事業所税の申告にあたっては、まず「誰が納税義務者なのか」「何が課税対象なのか」を正しく理解する必要があります。本記事では、事業所税の納税義務者の判定(法人・個人・人格のない社団等・共同事業など)と、課税対象となる「事業所等」の概念について詳しく解説します。
この記事のポイント
- 課税対象は「事業所等で行われる事業」。事業所等は自己所有・賃借を問わない
- 事業所等の3要素は「人的設備・物的設備・継続性」
- 納税義務者は課税団体内で事業を行う法人または個人(人格のない社団等も法人扱い)
- 共同事業は損益分配の割合で課税標準を算定し、連帯納税義務を負う
- 貸ビルの貸主は原則納税義務者ではない(管理用施設を除く)が、貸付等申告は必要
- 名義人と実質が異なる場合は、実際に事業を行っている者が納税義務者(実質課税の原則)
目次
事業所税の課税対象(事業所等とは)
事業所税の課税対象は、「事業所等において行われる事業」です(地方税法701条の32第1項)。つまり、事業所等で行われる事業活動全般が課税対象となります。事業所税の全体像は事業所税とはで解説しています。
「事業所等」とは
事業所等とは、事務所または事業所をいい、それが自己の所有に属するものであるか否かにかかわらず、事業の必要から設けられた人的・物的設備で継続して事業が行われる場所を指します。事務所(本社・支店・営業所)、店舗、工場、倉庫などが該当します。
事業所等の3つの要素
事業所等に該当するためには、次の3つの要素を満たす必要があります。
| 要素 | 内容 |
|---|---|
| ①人的設備 | 従業者や役員などの人員が配置されている |
| ②物的設備 | 建物、机、椅子、備品、機械等の物理的な設備がある |
| ③継続性 | 単発・短期ではなく、継続的に事業が行われている |
ヒント:事業所等に該当するかどうかの判定では、「自己所有か賃借か」は問いません。借りているオフィスや店舗であっても、人的・物的設備で継続的に事業が行われていれば事業所等に該当します。建設現場の仮設事務所・屋外の資材置場・同一敷地内の複数建物など、判定で迷うケースは事業所税の「事業所等」とはで詳しく解説しています。
事業所税の納税義務者
事業所税の納税義務者は、「課税団体内(東京都の場合は23区内)に所在する事業所等において事業を行う法人または個人」です(地方税法701条の32第1項)。
| 区分 | 納税義務者の判定 |
|---|---|
| 法人 | 課税団体内に事業所等がある法人(営利・非営利を問わない) |
| 個人 | 課税団体内に事業所等を有して事業を行う個人事業主 |
人格のない社団等の取扱い
人格のない社団等とは、法人格を持たない社団または財団で、代表者または管理人の定めがあるものをいいます(同窓会、町内会、業界団体など)。
人格のない社団等は法人とみなされ、法人に関する規定が適用されます(地方税法701条の32第3項)。したがって、人格のない社団等が事業所等を有して事業を行う場合は、納税義務者となります。
共同事業と連帯納税義務
共同事業を行う場合、各共同事業者の課税標準は個々に算定して申告することになりますが、各々連帯納税義務が課されます(地方税法10条の2第1項)。
| 項目 | 取扱い |
|---|---|
| 課税標準の算定 | 共同事業に係る事業所床面積・従業者給与総額に損益分配の割合(割合が定まっていない場合は出資の額に応ずる割合)を乗じた額が各共同事業者の課税標準 |
| 免税点判定 | 課税標準と同様に、損益分配の割合を乗じて判定 |
| 納税義務 | 各共同事業者に連帯納税義務が課される |
特殊関係者を有する場合(みなし共同事業)
事業者が親族や同族会社などの特殊関係者を有していて、その事業者の事業と特殊関係者の事業が同一家屋で行われている場合、その特殊関係者の事業は共同事業とみなされ、各々連帯納税義務が課されます。
落とし穴:免税点は特殊関係者の事業を合算して判定
この場合、課税標準は各々単独に算定しますが、免税点の判定は特殊関係者の事業を合算して行います。これは、事業を分割して別法人で行うことで税負担を不当に減少させることを防ぐための規定です。事業を分けても、合算した規模で免税点を超えれば課税対象になり得ます。
みなし共同事業は判定が複雑なため、特殊関係者の範囲や同一家屋の考え方を含めて事業所税のみなし共同事業で詳しく解説しています。
実質課税の原則
法律上、事業所等で事業を行うとみられる者が単なる名義人であって、他の者が事実上その事業を行っていると認められる場合は、実際に事業を行っている者が納税義務者となります(地方税法701条の33)。
ヒント:事業の名義と実態が異なる場合(ペーパーカンパニーなど)は、形式ではなく事業を実際に行っている主体に対して課税されます。登記や契約上の名義だけで判断されるわけではありません。
貸ビル等の場合
貸ビル等の全部または一部を借りて事業を行う場合は、当該事業を行う者(借主)が納税義務者となります。床面積の所有者ではなく、その床を使って事業をする者が課税される点がポイントです。
| 区分 | 納税義務者 | 補足 |
|---|---|---|
| 貸ビルの貸主(オーナー) | 原則:× | 貸付部分・空室部分は納税義務なし |
| 貸ビルの借主(テナント) | ○ | 借りた部分について事業を行う者が納税義務者 |
| 貸主の管理用施設 | ○ | 管理要員室・管理用品倉庫等は貸主が納税義務者 |
落とし穴:貸主は非課税でも貸付等申告は必要
貸ビルの貸主は、原則として貸付部分について納税義務はありませんが、「事業所用家屋貸付等申告」は別途必要です(地方税法701条の52第2項)。新たに貸付けを行った日から2か月以内、貸付内容に異動が生じた場合は1か月以内に申告が必要です。詳しくは事業所用家屋の貸付等申告をご覧ください。
清算中の法人
清算中の法人であっても、清算の業務を行う範囲内において納税義務者となります。
解散したから事業所税の対象外、というわけではありません。清算業務に伴う事業所等の使用がある場合、その範囲で納税義務が発生します。
納税義務者判定のチェックリスト
自社・自身が事業所税の納税義務者となるかは、次のステップで確認できます。上から順に確認します。
| 手順 | 確認する内容 |
|---|---|
| 1 | 課税団体内(23区内など)に事業所等を有しているか。なければ課税対象外。 |
| 2 | その事業所等で実際に事業を行っているか(人的設備・物的設備・継続性の3要素)。 |
| 3 | 名義人ではなく事業の実質的な担い手か(実質課税の原則)。 |
| 4 | 共同事業や特殊関係者がいるか。該当する場合は連帯納税義務・合算判定を別途検討する。 |
| 5 | 免税点を超えるか。超える場合は申告納付が必要(免税点以下でも申告が必要なケースあり)。 |
想定Q&A
Q1. ビルのオーナーですが、事業所税を払うのは私ですか
テナントに貸している部分については、オーナー(貸主)ではなく、その床で事業を行うテナント(借主)が納税義務者です。オーナーが自ら使う管理要員室や管理用品倉庫などの管理用施設は、オーナーが納税義務者になります。なお、貸主は納税義務がなくても貸付等申告が必要です。
Q2. 倉庫だけを借りている場合も納税義務者になりますか
倉庫も事業所等に含まれます。人的・物的設備で継続的に事業に使われていれば課税対象です。ただし免税点(資産割は同一団体内の合計床面積1,000㎡)を超えるかどうかで実際の課税の有無が決まります。倉庫単体では小さくても、同じ団体内の他の事業所と合計して判定する点に注意が必要です。
Q3. 同じビルで親会社と子会社が事業をしています。影響はありますか
親会社と子会社が特殊関係者に該当し、同一家屋で事業を行っている場合は、みなし共同事業として免税点を合算判定します。各社の床面積が単独では免税点以下でも、合算すると超えるケースでは課税対象になり得ます。事業を分けても合算で見られる点が重要です。
Q4. 町内会や同窓会も事業所税の対象になりますか
人格のない社団等は法人とみなされるため、事業所等を有して事業を行う場合は納税義務者になり得ます。ただし、収益事業を行わず一定規模に満たなければ、免税点以下で課税されないことが多いです。非課税となる施設に該当するかも含めて確認が必要です。
Q5. 会社を解散して清算中ですが、申告は必要ですか
清算中の法人も、清算業務を行う範囲で納税義務者になります。清算のために事業所等を使用している場合は、その範囲で事業所税の対象となり、申告が必要になることがあります。解散したから一律に対象外、とはなりません。
まとめと事業所税シリーズ一覧
この記事のポイント
- 事業所税の課税対象は「事業所等で行われる事業」。
- 事業所等は事務所・店舗・工場・倉庫等で、自己所有・賃借を問わない。
- 事業所等の3要素は「人的設備・物的設備・継続性」。
- 納税義務者は課税団体内で事業を行う法人または個人。
- 人格のない社団等は法人とみなされて納税義務者になる。
- 共同事業は損益分配の割合に応じて課税標準を算定し、連帯納税義務を負う。
- 貸ビルの貸主は納税義務者ではない(管理用施設を除く)が、貸付等申告は必要。
- 名義人と実質が異なる場合は、実質的に事業を行っている者が納税義務者となる。
事業所税シリーズ 記事一覧
- 事業所税とは?仕組みと概要
- 【今ここ】事業所税の納税義務者と課税対象
- 事業所税の課税標準(資産割・従業者割)の計算方法
- 事業所税の免税点判定を徹底解説
- 事業所税の非課税・課税標準の特例・減免
- 事業所税のみなし共同事業
- 事業所税の申告と納付の方法・期限・加算金
※本記事は2026年6月時点の法令・公表資料(地方税法・各自治体の手引き等)に基づく一般的な解説です。納税義務者の判定や取扱いは指定都市等により異なる場合があります。実際の申告にあたっては、事業所等の所在する団体の最新の取扱いの確認と、必要に応じて顧問税理士へのご相談をおすすめします。

