給与支払事務所等の開設・移転・廃止届出書とは?提出先・1か月以内の期限・書き方を解説

所得税

給与支払事務所等の開設・移転・廃止届出書は、給与を支払う事務所を設けたこと(動かしたこと、やめたこと)を税務署に知らせる書類です。会社が給与や役員報酬を支払うと、そこから所得税を天引きして国に納める源泉徴収義務が生じます。税務署の側からすれば、どの事業者がいつから源泉徴収義務者になったのかを把握できなければ、納付書も年末調整の書類も送りようがありません。この届出は、源泉徴収の入口を登録する手続きだといえます。

実務でつまずくのは、提出期限が事実があった日から1か月以内と短いこと、そして「移転」「廃止」の判断が直感と食い違う場面があることです。特に支店を閉鎖したケースは、多くの人が「廃止」に丸を付けたくなりますが、国税庁の記載要領はそれを否定しています。本記事では、提出先・期限・書き方に加え、こうした判断の分かれ目を整理します。会社設立時の届出全体は会社設立後にやるべき税務手続きをご覧ください。

この記事のポイント
  • 提出期限は、開設・移転・廃止の事実があった日から1か月以内。異動届出書より短い
  • 提出先は給与支払事務所等の所在地の所轄税務署。移転の場合は移転前の所在地の所轄税務署
  • 法人は従業員がいなくても、社長に役員報酬を払うため設立時に提出が必要
  • 個人事業主は開業届に給与の支払状況を記載していれば、原則としてこの届出は不要
  • 支店を閉鎖しても、開設者が廃業・清算結了しない限り「廃止」にはならない
  • 提出しなくても罰則はないが、納付書が届かず納付漏れから延滞税につながる

この届出書は何のためにあるのか

給与支払事務所等とは、国内において給与等の支払事務を取り扱う事務所等をいいます。給与や役員報酬、賞与を支払う事業者は源泉徴収義務者となり、天引きした所得税を国に納めなければなりません。その義務者が誰で、どこにあるのかを税務署が把握するために、この届出書の提出が求められています。

この届出を出していないと、源泉所得税の納付書が送られてきません。納付書がなければ納付手続きが取れず、結果として納付漏れとなり、不納付加算税や延滞税につながります。届出そのものに罰則はありませんが、放置するとペナルティに至る、という構造です。

誰が、いつまでに、どこへ出すのか

項目 内容
提出義務者 国内で給与等の支払事務を取り扱う事務所等を開設・移転・廃止した給与等の支払者
提出期限 開設・移転・廃止の事実があった日から1か月以内
提出先 その給与支払事務所等の所在地の所轄税務署長。ただし移転の場合は、移転前の事務所等の所在地の所轄税務署長
提出方法 窓口持参、郵送、またはe-Tax
添付書類 原則として不要
移転の提出先は「移転前」の税務署
つい移転後の新しい住所地の税務署に出したくなりますが、記載要領は移転前の事務所等の所在地の所轄税務署長に提出するとしています。異動届出書も「異動前の税務署」に出すため、考え方は共通です。両者を同時に出す場面では、提出先が同じになることが多い一方、期限は異動届が「速やかに」、この届出が「1か月以内」と異なる点に注意してください。詳しくは異動届出書の提出先を完全整理をご覧ください。

提出が必要な場面・不要な場面

場面 提出 理由
法人を設立した(社長1人) 必要 役員報酬の支払いも給与等の支払いにあたるため
法人設立後しばらく無給で、後から役員報酬を出す 必要 給与の支払いを開始した日から1か月以内に提出する
個人事業主が開業届に給与の支払状況を記載して提出済み 不要 開業・廃業等届出書の提出で足りるとされている(所得税法230条)
個人事業主が開業後に初めて従業員を雇った 必要 開業届に給与の支払状況を記載していない場合、雇用日から1か月以内
月額給与が8万8千円未満で源泉税額がゼロ 必要 税額の有無ではなく、給与支払事務所を開設したかどうかで判断する
給与を支払う本店を移転した 必要 移転前の所在地の所轄税務署に提出する

支店を閉鎖しても「廃止」ではない

この届出書でもっとも誤りやすいのが、支店を閉鎖したときの取扱いです。国税庁の記載要領は、支店等の給与支払事務所等は、事務所開設者が廃業または清算結了しない限り、廃止したことにはならないと明記しています。支店を閉鎖しても、その支店の納税地は、本店や他の支店といった他の給与支払事務所等の所在地に引き継がれるという整理です。

したがって、支店の閉鎖では「廃止」ではなく、既存の給与支払事務所等への引継ぎとして届け出ることになります。届出書の届出内容欄で該当する区分を選び、引継ぎ先の事務所(本店など)の情報を記載します。「廃止」を選べるのは、会社そのものが清算結了した場合や、個人が廃業した場合です。会社が存続しているのに廃止に丸を付けると、源泉徴収義務者の登録が消え、納付書が届かなくなるおそれがあります。

この点は、地方税の「事業所新設・廃止申告書」で支店の廃止をきちんと届け出るのとは考え方が異なります。地方税は自治体ごとに納税義務を判定するため支店単位で廃止しますが、源泉所得税は法人全体の義務であるため、支店をやめても義務そのものは消えない、というわけです。

法人成りのとき「開設」か「移転」か

個人事業主が法人化する場合、届出書種別の選び方が状況で変わります。判断の分かれ目は、個人事業主のときにこの届出書を提出していたかどうかです。

個人事業主時代の状況 法人成り時の届出書種別
この届出書を提出済み(従業員を雇っていた等) 移転
この届出書を提出していない 開設(開業又は法人の設立)

なお、法人成りにより個人の事業を廃止した場合は、届出書の「その他参考事項」欄に、廃止した事業に係る事業主・納税地・整理番号などを記載します。法人成りの全体像は個人事業主の法人成りで解説しています。

書き方のポイント

記載内容
届出書種別 開設・移転・廃止のうち該当する区分の数字を記載する
事務所開設者 住所(居所)または本店(主たる事務所)の所在地、氏名または名称、個人番号または法人番号、法人は代表者氏名
開設・移転・廃止年月日 法人設立なら設立登記の日。後から給与の支払いを始めたならその日
給与支払を開始する年月日 開設した月中に給与の支払いが開始されない場合に、開始した日(または開始予定日)を記載する
従事員数 役員・従業員など職種別の人数。それ以外は「その他」欄に職種と人数を記載する
税理士署名 税理士または税理士法人が作成した場合に署名する
窓口持参や郵送で提出する場合は、控えを1部用意し、受付印をもらっておきます。控えがないと、後日、提出済みかどうかを確認できません。郵送なら返信用封筒と切手を同封します。

あわせて出すことが多い書類

会社設立時には、この届出書のほかに次の書類を同時に提出することが一般的です。特に源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書は、給与を支払う従業員が常時10人未満の場合に提出でき、毎月の納付を年2回にまとめられます。事務負担が大きく変わるため、設立時に検討しておくべきです。制度の詳細は源泉所得税の納期の特例で解説しています。

書類 提出期限の目安
法人設立届出書 設立の日以後2か月以内
給与支払事務所等の開設届出書 事実があった日から1か月以内
青色申告の承認申請書 設立第1期の場合、設立の日以後3か月を経過した日と第1期末のうち早い日の前日まで
源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書 期限の定めはないが、適用開始は原則として提出月の翌月以後

実務上の落とし穴

支店の閉鎖で「廃止」に丸を付ける
開設者が廃業・清算結了しない限り廃止にはなりません。既存の給与支払事務所等への引継ぎとして届け出ます。
移転を「移転後」の税務署に出す
提出先は移転前の事務所等の所在地の所轄税務署長です。異動届出書と同じ考え方ですが、混同しやすい箇所です。
源泉税額がゼロだから提出不要と考える
月額8万8千円未満で源泉徴収税額がなくても、給与支払事務所を開設した事実があれば提出が必要です。
1か月の期限を異動届と同じ感覚で扱う
異動届出書に明確な期限はありませんが、この届出は1か月以内です。設立関連の書類の中でも期限が早い部類なので、後回しにしないでください。

想定Q&A集

Q1. 提出期限はいつまでですか

開設・移転・廃止の事実があった日から1か月以内です。たとえば4月1日に会社を設立したなら5月1日までが期限です。異動届出書には明確な期限がありませんが、この届出は1か月と定められています。

Q2. どこの税務署に提出しますか

給与支払事務所等の所在地の所轄税務署長です。ただし移転の場合は、移転前の事務所等の所在地の所轄税務署長に提出します。移転後の税務署ではない点に注意してください。

Q3. 社長1人の会社ですが提出は必要ですか

必要です。役員報酬の支払いも給与等の支払いにあたり、源泉徴収義務が生じます。従業員がいないことは理由になりません。

Q4. 個人事業主も提出が必要ですか

開業時に「個人事業の開業・廃業等届出書」に給与等の支払状況を記載して提出していれば、原則としてこの届出書の提出は不要です(所得税法230条)。ただし、開業届に記載していない状態で後から従業員を雇った場合は、雇用日から1か月以内に提出が必要です。

Q5. 設立したが当面は無給です。いつ提出しますか

実際に給与の支払いを開始した日から1か月以内に提出します。届出書の「給与支払を開始する年月日」欄には、開始した日または開始予定日を記載します。設立と同時に役員報酬を出すなら、この欄の記載は不要です。

Q6. 支店を閉鎖しました。「廃止」でよいですか

よくありません。支店等の給与支払事務所等は、事務所開設者が廃業または清算結了しない限り廃止したことにはなりません。閉鎖した支店の納税地は、本店や他の支店に引き継がれるため、既存の給与支払事務所等への引継ぎとして届け出ます。

Q7. 支店の閉鎖は地方税でも同じ扱いですか

異なります。地方税は自治体ごとに納税義務を判定するため、支店を廃止すればその自治体に「事業所新設・廃止申告書」で廃止を届け出ます。一方、源泉所得税は法人全体の義務なので、支店をやめても義務は消えません。国税と地方税で発想が違う点を押さえてください。

Q8. 法人成りの場合、「開設」と「移転」のどちらですか

個人事業主のときにこの届出書を提出していれば「移転」、提出していなければ「開設(開業又は法人の設立)」を選びます。法人成りで個人事業を廃止した場合は、その他参考事項欄に廃止した事業の事業主・納税地・整理番号などを記載します。

Q9. 提出しないとどうなりますか

届出そのものに罰則はありません。しかし源泉所得税の納付書が届かず、納付漏れが生じると不納付加算税や延滞税が課されるおそれがあります。年末調整関係の書類も送られてきません。期限を過ぎても、気づいた時点で提出してください。

Q10. 給与が少額で源泉税額がゼロでも提出しますか

提出します。月額8万8千円未満で源泉徴収税額が生じない場合でも、給与支払事務所を開設した事実があれば届出が必要です。税額の有無ではなく、事務所の開設の有無で判断します。

Q11. 添付書類は必要ですか

原則として不要です。窓口持参・郵送・e-Taxのいずれでも提出できます。控えを残しておくと、後日の確認や税理士への引継ぎの際に役立ちます。

Q12. 納期の特例の申請も同時に出せますか

出せます。給与を支払う従業員が常時10人未満なら、源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書を提出することで、毎月の納付を年2回にまとめられます。設立時にあわせて検討すると、事務負担を大きく減らせます。

判断フロー

手順 確認すること
1 給与等(役員報酬を含む)を支払う事務所を開設・移転・廃止したかを確認する
2 個人事業主なら、開業届に給与の支払状況を記載済みかを確認する(記載済みなら提出不要)
3 届出書種別を選ぶ(支店の閉鎖は「廃止」ではなく既存事務所への引継ぎ)
4 提出先を確定する(移転は移転前の所在地の所轄税務署)
5 事実があった日から1か月以内に提出し、控えに受付印をもらう
6 納期の特例の申請、青色申告の承認申請など関連書類の要否を検討する

まとめ

給与支払事務所等の開設・移転・廃止届出書は、源泉徴収義務者としての登録手続きです。期限は1か月以内と短く、提出先は移転の場合に移転前の税務署となる点、そして支店を閉鎖しても「廃止」にはならない点が、実務での分かれ目になります。罰則がないぶん軽く扱われがちですが、納付書が届かないことによる納付漏れは実害を伴います。会社設立や事務所の移動があったら、まずこの届出を確認してください。

この記事のまとめ
  • 提出期限は事実があった日から1か月以内。異動届出書より短い
  • 提出先は給与支払事務所等の所在地の所轄税務署。移転は移転前の税務署
  • 法人は社長1人でも必要。個人事業主は開業届に記載済みなら原則不要
  • 源泉税額がゼロでも、事務所を開設した事実があれば提出する
  • 支店の閉鎖は「廃止」ではなく、既存の給与支払事務所等への引継ぎ
  • 罰則はないが、納付書が届かず不納付加算税・延滞税につながるおそれがある

※本記事は作成時点の法令・公表資料(所得税法229条・230条、国税庁「A2-7 給与支払事務所等の開設・移転・廃止の届出」、同届出書の記載要領等)に基づく一般的な解説です。個別の判断は事実関係により異なるため、具体的な取扱いは最新の様式・記載要領の確認、所轄税務署への照会、または税理士へのご相談をおすすめします。

タイトルとURLをコピーしました