居住用賃貸建物とは|仕入税額控除の制限や調整計算を徹底解説

消費税

アパートやマンションなどの居住用賃貸建物を取得した場合、その建物にかかった消費税は、原則として仕入税額控除ができません。これは令和2年度の税制改正により導入された「居住用賃貸建物の取得等に係る仕入税額控除の制限」(消費税法30条10項)によるものです。不動産投資や賃貸業を営む事業者にとって、消費税の取扱いを誤ると思わぬ税負担につながる重要な論点です。

ただし、仕入税額控除が制限された居住用賃貸建物であっても、その後3年以内に課税賃貸用に転用したり譲渡したりした場合には、一定の消費税額を取り戻す「調整計算」が認められています。本記事では、居住用賃貸建物の定義、仕入税額控除が制限される範囲、合理的区分の方法、そして取得後の調整計算(転用・譲渡)まで、消費税の取扱いを中心に、国税庁の取扱いに基づいて正確に解説します。

1. 居住用賃貸建物とは

居住用賃貸建物とは、消費税法上、「住宅の貸付けの用に供しないことが明らかな建物以外の建物」であって、「高額特定資産」または「調整対象自己建設高額資産」に該当するものをいいます(消費税法30条10項)。少しわかりにくい表現ですが、要するに「住宅として貸す目的の、税抜1,000万円以上の建物」とイメージするとよいでしょう。

1-1. 高額特定資産(税抜1,000万円以上)であること

居住用賃貸建物に該当するためには、まず高額特定資産であることが要件です。高額特定資産とは、一の取引の単位につき、課税仕入れに係る支払対価の額(税抜き)が1,000万円以上の棚卸資産または調整対象固定資産をいいます。したがって、税抜1,000万円未満の建物は、居住用であっても、この仕入税額控除の制限の対象外となります。

1-2. 「住宅の貸付けの用に供しないことが明らかな建物」は対象外

居住用賃貸建物は「住宅の貸付けの用に供しないことが明らかな建物以外の建物」と定義されています。裏を返せば、「住宅の貸付けの用に供しないことが明らかな建物」は、居住用賃貸建物に該当せず、仕入税額控除が可能です。国税庁の取扱い(消費税法基本通達11-7-1)では、次のような建物が「住宅の貸付けの用に供しないことが明らかな建物」の例として示されています。

「住宅の貸付けの用に供しないことが明らかな建物」の例
建物の全てが店舗等の事業用施設である建物など、その設備等の状況により住宅の貸付けの用に供しないことが明らかな建物
旅館またはホテルなど、旅館業法に規定する旅館業に係る施設の貸付けに供することが明らかな建物
棚卸資産として取得した建物であって、所有している間、住宅の貸付けの用に供しないことが明らかなもの

「住宅の貸付け」の範囲

消費税法上、「住宅の貸付け」は次のように整理されます(消費税法別表第一第十三号)。契約において人の居住の用に供することが明らかにされているもの、または契約で用途が明らかにされていない場合に貸付け等の状況からみて人の居住の用に供されていると認められるものが、住宅の貸付け(非課税)に該当します。事務所・店舗としての貸付けは課税取引であり、住宅の貸付けには含まれません。

2. なぜ仕入税額控除が制限されたのか

居住用賃貸建物の仕入税額控除が制限されるようになった背景には、消費税の「還付スキーム」の問題があります。

本来、住宅の家賃収入は非課税売上げです。非課税売上げに対応する課税仕入れ(建物の取得など)は、原則として仕入税額控除ができません。しかし、改正前は、建物の取得時に金の売買などで意図的に課税売上げを作出して課税売上割合を引き上げ、本来控除できないはずの建物の消費税の還付を受けるといった租税回避的なスキームが横行していました。

こうした不適切な還付を防止するため、令和2年度税制改正により、居住用賃貸建物の取得にかかる消費税は、課税売上割合などにかかわらず、取得時には一律で仕入税額控除の対象としないこととされました。この改正は、令和2年10月1日以後に行う居住用賃貸建物の課税仕入れから適用されています。

課税売上割合が高くても控除できない

この制限の重要な点は、課税売上割合が95%以上で他の課税仕入れは全額控除できる事業者であっても、居住用賃貸建物については仕入税額控除ができないということです。通常の仕入税額控除の制限(課税売上割合95%未満などで生じるもの)とは異なり、居住用賃貸建物は課税売上割合に関係なく、取得時には一律で控除が認められません。

3. 仕入税額控除が制限される範囲

3-1. 対象となる建物・対象とならない建物

仕入税額控除の制限の対象となるかどうかは、次のように整理できます。

仕入税額控除が制限される(対象) 仕入税額控除ができる(対象外)
居住用のアパート・マンション(税抜1,000万円以上) 店舗・事務所など事業用の建物
用途が居住用か事業用か明らかでない賃貸建物(税抜1,000万円以上) 旅館・ホテル(旅館業に係る施設)
  税抜1,000万円未満の建物

3-2. 居住用賃貸建物に該当するかどうかの判定時期

居住用賃貸建物に該当するかどうかは、原則として課税仕入れを行った日(建物を取得した日)の状況により判定します(消費税法基本通達11-7-2)。

ただし、課税仕入れを行った日には住宅の貸付けの用に供しないことが明らかでなかった建物(高額特定資産等に限る)であっても、その課税仕入れを行った日の属する課税期間の末日において、住宅の貸付けの用に供しないことが明らかにされたときは、居住用賃貸建物に該当しないものとして取り扱うことができます。つまり、取得時点では用途が未確定でも、期末までに事業用であることが明らかになれば、仕入税額控除が可能になります。

4. 居住用と事業用が混在する場合の合理的区分

1棟の建物の中に、住宅部分と店舗・事務所部分が混在しているケース(いわゆる店舗併用住宅など)があります。このような場合、建物全体が一律に仕入税額控除の制限を受けるわけではありません。

居住用賃貸建物のうち、住宅の貸付けの用に供しないことが明らかな部分(事業用部分)がある場合に、その建物を構造・設備の状況などにより住宅部分と事業用部分とに合理的に区分しているときは、その事業用部分については仕入税額控除が認められます(消費税法施行令50条の2第1項)。つまり、合理的に区分すれば、店舗・事務所部分の消費税は控除できるということです。

4-1. 合理的に区分する方法

「合理的に区分している」とは、建物の実態に応じた合理的な基準により区分していることをいいます(消費税法基本通達11-7-3)。具体的には、次のような基準が用いられます。

  • 使用面積割合:建物全体の床面積に占める事業用部分の床面積の割合で区分する方法
  • 使用面積に対する建設原価の割合:事業用部分の建設原価の割合で区分する方法

区分しなければ全体が制限の対象に

店舗併用住宅などで合理的な区分をしていない場合は、建物全体が居住用賃貸建物として仕入税額控除の制限を受けることになります。事業用部分の消費税を控除したい場合は、取得時に使用面積割合などで合理的に区分しておくことが重要です。

5. 調整計算①:課税賃貸用に転用した場合

取得時に仕入税額控除が制限された居住用賃貸建物でも、その後一定期間内に課税賃貸用(住宅の貸付け以外の貸付け、例えば事務所・店舗としての貸付け)に供した場合には、控除できなかった消費税の一部を取り戻すことができます。これを「居住用賃貸建物の仕入控除税額の調整計算」といいます(消費税法35条の2第1項)。

5-1. 調整の要件と「第三年度の課税期間」

課税賃貸用に転用した場合の調整は、次の要件を満たすときに行われます。

調整計算(転用)の要件

第三年度の課税期間の末日において、その居住用賃貸建物を有していること
調整期間内に、その居住用賃貸建物の全部または一部を課税賃貸用に供したこと

ここで重要な用語を整理します。「調整期間」とは、居住用賃貸建物の仕入れ等の日から、第三年度の課税期間の末日までの間をいいます。「第三年度の課税期間」とは、居住用賃貸建物の仕入れ等の日の属する課税期間の開始の日から3年を経過する日の属する課税期間をいいます。簡単に言えば、取得からおおむね3年以内に課税賃貸用に転用すれば調整の対象になる、ということです。

5-2. 加算する消費税額の計算(課税賃貸割合)

調整により仕入税額控除に加算される消費税額は、次の算式で計算します。

加算する消費税額 = 居住用賃貸建物の課税仕入れ等に係る消費税額 × 課税賃貸割合

課税賃貸割合 = 調整期間中の課税賃貸用の貸付けの対価の額 ÷ 調整期間中の貸付けの対価の額の合計額

この調整により加算された消費税額は、第三年度の課税期間の仕入れに係る消費税額に加算され、その課税期間の消費税の納付税額が減少(または還付)することになります。

6. 調整計算②:譲渡した場合

居住用賃貸建物を、調整期間内に他の者に譲渡した場合にも、控除できなかった消費税の一部を取り戻す調整計算が認められています(消費税法35条の2第2項)。建物の譲渡は課税取引であるため、課税売上げに対応する仕入れとして、消費税額の一部が控除可能となるためです。

6-1. 加算する消費税額の計算(課税譲渡等割合)

譲渡した場合に仕入税額控除に加算される消費税額は、次の算式で計算します。

加算する消費税額 = 居住用賃貸建物の課税仕入れ等に係る消費税額 × 課税譲渡等割合

課税譲渡等割合 =(課税譲渡等調整期間の課税賃貸用の貸付けの対価の額 + 譲渡の対価の額)
÷(課税譲渡等調整期間の貸付けの対価の額の合計額 + 譲渡の対価の額)

加算された消費税額は、譲渡をした課税期間の仕入れに係る消費税額に加算されます。

6-2. 具体的な計算例

設例:居住用賃貸建物を取得後に譲渡したケース

・居住用賃貸建物(税抜1億2,000万円)を取得
・取得時の課税仕入れに係る消費税額:1,200万円(取得時は仕入税額控除できず)
・調整期間内に住宅として賃貸(賃料収入の合計):4,500万円
・第三年度の課税期間中に当該建物を譲渡:譲渡対価 9,000万円

【課税譲渡等割合の計算】
課税譲渡等割合 = 9,000万円 ÷(4,500万円 + 9,000万円)= 9,000 ÷ 13,500 = 約66.67%

【加算する消費税額】
1,200万円 × 66.67% = 約800万円

この例では、取得時に控除できなかった消費税1,200万円のうち、約800万円を譲渡した課税期間の仕入税額控除に加算できることになります。賃貸期間中の家賃(非課税売上げ)に対応する部分は引き続き控除できませんが、譲渡(課税売上げ)に対応する部分は取り戻せる、という仕組みです。

7. 法人税・所得税での取扱い

税抜経理方式を採用している場合、取得時に仕入税額控除ができなかった居住用賃貸建物の消費税は、「控除対象外消費税額等」として、法人税法上または所得税法上の処理を行うことになります。

7-1. 控除対象外消費税額等としての損金算入

取得時に控除できなかった居住用賃貸建物の消費税(仮払消費税等)は、資産に係る控除対象外消費税額等に該当します。これは、その資産の取得価額に算入するか、または繰延消費税額等として5年(60か月)で損金算入するなどの方法で処理します(法人税法施行令139条の4)。控除対象外消費税額等の具体的な処理方法は、関連記事で詳しく解説しています。

7-2. 調整計算が行われた年度の取扱い(国税庁質疑応答事例)

居住用賃貸建物について、その後に課税賃貸用への転用や譲渡による調整計算が行われた場合、消費税の控除税額が増加します。この場合の法人税の取扱いについて、国税庁は質疑応答事例で次のように示しています。

調整計算が行われた課税期間(事業年度)では、控除対象仕入税額が増加するため、仮受消費税等から仮払消費税等を控除した金額と、実際に納付すべき消費税等の額との間に差額が生じます。この差額は、その調整計算が行われた事業年度の益金の額に算入されます。

また、この調整計算は資産を取得した課税期間の仕入控除税額を修正するものではないため、取得年度に生じた控除対象外消費税額等を遡及して修正する必要はありません

つまり、取得年度に控除対象外消費税額等として処理した内容はそのままで、調整計算が行われた年度において、増加した控除税額に相当する差額を益金(雑収入など)として処理する、ということです。過去の事業年度に遡って修正申告などを行う必要はありません。

消費税と法人税・所得税の橋渡し

居住用賃貸建物は、消費税(仕入税額控除の制限・調整計算)と法人税・所得税(控除対象外消費税額等の処理)の両方が関係する論点です。税抜経理方式を採用している場合の控除対象外消費税額等の処理については、別記事「控除対象外消費税の処理」で詳しく解説していますので、あわせてご確認ください。

8. まとめ

居住用賃貸建物の消費税の取扱いについて解説しました。重要なポイントを整理します。

居住用賃貸建物の消費税の重要ポイント

1. 仕入税額控除の制限
・令和2年10月1日以後取得分から適用
・居住用賃貸建物(税抜1,000万円以上の高額特定資産等)は取得時に仕入税額控除ができない
・課税売上割合が高くても控除できない

2. 対象外となる建物
・店舗・事務所など事業用の建物
・旅館・ホテル
・税抜1,000万円未満の建物

3. 合理的区分
・店舗併用住宅などは使用面積割合等で合理的に区分すれば事業用部分は控除可

4. 取得後の調整計算(おおむね3年以内)
・課税賃貸用に転用:課税賃貸割合を乗じた額を加算
・譲渡:課税譲渡等割合を乗じた額を加算
・第三年度の課税期間で調整

5. 法人税・所得税での取扱い
・取得時の控除できない消費税は控除対象外消費税額等として処理
・調整計算が行われた年度の差額は益金算入、過年度の遡及修正は不要

居住用賃貸建物の消費税は、仕入税額控除の制限、合理的区分、調整計算など、判断を誤ると税負担に大きく影響する論点が多くあります。特に不動産の取得・転用・譲渡を検討する際は、事前に顧問税理士などの専門家に相談することをおすすめします。

※本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の税務判断を保証するものではありません。実際の処理にあたっては、国税庁の最新情報や顧問税理士にご確認ください。

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