剰余金の配当と分配可能額とは?会社法の財源規制・準備金の積立・仕訳・みなし配当まで解説

会計

株主への配当は、会社が稼いだ利益を株主に還元する行為です。しかし、会社の財産は株主だけのものではなく、債権者の引き当てでもあります。株主に自由なだけ配ってしまえば、会社にお金を貸している人の回収可能性が損なわれます。そこで会社法は、配当できる金額の上限を「分配可能額」として定め、その範囲でしか配当できない、という財源規制を敷いています。さらに、配当のたびに一定額を準備金として社内に留保させ、財産の過度な流出を防いでいます。

この記事では、剰余金の配当と分配可能額について、会社法454条・461条2項・445条4項、会社計算規則22条・158条、所得税法25条などをもとに、決議の手続、分配可能額の計算、準備金の積立、配当の仕訳、受取側の配当所得と源泉徴収、そして資本剰余金を原資とする配当のみなし配当まで、会社法・会計・税務を横断して深掘りします。純資産の各項目の意味をまず押さえたい方は、純資産の部(資本金・資本剰余金・利益剰余金)もあわせてご覧ください。

この記事のポイント
  • 剰余金の配当は原則として株主総会の普通決議で決める(会社法454条)
  • 配当できる上限は「分配可能額」。おおまかには、その他資本剰余金+その他利益剰余金から自己株式などを控除した額(会社法461条2項)
  • 配当のたびに、配当により減少する剰余金の10分の1を準備金として積み立てる。準備金の合計が資本金の4分の1に達するまで(会社法445条4項)
  • 受け取った株主側は配当所得。源泉徴収は上場15.315%(他に住民税5%)、非上場20.42%
  • 利益剰余金を原資とする通常配当と、資本剰余金を原資とする配当(資本の払戻し)は税務が異なり、後者はみなし配当が生じる
  • 分配可能額を超える配当は財源規制に反し、業務執行者・株主が支払義務を負う(会社法462条)

剰余金の配当の決議(会社法454条)

株式会社は、株主に対して剰余金の配当をすることができます(会社法453条)。配当をするときは、その都度、株主総会の普通決議で、配当財産の種類および帳簿価額の総額、株主への割当てに関する事項、効力を生ずる日を定めます(会社法454条1項)。配当財産は通常は金銭ですが、金銭以外の現物配当も可能です(現物配当で株主に金銭分配請求権を与えない場合は特別決議が必要です)。なお、会社が保有する自己株式に対しては配当をしません。

取締役会設置会社は、定款で定めれば、1事業年度に1回に限り取締役会の決議で配当(中間配当)をすることができます(会社法454条5項、財産は金銭に限る)。また、会計監査人設置会社などが一定の要件を満たす場合には、定款の定めにより配当の決定権限を取締役会に委ねることもできます(会社法459条)。

分配可能額の計算(会社法461条2項)

配当できる上限が分配可能額です。会社法461条2項の算式を骨組みだけ示すと、次のようになります。

分配可能額 = 分配時点の剰余金の額 − 自己株式の帳簿価額 − 期末後に自己株式を処分した対価 − 法務省令で定める額

出発点となる「剰余金の額」は、決算日時点ではおおむね、その他資本剰余金とその他利益剰余金の合計です(会社法446条)。中小企業の実務感覚では、まず次のイメージで押さえておくとよいでしょう。

段階 内容
剰余金の額 その他資本剰余金+その他利益剰余金(会社法446条)。資本金・準備金は含めない
控除する額 自己株式の帳簿価額、期末後に自己株式を処分した対価、のれん等調整額などの法務省令で定める額
下限規制 配当後の純資産が300万円を下回る配当はできない(会社法458条)
分配可能額は「純資産」や「利益剰余金の残高」そのものではありません。資本金・資本準備金・利益準備金は配当の原資に含められず、自己株式やのれん等調整額の控除もあります。残高があるからといって全額配当できるわけではない、という点に注意してください。

準備金の積立(会社法445条4項・会社計算規則22条)

配当をするときは、配当により減少する剰余金の額の10分の1を、資本準備金または利益準備金として積み立てなければなりません(会社法445条4項)。ただし、無制限に積み立てるわけではなく、資本準備金と利益準備金の合計が資本金の4分の1(基準資本金額)に達するまでです(会社計算規則22条)。したがって、実際に積み立てる額は次のいずれか小さい額になります。

積立額 = 次のいずれか小さい額
(ア)配当により減少する剰余金の額 × 10分の1
(イ)資本金 × 4分の1 − 積立済みの準備金の合計

積み立てる先は原資によって分かれます。その他利益剰余金を原資とする配当なら利益準備金、その他資本剰余金を原資とする配当なら資本準備金です(会社計算規則22条)。たとえば、その他利益剰余金から1,000万円を配当し、準備金がまだ資本金の4分の1に達していない場合、積立額は1,000万円の10分の1=100万円で、これを利益準備金に積み立てます。

配当の会計処理(仕訳)

その他利益剰余金(繰越利益剰余金)を原資として1,000万円を配当し、利益準備金100万円を積み立てるケースの仕訳です。源泉徴収は非上場株式を想定し、税率20.42%(源泉税204万円、端数処理後)とします。

株主総会での決議時

借方 金額 貸方 金額
繰越利益剰余金 1,100万円 未払配当金 1,000万円
利益準備金 100万円

配当金の支払時(源泉徴収)

借方 金額 貸方 金額
未払配当金 1,000万円 預り金(源泉所得税) 204万円
現金預金 796万円

預り金(源泉所得税)は、原則として配当を支払った月の翌月10日までに納付します。その他資本剰余金を原資とする配当の場合は、借方が「その他資本剰余金」となり、積立先は資本準備金に変わります。

受け取った株主側の税務(配当所得・源泉徴収)

配当を受け取った株主側では、配当所得として課税されます(所得税法24条)。支払時に源泉徴収され、株式の区分によって税率が異なります。

株式の区分 源泉徴収の税率
上場株式等(大口株主等を除く) 15.315%(所得税・復興特別所得税)+住民税5%
非上場株式等・大口株主の上場株式 20.42%(所得税・復興特別所得税。住民税の源泉徴収なし)

非上場株式等の配当は総合課税が原則で、確定申告により精算します。ただし少額配当(1回に支払を受ける金額が「10万円×配当計算期間の月数÷12」以下)は、所得税について申告不要を選べます(住民税の申告は必要)。総合課税を選択した場合は、一定の範囲で配当控除の適用があります(所得税法92条)。法人が受け取る配当については、受取配当等の益金不算入で別途整理しています。

みなし配当に注意(利益剰余金か資本剰余金か)

同じ「剰余金の配当」でも、原資が利益剰余金か資本剰余金かで税務の取扱いが大きく変わります。会社法上は配当とされないものでも、税務上は配当とみなす「みなし配当」が生じる場面があるためです(所得税法25条、所得税法施行令61条)。みなし配当は、交付を受けた金銭等のうち、その株式に対応する法人の資本金等の額を超える部分をいいます。

みなし配当の額 = 交付された金銭等 − その株式に対応する資本金等の額
配当の原資 受取株主の税務
利益剰余金(通常の配当) 全額が配当所得。源泉徴収のうえ課税
資本剰余金(資本の払戻し) 資本金等の額を超える部分はみなし配当(配当所得)、残りは株式の譲渡収入となり譲渡損益を計算

言い切ると、利益剰余金からの配当は「配当所得だけ」の世界ですが、資本剰余金からの配当(資本の払戻し)は「みなし配当+株式譲渡損益」の二本立てになり、計算も申告も複雑になります。みなし配当は自己株式の取得(市場取引などを除く)や残余財産の分配でも生じます。自己株式の取得に伴うみなし配当は、自己株式の取得の税務(みなし配当と源泉徴収)で詳しく解説しています。

手続と必要書類

場面 整えておく客観資料・手続
決議 株主総会議事録(配当財産・総額・割当て・効力発生日を記載)。中間配当は取締役会議事録
財源の確認 分配可能額の計算根拠(貸借対照表、剰余金・自己株式・のれん等調整額の内訳)
準備金の積立 10分の1と資本金の4分の1の比較計算、積立先(利益準備金・資本準備金)の記録
源泉徴収 源泉所得税の徴収・翌月10日までの納付、支払調書・支払通知書の作成

実務上の落とし穴

分配可能額を超えて配当してしまう

分配可能額を超える配当は財源規制に反し、その配当を受けた株主と、配当に関する職務を行った業務執行者は、会社に対して連帯して、交付を受けた金銭等に相当する金銭を支払う義務を負います(会社法462条)。利益剰余金の残高だけを見て配当額を決めると、自己株式やのれん等調整額の控除を見落として超過することがあります。

準備金の積立を忘れる

配当をすれば、原則として配当額の10分の1の準備金積立が必要です(資本金の4分の1に達するまで)。積立を忘れると純資産の内訳が誤り、翌期以降の分配可能額の計算にも影響します。積立先が利益準備金か資本準備金かは、配当の原資で決まります。

源泉徴収と納付の失念(非上場は20.42%)

配当は源泉徴収の対象で、非上場株式は20.42%です。給与や報酬の源泉所得税とは別で、配当は納期の特例の対象外のため、原則として支払った月の翌月10日までに納付します。同族会社が役員株主に配当する場面などで、徴収・納付を失念しやすい点に注意が必要です。

資本剰余金からの配当をみなし配当と気づかない

その他資本剰余金を原資とする配当は資本の払戻しに当たり、みなし配当と株式の譲渡損益が生じます。会計上は「配当」でも、税務では通常配当とは全く別の処理が必要です。原資の区分を確認せずに通常配当と同じ処理をすると、申告誤りにつながります。

純資産300万円の下限規制

配当後の純資産が300万円を下回る配当はできません(会社法458条)。分配可能額が形式的に出ていても、この下限に抵触しないかを確認する必要があります。

判断フロー

手順 確認すること
1 配当の原資を確認する(利益剰余金か資本剰余金か。資本剰余金ならみなし配当の検討へ)
2 分配可能額を計算し、配当額が範囲内か、純資産300万円の下限に抵触しないかを確認する
3 株主総会(または取締役会)で決議し、議事録を作成する
4 準備金の積立額を計算する(配当額の10分の1と、資本金の4分の1までの残り枠の小さい方)
5 配当と準備金積立の仕訳を計上し、支払時に源泉徴収する
6 源泉所得税を翌月10日までに納付し、支払調書などを整える

想定Q&A集

Q1. 利益剰余金がたくさんあれば、その全額を配当できますか

できません。配当できるのは分配可能額の範囲までです。分配可能額は剰余金の額から自己株式の帳簿価額やのれん等調整額などを控除して計算するため、利益剰余金の残高とは一致しません。また、配当後の純資産が300万円を下回る配当もできません。

Q2. 配当は取締役会だけで決められますか

原則は株主総会の普通決議です。ただし、取締役会設置会社が定款で定めれば、年1回の中間配当を取締役会決議でできます(会社法454条5項)。また、会計監査人設置会社などが一定要件を満たし定款で定めた場合は、配当の決定を取締役会に委ねられます(会社法459条)。多くの中小企業は株主総会で決議します。

Q3. 準備金は毎回いくら積み立てるのですか

配当により減少する剰余金の10分の1です。ただし、資本準備金と利益準備金の合計が資本金の4分の1に達するまでで、達している会社は積立不要です。したがって、実際の積立額は「配当額の10分の1」と「資本金の4分の1までの残り枠」の小さい方になります。

Q4. すでに準備金が資本金の4分の1あります。積立は必要ですか

不要です。資本準備金と利益準備金の合計が資本金の4分の1に達している場合、それ以上の積立は求められません(会社計算規則22条)。この場合は、配当額の全額を剰余金から減らすだけの仕訳になります。

Q5. 非上場の同族会社です。配当の源泉徴収税率は何%ですか

非上場株式の配当は20.42%(所得税・復興特別所得税)で源泉徴収します。住民税の源泉徴収はありません。徴収した源泉所得税は、原則として支払った月の翌月10日までに納付します。給与などの納期の特例の対象ではない点に注意してください。

Q6. 少額の配当なら確定申告しなくてよいと聞きました

非上場株式の配当で、1回に支払を受ける金額が「10万円×配当計算期間の月数÷12」以下の少額配当であれば、所得税については申告不要を選べます。ただし住民税の申告は別途必要です。総合課税で確定申告すれば配当控除を受けられる場合もあり、有利不利は所得水準によります。

Q7. 資本剰余金から配当すると何が違うのですか

その他資本剰余金からの配当は資本の払戻しに当たり、受取株主側で「みなし配当」と「株式の譲渡損益」が生じます。交付金銭のうち資本金等の額を超える部分がみなし配当(配当所得)、残りは株式の譲渡収入として取得価額との差額で譲渡損益を計算します。利益剰余金からの通常配当(配当所得だけ)とは処理がまったく異なります。

Q8. 現物配当はできますか

できます。配当財産は金銭に限られず、現物配当も可能です(自社の株式は不可)。ただし、株主に金銭分配請求権を与えないで現物配当をする場合は、株主総会の特別決議が必要です。現物配当は税務上の評価や課税関係が複雑になるため、事前の検討が欠かせません。

Q9. 分配可能額を超えて配当してしまったらどうなりますか

財源規制に反する配当となり、配当を受けた株主と、配当に関する職務を行った業務執行者は、会社に対して連帯して交付額に相当する金銭を支払う義務を負います(会社法462条)。この責任の免除には総株主の同意が必要です。分配可能額の計算は配当前に慎重に行う必要があります。

Q10. 自己株式を持っていると分配可能額に影響しますか

影響します。自己株式の帳簿価額は分配可能額から控除されます(会社法461条2項)。自己株式を多く保有していると、剰余金の残高があっても分配可能額はその分小さくなります。なお、会社が保有する自己株式そのものには配当をしません。

まとめ

剰余金の配当は、株主総会の普通決議で決め、分配可能額の範囲でしか行えません。配当のたびに配当額の10分の1を準備金として積み立て(資本金の4分の1まで)、支払時には源泉徴収して翌月10日までに納付します。受取株主側は配当所得として課税され、源泉税率は上場15.315%(他に住民税5%)、非上場20.42%です。そして、利益剰余金からの通常配当と、資本剰余金からの配当(資本の払戻し・みなし配当)は税務がまったく異なる、という点が最大の勘どころです。会社法・会計・税務の三つを一体で押さえることが、配当実務では欠かせません。

この記事のまとめ
  • 剰余金の配当は株主総会の普通決議(中間配当は取締役会)。分配可能額の範囲でのみ可能(会社法454条・461条)
  • 分配可能額は剰余金から自己株式・のれん等調整額などを控除。純資産300万円の下限もある
  • 配当額の10分の1を準備金として積立。資本金の4分の1に達するまで(会社法445条4項)
  • 受取側は配当所得。源泉徴収は上場15.315%+住民税5%、非上場20.42%。納付は翌月10日まで
  • 資本剰余金からの配当はみなし配当+株式譲渡損益となり、通常配当と税務が異なる(所得税法25条)
  • 分配可能額超過は財源規制に反し、株主・業務執行者が支払義務を負う(会社法462条)

※本記事は作成時点の法令等(会社法453条・454条・458条・459条・461条・462条・445条4項、会社計算規則22条・158条、所得税法24条・25条・92条、所得税法施行令61条、国税庁タックスアンサーNo.1330・No.1331等)に基づく一般的な解説です。個別の事案によって取扱いは異なる場合があるため、具体的な判断は最新の法令の確認や、顧問税理士・司法書士などの専門家への相談をおすすめします。

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