賞与引当金とは?計算方法・仕訳・税務上の損金不算入と税効果会計まで解説

会計

賞与は翌期に支給されますが、その原資となる従業員の働きは当期のものです。会計は費用収益対応の考え方から、翌期に支給する賞与のうち当期の労働に対応する部分を、当期の費用として見越し計上します。これが賞与引当金です。ところが税務は、まだ支給が確定していない見積りの費用を認めず、賞与引当金の繰入額は損金になりません。ここに会計と税務のズレが生まれ、そのズレを調整するのが税効果会計です。賞与引当金は、この「会計・税務・税効果」の三点セットを一度に学べる、実務でも頻出の論点です。

この記事では、賞与引当金について、引当金の計上要件、支給見込額の期間按分による計算、決算・支給時の仕訳、税務上の損金不算入と支給時の損金算入(法人税法施行令72条の3)、決算賞与との違い、そして将来減算一時差異と繰延税金資産まで、会計と税務を一体で深掘りします。引当金全般の計上要件をまず押さえたい方は、引当金とは(計上4要件と賞与・退職給付・貸倒)もあわせてご覧ください。

この記事のポイント
  • 賞与引当金は、翌期に支給する賞与のうち当期の労働に対応する部分を見積り計上する引当金
  • 計上額は「支給見込額 × 当期に属する対象月数 ÷ 賞与計算対象期間の月数」で按分する
  • 会計では当期の費用(賞与引当金繰入)だが、税務では繰入額は損金不算入。実際に支給した期に損金算入される
  • この会計と税務のズレは将来減算一時差異となり、繰延税金資産を計上する(税効果会計)
  • 決算賞与(未払賞与)は3要件を満たせば当期の損金になる点で、賞与引当金とは扱いが異なる

賞与引当金とは(引当金の計上要件)

賞与引当金は、翌期に支給が見込まれる賞与のうち、当期の労働に対応する部分を、当期の費用として見越し計上するために設ける引当金です。引当金として計上できるのは、次の4要件をすべて満たす場合です。賞与引当金は、当期に従業員が働いた事実に基づき、翌期の支給が高い確実性で見込まれ、金額も合理的に見積もれるため、この要件に当てはまります。

計上要件 賞与引当金への当てはめ
将来の費用・損失 翌期に支給する賞与という将来の支出
発生が当期以前の事象に起因 当期の従業員の労働に対応する
発生の可能性が高い 賞与の支給慣行があり、支給の見込みが高い
金額を合理的に見積れる 支給見込額を対象期間で按分して見積れる

計上額の計算(支給見込額の期間按分)

賞与引当金の計上額は、翌期の支給見込額のうち、賞与の計算対象期間に占める当期の月数の割合で按分して求めます。

賞与引当金 = 翌期の支給見込額 × 当期に属する対象月数 ÷ 賞与計算対象期間の月数

たとえば3月決算の会社で、夏季賞与(6月支給)の計算対象期間が前年12月から当年5月までの6か月だとします。このうち当期(4月1日から3月31日)に属するのは12月から3月までの4か月です。支給見込額が600万円なら、賞与引当金は次のようになります。

600万円 × 4か月 ÷ 6か月 = 400万円

なお、賞与を支給すると会社は社会保険料の会社負担分も生じます。この会社負担分の見込額を、法定福利費として賞与引当金とあわせて引当計上する考え方もあります(実務では「賞与引当金」とは別に未払計上することもあります)。ただし、賞与に係る社会保険料が実際に発生するかは翌月末にならないと確定しないため、計上の要否は慎重に判断します。

会計処理(仕訳)

決算時(賞与引当金400万円を計上)

借方 金額 貸方 金額
賞与引当金繰入 400万円 賞与引当金 400万円

翌期の支給時(賞与総額600万円、源泉所得税・社会保険料の本人負担分100万円を控除)

借方 金額 貸方 金額
賞与引当金 400万円 預り金 100万円
賞与(当期対応分) 200万円 現金預金 500万円

前期に計上した賞与引当金400万円を取り崩し、当期に対応する200万円を当期の費用(賞与)として処理します。実務では、期首に引当金を全額戻し入れて支給額を丸ごと当期費用にする「洗替法」を採る会社もあります。どちらの方法でも、最終的な損益への影響は同じです。

税務上の取扱い(繰入額は損金不算入)

会計では賞与引当金繰入を当期の費用にしますが、税務では、この繰入額は損金になりません。使用人に対する賞与は、原則として実際に支払った日の属する事業年度に損金算入するのが法人税の考え方(債務確定基準)だからです(法人税法施行令72条の3第3号)。まだ支給が確定していない見積りの引当金繰入は、この要件を満たしません。

したがって、賞与引当金を計上した当期は、別表四で繰入額を加算(留保)します。そして翌期に賞与を実際に支給して債務が確定した時点で、その支給額が損金に算入されるため、別表四で減算(留保)します。会計と税務の差は、支給時に解消される一時的なズレです。

時点 会計 税務(別表四)
計上した当期 賞与引当金繰入を費用計上 繰入額を加算(留保)
支給した翌期 引当金を取り崩す(費用は当期対応分のみ) 支給額のうち前期加算分を減算(留保)

決算賞与(未払賞与)との違い

同じ「翌期に支払う賞与を当期に計上する」処理でも、賞与引当金と決算賞与(未払賞与)は税務の扱いが正反対になり得ます。賞与引当金は将来の見積りで損金不算入ですが、決算賞与は次の3要件をすべて満たせば、未払でも当期の損金に算入できます(法人税法施行令72条の3第2号)。

要件 内容
通知 支給額を、各人別に、かつ同時期に支給を受ける全ての使用人に通知していること
支払 通知した全員に、事業年度終了の日の翌日から1か月以内に支払っていること
損金経理 通知した日の属する事業年度で損金経理していること

言い切ると、賞与引当金は「見積りの引当なので損金不算入」、決算賞与は「支給額が確定し3要件を満たすので損金算入」です。当期に利益が出て節税したいなら、賞与引当金ではなく、要件を満たす決算賞与(未払賞与)として処理する必要があります。決算賞与の要件は決算賞与の損金算入要件(未払計上の3要件)で詳しく解説しています。なお、就業規則で「支給日に在職している人だけに支給する」と定めている場合は、通知が要件を満たさず損金算入が認められない点に注意が必要です。

税効果会計との関係(将来減算一時差異)

賞与引当金の繰入額は、会計上は当期の費用ですが、税務上は当期の損金になりません。その結果、当期は会計上の利益より課税所得が大きくなり、税金を多めに払う形になります。しかし翌期に賞与を支給すれば損金に算入され、その分だけ将来の税金が減ります。このように「将来、課税所得を減らす効果を持つ差異」を将来減算一時差異といい、税効果会計では繰延税金資産を計上します。

税効果の仕訳(賞与引当金400万円、法定実効税率30%の場合)

借方 金額 貸方 金額
繰延税金資産 120万円 法人税等調整額 120万円

400万円×30%=120万円の繰延税金資産を計上します。翌期に賞与を支給して差異が解消したときは、逆の仕訳(法人税等調整額を借方、繰延税金資産を貸方)で取り崩します。ただし、繰延税金資産は将来の課税所得で回収できる見込みがあって初めて計上できるため、赤字が続く会社では回収可能性の判断が必要です。仕組みの全体像は税効果会計(一時差異・法定実効税率・繰延)で解説しています。

実務のポイントと必要資料

場面 整えておく資料・確認事項
見積りの根拠 前年実績・支給規程・査定資料などによる支給見込額の算定根拠
対象期間の確認 賞与の計算対象期間と決算日の関係(按分月数の算定)
税務調整 別表四の加算・減算(留保)、別表五(一)での残高管理
税効果 将来減算一時差異の集計、繰延税金資産の回収可能性の検討

実務上の落とし穴

繰入額を損金と思い込む

賞与引当金繰入は会計上の費用ですが、税務では損金になりません。別表四での加算を忘れると、課税所得を過少に申告してしまいます。会計の費用と税務の損金は別だ、という基本を押さえておく必要があります。

決算賞与にできる場面で引当金にしてしまう

当期の利益を圧縮したい場面で、3要件を満たせば決算賞与(未払賞与)として当期の損金にできるのに、賞与引当金として計上してしまうと損金になりません。節税を狙うなら、通知・1か月以内の支払・損金経理の要件を満たす形にする必要があります。

対象期間の按分を誤る

賞与の計算対象期間と決算日の関係を取り違えると、按分月数を誤り、引当額が過大・過少になります。支給見込額だけでなく、対象期間の始期・終期を必ず確認します。

社会保険料の会社負担分の扱いを混同する

賞与に係る社会保険料の会社負担分は、賞与本体とは別に法定福利費として扱います。引当計上するかどうかは会社の方針によりますが、賞与引当金と混ぜて処理すると内訳が不明確になります。

繰延税金資産を無条件に計上する

賞与引当金は将来減算一時差異ですが、繰延税金資産は将来の課税所得で回収できる見込みがある場合にのみ計上できます。赤字が続く会社では回収可能性を検討し、計上できないケースもあります。

判断フロー

手順 確認すること
1 当期の損金にしたいか(節税目的か)を確認。損金にしたいなら決算賞与の3要件を検討する
2 通常の見越し計上なら、支給見込額と賞与計算対象期間を確認する
3 当期に属する月数で按分し、賞与引当金の額を計算する
4 賞与引当金繰入を計上(会計)。別表四で加算(税務)
5 将来減算一時差異として、回収可能性を確認のうえ繰延税金資産を計上する
6 翌期に支給。引当金を取り崩し、別表四で減算。税効果も解消する

想定Q&A集

Q1. 賞与引当金を計上すると節税になりますか

なりません。賞与引当金繰入は税務上は損金不算入で、別表四で加算するため、課税所得は減りません。節税をしたい場合は、決算賞与(未払賞与)の3要件を満たして当期の損金にする必要があります。賞与引当金は会計上の期間損益を正しく示すための処理で、税負担を減らす効果はありません。

Q2. なぜ繰入額は損金にならないのですか

使用人賞与は、原則として実際に支払った日の属する事業年度に損金算入するのが法人税の考え方(債務確定基準)だからです(法人税法施行令72条の3第3号)。賞与引当金は将来の支給の見積りで、まだ債務が確定していないため、この要件を満たしません。逆に、支給が確定し3要件を満たす決算賞与は、未払でも損金になります。

Q3. 中小企業でも賞与引当金を計上しなければなりませんか

会計上は、費用収益対応の観点から計上すべき処理です。上場企業などは必ず計上します。一方、税務では損金にならないため、税務申告のみを重視する中小企業では計上しない実務も見られます。ただし、正しい期間損益を示すには計上が望ましく、金融機関への決算書の信頼性の観点からも計上を検討する価値があります。

Q4. 計上額はどう計算しますか

翌期の支給見込額を、賞与計算対象期間のうち当期に属する月数で按分します。たとえば計算対象期間が6か月で、そのうち当期に属するのが4か月なら、支給見込額の6分の4を計上します。支給見込額は前年実績や査定資料をもとに合理的に見積ります。

Q5. 社会保険料の会社負担分も引当計上しますか

賞与を支給すると会社負担の社会保険料も生じるため、その見込額を法定福利費として引当計上する考え方があります。ただし、賞与に係る社会保険料が実際に発生するかは翌月末にならないと確定しないため、計上の要否は会社の方針と重要性で判断します。計上する場合も、賞与引当金とは区分して管理するのが分かりやすいでしょう。

Q6. 賞与引当金と未払賞与はどう違うのですか

賞与引当金は、支給額が未確定の見積りで、税務上は損金不算入です。未払賞与(決算賞与)は、支給額を各人別に通知して確定させ、3要件を満たすことで当期の損金になります。会計上はどちらも当期の費用ですが、税務では確定しているかどうかで扱いが分かれる、という違いです。

Q7. 決算賞与にしたつもりが損金にならないのはどんな場合ですか

就業規則で「支給日に在職している人だけに支給する」と定めている場合、支給日まで支給が確定しないため、期末時点の通知は3要件の通知に該当せず、損金算入が認められません(法人税基本通達9-2-43)。また、通知額と実際の支給額が1人でも異なると、全員分が否認されるおそれがあります。書面での通知と要件の確認が欠かせません。

Q8. 税効果会計で何を計上しますか

賞与引当金は将来減算一時差異にあたるため、繰延税金資産を計上します。金額は「賞与引当金×法定実効税率」です。翌期に支給して差異が解消したら取り崩します。ただし、将来の課税所得で回収できる見込みがあることが計上の前提です。

Q9. 役員賞与も賞与引当金にできますか

役員に対する賞与は、使用人賞与とは扱いが異なります。役員給与は定期同額給与・事前確定届出給与など限られた類型でなければ損金になりません。役員賞与を未払計上しても損金算入はできず、事前確定届出給与として届け出たとおりに実際に支給して初めて損金になります。したがって、使用人と同じ発想で賞与引当金を計上しても税務メリットはありません。

Q10. 洗替法と差額補充では損益が変わりますか

変わりません。期首に前期の引当金を全額戻し入れて改めて計上する洗替法でも、前期残高との差額だけを調整する方法でも、最終的な損益への影響は同じです。表示や事務の手間の違いにすぎず、どちらを採用しても構いません。

まとめ

賞与引当金は、翌期に支給する賞与のうち当期の労働に対応する部分を、支給見込額の期間按分で見越し計上する引当金です。会計上は当期の費用ですが、税務上は繰入額が損金不算入で、実際に支給した期に損金算入されます。この会計と税務のズレは将来減算一時差異となり、繰延税金資産を計上して調整します。そして、当期の損金にして節税したい場合は、賞与引当金ではなく、3要件を満たす決算賞与(未払賞与)として処理する必要がある、という点が最大の勘どころです。

この記事のまとめ
  • 賞与引当金は、翌期支給の賞与のうち当期対応分を見越し計上する引当金
  • 計上額=支給見込額×当期の対象月数÷賞与計算対象期間の月数
  • 会計は費用、税務は繰入額が損金不算入。支給時(債務確定)に損金算入(法人税法施行令72条の3)
  • 会計と税務のズレは将来減算一時差異。繰延税金資産を計上(回収可能性の検討が必要)
  • 当期の損金にしたいなら、3要件を満たす決算賞与(未払賞与)として処理する
  • 役員賞与には未払計上による損金算入は使えない

※本記事は作成時点の法令・通達および会計基準(法人税法施行令72条の3、法人税基本通達9-2-43、国税庁タックスアンサーNo.5350、企業会計原則注解18、税効果会計に係る会計基準等)に基づく一般的な解説です。個別の事案によって取扱いは異なる場合があるため、具体的な判断は最新の法令・基準の確認や、顧問税理士への相談をおすすめします。

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