欠損金の繰戻し還付を徹底解説|中小企業者等の要件・計算・繰越控除との有利選択

法人税

赤字(欠損)が出た期に、前期に納めた法人税を取り戻せるのが欠損金の繰戻し還付です。資金繰りに直接効く制度ですが、使えるのは中小企業者等に限られ、資本金1億円以下でも上場企業の完全子会社などは対象外、地方税は戻らない、といった実務上の勘所があります。本記事では、要件・計算・繰越控除との有利選択・デメリットまで、計算例を交えて深掘りします。

目次
  1. 欠損金の繰戻し還付とは
  2. 適用できるのは「中小企業者等」だけ
  3. 適用要件(青色・連続申告・還付請求書)
  4. 還付額の計算式と計算例
  5. 地方税の取扱い(住民税の繰越に注意)
  6. 繰越控除とどちらが得か
  7. 解散等の特例・災害損失の特例
  8. デメリット・実務上の注意点
  9. まとめ

1. 欠損金の繰戻し還付とは

欠損金の繰戻し還付は、ある事業年度に生じた欠損金を、その事業年度開始の日前1年以内に開始した事業年度(還付所得事業年度。通常は前期)に繰り戻し、すでに納付済みの法人税・地方法人税の還付を請求できる制度です(法人税法80条)。

かみ砕くと、今期が赤字なら、前期に黒字で納めた法人税のうち、今期の赤字に対応する部分を返してもらえる制度です。将来の黒字と相殺する繰越控除と違い、過去に納めた税金が現金で戻るため、資金繰りに直接効きます。

2. 適用できるのは「中小企業者等」だけ

この制度は原則として適用が停止されており、中小企業者等が各事業年度に生じた欠損金と、後述の解散等の事実が生じた場合の欠損金に限って使えます。中小企業者等の範囲が重要です。

中小企業者等(普通法人の場合)

事業年度終了時の資本金の額または出資金の額が1億円以下の法人。ただし、次に該当するものは除かれます。

  • 大法人(資本金5億円以上の法人等)による完全支配関係がある法人
  • 複数の大法人による完全支配関係がある法人 など
ここは要注意です。資本金1億円以下でも、資本金5億円以上の大法人(上場企業など)に100%支配されている子会社は、繰戻し還付を使えません。M&Aで上場企業の完全子会社になった会社は、たとえ資本金が小さくても、この制度の対象から外れます(中小向けの軽減税率が使えなくなるのと同じ構造です)。グループ内に大法人がいる場合は、まず適用可否の判定からです。なお、公益法人等・協同組合等なども中小企業者等に含まれます。

3. 適用要件(青色・連続申告・還付請求書)

  • 還付所得事業年度(前期)から欠損事業年度(当期)まで連続して青色申告書である確定申告書を提出していること
  • 欠損事業年度の青色申告書である確定申告書を、提出期限までに提出していること
  • その確定申告書の提出と同時に「欠損金の繰戻しによる還付請求書」を提出すること
特に「確定申告書と同時に還付請求書を提出」が要件です。確定申告だけ出して後から請求、はできません。当期が赤字で前期が黒字なら、申告の段階で繰戻し還付を使うかどうかを判断しておく必要があります。

4. 還付額の計算式と計算例

還付請求できる法人税額は、次の算式で計算します。

還付請求額 = 還付所得事業年度(前期)の法人税額 × (当期の欠損金額 ÷ 前期の所得金額)

分数の「当期の欠損金額」は、前期の所得金額を上限とします。つまり、前期の所得を超える欠損金は、この計算では使い切れません。

計算例

・前期(還付所得事業年度)の所得金額:800万円、納付した法人税額:120万円
・当期(欠損事業年度)の欠損金額:1,000万円

  • 分数の当期欠損金額は前期所得800万円が上限 → 800万円 ÷ 800万円 = 1
  • 還付請求額 = 120万円 × 1 = 120万円(前期法人税の全額が還付)
  • 使い切れなかった欠損金200万円(1,000万 − 800万)は、翌期以降10年間の繰越控除
このように、前期の所得を超える欠損は繰戻しで使い切れず、超過分は繰越控除に回ります。繰戻しと繰越しは併用でき、欠損金を「前に戻す分」と「先に繰り越す分」に振り分けるイメージです。なお、地方法人税についても同様に還付請求の対象になります。

5. 地方税の取扱い(住民税の繰越に注意)

重要な注意点です。繰戻し還付で戻るのは国税(法人税・地方法人税)だけで、法人事業税・法人住民税には繰戻し還付の制度がありません。

  • 法人事業税:繰戻し還付の制度なし。欠損金は事業税の繰越欠損金として将来に繰り越す
  • 法人住民税:繰戻し還付で還付を受けた法人税額に相当する部分は、「控除対象還付法人税額」として、翌期以降の法人税割の課税標準(法人税額)から控除する形で繰り越される
つまり、住民税は「今すぐ還付」ではなく、繰戻し還付した法人税額を将来の住民税法人税割の計算で調整する形になります。国税は現金で戻り、住民税は将来の負担減で取り戻す、という非対称がある点を、資金計画で押さえておく必要があります。

6. 繰越控除とどちらが得か

欠損金は、前に戻す(繰戻し還付)か、先に繰り越す(繰越控除・10年)かを選べます。長期的に見れば、いつ税負担が軽くなるかの違いで、トータルの税額は大きくは変わりません。ただし、状況によって有利不利が分かれます。

繰戻し還付が向く場合
  • 今すぐ資金が必要(赤字で資金繰りが厳しい)
  • 今後の黒字化が不透明で、繰越控除を使い切れるか不確実
  • 前期に高い税率・高い所得で納税していた
繰越控除が向く場合
  • 当面の資金に余裕があり、将来確実に黒字が見込める
  • 将来の方が税率や所得が高く、控除の価値が大きいと見込まれる
資金繰り重視なら繰戻し還付、将来の節税重視なら繰越控除、というのが基本的な発想です。両者は併用できるので、前期所得の範囲は繰戻して資金を確保し、残りは繰り越す、という組み合わせも可能です。

7. 解散等の特例・災害損失の特例

通常は中小企業者等に限られる制度ですが、解散・事業の全部譲渡・更生手続開始などの一定の事実が生じた場合には、中小企業者等以外の法人でも、その事実が生じた事業年度等の欠損金について繰戻し還付を請求できます(事実が生じた日以後1年以内に請求)。

また、災害損失欠損金については、青色申告でない場合や中小企業者等以外でも、災害のあった事業年度の欠損金のうち災害損失金額に達するまでの金額について、繰戻し還付の特例があります。突発的な災害による損失を救済する趣旨です。

8. デメリット・実務上の注意点

  • 税務調査の端緒になりやすい:還付請求は税務署の調査対象になりやすいといわれます。前期の所得・当期の欠損の両方が見られる可能性を踏まえ、申告内容に不安がないことが前提
  • 欠損金を消費する:繰戻しに使った欠損金は、その分だけ将来の繰越控除に使える額が減る(現金が戻る代わりに将来の盾が減る)
  • 確定申告と同時提出:還付請求書の同時提出を忘れると使えない
  • 連続青色申告が要件:間に白色の期があると使えない
  • 地方税は現金で戻らない:事業税は繰越、住民税は控除対象還付法人税額として将来の調整
調査リスクは「使うべきでない」という意味ではなく、申告がきちんとしていれば過度に恐れる必要はありません。資金繰りの必要性とあわせて、繰戻しと繰越しの選択を判断します。

9. まとめ

この記事のポイント
  • 当期の欠損金を前期に繰り戻し、納付済みの法人税・地方法人税の還付を受ける制度(法人税法80条)
  • 使えるのは中小企業者等。資本金1億円以下でも大法人(5億円以上)の完全支配子会社は対象外
  • 要件は連続青色申告・確定申告と同時の還付請求書提出
  • 還付額 = 前期法人税 ×(当期欠損金〔前期所得が上限〕÷ 前期所得)。超過分は繰越控除へ
  • 地方税は現金で戻らない(事業税は繰越、住民税は控除対象還付法人税額として将来調整)
  • 資金繰り重視なら繰戻し、将来の節税重視なら繰越控除。併用も可能
  • 解散等・災害損失には中小企業者等以外でも使える特例がある
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出典・参考

※本記事は作成時点の法令・通達・国税庁の取扱いに基づく一般的な解説です。適用可否や有利不利は個別事情により異なります。具体的な判断は税理士へのご相談をおすすめします。

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