グループ会社間や親子会社間で人材をやり取りする「出向」は、実務では当たり前に行われますが、その出向者に払う給与を税務上どう扱うかは、意外に論点が多い分野です。誰が負担すべきか、負担額がずれたらどうなるか、出向先で役員になっていたら、消費税はかかるのか——これらを整理せずに処理すると、寄附金認定や役員給与の損金不算入、消費税の課税区分の誤りに直結します。
出向者給与の税務は、「労務の提供を受ける側が給与を負担するのが正しい」という一本の原則から出発すると、すべての論点が枝分かれとして理解できます。負担がこの原則からずれたときに、寄附金なのか較差補填金なのかが問われ、出向者が役員なら役員給与の要件が乗ってきます。本記事では、法人税基本通達9-2-45から9-2-48をもとに、出向者給与の全体像を実務目線で解説します。
- 出向者の給与は、労務の提供を受ける出向先が負担するのが原則
- 出向元が払い出向先が給与負担金で精算する間接支給でも、出向先の給与として扱う(9-2-45)
- 出向元の給与水準が高い等の合理的理由があれば、差額は較差補填金として出向元の損金(9-2-47)
- 合理的理由なく出向元が負担する部分は、出向先への寄附金になりやすい
- 出向者が出向先の役員なら、給与負担金にも役員給与の損金算入要件がかかる(9-2-46)
- 給与負担金は消費税は不課税。労働者派遣の派遣料は課税で、扱いが真逆
出向とは:転籍・派遣との違い
出向とは、従業員が出向元との雇用関係を維持したまま、出向先で勤務し労務を提供する形態をいいます。雇用関係を出向先へ移してしまう「転籍」や、雇用主が役務を提供する「労働者派遣」とは、税務上の扱いが大きく異なります。まずこの3つを区別します。
| 区分 | 雇用関係 | 給与・対価の消費税 |
|---|---|---|
| 出向 | 出向元に残したまま出向先で勤務する | 給与・給与負担金は不課税 |
| 転籍 | 出向元との雇用関係を終了し転籍先へ移す | 転籍先が支払う給与は不課税 |
| 労働者派遣 | 派遣元に雇用関係があり派遣先で勤務する | 派遣料は役務の対価として課税 |
最高裁の判示でも、在籍出向といわゆる転籍との本質的な違いは、出向元との労働契約関係が存続しているか否かにあるとされています。出向は雇用関係が出向元に残っている点が起点で、この一点が給与の負担・消費税の扱いすべてに影響します。
給与は誰が負担するか:原則は出向先
出向者は出向先で労務を提供するため、その給与は労務の提供を受ける出向先が負担するのが原則です。支給の方法には、出向先が出向者へ直接支払う「直接支給」と、出向元がいったん支払い、出向先が給与負担金として出向元に払う「間接支給」があり、実務では雇用関係が出向元に残っていることから間接支給が多く用いられます。
間接支給の場合、出向先が出向元に支払う給与負担金は、出向先において出向者に対する給与として取り扱われます(通達9-2-45)。名目は出向元への支払いでも、実質は出向者への給与だという整理です。したがって出向先では、その給与負担金を給与として損金に算入します。
負担額がずれる場合:較差補填金と寄附金
実務で問題になるのは、出向先の負担額が出向元の支給額と一致しないケースです。原則は出向先が全額負担ですが、出向元が一部を負担することもあります。このとき、合理的な理由があるかどうかで、較差補填金(損金)になるか寄附金になるかが分かれます。
出向元が差額を負担するとき(較差補填金)
出向先の負担額が出向元での支給額に満たない場合でも、次のような合理的理由があるときは、出向元が支給するその差額(較差補填金)は出向元の損金に算入されます(通達9-2-47)。出向先を経由して支給した金額も含まれます。
| 類型 | 合理的な理由の例 |
|---|---|
| (1) | 出向元の給与水準が出向先より高く、出向元が給与水準の維持を保証しているため、出向元が差額を支給する場合 |
| (2) | 出向先が経営不振等で賞与を支給することができないため、出向元がその賞与を支給する場合 |
| (3) | 出向先が海外にあるため、出向元がいわゆる留守宅手当を支給する場合 |
合理的理由がないと寄附金になる
本来は出向先が負担すべき給与を、合理的な理由もなく出向元が肩代わりして負担すると、その負担は出向元から出向先への実質的な贈与(寄附金)と扱われます。寄附金は損金算入限度額を超える部分が損金不算入となるため、グループ内の資金付け替えのつもりが課税負担を生むことになります。逆に、出向先の負担額が出向元の支給額を超える場合には、その超える部分は給与負担金としての性質がないため、出向先から出向元への寄附金等として扱われます。給与か寄附金かの線引きは、外注費と給与の区別にも通じる考え方で、寄附金と交際費の区分もあわせて確認してください。
出向者が出向先の役員になっている場合
出向者が出向先で役員になっているときは、給与負担金の扱いに役員給与の損金算入ルールが上乗せされます。給与負担金の支出が、出向先におけるその役員に対する給与の支給として、法人税法34条(役員給与の損金不算入)の適用を受けるためです(通達9-2-46)。次の2つをいずれも満たすことが必要です。
| 要件 | 内容 |
|---|---|
| (1) | 給与負担金の額について、その役員に対する給与として出向先の株主総会・社員総会等の決議がされていること |
| (2) | 出向契約等において、出向期間および給与負担金の額があらかじめ定められていること |
そのうえで、給与負担金が定期同額給与・事前確定届出給与・業績連動給与のいずれかに該当すれば、出向先で損金算入できます。つまり出向役員の給与負担金は、通常の役員給与とまったく同じ支給形態の要件を満たす必要があるということです。とくに事前確定届出給与として扱う場合、その届出は出向先法人が自らの納税地の所轄税務署長に対して、出向契約等に基づく給与負担金の定めの内容について行います。役員給与の支給形態の詳細は役員報酬の決め方と損金算入で、事前確定の届出は事前確定届出給与の届出で解説しています。
出向者の退職給与負担金
出向期間に対応する退職給与についても、負担の枠組みがあります。出向先が、出向元が支給すべき退職給与に充てるため、あらかじめ定めた負担区分にもとづき、出向期間に対応する退職給与の額として合理的に計算した金額を定期的に出向元へ支出している場合には、その支出額は、たとえ出向者が出向先で役員となっていても、支出した事業年度の損金に算入されます(通達9-2-48)。ポイントは、負担区分をあらかじめ定めていること、合理的に計算していること、定期的に支出していることの3点です。
消費税:給与負担金は不課税、派遣料は課税
出向で最も間違えやすいのが消費税です。出向者の給与や出向先が支払う給与負担金は、雇用関係にもとづく労務の対価(給与)なので消費税は不課税で、仕入税額控除の対象になりません。ところが、これを労働者派遣と混同すると誤ります。労働者派遣の派遣料は役務の提供の対価であり、消費税の課税対象になります。同じように人が来て働いていても、出向か派遣かで消費税の扱いは真逆です。
| 支払の内容 | 消費税 | 理由 |
|---|---|---|
| 出向の給与負担金 | 不課税 | 実質は出向者への給与だから |
| 労働者派遣の派遣料 | 課税 | 派遣元による役務提供の対価だから |
| 経営指導料名義の給与相当分 | 不課税 | 名義にかかわらず給与相当部分は給与だから |
給与負担金を経営指導料や業務委託料の名義で支払っている場合、その全額を課税仕入れとして仕入税額控除していると、給与相当部分について控除の否認を受けます。名義ではなく実質で判断される点は、外注費と給与の区分と同じ考え方です。
よくある落とし穴
本来は出向先が負担すべき給与を、理由もなく出向元が肩代わりすると寄附金と扱われます。較差補填金として認められるのは、給与水準の保証・出向先の経営不振・海外の留守宅手当など合理的な理由がある場合に限られます。
出向者が出向先の役員なら、給与負担金にも34条の要件がかかります。株主総会の決議と出向契約での定めがなく、定期同額等にも当たらなければ、損金不算入になります。
給与負担金は不課税で仕入税額控除の対象外です。派遣料と同じ感覚で控除すると否認されます。経営指導料名義でも、給与相当部分は控除できません。
出向役員の給与負担金を損金にするには、出向契約等で出向期間と給与負担金の額があらかじめ定められていることが要件です。口頭の取り決めや事後の精算では要件を満たしません。
出向先の負担額が出向元の支給額を超えると、超過部分は給与負担金の性質を失い、出向先から出向元への寄附金等として扱われます。負担区分の設定を誤ると、意図せず超過負担が生じます。
想定Q&A
Q1. 出向者の給与は出向元と出向先のどちらが負担しますか
労務の提供を受ける出向先が負担するのが原則です。出向元がいったん支払い、出向先が給与負担金として出向元に払う間接支給の形でも、その給与負担金は出向先において出向者に対する給与として扱われます。
Q2. 出向元が給与の一部を負担すると必ず寄附金ですか
必ずではありません。出向元の給与水準が高く維持を保証している場合、出向先の経営不振で賞与を出せない場合、出向先が海外にあり留守宅手当を支給する場合など、合理的な理由があれば較差補填金として出向元の損金になります。合理的理由がない肩代わりだけが寄附金になります。
Q3. 較差補填金は出向先を経由して支給しても損金ですか
はい。較差を補填するために出向元が出向者へ支給した給与の額には、出向先を経て支給した金額も含めて出向元の損金に算入されます。直接渡すか出向先経由かという支給ルートは、較差補填金としての損金性を左右しません。
Q4. 出向者が出向先の役員だと何が変わりますか
給与負担金に役員給与の損金算入ルール(34条)がかかります。株主総会等の決議と、出向契約での出向期間・給与負担金額の事前の定めがあり、かつ給与負担金が定期同額給与・事前確定届出給与・業績連動給与のいずれかに該当することが必要です。要件を満たさなければ損金不算入になります。
Q5. 出向役員を事前確定届出給与にする場合、届出は誰がしますか
出向先法人が行います。出向先が、自らの納税地の所轄税務署長に対して、出向契約等にもとづき支出する給与負担金に係る定めの内容について届出をします。出向元ではなく出向先が届出義務者である点に注意してください。
Q6. 給与負担金に消費税はかかりますか
かかりません。給与負担金は雇用関係にもとづく労務の対価(給与)なので不課税で、仕入税額控除の対象になりません。一方、労働者派遣の派遣料は役務提供の対価として課税されます。人が来て働く点は同じでも、出向か派遣かで消費税の扱いは逆になります。
Q7. 経営指導料の名義で払えば消費税を控除できますか
できません。名義を経営指導料や業務委託料に変えても、その内容が給与に相当する部分は給与として扱われ、不課税です。給与相当部分を課税仕入れとして控除していると否認されます。実態が給与であれば、名義を変えても課税区分は変わりません。
Q8. 出向者の退職金はどう負担しますか
出向先が、出向元の支給すべき退職給与に充てるため、あらかじめ定めた負担区分にもとづき出向期間に対応する額として合理的に計算した金額を定期的に出向元へ支出していれば、その支出額は支出年度の損金になります。出向者が出向先で役員であっても同様に扱われます。負担区分の事前設定と合理的計算、定期的支出が要件です。
Q9. 出向先の負担が出向元の支給額を上回ったらどうなりますか
超える部分は給与負担金としての性質を失い、出向先から出向元への寄附金等として扱われます。負担区分を実際の給与額に見合ったものに設定し、過大な負担にならないよう管理することが必要です。
Q10. 出向者本人の所得税や年末調整はどうなりますか
出向者が受け取る給与は給与所得で、源泉徴収と年末調整が必要です。直接支給・間接支給のいずれの形でも、実際に給与を支払う立場の法人が源泉徴収義務を負います。複数の法人から給与を受ける形になる場合は、主たる給与とそれ以外の区分や、年末調整の対象範囲に注意が必要です。
Q11. 出向と転籍で税務の扱いはどう違いますか
出向は雇用関係が出向元に残るため、給与負担金や較差補填金といった負担調整の論点が生じます。転籍は雇用関係が転籍先へ移るため、転籍後の給与は転籍先が支払う自社の給与として処理し、負担金の論点は基本的に生じません。ただし転籍時の退職金の負担区分など、切り替えの局面では別の検討が必要です。
判断フロー
| 手順 | 確認すること |
|---|---|
| 1 | 出向か、転籍か、労働者派遣かを区別する(雇用関係の所在) |
| 2 | 給与を出向先が負担しているか(直接支給か給与負担金か)を確認する |
| 3 | 出向元が差額を負担する場合、合理的理由(較差補填金の3類型)があるか |
| 4 | 出向者が出向先の役員か。役員なら34条の要件(決議・事前の定め・支給形態)を確認する |
| 5 | 出向役員の給与負担金の金額が不相当に高額でないかを確認する |
| 6 | 給与負担金を消費税で不課税として処理しているか(課税仕入れにしていないか) |
| 7 | 出向契約書・株主総会議事録・負担区分の定めなどの証跡を整えたか |
まとめ
出向者給与の税務は、労務の提供を受ける出向先が負担するという原則から出発します。出向元が払う場合でも、給与負担金は出向先の給与として扱われ(9-2-45)、出向元が差額を負担するときは合理的理由があれば較差補填金として損金(9-2-47)、なければ寄附金になります。出向者が出向先の役員なら、給与負担金に役員給与の要件がかかり、株主総会の決議・出向契約での事前の定め・定期同額等への該当が必要です(9-2-46)。退職給与負担金にも合理的計算・定期的支出という枠組みがあります(9-2-48)。そして給与負担金は消費税が不課税で、派遣料が課税である点との混同が最も多い誤りです。契約と負担区分を明確にし、名義ではなく実質で処理することが、出向まわりの税務の要になります。
- 出向者の給与は出向先が負担するのが原則。給与負担金は出向先の給与(9-2-45)
- 出向元が差額を負担するのは、合理的理由があれば較差補填金として損金(9-2-47)
- 合理的理由がなければ寄附金。超過負担も出向先から出向元への寄附金等
- 出向役員の給与負担金は34条の要件がかかる。決議・事前の定め・支給形態(9-2-46)
- 退職給与負担金は負担区分の事前設定・合理的計算・定期的支出が要件(9-2-48)
- 給与負担金は消費税不課税。派遣料は課税で扱いが真逆。名義でなく実質で判断
あわせて読みたい(法人税・役員給与)
※本記事は作成時点の法令・通達(法人税法34条・37条、法人税基本通達9-2-45・9-2-46・9-2-47・9-2-48、消費税法基本通達5-5-10等)に基づく一般的な解説です。個別の取扱いは出向契約の内容や事実関係により異なります。具体的な判断は、最新の条文・通達の確認、または税理士へのご相談をおすすめします。

