引当金とは?計上4要件と賞与・退職給付・貸倒の会計処理/税務上の損金不算入を解説

会計

引当金は、将来発生する費用や損失のうち、その原因が当期以前にあるものを、当期の費用として先取りして計上する仕組みです。たとえば翌期6月に支払う賞与でも、その査定対象期間が当期に及んでいるなら、当期が負担すべき部分があります。これを支給時にまとめて費用にすると、期間ごとの損益が実態からずれてしまいます。発生主義に基づいて費用を正しい期間に割り当てるための道具、それが引当金です。

ところが実務では、この会計上の要請と税務の考え方が正面からぶつかります。法人税法は債務確定主義に立ち、期末までに債務が確定していない見積り計上を損金と認めません。したがって、会計で計上した引当金繰入額の多くは損金不算入となり、別表四で加算します。本記事では、引当金の計上4要件と代表的な引当金の会計処理を押さえたうえで、税務上の取扱いと税効果会計への影響まで整理します。

この記事のポイント
  • 引当金の計上要件は企業会計原則注解18の4つ。すべて満たせば計上は義務であり、任意ではない
  • 資産のマイナスとして表示する評価性引当金(貸倒引当金)と、負債として表示する負債性引当金がある
  • 負債性引当金は、1年内に使う見込みなら流動負債、1年超なら固定負債
  • 税務は債務確定主義のため引当金は原則損金不算入。別表四で加算する
  • 損金算入が認められるのは実質的に中小法人等の貸倒引当金に限られる
  • 損金不算入の引当金繰入額は将来減算一時差異となり、繰延税金資産の対象になる

引当金の計上4要件(注解18)

引当金には包括的な会計基準がなく、企業会計原則注解18が計上の基準として機能しています。次の4要件をすべて満たす場合、引当金の計上は義務です。任意で「今期は計上しない」という選択はできません(重要性が乏しいものを除きます)。

要件 内容
将来の特定の費用または損失 漠然とした将来のリスクではなく、内容が特定できること
当期以前の事象に起因 発生原因が当期またはそれ以前にあること(賞与の査定対象期間など)
発生の可能性が高い 発生の可能性が低い偶発事象は引当金を計上できない
金額を合理的に見積れる 実績率や業者見積りなど、客観的な根拠で金額を算定できること
4要件のうち1つでも欠ければ引当金は計上できません。たとえば訴訟で敗訴の可能性が低いなら「発生の可能性が高い」を満たさず、引当金ではなく偶発債務として注記の検討対象になります。金額を合理的に見積れない場合も同様です。

評価性引当金と負債性引当金

引当金は、貸借対照表のどこに表示するかで2つに分かれます。

区分 性格と表示 代表例
評価性引当金 資産の回収不能見込みを表す。資産の部にマイナスで表示 貸倒引当金
負債性引当金 将来の支出に備える。1年内に使う見込みは流動負債、1年超は固定負債 賞与引当金、退職給付引当金、修繕引当金、製品保証引当金

代表的な引当金の会計処理

賞与引当金

翌期に支給する賞与のうち、当期の労働に対応する部分を見積り計上します。3月決算で6月支給(査定対象期間が前年12月から当年5月)の賞与なら、12月から3月までの4か月分が当期の負担です。

設例(賞与引当金)
6月支給予定の賞与の見込額が600万円、査定対象期間6か月のうち当期に属するのが4か月なら、当期負担分は400万円です。決算で「(借)賞与引当金繰入額 400万円/(貸)賞与引当金 400万円」と計上します。翌期に実際に賞与を支給したときは、引当金を取り崩し、超過分があれば当期の賞与として処理します。なお社会保険料の会社負担分も見積計上を検討します。

仕訳イメージ(決算時の計上)

借方 金額 貸方 金額
賞与引当金繰入額 400万円 賞与引当金 400万円

仕訳イメージ(翌期に賞与600万円を支給)

借方 金額 貸方 金額
賞与引当金 400万円 現金預金 600万円
賞与 200万円

前期に計上した引当金400万円を取り崩し、残りの200万円(当期に対応する2か月分)を当期の賞与として費用計上します。税務では、前期の繰入額400万円は損金不算入で加算し、支給した当期に減算して損金化されます。

退職給付引当金

退職金制度がある企業で、従業員の勤務に伴って発生した退職給付のうち、期末までに発生していると認められる額を負債として計上します。企業会計基準第26号「退職給付に関する会計基準」に従い、退職給付債務を割引計算し、年金資産があれば差し引いて計上します。他の引当金と異なり、時の経過による割引計算を行う点が特徴です。中小企業では、期末自己都合要支給額を基礎とする簡便法によることが認められています。

貸倒引当金

売掛金や貸付金などの債権について、将来の貸倒れ見込額を見積り計上します。表示は資産のマイナスです。計上方法には、期末残高をいったん戻し入れて計上し直す洗替法と、必要額との差額だけを追加計上する差額補充法があります。どちらでも当期純利益への影響は同じですが、洗替法では戻入額が営業外収益や特別利益に計上され、営業利益の見え方が変わることがあります。税務上の繰入限度額は貸倒引当金の繰入限度額で解説しています。

仕訳イメージ(前期末残高30万円、当期末の必要額50万円)

方法 借方 金額 貸方 金額
差額補充法 貸倒引当金繰入額 20万円 貸倒引当金 20万円
洗替法 貸倒引当金 30万円 貸倒引当金戻入額 30万円
貸倒引当金繰入額 50万円 貸倒引当金 50万円

どちらでも期末残高は50万円、当期純利益への影響も同じです。ただし洗替法では戻入額30万円が収益に計上されるため、損益計算書の見え方が変わります。

修繕引当金

毎期行う予定の修繕が、当期に実施されなかった場合などに、当期に対応する修繕費用を見積り計上します。相手方に対する債務ではないため「債務性のない引当金」に分類されます。税務上は損金になりません。

引当金の取崩し

引当金は、設定原因となった事象が実際に生じたとき(目的取崩)に取り崩します。実際の発生額と引当計上額に差額があれば、取り崩した期の損益として処理します。設定の前提が変わって不要になった場合は、目的外の取崩しとして処理します。なお、計上時点で最善の見積りを行っていた場合の事後の差額は見積りの変更として当期の損益で処理し、当初の見積り誤りに起因する場合は過去の誤謬として修正再表示の対象になります。

税務上の取扱い(債務確定主義)

法人税法は、損金の額に算入する費用について債務確定主義を採ります。事業年度終了の日までに債務が確定していない費用は、原則として損金になりません(法人税法22条3項)。引当金は見積りによる計上であり、債務が確定していないため、原則として損金不算入です。

例外として損金算入が認められるのは、法人税法52条の貸倒引当金です。ただし、その適用対象は資本金1億円以下の中小法人等、銀行・保険会社、一定のリース債権を有する法人などに限られており、大法人は原則として適用できません。かつて認められていた返品調整引当金も、平成30年度改正で廃止(経過措置あり)となりました。結果として、実務上、損金算入できる引当金は中小法人等の貸倒引当金にほぼ限られると理解して差し支えありません。

引当金 会計 税務
賞与引当金 要件を満たせば計上 損金不算入。支給時に損金算入(決算賞与は要件を満たせば未払計上可)
退職給付引当金 要件を満たせば計上 損金不算入。退職金の支給時に損金算入
貸倒引当金 要件を満たせば計上 中小法人等は繰入限度額まで損金算入(法人税法52条)
修繕引当金・製品保証引当金など 要件を満たせば計上 損金不算入。実際の支出時に損金算入
賞与引当金と混同されやすいのが決算賞与(未払賞与)です。決算賞与は、支給額の通知・支給日・損金経理といった一定の要件をすべて満たせば、未払計上でも当期の損金になります。見積りである賞与引当金とは別物なので、混同しないでください。要件の詳細は決算賞与の損金算入要件をご確認ください。

税効果会計とのつながり

損金不算入となった引当金繰入額は、将来その費用が実現したとき(賞与の支給時、退職金の支払時など)に損金化されます。つまり、将来減算一時差異です。したがって税効果会計では繰延税金資産の対象となり、回収可能性の検討を経て計上します。永久差異ではない点が、交際費の損金不算入などとの決定的な違いです。詳しくは別表四・別表五の見方と書き方もあわせてご覧ください。

実務上の落とし穴

別表加算を失念する
会計で賞与引当金や退職給付引当金を計上したのに別表四で加算していないと、所得金額が過少になります。税務調査で指摘されれば追徴の対象です。引当金を計上したら加算、と機械的に結び付けて確認します。
節税目的で引当金を計上する
引当金は原則損金にならないため、計上しても税負担は減りません。節税を目的に引当金を積むという発想は成立しません。目的はあくまで適正な期間損益の表示です。
要件を満たすのに計上しない
4要件を満たす引当金の計上は義務です。重要性が乏しい場合を除き、税務で損金にならないことを理由に計上を省くのは会計上適切ではありません。
発生可能性の低い偶発事象に引当金を積む
敗訴の可能性が低い訴訟など、発生の可能性が低い偶発事象には引当金を計上できません。この場合は偶発債務として注記の要否を検討します。

想定Q&A集

Q1. 引当金と未払金はどう違いますか

未払金はすでに債務が確定していて支払いだけが済んでいないものです。引当金は債務が確定しておらず、金額も見積りです。この債務確定の有無が、税務上の損金算入の可否を分ける決定的な違いになります。

Q2. 引当金の計上は任意ですか

任意ではありません。注解18の4要件をすべて満たす場合は計上が義務です。ただし重要性の乏しいものは計上しないことができます。逆に、要件を満たさないものを計上することもできません。

Q3. 引当金を計上すると節税になりますか

なりません。引当金は原則として損金不算入で、別表四で加算するため課税所得は減りません。損金算入できるのは実質的に中小法人等の貸倒引当金に限られます。節税目的で引当金を積むという考え方は成り立ちません。

Q4. なぜ税務は引当金を認めないのですか

法人税法が債務確定主義を採っているためです。期末までに債務が確定していない見積り計上を損金と認めると、恣意的な所得調整の余地が生じ、課税の公平が保てません。会計は適正な期間損益、税務は適正な課税所得と、目的が異なることの表れです。

Q5. 損金算入できる引当金はありますか

貸倒引当金(法人税法52条)です。ただし適用できるのは資本金1億円以下の中小法人等や銀行・保険会社などに限られ、大法人は原則適用できません。返品調整引当金は平成30年度改正で廃止されました。

Q6. 賞与引当金と決算賞与はどう違いますか

賞与引当金は将来の賞与の見積り計上で、税務上は損金不算入です。決算賞与は、各人別に支給額を通知し、期末後一定期間内に支給し、損金経理するなどの要件をすべて満たせば、未払計上でも当期の損金になります。両者はまったく別の制度です。

Q7. 損金不算入の引当金繰入額はその後どうなりますか

将来減算一時差異になります。賞与の支給時や退職金の支払時に損金化されるため、税効果会計では繰延税金資産の対象です。永久差異ではないので、交際費の損金不算入とは扱いが異なります。

Q8. 洗替法と差額補充法はどちらが有利ですか

当期純利益への影響は同じです。ただし洗替法では戻入額が営業外収益等に計上され、営業利益の見え方が変わることがあります。金融機関が営業利益を重視する場面を想定するなら、差額補充法のほうが説明しやすい面があります。

Q9. 退職給付引当金は他の引当金と何が違いますか

個別の会計基準(企業会計基準第26号)があり、退職給付債務を割引計算して測定する点が特徴です。他の引当金では時の経過による割引計算は求められません。中小企業では期末自己都合要支給額を基礎とする簡便法が認められています。

Q10. 中小企業も引当金を計上すべきですか

計上すべきです。税務上損金にならないため計上しない会社も多いのが実情ですが、期間損益を正しく把握するには引当金の計上が有用です。金融機関に対する説明力の観点でも、賞与引当金や退職給付引当金の計上を検討する意義があります。

Q11. 発生の可能性が低い訴訟はどうしますか

引当金は計上できません。発生の可能性が低い偶発事象については、注解18により引当金の計上が禁じられています。偶発債務として注記の要否を検討することになります。

Q12. 引当金は流動負債と固定負債のどちらですか

使用の見込時期によります。賞与引当金のように通常1年以内に使われるものは流動負債、退職給付引当金のように1年を超えるものは固定負債です。貸倒引当金は評価性引当金なので、資産の部にマイナス表示します。

引当金の判断フロー

手順 確認すること
1 その支出は債務が確定しているか(確定していれば未払金であり、引当金ではない)
2 注解18の4要件をすべて満たすか(1つでも欠ければ計上不可)
3 評価性引当金か負債性引当金かを判定し、表示区分を決める
4 合理的な見積方法(実績率・見積書・数理計算等)で金額を算定する
5 税務上の損金算入の可否を確認する(貸倒引当金以外は原則損金不算入)
6 別表四で加算し、将来減算一時差異として税効果会計を検討する

まとめ

引当金は、発生主義に基づいて費用を正しい期間に割り当てるための会計上の仕組みです。注解18の4要件を満たせば計上は義務であり、税務で損金にならないことを理由に省略すべきものではありません。一方で税務は債務確定主義に立ち、引当金繰入額は原則損金不算入となって別表四で加算されます。この差は将来減算一時差異として税効果会計につながります。会計上の要請と税務上の制約を切り分けて理解することが、実務の要になります。

この記事のまとめ
  • 注解18の4要件をすべて満たせば引当金の計上は義務(重要性の乏しいものを除く)
  • 評価性引当金は資産のマイナス、負債性引当金は流動負債または固定負債に表示
  • 賞与引当金・退職給付引当金・修繕引当金などは税務上損金不算入
  • 損金算入できるのは実質的に中小法人等の貸倒引当金に限られる
  • 引当金では節税できない。目的は適正な期間損益の表示にある
  • 損金不算入分は将来減算一時差異となり、繰延税金資産の対象になる

※本記事は作成時点の会計基準・法令および公表資料(企業会計原則注解18、企業会計基準第26号「退職給付に関する会計基準」、企業会計基準第24号、法人税法22条3項・52条、平成30年度税制改正、中小企業の会計に関する指針・基本要領等)に基づく一般的な解説です。個別の判断は事実関係により異なるため、具体的な取扱いは最新の基準・条文の確認、または税理士・公認会計士へのご相談をおすすめします。

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