自己株式の取得の税務|みなし配当と源泉徴収の計算を解説

法人税

会社が自社の株式を株主から買い取る「自己株式の取得(自社株買い)」は、事業承継や少数株主の整理の場面で増えています。ところが税務上は、単なる株式の売買では終わりません。買い取った金額のうち一定部分が「みなし配当」として配当扱いになり、会社には源泉徴収の義務が生じます。これを知らずに進めると、源泉徴収もれや株主への説明不足でトラブルになります。

この記事では、非上場会社の自己株式取得を中心に、みなし配当の仕組みと計算方法、源泉徴収、株主側の課税、相続した株式を発行会社に売る場合の特例まで、法人税法24条などの条文に沿って解説します。

この記事のポイント
  • 自己株式の取得では、交付金銭のうち資本金等の額を超える部分がみなし配当になる(法人税法24条1項)
  • 会社はみなし配当部分に源泉徴収(非上場は20.42%)し、翌月10日までに納付
  • 株主側は、みなし配当部分は配当所得、残りは株式の譲渡所得として課税
  • 上場株式の市場での買付けはみなし配当が生じない。相対取得・公開買付(TOB)は該当
  • 相続した非上場株式を発行会社に売る場合は、みなし配当課税されない特例がある(措法9条の7・No.1477)

なぜ「みなし配当」が生じるのか

会社が株主に支払うお金は、税務上、出資の払戻し(資本の払戻し)と、利益の分配(配当)に分けて考えます。自己株式の取得で株主に金銭を交付すると、その金額は、株主が出資した部分(資本金等の額に対応する部分)と、会社が稼いだ利益から払い戻す部分(利益積立金額に対応する部分)に分けられます。

このうち、利益から払い戻された部分は、実質的に配当と同じです。そこで法人税法24条1項は、交付した金銭等のうち資本金等の額に対応する部分を超える金額を、配当とみなして課税します。これが「みなし配当」です。会社からみると、自己株式の取得は、資本金等の額の減少と利益積立金額の減少に分けて処理されます。

みなし配当の計算方法

みなし配当の額は、おおむね次の式で計算します。

みなし配当 = 交付した金銭等の額 - 取得した株式に対応する資本金等の額

「取得した株式に対応する資本金等の額」は、原則として、その会社の1株あたりの資本金等の額に取得株式数を掛けて求めます。交付した金銭がこの金額を超える部分が、みなし配当になります。

計算例

発行済株式総数1,000株・資本金等の額1,500万円(1株あたり1.5万円)の非上場会社が、株主から150株を800万円で買い取ったとします。

項目 金額
交付した金銭(取得価額) 8,000,000円
対応する資本金等の額(1.5万円×150株) 2,250,000円
みなし配当 5,750,000円

この例では、交付した800万円のうち、資本金等の額に対応する225万円を超える575万円がみなし配当になります。残りの225万円は、株式の譲渡対価(譲渡所得の収入金額)として扱われます。

会社の源泉徴収義務

みなし配当は税務上の配当所得に当たるため、自己株式を取得した会社(支払者)は、みなし配当の額について源泉徴収を行い、原則として支払った月の翌月10日までに納付する義務があります。源泉徴収の税率は、非上場株式の場合20.42%(所得税および復興特別所得税)です。

先ほどの例では、みなし配当575万円に20.42%を掛けた1,174,150円を源泉徴収し、株主への実際の支払額は、800万円からこの源泉税を差し引いた6,825,850円になります。会社は徴収した源泉税を翌月10日までに納付し、株主に対しては交付金銭の額・みなし配当の額・源泉徴収税額等を通知する必要があります(所法225、所規92)。源泉徴収を失念すると、会社が納付義務を負うことになるため注意が必要です。

自己株式の取得を「単に株を買い戻すだけ」と考えて源泉徴収を忘れると、後から会社が源泉所得税の納付を求められます。取得を実行する前に、みなし配当の額と源泉税額を必ず試算しておきましょう。

株主側の課税

自己株式の取得に応じて株式を手放した株主側では、受け取った金銭が2つに分かれて課税されます。みなし配当部分は配当所得、資本金等の額に対応する部分は株式の譲渡所得です(所得税法25条1項、措法37条の10等、No.1536)。

受け取った金銭の区分 株主側の課税
みなし配当部分 配当所得(個人は総合課税・配当控除等)
資本金等に対応する部分 株式の譲渡所得(取得費を差し引いて計算)

個人株主の場合、みなし配当(配当所得)は総合課税の対象となり、所得が大きいほど高い税率(他の所得と合算して5.105%〜45.945%)がかかります。一方、株式の譲渡所得は申告分離課税(所得税15.315%・住民税5%)です。非上場株式では、みなし配当部分に高い累進税率がかかるため、譲渡所得として課税される場合に比べて税負担が重くなりやすい点が、自己株式取得の悩ましいところです。

法人株主の場合は、みなし配当について受取配当等の益金不算入の適用を受けられることがあります。詳しくは受取配当等の益金不算入で解説しています。

みなし配当が生じないケース

すべての自己株式取得でみなし配当が生じるわけではありません。上場会社が証券市場で自社株を買い付ける場合は、みなし配当が生じる事由から除かれており(法人税法24条1項柱書の「金融商品取引所の開設する市場における購入等」の除外)、株主側は通常の株式譲渡として扱われます。一方、非上場会社が株主から相対で買い取る場合や、上場会社でも公開買付け(TOB)による取得は、市場での購入ではないため、みなし配当が生じる事由に該当します。

取得の方法 みなし配当
上場株式の市場(証券取引所)での買付け 生じない
非上場会社の相対取得(株主から直接買取り) 生じる
公開買付け(TOB)による取得 生じる

相続した非上場株式を発行会社に売る場合の特例

事業承継や相続で重要なのが、この特例です。相続または遺贈により非上場株式を取得し、納付すべき相続税額がある個人が、相続税の申告期限の翌日から3年を経過する日まで(=相続開始後おおむね3年10か月以内)の間に、その株式を発行会社に譲渡(自己株式として売却)した場合には、みなし配当課税を行わず、交付を受けた金額の全額を株式の譲渡所得の収入金額として扱うことができます(租税特別措置法9条の7、所得税法25条、国税庁No.1477)。

通常なら高い累進税率の配当所得になる部分が、この特例によって申告分離の譲渡所得(所得税15.315%)だけで済むため、税負担を大きく抑えられます。相続税の納税資金を、相続した自社株を会社に買い取ってもらって確保するケースで、特に有効です。

特例の主な要件・手続
・相続・遺贈で非上場株式を取得し、納付すべき相続税額があること
・相続税の申告期限の翌日から3年以内(相続開始後3年10か月以内)に発行会社へ譲渡すること
・譲渡する日までに「みなし配当課税の特例に関する届出書」を発行会社に提出すること(発行会社は譲受けの日の属する年の翌年1月31日までに所轄税務署長へ提出)
・取得費加算の特例(措法39条)もあわせて検討できる

なお、この特例で株主にみなし配当課税がされない場合でも、発行会社側は法人税法24条の別段の定めがないため、原則どおりみなし配当に相当する金額を利益積立金額から減算します。一方、株主にみなし配当課税がされないことに伴い、発行会社の源泉徴収は不要です。

この特例は、相続した株式を相続税の申告期限後3年以内に発行会社へ譲渡することが条件です。タイミングを逃すと通常のみなし配当課税に戻るため、相続が発生したら早めに自社株の整理方針を検討しましょう。相続税の納税資金対策としては、小規模宅地等の特例相続税の基礎控除とあわせて全体設計を検討してください。

取得価額が時価とずれる場合の注意

自己株式を時価よりも著しく高い金額や低い金額で取得すると、みなし配当・譲渡所得の問題とは別に、時価との差額をめぐって寄附金や受贈益と認定されたり、他の株主への利益移転(贈与など)とみなされたりする論点が生じます。

価格の状況 生じうる論点
時価より著しく高い価格で取得 高すぎる部分について、会社から売主株主への利益供与(給与・寄附金等)の認定。他の株主の持分価値が下がる場合は株主間の問題も
時価より著しく低い価格で取得 売主が個人で時価の2分の1未満なら、みなし譲渡(所法59条)で時価により譲渡所得を計算。残った株主の持分価値が上がる分、売主から他の株主への贈与認定も
同族会社での相対取得 特定の株主から相場と異なる価格で買い取ると、上記の論点が生じやすい。株式の時価評価を適切に行う必要がある

とくに同族会社で、特定の株主から相場と異なる価格で買い取る場合は、株式の時価評価を適切に行う必要があります。非上場株式の時価は財産評価の考え方をもとに算定するため、専門的な検討が欠かせません。

判定の手順(判断フロー)

自己株式の取得にあたり、みなし配当・源泉徴収・特例の有無は次の順で確認します。

手順 確認すること
1 取得方法を確認。上場株式の市場買付けならみなし配当なし(通常の譲渡)。相対取得・TOBなら次へ
2 取得株式に対応する資本金等の額(1株あたり資本金等×取得株数)を計算
3 交付金銭等-対応する資本金等の額=みなし配当を算出。残りは株式の譲渡対価
4 相続取得株式を申告期限後3年以内に発行会社へ譲渡する特例に該当するか確認。該当し届出すればみなし配当課税なし・源泉徴収不要
5 特例非該当なら、会社はみなし配当に源泉徴収(非上場20.42%)し翌月10日までに納付。株主へ通知
6 取得価額が時価と乖離していないか確認。著しい高低差は寄附金・受贈益・みなし譲渡・株主間贈与の論点

想定Q&A集

Q1. 自己株式を買い取っただけなのに、なぜ配当の税金がかかるのですか

会社が株主に払うお金は、出資の払戻し(資本金等の部分)と利益の分配(配当の部分)に分けて考えるためです。自己株式の取得で交付した金銭のうち、資本金等の額を超える部分は、実質的に会社の利益を株主に分配したのと同じなので、法人税法24条1項により配当とみなして課税します。単なる売買に見えても、利益から払い戻された部分には配当課税が及ぶ、という整理です。

Q2. みなし配当と株式の譲渡所得は、どう切り分けるのですか

交付金銭等のうち、取得株式に対応する資本金等の額を超える部分がみなし配当(配当所得)、資本金等の額に対応する部分が株式の譲渡対価(譲渡所得の収入金額)です。譲渡所得は、その収入金額から株式の取得費を差し引いて計算します。1回の取引が配当所得と譲渡所得の2つに分かれて課税される点が、通常の株式売却と違うところです。

Q3. なぜ譲渡より税負担が重くなりやすいのですか

みなし配当(配当所得)が個人では総合課税で、他の所得と合算して最高45.945%(所得税・復興税)の累進税率がかかるためです。通常の株式譲渡なら、利益全体が申告分離課税の譲渡所得(所得税15.315%・住民税5%)で済みます。非上場株式を発行会社に売ると、利益積立金額に対応する大きな部分がみなし配当(高い累進税率)になりやすく、第三者に売る場合より手取りが減りやすいのです。

Q4. 上場株式なら必ずみなし配当は生じないのですか

市場(証券取引所)での買付けに限ってみなし配当が生じません。同じ上場会社でも、公開買付け(TOB)による取得は市場での購入ではないため、みなし配当が生じる事由に該当します。「上場だから関係ない」と一括りにせず、取得が市場経由かTOB等かで判定してください。非上場会社の相対取得は当然みなし配当の対象です。

Q5. 源泉徴収はいつまでに納付しますか。失念するとどうなりますか

みなし配当に対する源泉所得税(非上場20.42%)は、支払った月の翌月10日までに納付します。失念すると、源泉徴収義務者である会社が不納付加算税や延滞税を含めて納付を求められます。源泉徴収は株主からの預り金の性質ですが、徴収しなかった場合でも会社が納付義務を負うため、買取代金を支払う前に源泉税額を計算し、差し引いて支払う運用を徹底してください。

Q6. 相続した自社株を会社に買い取ってもらうと、税金は安くなりますか

特例を使えば安くなります。相続・遺贈で取得し相続税を納付した非上場株式を、相続税の申告期限の翌日から3年以内に発行会社へ譲渡すれば、みなし配当課税を行わず、交付金額の全額を株式の譲渡所得として扱えます(措法9条の7・No.1477)。高い累進税率の配当所得部分が、申告分離15.315%の譲渡所得だけで済むため、税負担を大きく抑えられます。相続税の納税資金確保に有効な手法です。

Q7. その特例を受けるための期限と手続を教えてください

期限は、相続税の申告期限の翌日から3年を経過する日まで(相続開始後おおむね3年10か月以内)です。手続は、譲渡する日までに「相続財産に係る非上場株式をその発行会社に譲渡した場合のみなし配当課税の特例に関する届出書」を発行会社に提出します。発行会社は、譲り受けた日の属する年の翌年1月31日までに、その届出書を所轄税務署長に提出します。期限を1日でも過ぎると通常のみなし配当課税に戻るため、相続後のスケジュール管理が重要です。

Q8. 特例を使うと、会社側の源泉徴収や経理処理はどうなりますか

株主にみなし配当課税がされないため、発行会社の源泉徴収は不要です。ただし、法人税法24条にはこの特例に対応する別段の定めがないため、会社側は原則どおり、みなし配当に相当する金額を利益積立金額から減算する処理を行います。つまり「株主は譲渡所得のみ・源泉なし」「会社は通常どおり資本金等と利益積立金額を減算」という非対称な扱いになる点に注意してください。

Q9. 時価より安く買い取れば、会社の支払いが減って有利ですか

単純には有利になりません。時価より著しく低い価格での取得は、別の課税問題を呼びます。売主が個人で時価の2分の1未満の価格なら、みなし譲渡(所法59条)として時価で譲渡所得を計算されます。また、安く売った分だけ残る株主の持分価値が上がるため、売主から他の株主への贈与と認定される可能性もあります。逆に著しく高い価格なら会社から売主への利益供与が問題になります。適正な時価で行うのが基本です。

Q10. 法人が株主の場合も、みなし配当に課税されますか

法人株主にもみなし配当は生じますが、受取配当等の益金不算入の適用を受けられる場合があります。持株比率に応じて益金不算入額が決まるため、個人株主のような高い累進課税にはなりにくいのが通常です。ただし、発行会社による自己株式取得が取得時点で予定されている株式(公開買付期間中に取得した株式など)を取得した場合のみなし配当には、益金不算入が適用されない措置がある点に注意が必要です。詳しくは受取配当等の益金不算入の記事を参照してください。

まとめ

非上場会社の自己株式の取得では、交付金銭のうち資本金等の額を超える部分がみなし配当となり、会社に源泉徴収義務(非上場20.42%)が生じます。株主側はみなし配当部分が配当所得、残りが譲渡所得となり、税負担が重くなりやすい点に注意が必要です。一方、相続した非上場株式を申告期限後3年以内に発行会社へ譲渡する場合は、みなし配当課税されない特例があり、事業承継・相続の納税資金対策に有効です。時価との乖離による寄附金・受贈益・みなし譲渡の論点もあるため、実行前に税理士と十分に検討しましょう。

この記事のまとめ
  • みなし配当=交付金銭等-取得株式に対応する資本金等の額(法人税法24条1項)
  • 会社はみなし配当に源泉徴収(非上場20.42%)し翌月10日までに納付・株主へ通知
  • 株主側はみなし配当が配当所得(総合課税)、残りが株式の譲渡所得(分離15.315%)
  • 上場株式の市場買付けはみなし配当なし。相対取得・公開買付(TOB)は該当
  • 相続非上場株式を申告期限後3年以内に発行会社へ譲渡すると、みなし配当課税されない特例(措法9条の7・No.1477)。届出が必要で源泉徴収も不要

※本記事は作成時点の法令・通達・公表資料(法人税法23条・24条、所得税法25条・59条、租税特別措置法9条の7・37条の10・39条、国税庁タックスアンサーNo.1477・No.1536等)に基づいています。個別の取扱いは事実関係により異なる場合があるため、具体的な判断は最新の条文・通達の確認、または税理士へのご相談をおすすめします。

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