繰延資産の会計を徹底解説|創立費・開業費など5項目と償却・仕訳

会計

会社の設立費用や開業準備の費用は、すでに支払い済みでも、その効果は設立後の何年にもわたって続きます。こうした「すでに支出したが、その効果が1年以上の期間に及ぶ費用」を、支出した年に全額費用にせず、いったん資産として計上し、数年かけて費用配分できるようにしたものが繰延資産です。効果が及ぶ期間に費用を対応させる、費用収益対応の考え方に基づく仕組みです。

繰延資産は、現金など換金できる財産の裏付けがない「擬制資産」で、会計上は創立費・開業費・開発費・株式交付費・社債発行費の5項目に限られます。しかも、多くは任意償却が認められ、いつ・いくら償却するかを会社が選べるため、利益のコントロールに使えるのが特徴です。この記事では、繰延資産とは何か、5つの項目と償却期間、均等償却と任意償却の違い、税務上の繰延資産、仕訳例までを、実務対応報告第19号に沿って整理します。

この記事のポイント
  • 繰延資産は、支出済みで効果が1年以上に及ぶ費用を資産計上し、数年で費用配分するもの
  • 会計上の繰延資産は創立費・開業費・開発費(5年以内)、株式交付費(3年以内)、社債発行費(償還期間)の5項目
  • 原則は支出時に費用処理だが、繰延資産に計上することもできる(任意)
  • 償却は均等償却か任意償却。会計上の5項目は任意償却でき、利益に応じて償却額を調整できる
  • 税務上の繰延資産は会計の5項目に加え、権利金や公共施設負担金などがあり、均等償却する

繰延資産とは

繰延資産は、すでに支出した費用のうち、その効果が支出の日以後1年以上に及ぶものを、資産として計上したものです。貸借対照表では、流動資産・固定資産とは別に「繰延資産」の区分に表示します。固定資産と似ていますが、固定資産が土地・建物・機械など換金価値のある財産であるのに対し、繰延資産は換金できる財産の裏付けがない点が異なります。あくまで、効果が続く期間に費用を配分するために資産の形をとっているものです。

会計上の繰延資産5項目

会計上、繰延資産として計上できるのは、次の5項目に限られます。いずれも原則は支出時に費用(営業外費用)として処理し、繰延資産に計上することもできる、という位置づけです。

項目 内容 償却期間
創立費 会社設立までの費用。定款作成・認証費、設立登記の登録免許税、発起人報酬など 5年以内
開業費 設立後、営業開始までの開業準備の費用。広告宣伝費、接待費など 5年以内
開発費 新技術・新経営組織の採用、資源開発、市場開拓のために特別に支出した費用 5年以内
株式交付費 新株発行・自己株式処分のための費用。手数料、広告費、変更登記の登録免許税など 3年以内
社債発行費 社債・新株予約権の発行のための費用。手数料、印刷費など 償還までの期間(新株予約権は3年以内)
「開発費」と、研究開発費等に係る会計基準でいう「研究開発費」は別物です。研究開発費は繰延資産に計上できず、全額を発生時に費用処理します。名前が似ているので混同しないよう注意します。会社設立前後の費用の区分については創立費・開業費とはで詳しく解説しています。

均等償却と任意償却

繰延資産の償却には、償却期間で毎期均等に配分する均等償却と、期間内であればいつ・いくらでも自由に償却できる任意償却があります。会計上の5項目は、いずれも任意償却が認められています。

方法 内容
均等償却 償却期間(5年・3年など)で、月割により毎期均等に費用配分する。計算式は「支出額×その期の月数÷効果の及ぶ期間の月数」
任意償却 支出額の範囲内で、いつ・いくら償却してもよい。全額を一度に償却することも、まったく償却しないこともできる

任意償却が使えると、赤字の期は償却せず、黒字になった期に多く償却する、といった調整ができます。とくに創業初期は売上が不安定なため、利益が出るまで償却を抑え、軌道に乗ってから償却して課税所得を調整する、という使い方が実務でよく行われます。結論として、創立費や開業費は、創業期の利益コントロールに有効な項目です。ただし、後述する税務上の繰延資産(権利金など)には任意償却は使えず、均等償却する点に注意します。

仕訳例

創立費50万円を繰延資産に計上し、任意償却で一括償却するケースと、開業費80万円を5年で均等償却するケース(その期は12か月分)の仕訳です。

場面 借方 貸方
創立費の計上 創立費 500,000 現金預金 500,000
創立費の任意償却(一括) 創立費償却 500,000 創立費 500,000
開業費の均等償却(80万÷5年) 開業費償却 160,000 開業費 160,000

貸借対照表では繰延資産として「創立費」「開業費」などの科目を、損益計算書では「創立費償却」「開業費償却」などの科目を使います。税務上の繰延資産(権利金など)は、貸借対照表で「長期前払費用」、損益計算書で「長期前払費用償却」を使うのが一般的です。

税務上の繰延資産

税務上の繰延資産は、会計上の5項目に加えて、法人税法・所得税法で定める費用を含みます。会計上の繰延資産は税務上の繰延資産に含まれる、という関係です。税務固有の繰延資産には、次のようなものがあります。

種類
公共的施設・共同的施設の負担金 自己が便益を受ける道路・施設の設置改良の負担金
建物を賃借するための権利金等 店舗・事務所を借りる際の権利金、立退料など
役務提供を受けるための権利金 ノウハウの頭金、同業者団体の加入金など
その他効果が1年以上に及ぶ費用 広告宣伝用資産の贈与費用、一定の契約に係る費用など

税務固有の繰延資産は、効果の及ぶ期間で月割により均等償却し、任意償却はできません。ただし、支出額が20万円未満の少額な繰延資産は、支出した事業年度に全額を損金算入できます。会計上の繰延資産と税務上の繰延資産で、償却方法や使える勘定科目が異なる点に注意します。

見落としやすい落とし穴

開発費と研究開発費を混同する

繰延資産の「開発費」と、研究開発費等会計基準の「研究開発費」は別物です。研究開発費は繰延資産にできず全額費用処理するため、混同して資産計上すると誤りです。市場開拓や新経営組織の採用などの特別な支出が開発費、研究や新製品の開発に伴う費用が研究開発費です。

創立費と開業費を取り違える

創立費は会社設立(登記)までの費用、開業費は設立後から営業開始までの費用で、発生時期で区別します。設立後の費用を創立費にすると誤りです。また、備品・設備の購入費や商品仕入れ、敷金・保証金は、開業前でも開業費には含めません。時期と内容の両面で判断します。

税務上の繰延資産を任意償却する

任意償却ができるのは会計上の5項目で、権利金などの税務固有の繰延資産は均等償却です。税務上の繰延資産まで自由なタイミングで償却すると誤ります。会計上の繰延資産か税務固有の繰延資産かで、償却方法が異なることを押さえます。

効果が失われた繰延資産を放置する

繰延資産の効果が期待できなくなった場合は、未償却残高を一時に償却します。効果が失われたのに資産に残すと、実態のない擬制資産が計上され続けます。支出の対象となった契約の解約などがあった場合は、その時点で未償却残高を費用処理します。

繰延資産の処理フロー

手順 確認内容
1 支出が繰延資産の項目(創立費・開業費・開発費・株式交付費・社債発行費、または税務固有の項目)に当たるか確認
2 支出時に費用処理するか、繰延資産に計上するかを選ぶ(会計上の5項目は選択できる)
3 繰延資産に計上する場合、均等償却か任意償却かを決める(会計の5項目は任意償却も可)
4 税務固有の繰延資産は均等償却。20万円未満なら支出年度に全額損金算入も可
5 効果が失われたら未償却残高を一時償却する。利益状況に応じて償却額を検討する

想定Q&A(繰延資産)

Q1. 繰延資産と固定資産はどう違いますか

換金価値のある財産の裏付けがあるかどうかが違います。固定資産は土地・建物・機械など換金価値のある財産ですが、繰延資産はすでに支出済みで換金できる財産の裏付けがない擬制資産だからです。反対に、どちらも複数年度にわたって費用配分する点は共通します。繰延資産は貸借対照表で固定資産とは別の区分に表示します。

Q2. 繰延資産に計上せず全額費用にできますか

できます。会計上の繰延資産は、原則として支出時に費用(営業外費用)として処理し、繰延資産に計上することもできる、という選択制だからです。反対に、繰延資産に計上すれば、償却を通じて複数年度に費用配分できます。利益状況に応じて、支出時に費用化するか資産計上するかを選べます。

Q3. 任意償却だと節税になりますか

利益のタイミングを調整できます。任意償却は期間内であればいつ・いくら償却してもよいため、黒字の期に多く償却して課税所得を抑える、といった調整ができるからです。反対に、償却しても総額は支出額が上限で、費用化の時期を選べるだけで税負担が恒久的に減るわけではありません。創業初期の利益コントロールに有効です。

Q4. 創立費と開業費の違いは何ですか

会社設立の前後で分かれます。創立費は会社設立(登記)までにかかった費用、開業費は設立後から実際に営業を開始するまでにかかった開業準備の費用だからです。反対に、備品購入費や商品仕入れ、敷金などは開業前でも開業費には含めません。どちらも償却期間は5年以内で、任意償却できる点は共通します。

Q5. 開発費と研究開発費は同じですか

別物です。繰延資産の開発費は新経営組織の採用や市場開拓などの特別な支出で繰延資産にできる一方、研究開発費は研究や新製品開発に伴う費用で、繰延資産にできず全額費用処理するからです。反対に、両者を混同して研究開発費を資産計上すると誤りです。名前は似ていますが、会計上の取扱いは大きく異なります。

Q6. 賃借の権利金は繰延資産ですか

税務上の繰延資産に当たります。建物を賃借するための権利金は、その効果が契約期間など1年以上に及ぶため、税務上の繰延資産として償却するからです。反対に、これは会計上の5項目には含まれない税務固有の繰延資産で、均等償却し任意償却はできません。会計実務では長期前払費用の科目を使うのが一般的です。

Q7. 少額な繰延資産はどう処理しますか

20万円未満なら支出年度に全額損金算入できます。税務上、支出額が20万円未満の少額な繰延資産は、支出した事業年度に全額を損金経理により処理できるからです。反対に、支出年度に全額損金にしなかった場合は、その後は通常の方法で償却します。少額なものは初年度に費用化してしまうのが簡便です。

Q8. 社債発行費の償却方法は何ですか

原則は利息法です。社債発行費を繰延資産に計上する場合、社債の償還までの期間にわたり利息法で償却するのが原則だからです。反対に、継続適用を条件に定額法によることもできます。社債発行費は原則として支出時に費用処理し、繰延資産に計上することもできる、という位置づけです。

Q9. 繰延資産があると配当に影響しますか

分配可能額に影響することがあります。繰延資産の部に計上した額は、会社法上、剰余金の分配可能額から控除される扱いがあるからです。反対に、これは債権者保護の観点から、換金価値のない擬制資産で配当を膨らませないための措置です。繰延資産を多く計上する場合は、配当への影響も意識します。

Q10. 個人事業主でも繰延資産は使えますか

開業費などを繰延資産として計上できます。個人事業主も、開業準備のために支出した開業費を繰延資産に計上し、任意償却できるからです。反対に、株式交付費や社債発行費のように会社を前提とする項目は、個人には生じません。個人事業では、開業費を使って開業初期の利益状況に応じた償却を行うことが多いです。

Q11. 繰延資産の効果がなくなったらどうしますか

未償却残高を一時に償却します。繰延資産の支出の効果が期待できなくなった場合や、対象となった契約が解約された場合は、その時点で未償却残高を費用処理するからです。反対に、効果が失われたのに資産に残すと、実態のない資産が計上され続けます。効果の喪失を確認した事業年度に一括で費用化します。

まとめ

繰延資産は、支出済みで効果が1年以上に及ぶ費用を資産計上し、数年で費用配分するものです。会計上は創立費・開業費・開発費(5年以内)、株式交付費(3年以内)、社債発行費(償還期間)の5項目に限られ、原則は費用処理で繰延資産計上は任意です。会計上の5項目は任意償却でき、創業期の利益コントロールに使えます。税務上は会計の5項目に加え権利金などがあり、これらは均等償却です。開発費と研究開発費、創立費と開業費の区別に注意し、効果が失われたら未償却残高を一時償却しましょう。

この記事のまとめ
  • 繰延資産は支出済みで効果が1年以上に及ぶ費用を資産計上し数年で償却する擬制資産
  • 会計の繰延資産は創立費・開業費・開発費(5年以内)、株式交付費(3年以内)、社債発行費(償還期間)
  • 原則は費用処理で繰延資産計上は任意。会計の5項目は任意償却でき利益調整に使える
  • 税務固有の繰延資産(権利金・負担金等)は均等償却で任意償却不可。20万円未満は即時損金
  • 開発費と研究開発費、創立費と開業費の区別に注意。効果喪失時は未償却残高を一時償却

※本記事は作成時点の会計基準・法令および公表資料(実務対応報告第19号「繰延資産の会計処理に関する当面の取扱い」、企業会計基準第10号、法人税法2条、法人税法施行令14条・64条・134条、法人税基本通達8、所得税法施行令等)に基づく一般的な解説です。仕訳例は簡略な設例です。制度・取扱いは改正により変わる場合があるため、個別の判断は最新の基準・法令の確認、または顧問税理士・公認会計士へのご相談をおすすめします。

タイトルとURLをコピーしました