仕入れた商品のうち、その期に売れた分だけが費用(売上原価)になり、売れ残った分は資産(棚卸資産)として翌期に繰り越されます。これは、費用はそれに対応する収益が計上される期に計上する、という費用収益対応の考え方によるものです。つまり、期末にどれだけの在庫が、いくらで残っているかを正しく評価できないと、その期の売上原価も利益も正しく計算できません。
その「いくらで残っているか」を決めるのが棚卸資産の評価方法です。同じ在庫でも、先入先出法か総平均法かといった評価方法の違いで期末評価額が変わり、結果として利益や税額まで変わります。この記事では、売上原価と棚卸資産の関係を押さえたうえで、原価法6種類と低価法、届出をしない場合に適用される法定評価方法、選定と変更の手続、会計上の低価法(正味売却価額による簿価切下げ)までを、法人税法施行令28条と企業会計基準第9号に沿って整理します。
- 売上原価=期首棚卸高+当期仕入高-期末棚卸高。期末在庫の評価が利益・税額を左右する
- 税務上の評価方法は、原価法6種(個別法・先入先出法・総平均法・移動平均法・最終仕入原価法・売価還元法)と低価法
- 届出をしない場合の法定評価方法は「最終仕入原価法による原価法」。後入先出法は認められない
- 評価方法は事業の種類・棚卸資産の区分ごとに選定して届出。変更は事前の承認申請が必要(原則3年継続後)
- 会計では、収益性が低下した棚卸資産を正味売却価額まで切り下げる低価法が原則(企業会計基準第9号)
棚卸資産と売上原価の関係
棚卸資産は、商品・製品・半製品・仕掛品・原材料・貯蔵品など、販売や加工のために保有する在庫です。売上原価は、次の式で計算します。期末棚卸高が大きいほど売上原価は小さくなり、利益は大きくなります。逆に期末棚卸高が小さいほど売上原価は大きくなり、利益は小さくなります。
売上原価 = 期首棚卸高 + 当期仕入高(製造業は当期製造原価) - 期末棚卸高
・期末棚卸高 = 期末の数量 × 単価
・数量は実地棚卸などで把握し、単価は選定した評価方法で決める
期末棚卸高は「数量×単価」で求めます。数量は実地棚卸(実際に数える)などで把握し、単価をどう決めるかが評価方法の問題です。数量の計上漏れや、翌期に売れた分まで在庫に含める誤りは、そのまま利益と税額の誤りになります。
評価方法の種類(原価法6種と低価法)
税務上の評価方法は、取得原価を基礎とする原価法6種類と、原価法による価額と期末時価の低い方をとる低価法に分かれます。低価法を選ぶ場合も、基礎とする原価法を1つ選んで届け出ます。
| 評価方法 | 内容と向くケース |
|---|---|
| 個別法 | 個々の取得価額で評価。不動産・宝石・美術品など個別性が強く高額なもの向き(大量・規格品には選定不可) |
| 先入先出法 | 先に仕入れた分から払い出したと仮定。期末在庫は新しい単価に近く、実際の流れと一致しやすい |
| 総平均法 | 期首と期中の取得価額合計を総数量で割った平均単価で評価。価格変動を平準化。期末まで単価が確定しない |
| 移動平均法 | 仕入の都度、平均単価を計算し直す。期中も常に単価を把握できるが事務は煩雑 |
| 最終仕入原価法 | 期末に最も近い仕入単価で全在庫を評価。計算が簡単で、法定評価方法。中小企業で広く使われる |
| 売価還元法 | 期末在庫の販売価額に原価率を掛けて評価。品数の多い小売業・百貨店向き |
法定評価方法と選定・変更手続
評価方法は、事業の種類ごと、かつ棚卸資産の区分(製品・半製品・仕掛品・主要原材料・補助原材料など)ごとに選んで届け出ます。届出をしない場合、または届け出た方法で評価しなかった場合は、法定評価方法である「最終仕入原価法による原価法」で計算します。
| 手続 | 法人 | 個人 |
|---|---|---|
| 選定の届出 | 設立第1期(棚卸資産を有することとなった事業年度)の確定申告書の提出期限まで | 開業した年の翌年3月15日まで |
| 届出をしない場合 | 最終仕入原価法による原価法 | 最終仕入原価法による原価法 |
| 変更の承認申請 | 変更しようとする事業年度開始の日の前日まで(承認要) | 変更しようとする年の3月15日まで(承認要) |
| 低価法の選定 | 基礎とする原価法を選んで届出 | 青色申告者に限り選択可 |
変更は、原則としてその評価方法を採用してから3年を経過していないと認められにくく、決算のたびに有利な方へ変えることはできません。評価方法の違いは税額に大きく影響するため、設立初期に自社の商品特性・価格変動・管理体制に合った方法を選んでおくことが重要です。
会計上の低価法(正味売却価額)
会計では、通常の販売目的の棚卸資産について、取得原価と正味売却価額(見込販売額から見積販売経費等を引いた額)のいずれか低い方で評価します(企業会計基準第9号)。売れ行き不振や品質低下で収益性が下がった在庫は、取得原価まで回収できないため、正味売却価額まで簿価を切り下げて評価損を計上します。つまり会計では、実質的に低価法が原則です。
一方、税務は原価法が原則で、低価法は届け出た場合に使えます。最終仕入原価法は法人税の法定評価方法ですが、企業会計基準では評価方法として定められていません(期間損益が大きく異ならない場合に容認される位置づけ)。会計と税務で評価の考え方に差がある点に注意します。
低価法・評価損の仕訳(洗替)
低価法では、期末に取得原価と時価(正味売却価額)を比べ、時価が低ければ差額を商品評価損として計上します。翌期首に前期の評価損を戻し入れる洗替法では、いったん取得原価に戻し、改めて期末に評価します。取得原価100万円の在庫の時価が80万円に下がったケースの仕訳は次のとおりです。
| 時点 | 借方 | 貸方 |
|---|---|---|
| 決算(評価損計上) | 商品評価損 200,000 | 繰越商品 200,000 |
| 翌期首(洗替・戻入) | 繰越商品 200,000 | 商品評価損戻入 200,000 |
評価方法で税額が変わる
仕入単価が変動する局面では、評価方法の違いが期末評価額に表れ、利益と税額が変わります。とくに物価上昇(インフレ)局面では顕著です。
| 評価方法 | 物価上昇局面の期末評価 | 利益・税額への影響 |
|---|---|---|
| 先入先出法 | 新しい高い単価が残り、評価額が高い | 売上原価が小さく、利益・税額は大きくなりやすい |
| 総平均法・移動平均法 | 単価が平準化される | 利益・税額の変動が緩やか |
| 低価法 | 時価下落時は時価まで切下げ | 含み損を評価損として早期に計上できる |
見落としやすい落とし穴
届出をしていないのに独自の方法で評価する
評価方法の届出をしていない場合、税務上は最終仕入原価法で評価します。会計ソフトで総平均法などを使っていても、届出がなければ法定評価方法との差が問題になり得ます。まず自社の届出状況を確認してください。
届出と違う方法で評価している
総平均法で届け出ているのに変更手続をせず先入先出法で評価する、といった不一致があると、税務調査で法定評価方法により是正されることがあります。評価方法を変えるなら、事前に変更承認申請が必要です。
時価が下がっただけで損金にできると思う
原価法を採用している場合、単なる時価下落による評価損は原則として損金になりません。損金にするには、低価法を届け出ているか、災害・著しい陳腐化など一定の事実が必要です。会計上の評価損がそのまま税務で認められるとは限りません。
実地棚卸をせず帳簿の数量だけで評価する
帳簿上の在庫数量と実際の数量は、紛失・破損・記帳漏れなどでずれます。実地棚卸をしないと、期末棚卸高が実態とずれ、売上原価も誤ります。数量の把握は評価の前提として欠かせません。
評価方法を決めるまでの判定フロー
| 手順 | 確認内容 |
|---|---|
| 1 | 商品特性を確認。高額・個別管理なら個別法、品数の多い小売なら売価還元法などが候補 |
| 2 | 価格変動の大きさを確認。平準化したいなら総平均法・移動平均法、簡便さ重視なら最終仕入原価法 |
| 3 | 含み損を早期に損金化したいなら低価法を検討(基礎とする原価法を選ぶ。個人は青色申告が要件) |
| 4 | 事業の種類・棚卸資産の区分ごとに評価方法を選定し、期限までに届出する |
| 5 | 毎期、実地棚卸で数量を把握し、選定した方法で継続評価する。変更時は事前に承認申請する |
想定Q&A(棚卸資産の評価方法)
Q1. 評価方法を届け出ないとどうなりますか
最終仕入原価法による原価法が適用されます。届出をしない場合の法定評価方法が最終仕入原価法だからです。反対に、他の方法を使いたい場合は期限までに届出が必要です。最終仕入原価法は計算が簡単な半面、価格変動の大きい商品では評価額が実態からずれることがあります。
Q2. 先入先出法と総平均法はどちらが有利ですか
価格の動きによります。物価上昇局面では、先入先出法は新しい高い単価が期末に残って評価額が高くなり、利益・税額が大きくなりやすい一方、総平均法は平準化されます。反対に、価格が下落する局面では有利不利が逆になります。どちらが得かは仕入価格のトレンド次第で、継続適用が前提となる点も踏まえて選びます。
Q3. 後入先出法は使えますか
使えません。後入先出法は会計基準の改正で廃止され、税務上も認められていないからです。単純平均法も認められません。反対に、現在使えるのは原価法6種(個別法・先入先出法・総平均法・移動平均法・最終仕入原価法・売価還元法)と、これらを基礎とする低価法です。
Q4. 低価法にすると節税になりますか
時価が下がった在庫の含み損を早期に損金化できます。低価法は取得原価と時価の低い方で評価し、差額を評価損として計上できるからです。反対に、洗替法では翌期首に評価損を戻し入れるため、恒久的に税負担が減るわけではなく、計上時期が早まる効果です。低価法の適用には届出が必要で、個人は青色申告が要件です。
Q5. 評価方法は途中で変えられますか
変更承認申請をして承認を受ければ変えられます。評価方法の変更は承認事項で、事前の申請が必要だからです。反対に、原則として採用後3年を経過していないと認められにくく、決算のたびに有利な方へ変えることはできません。申請は変更しようとする事業年度開始の日の前日まで(個人は3月15日まで)に行います。
Q6. 会計と税務で評価が違ってもよいですか
違う場合は税務調整で調整します。会計は収益性が下がった在庫を正味売却価額まで切り下げる低価法が原則ですが、税務は原価法が原則で低価法は届出が要るからです。反対に、会計で評価損を計上しても税務で認められない部分は、申告書で加算します。会計と税務の差を把握しておくことが必要です。
Q7. 実地棚卸は必ず必要ですか
期末数量を正しく把握するために必要です。帳簿上の数量は紛失・破損・記帳漏れで実際とずれるため、実地棚卸で数量を確定させないと売上原価を誤るからです。反対に、実地棚卸を省くと、棚卸減耗の把握もできず、決算書の信頼性が下がります。期末には実際に数える棚卸を行います。
Q8. 個別法はどんな会社でも選べますか
選べないケースがあります。通常一の取引で大量に取得され、規格に応じて価額が定められている棚卸資産には、個別法は選定できないとされているからです。反対に、不動産・美術品・宝石など個別性が強く個品管理が合理的なものには適します。商品の性質に応じて選定可否が分かれます。
Q9. 棚卸資産の取得価額には何を含めますか
購入代価に、引取運賃・購入手数料などの付随費用を加えた額です。取得に要した費用も取得価額に含めるのが原則だからです。反対に、少額な付随費用などは一定の範囲で取得価額に含めないことも認められます。消費税を含めるか(税込)含めないか(税抜)は採用する経理方式によります。
Q10. 事業の種類ごとに違う方法を選べますか
選べます。評価方法は事業の種類ごと、かつ棚卸資産の区分ごとに選定して届け出るからです。例えば製品は先入先出法、原材料は移動平均法というように分けられます。反対に、いったん届け出た区分ごとの方法は継続適用が原則で、変更には承認が必要です。区分ごとの管理が煩雑になりすぎないよう設計します。
Q11. 売価還元法の原価率が100%を超えたらどうしますか
その率で期末評価額を計算します。売価還元法では、値引き・割戻し等を考慮しない販売価額の総額を用いて原価率を求め、原価率が100%を超えることとなっても、その率で評価すると取り扱われるからです。反対に、原価率を恣意的に調整することはできません。通常の差益率がおおむね同じ棚卸資産を一区分として計算します。
まとめ
売上原価は「期首棚卸高+当期仕入高-期末棚卸高」で計算され、期末在庫の評価が利益と税額を左右します。税務上の評価方法は原価法6種と低価法で、届出をしなければ最終仕入原価法が適用されます。評価方法は事業・区分ごとに選定して届出し、変更には事前の承認が必要です。会計では収益性が下がった在庫を正味売却価額まで切り下げる低価法が原則で、税務との差は申告調整で埋めます。価格変動局面では評価方法の違いが税額差になるため、自社に合った方法を選んでおきましょう。
- 売上原価=期首棚卸高+当期仕入高-期末棚卸高。期末在庫の評価額が利益・税額を決める
- 税務の評価方法は原価法6種(個別法・先入先出法・総平均法・移動平均法・最終仕入原価法・売価還元法)と低価法
- 届出をしない場合は最終仕入原価法。後入先出法は不可
- 選定は事業・区分ごとに届出、変更は事前の承認申請(原則3年継続後)
- 会計は正味売却価額による低価法が原則。原価法採用の税務では時価下落だけでは損金にならない
※本記事は作成時点の会計基準・法令および公表資料(法人税法施行令28条・28条の2・29条・31条、所得税法施行令99条・102条、法人税基本通達・所得税基本通達、企業会計基準第9号「棚卸資産の評価に関する会計基準」、国税庁「棚卸資産の評価方法の届出手続」等)に基づく一般的な解説です。仕訳例は理解のための簡略な設例です。制度・取扱いは改正により変わる場合があるため、個別の判断は最新の基準・法令の確認、または顧問税理士へのご相談をおすすめします。

