使わなくなった機械や備品、建物などの固定資産は、帳簿から外す除却という処理をします。このとき残っている帳簿価額(簿価)は固定資産除却損として損金になり、法人税を軽くする効果があります。一方、他社などに売れば固定資産売却損益が生じます。どちらも実務で頻出ですが、とくに税務では「いつ損金にできるか」の判断が重要です。
会計上は帳簿から外せば除却損を計上できますが、税務上は原則として実際に廃棄するまで損金になりません。この差を埋めるのが、現物を残したまま損金にできる有姿除却という制度です。本記事では、除却と売却の違い、除却損・売却損益の計算、有姿除却の要件と証拠、そして除却を忘れることのリスクまでを、法人税基本通達に沿って整理します。
- 除却は「帳簿から外す処理」、廃棄は「物理的に捨てる行為」で、両者は区別される
- 固定資産除却損=残存簿価+撤去費用-廃材等の価値。売却は売却額と簿価の差で損益
- 税務上は原則、実際に廃棄するまで除却損を損金算入できない(廃棄の証憑が重要)
- 有姿除却なら、廃棄していなくても要件を満たせば除却損を損金算入できる(法基通7-7-2)
- 除却を忘れると、使っていない資産に償却資産税がかかり続けるリスクがある
目次
除却・廃棄・売却の違い
まず、似ているようで異なる3つの言葉を整理します。この区別が、税務処理を正しく行う出発点になります。
| 用語 | 意味 |
|---|---|
| 除却 | 使用をやめた資産を帳簿(固定資産台帳)から外す会計処理。残存簿価は除却損になる |
| 廃棄 | 資産を物理的に解体・破砕・処分する行為。帳簿処理とは別物 |
| 売却 | 資産を有償で他者に譲渡する取引。売却額と簿価の差で売却損益が生じる |
固定資産除却損の計算と仕訳
固定資産を除却したときの損金算入額は、次のように計算します(法人税基本通達7-7-1)。
除却損 = (除却直前の帳簿価額 - 廃材等の価額) + 除却に要した費用
たとえば、簿価30万円の機械を除却し、撤去費用が5万円かかり、廃材(スクラップ)に2万円の価値があった場合、除却損は30万円-2万円+5万円=33万円です。撤去費用は除却損に含め、廃材に価値があればその分を差し引きます。
簿価1円(備忘価額)の資産を除却する場合
税務上は原則「廃棄まで」損金にできない
ここが会計と税務で食い違う、最も重要なポイントです。会計上は、使用をやめて帳簿から外した段階で固定資産除却損を計上できます。しかし税務上は、原則としてその資産を実際に廃棄(解体・破砕・処分)するまで、除却損を損金に算入できません。
落とし穴:帳簿から外しただけでは損金にならない
この「廃棄が原則」というルールがあるため、大型設備などで解体費用が高額な場合や、廃棄に手間がかかる場合に、廃棄しないまま損金にしたいというニーズが出てきます。そこで認められているのが、次に説明する有姿除却です。
有姿除却の要件
有姿除却とは、資産を解体・破砕・廃棄していなくても(=姿を残したままでも)、一定の要件を満たせば、帳簿価額から処分見込価額を差し引いた金額を除却損として損金算入できる制度です(法人税基本通達7-7-2)。次のいずれかに当てはまる固定資産が対象です。
| 区分 | 対象となる固定資産 |
|---|---|
| (1) | その使用を廃止し、今後通常の方法により事業の用に供する可能性がないと認められる固定資産 |
| (2) | 特定の製品の生産のために専用されていた金型等で、その製品の生産中止により将来使用される可能性のほとんどないことが明らかなもの |
有姿除却の損金算入額は、帳簿価額から処分見込価額(スクラップとして売れる見込額など)を差し引いた金額です。処分見込価額がある場合は、その分を残して損金にします。
落とし穴:一時的な使用停止では有姿除却できない
有姿除却の証拠と税務調査
有姿除却は、廃棄の証憑(マニフェスト等)がない分、税務調査で「本当に使わないのか」を厳しく確認されます。否認されないためには、「恒久的に使用しない」ことを客観的な証拠で固めておくことが不可欠です。
| 証拠の種類 | 具体例 |
|---|---|
| 意思決定の資料 | 除却を決定した取締役会議事録、稟議書。除却の理由(生産中止・陳腐化など)を明記 |
| 物理的な状態の証拠 | 電源・配線を切断した状態や、倉庫の隅に移した状態を写した日付入りの写真 |
| 事業上の裏付け | 対象製品の生産中止を示す資料、後継設備の導入記録など |
ソフトウェア(無形固定資産)の除却
ここまでは有形の固定資産を中心に説明してきましたが、ソフトウェアのような無形固定資産にも除却の考え方があります。ソフトウェアは形がなく、物理的に廃棄して外形的に除却を証明することができないため、専用の通達(法人税基本通達7-7-2の2)で、有姿除却に近い取扱いが定められています。
法人税基本通達7-7-2の2(要旨)
ソフトウエアにつき物理的な除却・廃棄・消滅等がない場合であっても、今後事業の用に供しないことが明らかな事実があるときは、その帳簿価額(処分見込価額があるときはこれを控除した残額)を、その事実が生じた日の属する事業年度の損金の額に算入することができる。
「今後事業の用に供しないことが明らかな事実」として、通達は次の2類型を挙げています。自社で使うソフトウェアか、販売用の原本かで、証明の仕方が変わります。
| 類型 | 損金算入できる「明らかな事実」 |
|---|---|
| (1)自社利用ソフトウェア | そのソフトで処理していた業務が廃止され利用しなくなったことが明らかな場合。または、ハードウェアやOSの変更等で他のソフトに移行し、従来のソフトを利用しなくなったことが明らかな場合 |
| (2)販売用の原本ソフトウェア | 新製品の出現やバージョンアップ等により、今後販売を行わないことが、社内稟議書や販売流通業者への通知文書等で明らかな場合 |
損金算入額は、有姿除却と同じく帳簿価額から処分見込価額を控除した金額です。システムの入れ替えで旧システムを使わなくなった場合や、業務の廃止で自社利用ソフトを使わなくなった場合が、実務では典型的な場面です。
落とし穴:無形ゆえに「使っていない事実」の立証が要
なお、個人事業主の場合も、所得税基本通達51-2の3に同様の取扱いがあり、今後業務に使用しないことが明らかなソフトウェアの未償却残高(処分見込価額控除後)を必要経費に算入できます。ソフトウェアも少額の減価償却資産の取扱い(10万円未満の一時損金、20万円未満の3年一括償却、中小企業者等の30万円未満の特例)は有形資産と同様に使えるため、取得段階でこれらを適用していれば、そもそも資産計上されず除却の問題も生じません。
固定資産の売却損益
固定資産を廃棄せず、他社などに有償で譲渡する場合は売却です。売却額と帳簿価額の差で、売却損益が生じます。
| 状況 | 処理 |
|---|---|
| 売却額 > 帳簿価額 | 差額が固定資産売却益(益金) |
| 売却額 < 帳簿価額 | 差額が固定資産売却損(損金) |
除却損が「捨てて簿価が費用になる」のに対し、売却は「対価を得て、簿価との差が損益になる」点が違いです。なお、売却時には消費税の課税(建物・機械等の売却は課税取引、土地は非課税)にも注意が必要です。
損金算入時期の判断フロー
使わなくなった固定資産を損金にできるか、できるとすればいつの事業年度かを、順番に判断するフローです。上から順に当てはめていきます。
| 順 | 確認内容と判断 |
|---|---|
| 1 | その資産を有償で譲渡したか。譲渡したなら売却で、売却額と帳簿価額の差が売却損益(譲渡日の属する事業年度) |
| 2 | 実際に廃棄(解体・破砕・処分)したか。したなら除却損を損金算入(廃棄した事業年度)。マニフェスト等の証憑を保存 |
| 3 | 廃棄していないが、恒久的に使用しないことが明らかか。明らかなら有姿除却で帳簿価額-処分見込価額を損金算入(該当事実が生じた事業年度)。一時停止は不可 |
| 4 | 対象がソフトウェア(無形)か。自社利用の業務廃止・システム移行、または販売用原本の販売中止が明らかなら、帳簿価額-処分見込価額を損金算入(法基通7-7-2の2)。稟議書等で立証 |
| 5 | 土地利用目的で取得した建物付き土地の建物取壊しか。該当するなら建物簿価・取壊費用は除却損にできず土地の取得価額に算入(法基通7-3-6) |
| 判定 | 1〜5のいずれにも当てはまらず、単に使用をやめて帳簿から外しただけの状態では、税務上の損金にはできない(廃棄・有姿除却等の事実が必要) |
除却を忘れることのリスク
使わなくなった資産を廃棄したのに帳簿から外し忘れる、あるいは使用をやめたまま放置すると、いくつかの不利益が生じます。
| 除却を忘れると生じるリスク |
|---|
| 使っていない償却資産に、償却資産税(固定資産税)がかかり続ける |
| 本来計上できた除却損を計上できず、その分だけ法人税を多く払っている |
| 貸借対照表に実在しない資産が残り、財務内容が実態と合わなくなる |
| 後で除却しようとしても、廃棄時期の証明ができず損金算入が難しくなる |
とくに償却資産税は、1月1日時点で所有している償却資産に毎年かかるため、使っていない資産を除却せず持ち続けると、税負担が無駄に続きます。定期的に固定資産台帳と現物を照合し、使わなくなった資産は適切に除却することが、税務・財務の両面で大切です。
想定Q&A
Q1. 固定資産除却損はどう計算しますか?
除却直前の帳簿価額から、廃材やスクラップの価値を差し引き、除却に要した撤去費用を加えた金額が除却損です。たとえば簿価30万円の機械を除却し、撤去費用5万円、廃材価値2万円なら、30万円-2万円+5万円=33万円が除却損になります。撤去費用は除却損に含め、廃材に価値があればその分を減らす、と覚えておくとよいでしょう。
Q2. 使わなくなったので帳簿から除却しました。損金にできますか?
帳簿から外しただけでは、税務上の除却損として損金算入できません。税務上は原則として、実際にその資産を廃棄(解体・破砕・処分)するまで損金になりません。廃棄したことを示す産業廃棄物管理票(マニフェスト)や解体業者の請求書などの証憑が必要です。廃棄していない場合でも、後述の有姿除却の要件を満たせば損金算入できます。
Q3. 有姿除却とは何ですか?
有姿除却とは、資産を解体・廃棄していなくても、姿を残したまま除却損を損金算入できる制度です(法人税基本通達7-7-2)。使用を廃止し今後通常の方法で事業に使う可能性がないと認められる固定資産や、特定製品専用の金型等で生産中止により将来使えないことが明らかなものが対象です。損金算入額は帳簿価額から処分見込価額を差し引いた金額です。解体費用をかけずに損金化できるメリットがあります。
Q4. 一時的に使っていない機械も有姿除却できますか?
できません。有姿除却の絶対条件は、その資産が今後事業に使用される可能性がないことです。一時的に稼働を止めているだけ、繁忙期には使う可能性がある、といった資産は該当しません。「使おうと思えば使える」状態のものを有姿除却すると、税務調査で否認されます。恒久的に使用しないことが客観的に明らかな資産だけが対象です。
Q5. 有姿除却で税務調査を乗り切るには何が必要ですか?
「今後使用しない」ことを客観的に証明する証拠が必要です。除却を決定した取締役会議事録や稟議書(除却理由を明記)、電源・配線を切断した状態や倉庫に移した状態の日付入り写真、対象製品の生産中止を示す資料などをそろえます。廃棄の証憑がない分、多角的な証拠で「恒久的に使用しない」ことを示すことが、否認を防ぐ鍵です。判断に迷う場合は税理士に相談しましょう。
Q6. 除却損と売却損はどう違いますか?
除却損は、資産を廃棄して帳簿から外すときに、残った簿価などが費用(損金)になるものです。対価は得ません。一方、売却損は、資産を有償で譲渡したときに、売却額が帳簿価額を下回った場合の差額です。売却額が簿価を上回れば売却益になります。捨てるのが除却、売るのが売却で、対価を得るかどうかが両者の大きな違いです。
Q7. 古い建物付きの土地を買って建物を壊したら除却損になりますか?
なりません。その土地を利用する目的で建物付き土地を取得し、その建物を取り壊した場合は、建物の帳簿価額と取壊費用は除却損にならず、原則として土地の取得価額に算入します(法人税基本通達7-3-6)。土地を使うために建物を壊したのだから、その費用は土地のためのコストと考えるためです。一方、以前から使っていた自社の建物を取り壊す場合は、通常どおり除却損になります。取得の経緯で扱いが変わる点に注意してください。
Q8. 開発を中止したソフトウェアの除却損は計上できますか?
まだ利用に至っていない開発中のソフトウェアでも、開発を中止した場合は、その未償却残高について除却損を計上できます。ただし、そのソフトウェアが他の製品等に転用できる場合は、価値が失われていないため除却損にできません。「転用の余地がなく、今後使わないことが明らか」であることが条件です。開発中止を決定した社内稟議書などに、中止の理由と転用しない旨を記録しておくと、税務調査での説明がしやすくなります。ソフトウェアの除却は無形ゆえに立証が難しいので、意思決定の資料を必ず残しましょう。
Q9. 除却を忘れているとどんな不利益がありますか?
使っていない償却資産に償却資産税がかかり続ける、本来計上できた除却損を落とせず法人税を多く払う、貸借対照表に実在しない資産が残る、といった不利益があります。とくに償却資産税は1月1日時点の所有資産に毎年かかるため、除却漏れがあると税負担が無駄に続きます。定期的に固定資産台帳と現物を照合し、使わなくなった資産を適切に除却することが大切です。
Q10. 除却や有姿除却はいつ処理するのが良いですか?
損金算入したい事業年度の決算日より前に、廃棄や有姿除却の判断と証拠固めを済ませておくのが安全です。期末ぎりぎりに慌てて処理すると、利益調整を疑われやすくなります。廃棄なら廃棄の証憑を、有姿除却なら取締役会議事録・写真などの証拠を、その事業年度中にそろえておきます。決算対策として除却を検討する場合は、早めに動くことが確実な損金算入につながります。
まとめ
固定資産の除却は、使わなくなった資産を帳簿から外す処理で、残存簿価と撤去費用が除却損として損金になります。ただし税務上は原則として、実際に廃棄するまで損金にできず、廃棄の証憑が重要です。廃棄していなくても、恒久的に使用しない資産は有姿除却により損金算入できますが、一時停止は対象外で、税務調査に備えた証拠固めが欠かせません。売却の場合は売却額と簿価の差が損益になります。除却漏れは償却資産税や過大な法人税につながるため、台帳と現物の定期照合と、決算前の早めの処理が大切です。
- 除却は帳簿から外す処理、廃棄は物理的な処分、売却は有償譲渡で、それぞれ扱いが異なる
- 除却損=残存簿価+撤去費用-廃材等の価値。売却は売却額と簿価の差で損益
- 税務上は原則、実際に廃棄するまで除却損を損金算入できず、廃棄の証憑が必要
- 有姿除却は廃棄せずに損金算入できるが、恒久的に使用しないことが条件で証拠固めが必須
- ソフトウェア(無形)も業務廃止・システム移行等が明らかなら帳簿価額を除却損にできる(法基通7-7-2の2)。稟議書で立証
- 建物付き土地を土地利用目的で取得し取り壊す場合の建物簿価・取壊費用は土地の取得価額に算入
※本記事は作成時点の法令・公表資料(法人税基本通達7-7-1・7-7-2・7-7-2の2・7-3-6、所得税基本通達51-2の3、法人税法22条・31条等)に基づく一般的な解説です。要件や取扱いは改正や個別事情により変わる場合があるため、具体的な判断は最新の国税庁公表情報の確認、または顧問税理士へのご相談をおすすめします。


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