会社が従業員に食事を提供したり、食事代を補助したりする「食事手当(食事補助)」は、福利厚生の定番です。この食事の現物支給について、所得税が非課税となる会社負担の上限額が、令和8年4月から月額3,500円から月額7,500円へと倍増しました。これは昭和59年(1984年)以来、約40年ぶりの大きな改正です。
物価高が続くなか、食事補助は「実質的な賃上げ」の手段としても注目されています。ただし、非課税枠が上がったからといって、会社が7,500円を全額負担すれば非課税になるわけではありません。「従業員が食事代の半分以上を負担する」という要件など、満たすべき条件があり、これを誤ると食事手当の全額が給与として課税されてしまいます。本記事では、改正のポイント、非課税となる要件、課税されてしまう落とし穴、実務上の注意点まで、わかりやすく解説します。
目次
1. 食事手当(食事支給)の非課税制度とは
会社が役員や従業員に食事を提供すると、その従業員等は食事の支給として経済的利益を受けることになります。この経済的利益は、原則として給与として所得税の課税対象になります。給与であれば、所得税・住民税がかかり、社会保険料の算定対象にもなります。
ただし、一定の要件を満たす食事の支給については、給与として課税しない(非課税)という取扱いが認められています(所得税基本通達36-38の2)。福利厚生として食事補助を行う場合、この非課税の取扱いを使えるかどうかが重要なポイントになります。
非課税になると会社・従業員の双方にメリット
食事の支給が非課税になると、会社側はその負担額を福利厚生費として損金算入でき、従業員側は所得税・住民税がかからず、社会保険料も増えません。給与を上げる場合と比べて、双方の手取りベースでの効率が良いため、「第3の賃上げ」として注目されています。
2. 令和8年4月の改正(3,500円→7,500円)
令和8年(2026年)4月から、食事の現物支給に係る所得税の非課税限度額が、月額3,500円から月額7,500円へ引き上げられました。国税庁は令和8年3月31日付で所得税基本通達の改正を行い、令和8年4月1日以後に支給する食事について適用されています。
| 項目 | 改正前 | 改正後 |
|---|---|---|
| 会社負担の非課税上限 | 月額3,500円(税抜) | 月額7,500円(税抜) |
| 適用時期 | 〜令和8年3月31日 | 令和8年4月1日以後の支給 |
この月額3,500円という基準は昭和59年(1984年)以来、約40年間据え置かれていたもので、近年の物価高・食料品価格の高騰で実態に合わなくなっていました。今回の倍増により、食事補助制度を導入・拡充する企業が増えると見込まれます。
深夜勤務の夜食の現金支給も改正
あわせて、深夜勤務者に対し夜食の現物支給に代えて支給する金銭の非課税限度額も、1回300円から650円に引き上げられました(令和8年4月1日以後の食事から適用)。深夜勤務の食事の取扱いについては、本記事のセクション5で解説します。
3. 非課税となる2つの要件
食事の支給が非課税となるためには、次の2つの要件を「両方とも」満たす必要があります(所得税基本通達36-38の2)。どちらか一方しか満たさない場合は非課税になりません。
非課税となる2つの要件
要件①:従業員等が食事の価額の50%以上を負担していること
食事の価額のうち、半分以上を従業員自身が負担している必要があります。
要件②:会社の負担額が月額7,500円以下(税抜)であること
食事の価額から従業員の負担額を差し引いた「会社の負担額」が、月額7,500円以下である必要があります。
3-1. 具体的な計算例
2つの要件を、具体的な数字で確認します。
【例1:非課税になるケース】
1か月の食事の価額:14,000円
従業員の負担:7,000円(50%)/ 会社の負担:7,000円
→ 要件①(50%以上負担)○、要件②(会社負担7,500円以下)○ → 非課税
【例2:課税になるケース(要件①を満たさない)】
1か月の食事の価額:14,000円
従業員の負担:5,000円(約36%)/ 会社の負担:9,000円
→ 要件①×(50%未満)、要件②×(7,500円超)→ 会社負担9,000円の全額が給与課税
7,500円を全額会社負担しても非課税にはならない
「非課税枠が7,500円だから、会社が7,500円を全額負担すれば非課税」と誤解されがちですが、これは誤りです。要件①により従業員が食事代の50%以上を負担しなければならないため、会社が全額を負担すると要件①を満たさず、課税されてしまいます。例えば月15,000円の食事なら、従業員が7,500円以上を負担し、かつ会社負担が7,500円以下、という両方を満たす必要があります。
3-2. 社員食堂を外部委託している場合の「食事の価額」
非課税の判定は「食事の価額」を基準に行いますが、社員食堂の運営を外部業者に委託している場合、委託費を食事の価額に含めるかどうかが問題になります。この点は、食事の提供形態によって取扱いが分かれます。
| 食事の提供形態 | 食事の価額の考え方 |
|---|---|
| 使用者が調理して支給する食事 | 委託費を含まない(材料費等のみ)で判定 |
| 使用者が購入して支給する食事 | 委託費を含む(業者への支払額)で判定 |
企業が社員食堂の運営を外部業者に委託している場合でも、企業が食事の材料費・厨房設備費・水道光熱費などを負担し、「調理のみ」を外部業者に委託しているのであれば、「使用者が調理して支給する食事」と同視できます。この場合、委託費を除いた材料費など食事を作るために直接かかった費用を「食事の価額」とすることができます。一方、業者が仕入れて調理した弁当などを購入して支給する場合は、業者への支払額(委託費を含む)が食事の価額となります。
税務調査で委託費を含めて判定するよう指摘される事例も
「調理のみを委託している」と認められるには、外部業者が仕入れた材料費を精算するほか、材料の明細や在庫を企業側が把握していることが重要です。メニューについて委員会を設置するなど、企業側が把握できる状況が望ましいとされています。税務調査では、社員食堂の委託費を「食事の価額」に含めて判定するよう指摘される事例も多いようで、令和8年度改正後も同様の指摘が想定されるため注意が必要です。なお、要件①「従業員が食事の価額の50%以上を負担」は改正後も変更されていません。
4. 課税されてしまう落とし穴
食事手当は、設計を誤ると非課税にならず、給与として課税されてしまいます。よくある落とし穴を整理します。
4-1. 現金での支給は原則「給与」
最も多い誤りが、食事代を現金で支給するケースです。「ランチ手当」などの名目で毎月定額の現金を渡すと、たとえ食事目的であっても、原則として給与として課税されます。この非課税制度は、あくまで食事そのものの現物支給(社員食堂、弁当の提供、食事券など)を対象としているためです。現金支給は非課税の対象になりにくい点に注意が必要です。
4-2. 要件を1つでも欠けると「全額」が課税
非課税の2要件のうち1つでも満たさない場合、課税されるのは「超過分」ではなく、会社が負担した食事代の全額です。例えば、会社負担が月8,000円で要件②(7,500円以下)を満たさない場合、超過した500円だけでなく、8,000円全額が給与課税されます。「少しくらいの超過なら超過分だけ」という誤解は禁物です。
4-3. 用途自由なポイント・金券は給与とみなされやすい
名目は食事補助でも、食事以外にも使えるポイントや金券、用途が自由なプリペイドの付与は、実態が現金給付に近いとみなされ、給与課税されやすくなります。非課税とするには、用途が食事に限定されていること(食事に紐づく補助であること)を担保できる仕組みが必要です。
4-4. フードチケット・食券、近隣飲食店との契約はどうなるか
勤務時の昼食などに使えるフードチケット(食券)による食事補助も、設計次第で非課税の対象になり得ます。食事そのものを支給した場合と同視できるものであれば、その費用は食事の支給として非課税の取扱いの対象になります。同視できると認められるには、国税庁の在宅勤務に関するFAQなどが参考になり、おおむね次のような条件が求められます。
| 食券が「食事の支給」と同視されるための条件の例 |
|---|
| 契約した特定の飲食店での飲食・飲食料品の購入のみに利用可能(アルコール類や飲食料品以外への利用は不可) |
| 従業員本人の食事代のみに利用可能(家族の食事代への利用や他人への譲渡は不可) |
| 1回の利用額に上限を設ける(一般的な昼食代の範囲を逸脱しない)/釣銭は受け取れない |
| 食券の利用可能期間を設定する(多額の食事への一括利用を防ぐ) |
これらの条件を満たし、かつ非課税の2要件(50%以上を従業員負担・会社負担月7,500円以下)を満たせば、フードチケットによる補助も非課税にできます。また、会社が近隣の飲食店と契約し、従業員が勤務時の昼食で利用した食事代を会社が飲食店に直接支払う方式も、基本的には食事の支給として対象になり得ます。
「後日50%を金銭支給」する方式は給与課税
注意が必要なのは、会社が契約する飲食店で従業員が食事代を支払い、その50%相当額を後日会社が従業員に金銭で支給する方式です。これは従業員への「金銭支給」に該当するため、会社負担額の全額が給与として課税されます。あくまで「食事そのものの支給」であることが非課税の前提であり、現金での補填は対象外となる点に注意してください。
5. 残業・深夜勤務時の食事の特例
これまで説明した「月7,500円・50%負担」の要件は、通常の勤務時の食事の取扱いです。一方、残業や宿日直、深夜勤務に伴って支給する食事については、これとは別の取扱いが認められています。
5-1. 残業・宿日直に伴う食事は非課税
残業や宿日直を行ったときに会社が支給する食事は、金額にかかわらず、また従業員の負担なしでも、原則として非課税とされています。通常の食事補助のような「50%負担」「月7,500円以下」という要件は適用されません。残業時に会社が用意した弁当や、出前の食事などが該当します。これは、残業等が通常の勤務時間外であり、食事の提供が業務遂行上必要な実費補填的な性格を持つためです。
5-2. 深夜勤務の夜食に代わる金銭(1回650円)
深夜勤務者については、夜食を現物で支給することが難しい場合に、夜食の現物支給に代えて金銭を支給することがあります。この金銭については、令和8年4月1日以後に支給するものから、1回の支給につき650円以下(改正前:300円以下)であれば非課税とされます。
通常の食事補助では現金支給は給与課税されるのが原則ですが、この深夜勤務の夜食に代わる金銭は、例外的に一定額まで非課税が認められている点が特徴です。深夜勤務がある業種(医療・介護・運送・宿泊業など)では、活用できる場面があります。
6. 消費税(軽減税率)の扱いと税抜判定
食事手当の非課税限度額(月7,500円)の判定は、消費税を除いた「税抜」の金額で行います。食事には消費税の軽減税率(8%)と標準税率(10%)が関わるため、判定の際は注意が必要です。
6-1. 軽減税率(8%)と標準税率(10%)の違い
食事の提供形態によって、適用される消費税率が変わります。
| 提供形態 | 消費税率 |
|---|---|
| 弁当・出前など(テイクアウト・配達) | 軽減税率8% |
| 社員食堂での食事(その場で飲食) | 標準税率10% |
社員食堂などその場で飲食させる場合は「外食」として標準税率10%、弁当の支給や出前など持ち帰り・配達の場合は軽減税率8%が適用されるのが原則です。非課税限度額の判定は税抜金額で行うため、税率が8%か10%かによって、税込金額から税抜金額を計算する際の数字が変わる点に留意が必要です。
税抜7,500円は税込だといくらか
非課税上限の7,500円は税抜きの金額です。税込みに換算すると、軽減税率8%の弁当等なら約8,100円、標準税率10%の社員食堂等なら約8,250円が、おおよその税込上限の目安となります。実務では税抜きで管理するのが基本ですが、税率の違いによる差にも気を配っておくとよいでしょう。
7. 福利厚生費として処理するための実務
食事手当を非課税の福利厚生費として適切に処理するためには、要件を満たすだけでなく、それを客観的に証明できる体制を整えておくことが重要です。税務調査で給与認定されないための実務ポイントをまとめます。
7-1. 整備しておくべき事項
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 規程の整備 | 就業規則や福利厚生規程に、食事補助の目的・対象者・補助額・利用方法・自己負担割合を明記する |
| 自己負担の徴収 | 従業員から食事代の50%以上を実際に徴収し、給与天引き等で記録を残す |
| 証憑の保管 | 食事の価額がわかる請求書・領収書、従業員ごとの利用記録を保管する |
| 会社負担額の管理 | 従業員ごとに月額の会社負担額が7,500円(税抜)以下に収まっているか管理する |
7-2. 役員も対象にできる
この食事支給の非課税の取扱いは、使用人(従業員)だけでなく役員も対象になります。要件(50%以上負担・月7,500円以下)を満たせば、役員に対する食事の支給も非課税とすることができます。ただし、役員だけを優遇するような設計は、給与(役員給与)と認定されるリスクがあるため、従業員も含めた公平な制度設計にすることが望ましいでしょう。
8. まとめ
食事手当(食事支給)の非課税枠の改正について解説しました。重要なポイントを整理します。
食事手当の非課税枠改正の重要ポイント
1. 改正の内容
・会社負担の非課税上限が月3,500円→7,500円(税抜)に倍増
・令和8年4月1日以後に支給する食事から適用(約40年ぶりの改正)
2. 非課税の2要件(両方必要)
・従業員等が食事の価額の50%以上を負担
・会社の負担額が月額7,500円以下(税抜)
3. 課税される落とし穴
・現金支給は原則給与課税
・要件を1つでも欠けると会社負担の全額が課税
・用途自由なポイント・金券は給与とみなされやすい
・近隣飲食店利用後に50%を金銭支給する方式は全額給与課税
4. 社員食堂の委託・フードチケット
・調理のみの外部委託なら委託費を除いた材料費等で判定可(材料明細等の把握が必要)
・税務調査で委託費を含めて判定するよう指摘される事例あり
・フードチケットも一定条件(食事限定・利用上限・期間設定等)で非課税の対象になり得る
5. 残業・深夜勤務の特例
・残業・宿日直の食事は金額にかかわらず非課税
・深夜勤務の夜食に代わる金銭は1回650円(改正前300円)まで非課税
6. 実務のポイント
・非課税枠は税抜で判定(軽減税率8%・標準税率10%に注意)
・規程整備・自己負担の徴収・証憑保管が重要
・役員も対象にできる
食事手当の非課税枠が倍増したことで、福利厚生としての食事補助は導入・拡充しやすくなりました。物価高のなか、従業員の手取りを実質的に増やせる有効な手段ですが、非課税にするには要件を正しく満たし、それを証明できる体制を整えることが不可欠です。制度の導入・見直しを検討する際は、顧問税理士などの専門家に相談することをおすすめします。
※本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の税務判断を保証するものではありません。実際の処理にあたっては、国税庁の最新情報や顧問税理士にご確認ください。
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