事業年度(決算期)は、法律で決められているものではなく、会社が定款で自由に定められます。したがって、あとから変更することもできます。繁忙期と決算作業が重なるのを避けたい、季節変動の大きい業種で在庫の少ない月を期末にしたい、親会社やグループ会社と決算期を揃えたい。理由はさまざまですが、手続きそのものは株主総会の特別決議、定款変更、税務当局への届出の3つで完結します。登記は不要です。
ところが、手続きが簡単なわりに税務上の影響は広く及びます。変更した年度は12か月未満になるため減価償却や均等割が月割になり、さらに数年後の消費税の納税義務判定にまで波及します。基準期間が1年未満になると、課税売上高を年換算して1,000万円判定を行うためです。決算期を動かした結果、免税だったはずの期が課税事業者になる、ということが起こり得ます。本記事では、手続きの流れと、この見落としやすい波及効果を整理します。
- 手続きは、株主総会の特別決議、定款変更、税務署・都道府県・市区町村への異動届出書の3つ
- 事業年度は登記事項ではないため、法務局への登記申請は不要
- 変更後最初の事業年度は必ず12か月未満になる。法人税は1年を超える期間を1事業年度にできない
- 異動届出書には株主総会議事録の写しを添付する。明確な提出期限はないが、変更後の申告期限までに提出する
- 消費税の基準期間が1年未満になると、課税売上高を年換算して1,000万円判定を行う
- 減価償却費や法人住民税の均等割は月割計算になる
手続きの流れ(3ステップ)
| 手続き | 内容 |
|---|---|
| 株主総会の特別決議 | 定款に事業年度が定められているため、変更には特別決議が必要。定時総会・臨時総会のいずれでもよい。決議内容を記載した議事録を作成する |
| 定款の変更 | 議事録の内容をもって定款が変更されたものとされる。公証人の認証は不要。定款原本を改訂して会社で保管する |
| 異動届出書の提出 | 税務署・都道府県税事務所・市区町村の3系統に提出。株主総会議事録の写しを添付する |
決議のタイミング
定時株主総会を待たずに変更したい場合は、臨時株主総会で対応できます。この場合、変更後の決算月の末日までに開催する必要があります。たとえば3月決算の会社が11月決算に変更するなら、11月30日までに決議します。
異動届出書の提出期限
明確な期限の定めはなく、異動後速やかに提出します。もっとも実務上は、変更後の事業年度の申告期限(決算月の2か月後)までに提出しておく必要があります。届出が済んでいないと、税務署側の事業年度の登録が古いままになり、申告書類の送付や納付書の管理に支障が出るためです。提出先の考え方は異動届出書の提出先を完全整理をご覧ください。
変更後最初の事業年度は必ず短くなる
法人税法上、事業年度は1年を超えることができません。会社法では、事業年度を変更する場合の最長を1年6か月とする定めがありますが、法人税の申告では事業年度開始から1年を経過した日までを1つの事業年度として扱います。したがって、決算期を後ろにずらしても、1年を超える長い事業年度で申告することはできません。
消費税への影響(最も見落としやすい)
決算期変更で最も注意すべきは消費税です。消費税の納税義務は、原則として基準期間(前々事業年度)の課税売上高が1,000万円を超えるかで判定します。ところが、決算期を変更すると前々事業年度が1年未満になることがあり、そのときの取扱いが特殊です。
前々事業年度が1年未満の場合、基準期間は「その事業年度開始の日の2年前の日の前日から、同日以後1年を経過する日までの間に開始した各事業年度を合わせた期間」となります(消費税法2条1項14号)。そして、その基準期間の課税売上高は、期間の月数で除して12を乗じ、1年分に換算したうえで1,000万円判定を行います。
なお、消費税の課税期間は原則として事業年度と一致するため、決算期変更に伴い課税期間も変わります。異動届出書の税目欄で消費税にもチェックを入れて提出すれば、消費税の異動届出書を重ねて提出する必要はありません。
変更のメリットと注意点
| 観点 | 内容 |
|---|---|
| 繁忙期の回避 | 決算作業と本業の繁忙期が重なるのを避けられる。棚卸の負担が軽い月を期末にできる |
| 資金繰り | 納税月を資金に余裕のある時期に移せる |
| 利益の期ズレ | 期末に多額の利益が見込まれる場合、決算期を前倒しして課税所得の集中を避けられることがある |
| 申告回数の増加 | 変更年度は短い事業年度となり、申告が1回余分に必要になる |
| 比較可能性の低下 | 12か月未満の期は前期と単純比較できず、金融機関への説明が必要になる |
| 消費税の逆転 | 基準期間の年換算により、免税だったはずの期が課税事業者になることがある |
実務上の落とし穴
想定Q&A集
Q1. 決算期は自由に変更できますか
できます。事業年度は定款で自由に定められるもので、株主総会の特別決議と定款変更、税務当局への届出により任意の日に変更できます。回数の制限もありません。ただし、合理的な理由なく毎年変更するのは、税務上の意図を疑われる余地があります。
Q2. 登記は必要ですか
不要です。事業年度は登記事項ではありません。法務局への申請も登録免許税もかかりません。ただし、事業年度の変更に伴って役員の任期が満了する場合は、役員変更の登記が必要になります。
Q3. どこに何を提出しますか
税務署・都道府県税事務所・市区町村の3系統に異動届出書を提出します。株主総会議事録の写しを添付するのが一般的です。事務所等が複数の自治体にある場合は、そのすべての自治体に提出します。
Q4. 届出の提出期限はいつですか
明確な定めはなく、異動後速やかに提出します。実務上は、変更後の事業年度の申告期限(決算月の2か月後)までに提出しておくべきです。遅れても罰則はありませんが、申告書類や納付書の管理に支障が出ます。
Q5. 変更後最初の事業年度は何か月になりますか
必ず12か月未満になります。法人税法上、事業年度は1年を超えられないため、決算期を後ろにずらしても長い事業年度で申告することはできません。3月決算の会社が9月決算にすれば、最初の事業年度は4月1日から9月30日までの6か月です。
Q6. 短い事業年度では何が月割になりますか
減価償却費、法人住民税の均等割のほか、交際費の定額控除限度額や中小法人の軽減税率が適用される所得の金額なども月数按分されます。税負担が単純に期間比で減るわけではない点に注意してください。
Q7. 消費税にはどう影響しますか
基準期間(前々事業年度)が1年未満になると、その期間の課税売上高を月数で除して12を乗じ、1年分に換算して1,000万円判定を行います。実額が1,000万円以下でも、年換算すると超えて課税事業者になることがあります。
Q8. 消費税の異動届出書も別に出しますか
不要です。異動届出書の税目欄で消費税にチェックを付けて提出すれば、法人の消費税異動届出書を重ねて提出する必要はありません。
Q9. 節税になりますか
恒久的な節税にはなりません。期末に多額の利益が見込まれるとき、決算期を前倒しすればその利益を翌期に回せますが、課税の時期が動くだけです。対策を検討する時間を稼ぐ手段と考えるべきで、消費税の逆転リスクも含めて総合的に判断してください。
Q10. 臨時株主総会でも変更できますか
できます。定時総会を待つ必要はありません。ただし、臨時総会は変更後の決算月の末日までに開催する必要があります。小規模な会社では書面決議による場合もありますが、いずれにせよ議事録の作成は必須です。
Q11. 役員の任期に影響しますか
影響することがあります。事業年度の変更により、定款変更の効力発生と同時に役員の任期が満了する場合があります。その場合は同じ総会で役員選任の決議を行い、就任日から2週間以内に登記します。
Q12. 個人事業主も変更できますか
できません。個人事業主の計算期間は暦年(1月1日から12月31日)と法律で定められており、変更の余地はありません。決算期を選べるのは法人のメリットの1つです。
事業年度変更の判断フロー
| 手順 | 確認すること |
|---|---|
| 1 | 変更の目的を確認する(繁忙期の回避、資金繰り、グループ統一など) |
| 2 | 向こう3年分の消費税の基準期間と課税売上高の年換算をシミュレーションする |
| 3 | 短い事業年度での月割計算(減価償却・均等割・交際費枠等)の影響を試算する |
| 4 | 変更後の決算月の末日までに株主総会の特別決議を行い、議事録を作成する |
| 5 | 定款原本を改訂し、役員任期の満了の有無を確認する |
| 6 | 3系統に異動届出書を提出(議事録の写しを添付)。許認可官庁・金融機関にも連絡する |
まとめ
事業年度の変更は、株主総会の特別決議、定款変更、3系統への異動届出書という3つの手続きで完了し、登記も費用もかかりません。手続きの容易さに比べて税務上の波及は広く、変更年度が短くなることによる月割計算に加え、消費税の基準期間の年換算により2年後の納税義務が変わることがあります。変更を決める前に、向こう3年分のシミュレーションを行ってください。
- 手続きは特別決議・定款変更・異動届出書の3つ。登記は不要
- 異動届出書は税務署・都道府県・市区町村の3系統へ。議事録の写しを添付する
- 変更後最初の事業年度は必ず12か月未満になり、申告が1回増える
- 減価償却費・均等割・交際費の定額控除限度額などが月割になる
- 基準期間が1年未満だと課税売上高を年換算して判定。免税から課税へ逆転することがある
- 利益の期ズレは繰延べであり、恒久的な節税ではない
※本記事は作成時点の法令・公表資料(法人税法13条・14条、消費税法2条1項14号・9条、会社法、会社計算規則59条2項、国税庁「C1-8 異動事項に関する届出」等)に基づく一般的な解説です。個別の判断は事実関係により異なるため、具体的な取扱いは最新の法令の確認、所轄税務署・都道府県税事務所への照会、または税理士へのご相談をおすすめします。

