異動届出書の提出先を完全整理|支店の新設・廃止・本店移転・代表者変更のケース別ガイド

地方税

法人の本店移転や支店の新設・廃止、代表者の変更があったとき、税務署や都道府県・市区町村へ届出が必要です。ところが実務では、どこに何の様式を出すのかが非常に分かりにくく、特に支店がある場合の提出先や、支店新設が「異動届出書」なのか別の申告書なのかで迷うことが多い論点です。ネット上の解説も結論がばらつきがちです。この記事では、国税庁・各自治体の取扱いをもとに、ケース別の提出先と様式を表で整理し、支店登記の要否や添付書類まで実務目線で解説します。

この記事のポイント

  • 提出先は税務署(国税)・都道府県税事務所・市区町村の3か所が基本。様式は各々異なる
  • 支店の新設・廃止は「異動届出書」ではなく「事業所新設・廃止申告書」を使うのが地方税の原則
  • 国税は本店一括課税のため、支店の新設・廃止だけなら税務署への届出は原則不要
  • 地方税は事務所のある自治体ごとに納税するため、別の自治体に支店ができると届出が必要
  • 支店登記は法務上マストではなく、登記しない場合は賃貸借契約書等で所在を証明
  • 代表者変更・商号変更・事業年度変更などは、国税・地方税とも「異動届出書」

異動届出書とは(対象と提出先の基本)

異動届出書は、法人設立時に提出した法人設立届出書の内容に変更があったときに、その内容を税務官庁へ知らせる書類です。提出義務があるのは法人のみで、個人事業主は対象外です(個人は別途、納税地の異動の届出等を行います)。主な対象は次のとおりです。

  • 本店・主たる事務所の所在地の異動(本店移転)
  • 事業年度(決算期)の変更
  • 資本金・出資金の額の異動
  • 商号・名称の変更
  • 代表者の変更
  • 事業目的の変更
  • 合併・分割、解散・清算結了
  • 支店・工場等の異動(新設・廃止)

提出先は3系統

届出先は税務署(国税)、都道府県税事務所(地方税)、市区町村(地方税)の3系統です。様式は提出先ごとに異なり、地方税は自治体によって名称・書式が違います。提出期限に「○日以内」という明確な定めはありませんが、登記等の事務処理に通常要する期間内に「速やかに」提出します。

国税と地方税で考え方が違う理由

支店の取扱いで混乱が起きるのは、国税と地方税で課税の仕組みが根本的に違うからです。ここを理解すると、提出先の判断が一気に明確になります。

国税(法人税)は本店一括課税

法人税は本店所在地の税務署にまとめて申告・納税します。支店がいくつあっても、申告先は本店の税務署1か所です。そのため、支店を新設・廃止しても本店の所在地が変わらなければ、税務署への異動届は原則不要です。

地方税は事務所のある自治体ごとに納税

法人住民税・法人事業税は、事務所等のある自治体ごとに納税します。事務所が1つの自治体内にしかない会社は、その自治体に納めるだけで分割計算は生じません。これに対し、2以上の都道府県・市町村に事務所等がある場合は、従業者数などの分割基準で税額を按分し、各自治体に納税します(分割基準が適用されるのはこのケースです)。支店が本店と別の自治体にできると、その自治体に新たな納税義務が生じるため、届出が必要になります。

つまり、支店の新設・廃止で動くのは主に地方税側です。国税側は本店移転や代表者変更など、本店・法人そのものの情報変更が対象になる、と整理すると分かりやすくなります。

ケース別の提出先早見表

主なケースの提出先と様式を一覧にしました。地方税の様式名は自治体により異なるため、代表的な名称で示しています。

ケース 税務署(国税) 都道府県・市区町村(地方税)
本店移転 異動届出書(異動前の税務署) 異動届出書(別管轄なら異動前・異動後の両方)
支店の新設 原則不要 事業所新設・廃止申告書(支店所在地の自治体)
支店の廃止 原則不要 事業所新設・廃止申告書(廃止)
代表者変更 異動届出書 異動届出書
商号・事業年度・資本金の変更 異動届出書 異動届出書

ヒント:地方税の「事業所新設・廃止申告書」は、自治体により「法人の設立・事務所事業所新設廃止申告書」「法人設立・事務所等開設申告書」など名称が異なります。要は新設・廃止は異動届ではなく専用の申告書、と覚えておくと迷いません。様式は各自治体のサイトで確認します。

本店移転の場合

本店移転は異動届出書の対象です。同じ管轄内か、別の管轄へ移るかで提出先が変わります。

国税(税務署)

異動届出書を異動前の納税地の所轄税務署に提出します。別の税務署の管轄へ移転する場合でも、提出先は異動前の税務署で足ります(手続が簡素化され、異動後の税務署への提出は不要)。届出書には移転後の情報を記載します。

地方税(県税・市区町村)

同一の都道府県・市区町村内の移転なら、その自治体に異動届出書を提出します。別の都道府県・市区町村へ移転する場合は、異動前と異動後の両方の自治体に届出が必要です。地方税は事業年度中の所在期間で申告先が決まるため、移転前後の双方に情報を届ける必要があるためです。

市外から初めて進出する場合は要注意:市外に本店がある会社が、その市に初めて事務所を設ける形で本店移転する場合、自治体によっては「移転(異動届)」ではなく「新設(事業所新設・廃止申告書)」として扱うことがあります。移転先がこれまで縁のない自治体のときは、様式の取り違えに注意が必要です。

支店・事業所の新設の場合

支店・営業所・工場などを新設したときは、地方税側の手続きが中心です。本店と同じ自治体か、別の自治体かで提出先が変わります。

国税(税務署)

本店一括課税のため、支店を新設しただけなら税務署への届出は原則不要です。本店の所在地が変わるわけではないからです。給与を支払う事務所を新たに設ける場合は、後述の給与支払事務所等の届出が別途必要になることがあります。

地方税(県税・市区町村)

支店の所在地の都道府県税事務所・市区町村に、事業所新設・廃止申告書(自治体により「法人設立・事務所等開設申告書」等)を提出します。本店と別の自治体に支店を設ける場合は、その支店所在地の自治体に新規の届出を行い、新たな納税義務が登録されます。本店所在地の自治体にも、支店を新設した旨の届出(異動届)を求められることがあります。

一方、本店と同じ自治体内(同じ市内など)に支店を作る場合は、その自治体ではすでに法人住民税・事業税が課税されているため、支店ができても新たな納税先(自治体)が増えるわけではなく、複数自治体にまたがる分割計算も生じません。ただし、自治体は事務所の数や従業者数を把握しているため、同一自治体内であっても事業所の新設・廃止の届出は必要です。納税義務が増えるかどうかと、届出が必要かどうかは別の話、と整理してください。

ヒント:本店と同一市内に支店を作る場合は、その市に「新設」の届出を出します(同一市内なので別管轄はありません)。別の県・市に作る場合は、支店側の県税事務所・市区町村それぞれに届出が必要です。地方税は県と市で別系統なので、両方への提出を忘れないようにします。なお東京23区内は、特別区分の市町村民税相当も都が都民税とあわせて課税する特例があり、23区内のみに事務所がある法人は都税事務所への届出に一本化されます。23区内で本店と支店を持つ場合の扱いは、都税事務所で確認すると確実です。

支店・事業所の廃止の場合

支店を廃止したときも、地方税側で事業所新設・廃止申告書(廃止)を、その支店所在地の都道府県税事務所・市区町村に提出します。廃止により、その自治体での納税義務がなくなることを届け出る趣旨です。国税側は、本店所在地が変わらなければ原則不要です。

廃止年度の地方税の申告は、廃止前の所在期間に応じて行います。事業年度の途中で廃止した場合の分割基準の月数計算など、申告実務とも連動するため、廃止のタイミングと申告の関係を確認しておくとよいでしょう。

支店登記の要否という落とし穴

支店登記は法務上マストではない

意外に知られていませんが、支店の設置は会社法上、必ずしも登記が必要なわけではありません。営業所として実態があっても、登記簿に支店として載せていないケースは珍しくありません。ここが税務の届出と絡んで混乱を生みます。

地方税の事業所新設・廃止申告書では、添付書類として履歴事項全部証明書(登記簿謄本)を求められることがあります。しかし支店登記をしていない場合、登記簿には支店が載っていないため、登記簿では支店の存在を証明できません。この場合は、支店の所在地や設置日が分かる別の書類(賃貸借契約書など)の提出を求められることがあります。届出の前に、支店を登記しているか、登記していないなら何で所在を証明するかを確認しておくと、二度手間を防げます。

代表者変更・その他の異動

代表者の変更は、国税・地方税とも異動届出書で届け出ます。届出書には異動前の代表者の役職・氏名と、異動後の代表者の役職・氏名を記載します。代表取締役が複数いる法人で税務上の代表者を変える場合も、異動届の対象です。

商号・名称の変更、事業年度(決算期)の変更、資本金の額の変更、事業目的の変更なども、いずれも異動届出書で届け出ます。複数の異動事項が同時に生じた場合は、1枚の異動届出書にまとめて記載すれば足ります。事業年度の変更で定款変更を伴う場合は、定款の写しの添付が必要です。

忘れやすい付随手続き

  • 給与支払事務所等の異動:従業員に給与を支払う事務所を移転・開設・廃止した場合は、税務署に「給与支払事務所等の開設・移転・廃止届出書」を提出します。提出期限は事実があった日から1か月以内で、異動届より短いので注意します。
  • 登記簿謄本の準備:地方税の届出では登記事項証明書の添付を求められることが多いため、原則として登記変更を済ませてから各所へ届出します。
  • 消費税の異動:法人税と消費税の両方が対象の場合、異動届出書の税目欄(法人税・消費税)の両方にチェックします。

想定Q&A

Q1. 本店と同じ県内に支店を作りました。税務署にも届出が必要ですか

本店所在地が変わらないなら、税務署(国税)への届出は原則不要です。法人税は本店一括課税のためです。一方、地方税は支店所在地の自治体に事業所新設・廃止申告書を提出します。同一県・同一市内なら、その県税事務所・市区町村に新設の届出を出します。

Q2. 支店新設は「異動届出書」でよいのですか

地方税では、支店の新設・廃止は「異動届出書」ではなく「事業所新設・廃止申告書(自治体により名称が異なる)」を使うのが原則です。異動届出書は本店移転・代表者変更・商号変更など、法人本体の情報変更に使う様式です。新設・廃止は専用の申告書、と区別してください。

Q3. 支店を登記していません。届出はできますか

できます。支店登記は会社法上マストではないため、登記していない支店でも地方税の届出は必要です。ただし登記簿では支店の存在を証明できないので、賃貸借契約書など支店の所在地・設置日が分かる書類の提出を求められることがあります。事前に提出先の自治体に確認すると確実です。

Q4. 別の県へ本店移転しました。どこに出しますか

国税は異動前の税務署に異動届出書を1通提出すれば足ります。地方税は、異動前・異動後の両方の都道府県税事務所・市区町村に届出が必要です。地方税は事業年度中の所在期間で申告先が決まるため、移転前後の双方に情報を届けます。

Q5. 代表者が変わりました。どこに出しますか

代表者変更は、国税・地方税とも異動届出書で届け出ます。税務署、都道府県税事務所、市区町村のそれぞれに提出します。異動前と異動後の代表者の役職・氏名を記載し、登記事項証明書の添付を求められることがあります。

Q6. 提出期限はいつまでですか

異動届出書には「○日以内」という明確な期限はなく、「速やかに(登記等の事務処理に通常要する期間内に)」提出します。ただし、給与支払事務所等の開設・移転・廃止届出書は1か月以内と期限が定められているため、こちらは早めに対応します。

判断フロー

手順 判断内容
1 異動の種類を特定(本店移転/支店の新設・廃止/代表者変更/その他)
2 本店移転・代表者変更・商号等なら異動届出書。支店の新設・廃止なら事業所新設・廃止申告書
3 国税の要否を判定(本店所在地が変わるか・代表者等の本体情報か。支店だけなら原則不要)
4 地方税は県税・市区町村の両方に提出。別管轄への移転は異動前・異動後の双方へ
5 支店登記の有無を確認。未登記なら賃貸借契約書等で所在を証明できるよう準備
6 給与を支払う事務所の移転・開設・廃止があれば、給与支払事務所等の届出(1か月以内)も対応

まとめ

  • 提出先は税務署・都道府県税事務所・市区町村の3系統。様式は各々異なる。
  • 支店の新設・廃止は「異動届出書」ではなく「事業所新設・廃止申告書」が地方税の原則。
  • 国税は本店一括課税のため、支店の新設・廃止だけなら税務署への届出は原則不要。
  • 本店の別管轄移転は、国税は異動前の税務署のみ、地方税は異動前・異動後の双方へ。
  • 支店登記は法務上マストでなく、未登記なら賃貸借契約書等で所在を証明する。
  • 代表者変更等は国税・地方税とも異動届。給与支払事務所の届出は1か月以内。

出典・参考

※本記事は令和8年6月時点の法令・公表資料(法人税法、地方税法、国税庁・各自治体の案内等)に基づく一般的な解説です。地方税の様式名・添付書類・提出要否は自治体により異なります。実際の提出にあたっては、提出先の税務署・都道府県税事務所・市区町村に事前確認のうえ、最新の様式をご利用ください。

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