有価証券の会計処理と評価を徹底解説|保有目的4区分と時価評価・減損

会計

株式や社債などの有価証券は、同じ「証券」でも、何のために持っているかによって会計処理がまったく変わります。すぐ売って値上がり益を狙うものと、満期まで持つ債券、子会社を支配するための株式、当面売る予定はないが将来売るかもしれない持ち合い株では、投資の性格が違うからです。会計は、この「保有目的」に応じて4つに区分し、時価で評価するもの・取得原価のままにするもの・評価差額を損益に入れるもの・純資産に入れるものを使い分けます。

さらに、税務(法人税)は会計と考え方が一部異なり、時価評価するのは売買目的だけで、その他は原則として取得原価のままです。会計でその他有価証券を時価評価しても、税務では原価のまま扱うため、申告で調整が必要になります。この記事では、有価証券の4区分と評価方法、その他有価証券の純資産直入、減損(強制評価減)、そして会計と税務のズレまでを、金融商品会計基準(企業会計基準第10号)と法人税法61条の3に沿って、仕訳例を交えて整理します。

この記事のポイント
  • 会計は保有目的で4区分。売買目的・満期保有目的の債券・子会社関連会社株式・その他有価証券
  • 売買目的は時価評価し評価差額を損益(P/L)に、その他有価証券は時価評価し評価差額を純資産に計上する
  • 満期保有目的の債券と子会社関連会社株式は時価評価せず取得原価(債券は償却原価法)による
  • 時価が著しく下落(おおむね50%以上)し回復見込みが不明なら減損(強制評価減)。切放しで評価損を計上する
  • 税務は売買目的のみ時価評価で他は原価。有価証券評価損は一定の要件を満たす場合に限り損金算入できる

有価証券の4区分

金融商品会計基準は、有価証券を保有目的に応じて次の4つに区分し、区分ごとに評価方法と評価差額の扱いを定めています。まず自社の有価証券がどの区分に当たるかを確定させることが出発点です。

区分 B/S価額 評価差額の扱い
売買目的有価証券 時価 当期の損益(P/L)に計上
満期保有目的の債券 取得原価(または償却原価) 時価評価しない。金利調整差額は償却原価法で受取利息に加減
子会社株式・関連会社株式 取得原価 時価評価しない(支配・影響力目的の事業投資と同視)
その他有価証券 時価 純資産の部に「その他有価証券評価差額金」として計上(税効果を適用)

売買目的有価証券の会計処理

短期的な値動きで利益を得る目的で持つ有価証券です。売却に事業上の制約がなく、時価の変動そのものが成果といえるため、期末に時価評価し、評価差額を当期の損益に計上します。取得価額80万円の株式が期末に時価100万円になったケースです。

時点 借方 貸方
取得時 売買目的有価証券 800,000 現金 800,000
決算(時価100万円) 売買目的有価証券 200,000 有価証券評価益 200,000
翌期首(洗替) 有価証券評価益 200,000 売買目的有価証券 200,000

時価が下がった場合は「有価証券評価損」を計上します。売買目的有価証券は、翌期首に取得原価へ戻す洗替方式によります。取得時の購入手数料は取得価額に含めます。

満期保有目的の債券・子会社関連会社株式

満期保有目的の債券は、満期まで持って利息と償還額を受け取ることが目的のため、期末に時価評価はせず取得原価によります。ただし、額面と異なる価額で取得し、その差額が金利の調整と認められる場合は、償却原価法により、差額を償還までの各期に受取利息として加減算します。子会社株式・関連会社株式は、支配や影響力の行使を目的とする事業投資と同じ性格のため、時価評価せず取得原価とします。

その他有価証券の会計処理

4区分のいずれにも当たらないものがその他有価証券で、持ち合い株や業務提携目的の株式などが典型です。時価をB/S価額としますが、直ちに売買・換金する制約もあるため、評価差額は損益に入れず純資産の部に「その他有価証券評価差額金」として計上します(全部純資産直入法)。取得価額100万円の株式が期末に時価120万円になったケースです(税効果は簡略化)。

時点 借方 貸方
取得時 その他有価証券 1,000,000 現金 1,000,000
決算(時価120万円) その他有価証券 200,000 その他有価証券評価差額金 200,000
翌期首(洗替) その他有価証券評価差額金 200,000 その他有価証券 200,000
全部純資産直入法と部分純資産直入法

全部純資産直入法:評価差益・評価差損とも純資産の部に計上する。
部分純資産直入法:評価差益は純資産に計上し、評価差損は当期の損失として計上する。
どちらも洗替方式で、純資産に計上する評価差額には税効果会計を適用します。

減損(強制評価減)

売買目的以外の有価証券でも、時価が著しく下落し回復の見込みがない場合は、時価まで簿価を切り下げて評価損を計上します(強制評価減)。時価の「著しい下落」は、取得原価に対する下落率がおおむね50%以上を目安に判断し、30%以上50%未満は状況に応じて判断します。市場価格のない株式は、発行会社の財政状態の悪化で実質価額が著しく低下(おおむね50%以上低下)した場合に減損します。

減損処理は切放しで行い、切り下げた後の時価(実質価額)が翌期首の取得原価になります。売買目的有価証券やその他有価証券の期末評価が翌期首に洗い替えられるのと異なり、減損は元に戻しません。回復見込みの判断を誤り、戻せない切下げをしてしまわないよう注意します。

会計と税務のズレ

税務(法人税)は、有価証券を売買目的有価証券と売買目的外有価証券に区分し、時価評価するのは売買目的だけです。その他有価証券を会計で時価評価しても、税務は取得原価のままのため、申告調整が必要になります。有価証券評価損の損金算入も、会計より厳格な要件があります。

区分 会計 税務(法人税)
売買目的 時価評価・評価差額はP/L 時価法・評価損益は益金損金(洗替)
満期保有・子会社関連会社 取得原価(債券は償却原価) 原価法(債券は償却原価)
その他有価証券 時価評価・評価差額は純資産直入 原価法。純資産直入なら申告調整で対応
評価損の損金 著しい下落+回復見込みなしで減損 一定の事実がある場合に限り損金算入

税務で有価証券評価損を損金にできるのは、上場株式等で価額が著しく低下(おおむね50%相当以上下落)し回復の見込みがない場合や、非上場株式で発行会社の資産状態が著しく悪化し実質価額が著しく低下した場合など、一定の事実があるときに限られます。会計で減損しても、税務要件を満たさない部分は申告で加算します。有価証券から生じる配当については、二重課税の調整として一定額を益金に算入しない扱いがあり、受取配当益金不算入で解説しています。

取得価額・譲渡損益・保有目的の変更

有価証券の取得価額は、購入代価に購入手数料などの付随費用を加えた額です。売却したときの譲渡損益は、譲渡対価から譲渡原価(1単位当たり帳簿価額×売却数量)を差し引いて計算し、1単位当たり帳簿価額は移動平均法または総平均法で求めます。保有目的区分は、利益調整を防ぐため取得後に自由に変えることはできず、正当な理由がある場合に限り変更できます。とくに、いったん他の区分にしたものを満期保有目的の債券へ変更することは認められません。

見落としやすい落とし穴

その他有価証券の評価益を利益に計上する

その他有価証券の評価差額は、原則として損益ではなく純資産の部に計上します。評価益をそのまま当期の利益にすると誤りです。全部純資産直入法では評価差損も純資産に計上し、部分純資産直入法でも純資産に入れるのは評価差益です。損益に入れてよいのは売買目的だけです。

会計の減損をそのまま損金にする

会計で減損して評価損を計上しても、税務で損金になるとは限りません。税務の有価証券評価損は、著しい下落と回復見込みなしなど一定の事実がある場合に限られるからです。要件を満たさない評価損は申告で加算する必要があります。

減損を洗い替えて戻してしまう

減損処理は切放しで、切り下げた後の時価が翌期首の取得原価になります。期末の時価評価と同じ感覚で翌期首に洗い替えて元に戻すと誤りです。通常の時価評価(洗替)と減損(切放し)を区別してください。

保有目的を自由に変えられると思う

保有目的区分は、正当な理由がある場合に限って変更でき、恣意的な変更はできません。とくに満期保有目的の債券への事後的な変更は認められません。有利になるからと区分を付け替えると、区分変更の要件違反や、税務上のみなし譲渡課税の問題が生じます。

保有目的を区分する判定フロー

手順 確認内容
1 短期的な値動きで利益を得る目的で、専門部署が運用しているか。該当すれば売買目的有価証券
2 満期まで保有する意図と能力がある債券か。該当すれば満期保有目的の債券(取得原価・償却原価)
3 支配・影響力の行使が目的の株式か。該当すれば子会社株式・関連会社株式(取得原価)
4 いずれにも当たらなければその他有価証券。時価評価し評価差額は純資産直入(税効果適用)
5 売買目的以外は、著しい下落+回復見込みなしなら減損を検討。税務は評価損の損金算入要件を確認する

想定Q&A(有価証券の会計処理と評価)

Q1. なぜ保有目的で会計処理が変わるのですか

投資の性格が異なるからです。短期売買目的なら時価の変動が成果ですが、満期保有や支配目的なら時価が動いても直ちに成果とはいえないため、目的に応じて時価評価するかどうかを変えるのです。反対に、すべてを一律に処理すると、企業の実態に合った損益や財政状態を示せません。だからこそ保有目的による区分が重要になります。

Q2. その他有価証券の評価益は利益になりますか

原則なりません。その他有価証券の評価差額は、直ちに売買・換金する制約もあることから、損益ではなく純資産の部に計上するからです。反対に、売買目的有価証券の評価差額は当期の損益になります。同じ時価評価でも、区分によって評価差額を損益に入れるか純資産に入れるかが分かれます。

Q3. 満期保有目的の債券は時価評価しますか

しません。満期まで保有して利息と償還額を受け取ることが目的で、途中の価格変動リスクを認識する必要がないため、取得原価によるからです。反対に、額面と異なる価額で取得し差額が金利調整と認められる場合は、償却原価法で差額を各期に配分します。満期保有目的に分類するには、満期まで保有する意図と能力が要件です。

Q4. 全部純資産直入法と部分純資産直入法の違いは何ですか

評価差損の扱いが違います。全部純資産直入法は評価差益も差損も純資産に計上しますが、部分純資産直入法は評価差益を純資産に、評価差損は当期の損失に計上するからです。反対に、どちらも評価差益は純資産に入れ、洗替方式による点は共通です。保守的に損失を早めに認識するのが部分純資産直入法です。

Q5. 減損はどんなときに行いますか

時価が著しく下落し回復の見込みがないときです。売買目的以外の有価証券で、取得原価に対する下落率がおおむね50%以上など著しく下落し、回復可能性が認められない場合に、時価まで切り下げて評価損を計上するからです。反対に、下落が一時的で回復が見込めるなら減損しません。下落率が30%以上50%未満のときは状況に応じて判断します。

Q6. 減損した後に時価が戻ったら評価益を計上しますか

計上しません。減損は切放しで、切り下げた後の時価が翌期首の取得原価になり、その後値上がりしても戻し入れないからです。反対に、売買目的有価証券やその他有価証券の期末時価評価は洗替方式で翌期首に取得原価へ戻します。減損と通常の時価評価では戻し入れの有無が異なります。

Q7. 会計で計上した有価証券評価損は税務でも損金ですか

要件を満たす場合に限られます。税務の有価証券評価損は、上場株式等の著しい下落と回復見込みなし、非上場株式の資産状態の著しい悪化による実質価額の著しい低下など、一定の事実がある場合だけ損金になるからです。反対に、会計で減損しても税務要件を満たさない部分は、申告で加算調整します。会計と税務の要件の違いを確認します。

Q8. その他有価証券を時価評価すると税金が増えますか

直ちには増えません。その他有価証券の評価差額は純資産に計上され損益に入らず、税務も原価法のため、評価しただけでは課税所得は動かないからです。反対に、実際に売却して利益が実現すれば課税されます。純資産に計上した評価差額には税効果会計を適用し、将来の課税・軽減を繰延税金負債・資産として認識します。

Q9. 有価証券の取得手数料は取得価額に含めますか

原則含めます。有価証券の取得価額は購入代価に購入手数料などの付随費用を加えた額だからです。反対に、経常的に発生する費用で個々の有価証券との対応関係が明確でないものは、取得価額に含めないことができます。売却時の譲渡原価は、移動平均法または総平均法による1単位当たり帳簿価額で計算します。

Q10. 保有目的は後から変更できますか

正当な理由がある場合に限られます。保有目的区分は判断の恣意性を排除するため、原則として取得後に自由に変更できないからです。反対に、とくに満期保有目的の債券への事後的な変更は認められません。区分変更が認められる場合でも、税務ではみなし譲渡として課税に影響することがあるため、慎重に判断します。

Q11. 中小企業でもその他有価証券を時価評価しますか

保有状況により簡便的な扱いが認められる場合があります。中小企業の会計指針等では、市場価格のある有価証券が少額であるときなどに取得原価によることができるとされているからです。反対に、市場価格のある株式を多額に保有している場合は、時価評価して評価差額を純資産直入するのが原則です。会社の規模や保有額に応じて処理を確認します。

まとめ

有価証券は、保有目的により売買目的・満期保有目的の債券・子会社関連会社株式・その他有価証券の4つに区分され、評価方法と評価差額の扱いが変わります。売買目的は時価評価して評価差額を損益に、その他有価証券は時価評価して評価差額を純資産に計上し、満期保有目的の債券と子会社関連会社株式は取得原価によります。時価が著しく下落し回復見込みがなければ減損(切放し)します。税務は売買目的だけを時価評価し、評価損は一定要件で損金になるため、会計との差は申告調整で埋めます。

この記事のまとめ
  • 会計は保有目的で4区分。売買目的・満期保有目的の債券・子会社関連会社株式・その他有価証券
  • 売買目的は時価評価で評価差額をP/L、その他有価証券は時価評価で評価差額を純資産直入(税効果適用)
  • 満期保有目的の債券・子会社関連会社株式は時価評価せず取得原価(債券は償却原価法)
  • 著しい下落+回復見込みなしで減損(切放し)。売買目的やその他の時価評価(洗替)とは戻し入れが異なる
  • 税務は売買目的のみ時価評価。有価証券評価損は一定の事実がある場合に限り損金算入

※本記事は作成時点の会計基準・法令および公表資料(企業会計基準第10号「金融商品に関する会計基準」、金融商品会計に関する実務指針、法人税法61条の3、法人税法施行令119条の2・119条の11・68条、中小企業の会計に関する指針等)に基づく一般的な解説です。仕訳例は税効果等を簡略化した設例です。制度・取扱いは改正により変わる場合があるため、個別の判断は最新の基準・法令の確認、または顧問税理士・公認会計士へのご相談をおすすめします。

タイトルとURLをコピーしました