給与明細を見ると毎月「所得税」が天引きされていますが、その仕組みや計算方法を正確に理解している方は意外と少ないのではないでしょうか。所得税は個人の所得に対して課される国税で、私たちの生活に最も身近な税金の一つです。
本記事では、国税庁の公表情報をもとに、所得税の基本的な仕組み・計算方法・税率・2026年税制改正のポイントまで、図解を交えてわかりやすく解説します。
所得税とは?基本をわかりやすく解説
所得税の定義と特徴
所得税とは、毎年1月1日から12月31日までの1年間に得た個人の所得に対して課される国税です。給与・事業収入・年金・株式の売却益など、さまざまな種類の所得が課税対象となります。
所得税の主な特徴は以下のとおりです。
- 超過累進課税:所得が高くなるほど税率が段階的に上がる仕組み(5%〜45%の7段階)
- 申告納税方式:原則として、納税者自身が税額を計算して申告・納付する
- 暦年課税:1月1日〜12月31日の1年間が課税期間
- 各種控除制度:所得控除・税額控除により、個人の事情に応じた調整がある
所得税と住民税の違い
所得税とよく混同されるのが住民税です。両者は計算方法に共通点が多いものの、異なる税金です。
| 比較項目 | 所得税 | 住民税 |
|---|---|---|
| 税の種類 | 国税 | 地方税(道府県民税+市町村民税) |
| 税率 | 5%〜45%(超過累進課税) | 原則10%(一律)+均等割 |
| 課税のタイミング | その年の所得に対して当年中に課税 | 前年の所得に対して翌年6月から課税 |
| 徴収方法 | 源泉徴収+年末調整/確定申告 | 特別徴収(給与天引き)/普通徴収 |
誰が所得税を払うのか(納税義務者)
所得税の納税義務者は、原則として日本国内に住所がある個人(居住者)です。給与所得者・個人事業主・年金受給者など、所得がある個人が広く対象となります。
ただし、所得が一定額以下の方は所得税がかかりません。詳しくは記事内「所得税はいくらからかかる?」のセクションで解説します。
所得税の仕組み|「所得」と「収入」の違いから理解する
「収入」と「所得」は別物
所得税を理解するうえで最初に押さえるべきは、「収入と所得は違う」ということです。
会社員にとっての「収入」は額面年収のことですが、所得税はこの額面そのものに課税されるわけではありません。収入から「給与所得控除」(給与所得者の概算経費)を差し引いた金額が「給与所得」となり、これが所得税の計算の出発点になります。
所得税の課税対象は10種類の所得
所得税法では、所得を発生原因に応じて10種類に分類しています。それぞれ計算方法や課税方法が異なります。
| 所得の種類 | 主な内容 |
|---|---|
| 給与所得 | 会社員・公務員等の給与・賞与 |
| 事業所得 | 個人事業主・フリーランスの事業収入 |
| 不動産所得 | アパート・マンション経営の家賃収入 |
| 利子所得 | 預貯金や公社債の利子 |
| 配当所得 | 株式の配当金や投資信託の分配金 |
| 退職所得 | 退職金・退職一時金 |
| 譲渡所得 | 不動産・株式・ゴルフ会員権等の売却益 |
| 山林所得 | 山林の伐採・譲渡による所得 |
| 一時所得 | 生命保険の満期返戻金・懸賞当選金など |
| 雑所得 | 公的年金、副業による所得など、上記9種類に該当しないもの |
各所得の詳細は別記事「所得税の10種類の所得区分をわかりやすく解説」で解説します。
所得税が決まるまでの5ステップ(全体像)
所得税は、「収入→所得→課税所得→税額→納付税額」という流れで段階的に計算されます。全体像は以下のとおりです。
所得税の計算方法を5ステップで解説
ステップ1:収入から「所得」を計算する
給与所得者の場合は、年間の収入金額から「給与所得控除」を差し引いて給与所得を計算します。
個人事業主の場合は、売上から必要経費を差し引いて事業所得を計算します。
ステップ2:所得から「所得控除」を差し引く
計算した所得から、納税者の個人的事情に応じた「所得控除」を差し引きます。所得控除は全部で15種類あり、代表的なものは以下です。
- 基礎控除:すべての納税者に適用(最大104万円・2026年分の場合※)
- 配偶者控除・扶養控除:配偶者や扶養親族がいる場合
- 社会保険料控除:健康保険料・年金保険料等
- 生命保険料控除・地震保険料控除
- 医療費控除:年間10万円超の医療費がかかった場合
※基礎控除の額は所得金額により異なります。詳細は後述の「2026年税制改正のポイント」を参照。
ステップ3:「課税所得」に税率をかける
課税所得に対して所得税の税率(5%〜45%)を適用して所得税額を計算します。税率の詳細は次の章で解説します。
ステップ4:「税額控除」を差し引く
計算した所得税額から、適用できる「税額控除」を差し引きます。代表的な税額控除には以下があります。
- 住宅ローン控除(住宅借入金等特別控除)
- 配当控除
- 外国税額控除
- 政党等寄附金特別控除
ステップ5:復興特別所得税を加える
2013年(平成25年)から2037年(令和19年)までの各年分の所得税には、東日本大震災からの復興財源として復興特別所得税が課されます。
計算が複雑に思えるかもしれませんが、所得税額に1.021を掛ければ復興特別所得税込みの納付額が求められます。
所得税の税率|超過累進課税の仕組み
所得税の税率(速算表)
所得税の税率は、課税所得金額に応じて5%〜45%の7段階に区分されています。国税庁が公表している「所得税の速算表」を使えば、簡単に税額を計算できます。
| 課税される所得金額 | 税率 | 控除額 |
|---|---|---|
| 1,000円〜194万9,000円 | 5% | 0円 |
| 195万円〜329万9,000円 | 10% | 97,500円 |
| 330万円〜694万9,000円 | 20% | 427,500円 |
| 695万円〜899万9,000円 | 23% | 636,000円 |
| 900万円〜1,799万9,000円 | 33% | 1,536,000円 |
| 1,800万円〜3,999万9,000円 | 40% | 2,796,000円 |
| 4,000万円以上 | 45% | 4,796,000円 |
超過累進課税とは(誤解されがちなポイント)
超過累進課税とは、所得が一定額を超えた場合、その超えた部分にのみ高い税率が適用される仕組みのことです。
例えば課税所得300万円の場合、全額に10%がかかるわけではありません。195万円までの部分には5%、195万円超〜300万円の105万円の部分のみ10%が適用されます。
計算例:課税所得300万円のケース
課税所得が300万円の場合、速算表で「195万円〜329万9,000円」の区分(税率10%・控除額97,500円)に該当します。
| 課税所得 | 300万円 |
| 所得税額 | 300万円 × 10% − 97,500円 = 202,500円 |
| 復興特別所得税 | 202,500円 × 2.1% = 4,252円 |
| 納付税額 | 206,752円(206,700円・100円未満切捨) |
計算例:課税所得700万円のケース
課税所得が700万円の場合、速算表で「695万円〜899万9,000円」の区分(税率23%・控除額636,000円)に該当します。
| 課税所得 | 700万円 |
| 所得税額 | 700万円 × 23% − 636,000円 = 974,000円 |
| 復興特別所得税 | 974,000円 × 2.1% = 20,454円 |
| 納付税額 | 994,454円(994,400円・100円未満切捨) |
所得税はいくらからかかる?年収の壁と非課税ライン
給与所得者の非課税ライン(2026年改正対応)
給与所得者の場合、以下の控除が適用されるため、年収が一定額以下であれば所得税はかかりません。
| 年分 | 基礎控除(最大) | 給与所得控除(最低額) | 課税最低限 |
|---|---|---|---|
| 2024年(令和6年)以前 | 48万円 | 55万円 | 103万円 |
| 2025年(令和7年) | 95万円 | 65万円 | 160万円 |
| 2026年(令和8年)・2027年(令和9年) | 104万円(本則62+特例42) | 74万円(本則69+特例5) | 178万円 |
※ 基礎控除は所得金額に応じて段階的に縮小。給与収入665万円超の場合は基礎控除特例42万円の対象外となります。
個人事業主の非課税ライン
個人事業主の場合は給与所得控除がないため、所得(売上−必要経費)が基礎控除額以下であれば所得税はかかりません。
2026年分(令和8年分)の場合、所得が104万円以下であれば所得税は発生しません。さらに青色申告を選択し、青色申告特別控除(最大65万円)を適用すれば、実質的な非課税ラインはさらに広がります。
「103万円・130万円・160万円・178万円の壁」の違い
「年収の壁」と一口に言っても、税金と社会保険では意味合いが異なります。混同しないように整理しておきましょう。
所得税の納税方法|源泉徴収・年末調整・確定申告
会社員:源泉徴収+年末調整で完結
会社員の場合、毎月の給与から所得税が源泉徴収(天引き)されます。年末に「年末調整」を行って正確な税額を計算し、過不足を精算する仕組みです。
年末調整で精算される控除には以下のようなものがあります。
- 配偶者控除・扶養控除
- 生命保険料控除・地震保険料控除
- 社会保険料控除(給与天引き分以外)
- 住宅ローン控除(2年目以降)
原則として、会社員は年末調整で所得税の納税が完結するため、確定申告は不要です。ただし、医療費控除や寄附金控除(ふるさと納税のワンストップ特例不適用時)など、年末調整では適用できない控除を受ける場合は確定申告が必要です。
個人事業主・フリーランス:確定申告で納税
個人事業主・フリーランスは、毎年確定申告を行って所得税を計算・納付します。確定申告の期間は、原則として翌年の2月16日〜3月15日です。
2026年(令和8年)に支払う2025年分(令和7年分)の確定申告期限は2026年3月16日(月)です(3月15日が日曜日のため翌日が期限)。
年金受給者の所得税
公的年金は雑所得として課税されます。原則として年金受給時に源泉徴収されますが、年金収入が一定額を超える場合や他の所得がある場合は確定申告が必要です。
「公的年金等の収入金額が400万円以下、かつ、公的年金等以外の所得が20万円以下」の場合は、確定申告不要制度により申告が不要となります(ただし住民税の申告は別途必要な場合あり)。
所得税を減らす5つの方法
①所得控除を漏れなく適用する
医療費控除・生命保険料控除・社会保険料控除など、所得控除は全部で15種類あります。該当する控除を漏れなく適用するだけで、税負担は大きく変わります。
特に医療費控除は、年間10万円を超える医療費を支払った場合に適用できますが、年末調整では対応できないため確定申告が必要です。
②税額控除(住宅ローン控除等)を活用する
税額控除は税金から直接差し引けるため、所得控除よりも節税効果が大きくなります。代表的な住宅ローン控除では、年末のローン残高の0.7%を最長13年間にわたって所得税から控除できます。
③ふるさと納税を活用する
ふるさと納税は、自治体への寄附を通じて所得税・住民税の負担を実質減らせる制度です。寄附額から自己負担2,000円を除いた額が控除され、さらに返礼品も受け取れるため、活用しないのは損です。
④iDeCo・NISAなど税制優遇制度を使う
iDeCo(個人型確定拠出年金)の掛金は全額が小規模企業共済等掛金控除の対象となり、所得税・住民税が軽減されます。NISAは運用益が非課税になる制度で、税制改正で対象拡大が進んでいます。
⑤個人事業主は青色申告にする
個人事業主は青色申告を選択することで、最大65万円の青色申告特別控除を受けられます。さらに、家族への給与を経費にできる「青色事業専従者給与」など、白色申告にはない節税メリットがあります。
2026年税制改正のポイント
令和8年度(2026年度)税制改正では、物価高への対応として基礎控除と給与所得控除の引上げが行われました。給与所得者の課税最低限が「160万円」から「178万円」に引き上げられ、いわゆる「178万円の壁」が新設された形です。
基礎控除の引上げ
基礎控除は本則部分と特例部分の二層構造になっています。
- 本則:58万円 → 62万円(4万円引上げ・恒久措置)
- 特例:合計所得金額665万円以下の場合に+42万円加算(令和8・9年の時限措置)
合計所得金額が2,350万円以下の場合、基礎控除は最大104万円となります。
給与所得控除の最低保障額引上げ
給与所得控除の最低保障額についても二層構造での引上げが行われました。
- 本則:65万円 → 69万円(4万円引上げ・恒久措置)
- 特例:+5万円(令和8・9年の時限措置)
令和8・9年分の最低保障額は74万円となります。
「178万円の壁」の創設
基礎控除104万円+給与所得控除74万円=178万円となり、給与収入178万円までは所得税がかからなくなりました。これが新しい「178万円の壁」です。
復興特別所得税と防衛特別所得税
令和9年(2027年)からは、復興特別所得税の税率が2.1%から1.1%に引下げられ、その代わりに新たに防衛特別所得税1%が課される予定です。納税者の負担としては、付加税率合計2.1%は維持されます。
同時に、復興特別所得税の課税期間が令和19年から令和29年まで10年間延長されます。
所得税に関するよくある質問(FAQ)
Q1. 所得税はいつ支払うのですか?
A. 会社員は毎月の給与から源泉徴収される形で、すでに支払っています。年末調整で過不足が精算されます。個人事業主は確定申告(原則翌年の3月15日まで)の時に納付します。
Q2. 所得税が引かれすぎた場合はどうなりますか?
A. 会社員の場合は年末調整で還付されます。年末調整で対応できない控除(医療費控除など)がある場合は、確定申告(還付申告)をすることで還付を受けられます。還付申告は5年間さかのぼって行うことが可能です。
Q3. 副業の所得税はどう計算しますか?
A. 副業による所得は原則として雑所得または事業所得として、本業の給与所得と合算して計算します。給与所得者の場合、副業の所得が年20万円を超えると確定申告が必要です(いわゆる「20万円ルール」)。
Q4. 所得税と住民税はなぜ別々に計算するのですか?
A. 所得税は国税、住民税は地方税で、それぞれ管轄や課税の仕組みが異なるためです。所得控除の金額や課税のタイミングも異なります。例えば基礎控除は、所得税が最大104万円(2026年分)であるのに対し、住民税は43万円のままです。
Q5. 確定申告をしないとどうなりますか?
A. 申告義務があるのに申告しない場合、無申告加算税(最大30%)や延滞税(最大年14.6%)といったペナルティが課されます。悪質な場合は重加算税(最大40%)の対象となります。期限を過ぎても、気づいた時点で速やかに申告することが重要です。
まとめ
- 所得税は個人の1年間の所得に対して課される国税で、5%〜45%の超過累進課税が適用されます。
- 計算は「収入→所得→課税所得→税額→納付税額」の5ステップで進めます。
- 2026年分から給与所得者の課税最低限が178万円に引き上げられました(基礎控除104万円+給与所得控除74万円)。
- 会社員は源泉徴収+年末調整、個人事業主は確定申告で納税します。
- 所得控除・税額控除を漏れなく適用し、ふるさと納税やiDeCoなどの制度を活用することで、合法的に税負担を軽減できます。
所得税の仕組みを理解することは、自分の税負担を正しく把握し、効果的な節税を行うための第一歩です。本記事では全体像を解説しましたが、各論点(所得控除・税額控除・確定申告など)はそれぞれ別記事で詳しく解説しています。
- 【今ここ】所得税とは?仕組み・計算方法・税率
- 所得税の10種類の所得区分
- 所得控除15種類の一覧
- 税額控除とは?所得控除との違い
- 確定申告とは?必要な人・不要な人
- 確定申告のやり方|書き方・必要書類
- 副業の確定申告|20万円ルール
- 還付申告とは?医療費控除・住宅ローン控除
- 青色申告と白色申告の違い
- 青色申告特別控除の違いと適用要件
- 個人事業主の経費
- 【2026年改正】年収の壁を完全解説
- 【2026年改正】基礎控除・給与所得控除の引上げ
- ふるさと納税の仕組み・上限額
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