないため、償却可能な総額そのものは失われません。耐用年数の期間内に落としきれなかった分は、償却が終わるまで期間が後ろにずれるだけです。ただし後ろにずれる間は資金効率が悪化し、除却時まで損金化が遅れる点は不利に働きます。

償却費として損金経理をした金額の範囲

損金経理額は、減価償却費という科目で計上したものだけとは限りません。法人税基本通達7-5-1は、その性質上償却費として損金経理したものとみられる金額を列挙しています。これにより、誤った科目で費用計上していても償却費として扱われ、限度額の範囲で損金になります。

計上の仕方 内容
付随費用の原価外処理 取得価額に算入すべき付随費用を費用処理した金額
圧縮限度超過額 圧縮限度額を超えて帳簿価額を減額した部分
修繕費処理した資本的支出 修繕費として経理したが資本的支出とされた金額
評価損の否認額 評価損として計上したが損金算入が認められなかった金額

実務上とりわけ効くのが修繕費処理した資本的支出です。税務調査で資本的支出と認定されても、全額が否認されるのではなく、償却費として損金経理したものとみなされ、その資産の償却限度額に達するまでは損金になります。したがって否認額は限度超過額に限られます。区分の判断基準は修繕費と資本的支出の区分で解説しています。

未稼働資産の償却費は償却超過額にならない

見落とされやすい論点があります。事業の用に供していない資産は、そもそも法人税法上の減価償却資産に該当しません(法人税法施行令13条)。したがって未稼働資産について償却費を計上しても、それは31条1項の損金経理額に当たらず、償却超過額にもなりません。

国税不服審判所の平成30年3月27日裁決は、取得事業年度に事業供用していなかった太陽光発電設備の償却費について、償却超過額に当たらないため翌事業年度の損金経理額にも含まれず、翌期の損金にできないと判断しています。未稼働のまま計上した償却費は加算されて終わり、翌期に戻ってこないという結論です。

この扱いは実務に大きく影響します。期末間際に取得した設備を稼働前に償却してしまうと、加算して終わりになり、翌期に認容されることを期待できません。翌期に改めて損金経理をする必要があるため、事業供用日の管理が損金の確保に直結します。

別表での処理

償却超過額は、償却方法ごとの別表十六で計算し、その結果を別表四と別表五(一)へ反映させます。会計上の帳簿価額と税務上の未償却残高の差額を管理するのが別表五(一)の役割です。

別表 記載内容
別表十六(一) 旧定額法または定額法による資産の償却額の計算
別表十六(二) 旧定率法または定率法による資産の償却額の計算
別表四 超過額は減価償却の償却超過額として加算し留保。認容額は減算する
別表五(一) 繰越超過額の残高を資産ごとに管理する

別表五(一)に残高が残っている限り、その資産の償却は税務上まだ終わっていません。除却や売却をした際には、残っている超過額を全額認容して減算します。会計上は帳簿価額がゼロでも税務上は未償却残高があるためで、この処理を漏らすと損金を取り逃がします。別表の記載方法は別表四・別表五(一)の見方と書き方を、除却時の処理は固定資産の除却と売却をご覧ください。

混同しやすい隣接論点との使い分け

結論を先に言い切ると、法人税は限度額まで任意に償却できるのに対し所得税は強制償却であり、繰延資産の任意償却とは限度額の考え方が根本的に異なり、償却超過額は一時差異として税効果会計の対象になります。

論点 償却超過額との関係
所得税の減価償却 強制償却のため償却不足額という概念が生じない
繰延資産の任意償却 償却限度額が支出額そのものなので超過額が生じない
税効果会計 将来減算一時差異として繰延税金資産の計上対象になる
特別償却 普通償却限度額に上乗せされるため超過額の判定額が変わる

所得税では、その年分の償却費として必要経費に算入する金額は償却費の額とされており、計上するかどうかの選択がありません。したがって個人事業主が償却を止めることはできず、償却不足額という概念も生じません。法人と個人で減価償却の性格が異なる点は、法人成りの検討でも押さえておくべき違いです。

実務の落とし穴

1: 償却不足額を翌期に繰り越せると考える

償却不足額は打ち切られ、翌期の償却限度額に上乗せされることはありません。今期に償却を控えた分を翌期にまとめて落とすという運用はできません。繰越超過額がない状態で償却を抑えると、その期の限度枠は単に消えます。

2: 未稼働資産の償却費を翌期に認容されると考える

事業供用前の資産は法人税法上の減価償却資産に該当しないため、計上した償却費は損金経理額に当たらず償却超過額にもなりません。翌期に認容される余地がないので、翌期に改めて損金経理をする必要があります。事業供用日の記録を残しておいてください。

3: 除却時に繰越超過額の認容を忘れる

別表五(一)に残っている償却超過額は、その資産を除却または売却した時点で全額が損金になります。会計上の帳簿価額がゼロだからと処理を省くと、税務上の未償却残高を損金にできないまま資産が台帳から消えます。除却時は必ず別表五(一)の残高を確認してください。

4: 資本的支出の否認額を全額加算する

修繕費として処理した金額が資本的支出と認定されても、償却費として損金経理したものとみなされます。したがって加算されるのは償却限度額を超える部分だけで、全額ではありません。全額を加算すると過大な申告になります。

5: 会計方針として償却を止めてしまう

税務上は限度額まで償却しないことも認められますが、会計上は毎期継続して規則的に償却するのが原則です。利益調整目的で償却を止めると会計上の適正性が問われ、金融機関の審査でも償却不足を加味して評価されます。税務の自由度と会計の要請は別物です。

処理フロー

手順 内容
1 事業供用済みの資産かを確認し、未稼働なら償却対象から外す
2 選定した償却方法と耐用年数により当期の償却限度額を計算する
3 損金経理額を集計する。通達により償却費とみなされる金額も含める
4 限度額を超えていれば超過額を別表四で加算し、別表五(一)に計上する
5 不足額があり繰越超過額があれば、少ない方の金額を認容して減算する
6 除却や売却があれば、残っている超過額を全額認容する

想定Q&A

Q1 赤字なので今期は償却を止めてもよいですか

税務上は問題ありません。法人税は限度額まで任意に償却できるため、償却額をゼロにしても否認されません。ただしその期の限度枠は繰り越せず消えます。また会計上は継続して規則的に償却するのが原則であり、金融機関は償却不足を加味して純資産を評価するため、実務上の判断は慎重に行うべきです。

Q2 償却超過額はいつまで繰り越せますか

期限はありません。繰越欠損金のような年数制限はなく、その資産を保有している限り繰り越されます。償却不足額が生じた期に順次認容され、除却または売却の時点で残額が全額認容されます。長期にわたって別表五(一)で管理する必要があるため、資産ごとの残高把握が欠かせません。

Q3 償却不足額が生じたら必ず認容されますか

繰越償却超過額がある場合に限られます。超過額がない状態で償却不足額が生じても、減算するものがないため何も起きません。認容される金額は、その期の償却不足額と繰越超過額のいずれか少ない方です。両者を突き合わせて計算する必要があります。

Q4 資産を除却したら超過額はどうなりますか

全額が損金として認容されます。会計上は帳簿価額を落として除却損を計上しますが、税務上は超過額の分だけ未償却残高が多いため、その差額を別表四で減算します。この処理を忘れると本来の除却損より少ない金額しか損金にできません。除却時のチェック項目として組み込んでおくべきです。

Q5 減価償却費以外の科目で計上していた場合は

その性質上償却費として損金経理したものとみられる金額は、損金経理額に含まれます。取得価額に算入すべき付随費用を費用処理した金額、圧縮限度超過額、修繕費として処理した資本的支出などが該当します。科目名にかかわらず実質で判断されるため、誤った科目で計上していても限度額の範囲では損金になります。

Q6 期末に取得した設備を稼働前に償却してしまいました

その償却費は加算され、翌期に認容されません。事業供用していない資産は法人税法上の減価償却資産に該当しないため、計上した償却費は損金経理額に当たらず償却超過額にもならないからです。翌期に事業供用したうえで、翌期に改めて損金経理をする必要があります。国税不服審判所の裁決でもこの結論が示されています。

Q7 個人事業主にも償却不足額はありますか

生じません。所得税は強制償却であり、その年分の償却費は必ず必要経費になります。計上するかどうかを選択できないため、償却を止めるという運用自体ができません。法人成りの際には、この性格の違いにより減価償却費の計上方針が変わる点を押さえておいてください。

Q8 償却超過額は税効果会計の対象になりますか

なります。会計上は費用となったが税務上は損金にならなかった金額であり、将来の期に認容されて損金になるため、将来減算一時差異に該当します。回収可能性が認められる範囲で繰延税金資産を計上します。ただし将来の償却不足額が見込めない場合は回収可能性の判断が問題になります。

Q9 耐用年数を誤っていた場合の是正は

短い耐用年数で償却していた場合、正しい限度額を超える部分が償却超過額になります。過年度分についても同様に計算し直し、修正申告により加算します。逆に長い耐用年数で償却していた場合は償却不足額となり、過年度分は切り捨てられるため更正の請求はできません。誤りの方向によって是正の可否が分かれます。

Q10 特別償却を適用すると超過額の判定はどう変わりますか

特別償却限度額が普通償却限度額に上乗せされるため、比較の対象となる限度額そのものが大きくなります。したがって同じ損金経理額でも超過額が生じにくくなります。なお特別償却は損金経理のほか準備金方式によることもでき、その場合は剰余金の処分により積み立てるため損金経理額には含まれません。

まとめ
・損金算入額は損金経理額と償却限度額のいずれか小さい方
・超過額は別表四で加算し、翌期以降の償却不足額の範囲で認容される
・償却不足額は切り捨てられ、翌期の限度額に上乗せできない
・未稼働資産の償却費は損金経理額に当たらず償却超過額にもならない
・除却や売却の時点で繰越超過額は全額認容されるため、処理漏れに注意する

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本記事は令和8年8月1日現在の法令・通達等に基づいて作成しています。出典:法人税法31条、法人税法施行令13条・58条・62条、法人税基本通達7-5-1、所得税法49条、国税不服審判所平成30年3月27日裁決。個別の適用に当たっては顧問税理士等にご確認ください。

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