純資産の部を徹底解説|資本金・資本剰余金・利益剰余金の違いと構成

会計

貸借対照表は、資産の部・負債の部・純資産の部の3つに分かれます。このうち純資産は、資産から負債を差し引いた残り、つまり返済の必要がない自己資金であり、会社の体力そのものを表します。純資産の中心となるのが株主資本で、これは「株主が出した元手」と「会社が稼いで社内に残した利益」の2つの系統から成り立っています。

元手にあたるのが資本金と資本剰余金、稼いで残した利益にあたるのが利益剰余金です。これらは似た名前の項目が多く、資本準備金とその他資本剰余金、利益準備金と繰越利益剰余金などを混同しがちです。しかも、株主が出した資本の部分(資本取引)と、稼いだ利益の部分(損益取引)は、原則として混ぜてはいけないという重要なルールがあります。この記事では、純資産の部の全体構成と各項目の意味、資本取引と損益取引の区別、配当と利益準備金の関係までを、企業会計基準第5号と会社法に沿って整理します。

この記事のポイント
  • 純資産の部は株主資本と、評価・換算差額等・新株予約権などの株主資本以外の項目に分かれる
  • 株主資本=資本金+資本剰余金+利益剰余金-自己株式(控除項目)
  • 資本剰余金は資本準備金とその他資本剰余金、利益剰余金は利益準備金とその他利益剰余金に分かれる
  • その他利益剰余金は、任意積立金と繰越利益剰余金から成り、繰越利益剰余金が配当の主な原資になる
  • 資本取引(元手)と損益取引(利益)は原則混同しない。資本剰余金と利益剰余金は区別して管理する

純資産の部の全体構成

純資産の部は、株主に帰属する株主資本と、それ以外の項目に区分されます。中心は株主資本で、資本金・資本剰余金・利益剰余金と、控除項目である自己株式で構成されます。

大区分 内訳
株主資本 資本金/資本剰余金(資本準備金・その他資本剰余金)/利益剰余金(利益準備金・その他利益剰余金)/自己株式(控除)
評価・換算差額等 その他有価証券評価差額金・繰延ヘッジ損益・土地再評価差額金など
株式引受権 取締役等への事後交付型の株式報酬に係る項目
新株予約権 新株予約権(ストックオプション等)の残高

資本金と資本剰余金

資本金は、会社の設立や増資の際に、株主が事業の元手として払い込んだ財産のうち、資本金に組み入れた額です。会社法では、払込額の2分の1を超えない額は資本金に組み入れず、資本準備金とすることができます。資本剰余金は、株主からの払込みなど資本取引から生じる剰余金で、資本準備金とその他資本剰余金に分かれます。

項目 内容
資本金 払込額のうち資本金に組み入れた額。登記事項で、対外的な信用の目安になる
資本準備金 払込額のうち資本金に組み入れなかった部分(株式払込剰余金)。組織再編でも増加する
その他資本剰余金 資本金・資本準備金の取崩しによる剰余金や自己株式処分差益など。配当や自己株式取得の原資にもなる

利益剰余金

利益剰余金は、会社が稼いだ利益のうち、配当などで社外に出さず社内に留保した部分です。利益準備金とその他利益剰余金に分かれ、その他利益剰余金はさらに任意積立金と繰越利益剰余金に分かれます。

項目 内容
利益準備金 配当時に積み立てる法定準備金。会社債権者保護のため会社法で積立てが義務づけられている
任意積立金 別途積立金・事業拡張積立金など、会社の意思で目的に応じて積み立てる利益。積立・取崩しに決議が必要
繰越利益剰余金 使途を定めず繰り越された利益。当期純利益が累積し、配当の主な原資になる。マイナスは過去の損失の蓄積
繰越利益剰余金がマイナスなら、過去の損失が自己資金を削っているサインです。逆に利益剰余金が厚い会社は、外部に頼らず事業を続けられる余力があることを意味します。純資産の厚みは会社の財務的な体力を示します。

自己株式

自己株式は、会社が発行した株式のうち、自社で買い戻して保有しているものです。会計上は資産ではなく、資本の払戻しと同じ性格を持つと考えられるため、純資産の部の株主資本から控除する項目として、取得価額でマイナス表示します。自己株式の税務上の取扱いは自己株式の取得の税務で解説しています。

資本取引と損益取引の区別

純資産で最も重要な原則が、資本取引と損益取引を区別し、資本剰余金と利益剰余金を混同しないことです。資本剰余金は株主が出した元手(資本取引)から、利益剰余金は会社が稼いだ利益(損益取引)から生じるもので、性格が異なるため、原則として資本剰余金を利益剰余金に振り替えることはできません。これを混同すると、株主が出した元手をあたかも稼いだ利益であるかのように見せられてしまい、財務諸表が実態を表さなくなります。

例外として、その他利益剰余金(繰越利益剰余金)がマイナス(欠損)の場合に限り、その欠損を埋める目的で、その他資本剰余金を取り崩して補填(欠損填補)することが認められています(会社法452条)。ただし、繰越利益剰余金のマイナスを補填する限度でのみ可能で、資本剰余金を自由に利益剰余金へ振り替えられるわけではありません。

配当と利益準備金の積立

株主総会の決議で剰余金を配当するときは、繰越利益剰余金を取り崩します。このとき会社法により、配当額の10分の1を、資本準備金と利益準備金の合計が資本金の4分の1に達するまで、利益準備金として積み立てます。繰越利益剰余金から200万円を配当するケースの仕訳です。

借方 貸方
繰越利益剰余金 2,200,000 未払配当金 2,000,000
  利益準備金 200,000

配当200万円に対し、その10分の1の20万円を利益準備金として積み立てるため、繰越利益剰余金は合計220万円減少します。ただし、すでに準備金が資本金の4分の1に達している場合は、積立ては不要です。なお、他社から配当を受け取る側の課税は受取配当益金不算入で扱っています。

見落としやすい落とし穴

資本剰余金と利益剰余金を混同する

資本剰余金(元手)と利益剰余金(稼いだ利益)は性格が異なり、原則として混同できません。資本剰余金を利益剰余金に振り替えて利益があるように見せると、実態を表さない財務諸表になります。欠損填補などの限られた例外を除き、両者は区別して管理します。

配当時の利益準備金の積立てを忘れる

剰余金を配当するときは、原則として配当額の10分の1を準備金として積み立てます。これを忘れると会社法違反になります。準備金の合計が資本金の4分の1に達するまでが積立ての範囲で、達していれば積立ては不要です。配当のつど積立ての要否を確認します。

自己株式を資産に計上する

自己株式は資産ではなく、純資産の株主資本からの控除項目です。有価証券のように資産計上すると誤りです。取得価額で純資産からマイナス表示し、処分時の差額はその他資本剰余金で処理します。資本の払戻しという性格を踏まえて処理します。

分配可能額を超えて配当する

配当できる金額(分配可能額)は会社法で厳格に定められています。繰越利益剰余金があっても、分配可能額を超える配当はできません。債権者保護のための規制で、違反すると責任を問われます。配当前に分配可能額を確認します。

純資産を読む手順

手順 確認内容
1 純資産の中心である株主資本を確認し、資本金・資本剰余金・利益剰余金に分ける
2 資本金+資本剰余金が「株主が出した元手」、利益剰余金が「稼いで残した利益」と読む
3 繰越利益剰余金がプラスか確認。マイナスなら過去の損失の蓄積を意味する
4 自己株式(控除)や評価・換算差額等の有無を確認する
5 配当を検討する場合は、分配可能額と利益準備金の積立要否を確認する

想定Q&A(純資産の部)

Q1. 資本金と資本準備金はどう違いますか

払込額を資本金に組み入れたか否かで分かれます。株主の払込額のうち、資本金にした部分が資本金、資本金にしなかった部分が資本準備金だからです。反対に、会社法では払込額の2分の1を超えない額を資本金に組み入れず資本準備金とすることができます。どちらも株主が出した元手ですが、資本金は登記事項である点が異なります。

Q2. 資本剰余金と利益剰余金はなぜ区別するのですか

出どころの性格が違うからです。資本剰余金は株主が出した元手(資本取引)、利益剰余金は会社が稼いだ利益(損益取引)から生じ、両者を混同すると元手を利益のように見せられてしまうからです。反対に、区別しておくことで、会社がどれだけ自力で稼いだかが明確になります。原則として資本剰余金を利益剰余金に振り替えることはできません。

Q3. 繰越利益剰余金とは何ですか

社内に留保された利益の累積です。毎期の当期純利益が積み上がり、配当や積立てに回されなかった分が繰り越されたものだからです。反対に、繰越利益剰余金がマイナスなら、過去の損失が自己資金を削っていることを意味します。配当の主な原資であり、会社の利益の蓄積を示す重要な項目です。

Q4. 利益準備金はなぜ積み立てるのですか

会社債権者を保護するためです。配当で利益が社外に流出しすぎないよう、一定額を社内に確保しておく仕組みとして、会社法が積立てを義務づけているからです。反対に、資本準備金と利益準備金の合計が資本金の4分の1に達すれば、それ以上の積立ては不要です。配当額の10分の1が積立ての目安です。

Q5. 任意積立金と繰越利益剰余金の違いは何ですか

使い道を定めているかどうかです。任意積立金は事業拡張や配当平均など目的を決めて積み立てた利益で、積立・取崩しに決議が必要な一方、繰越利益剰余金は使途を定めずそのまま繰り越した利益だからです。反対に、どちらも会社が稼いで残した利益である点は同じで、その他利益剰余金に含まれます。目的の有無で区別します。

Q6. 自己株式はなぜマイナス表示ですか

資本の払戻しと同じ性格だからです。自己株式の取得は、株主に会社の財産を払い戻す行為に近く、資産の取得ではないため、純資産の株主資本から控除する項目として扱うからです。反対に、自己株式を処分すれば新株発行に近い性格となり、差額はその他資本剰余金で処理します。取得価額でマイナス表示します。

Q7. 評価・換算差額等とは何ですか

時価評価による評価差額などを計上する区分です。その他有価証券の評価差額金や繰延ヘッジ損益など、払込資本でも損益計算書を経由した利益剰余金でもない項目を、株主資本と区別して純資産に計上するからです。反対に、これらは実現していない評価差額のため、株主資本とは別の区分に表示します。損益に入らない評価差額の受け皿です。

Q8. その他資本剰余金は配当に使えますか

使えます。その他資本剰余金は剰余金の一つで、会社法上、配当の原資にできるからです。反対に、資本剰余金からの配当は元手の払戻しに近い性格を持つため、受け取る株主側の税務上の扱い(みなし配当など)が利益剰余金からの配当と異なることがあります。配当の原資がどの剰余金かで、税務上の性格が変わる点に注意します。

Q9. 欠損填補とは何ですか

繰越利益剰余金のマイナスを埋める処理です。その他利益剰余金が欠損(マイナス)のとき、その他資本剰余金を取り崩してそのマイナスを補填することが、例外的に認められているからです。反対に、これは資本剰余金と利益剰余金の混同禁止の例外で、マイナスを補填する限度でのみ可能です。無制限に資本剰余金を利益に振り替えられるわけではありません。

Q10. 資本金は多いほどよいのですか

一概にそうとはいえません。資本金は対外的な信用の目安になる一方、金額によって税務上の中小企業向け特例の適用や、法人住民税の均等割などの負担が変わるからです。反対に、資本金を大きくしすぎると、中小企業向けの軽減措置を受けられなくなることもあります。信用と税負担のバランスを踏まえて決めます。

Q11. 純資産がマイナスだとどうなりますか

債務超過の状態を意味します。純資産は資産から負債を引いた額で、これがマイナスということは、負債が資産を上回っているからです。反対に、債務超過でも直ちに倒産するわけではありませんが、資金調達や取引に不利になり、財務の立て直しが必要なサインです。利益剰余金の回復や増資などで純資産を厚くすることが課題になります。

まとめ

純資産の部の中心は株主資本で、資本金・資本剰余金・利益剰余金と、控除項目の自己株式から成ります。資本金と資本剰余金は株主が出した元手、利益剰余金は会社が稼いで残した利益で、この2つは資本取引と損益取引として区別し、原則混同しません。利益剰余金は利益準備金と、任意積立金・繰越利益剰余金から成るその他利益剰余金に分かれ、繰越利益剰余金が配当の主な原資です。配当時には利益準備金の積立てや分配可能額の確認が必要です。純資産の厚みは会社の体力を表します。

この記事のまとめ
  • 株主資本=資本金+資本剰余金+利益剰余金-自己株式(控除)
  • 資本剰余金は資本準備金・その他資本剰余金、利益剰余金は利益準備金・その他利益剰余金に分かれる
  • その他利益剰余金は任意積立金と繰越利益剰余金。繰越利益剰余金が配当の主な原資
  • 資本取引(元手)と損益取引(利益)は原則混同しない。欠損填補は限られた例外
  • 配当時は配当額の10分の1を準備金として積立て(資本金の4分の1まで)、分配可能額を確認する

※本記事は作成時点の会計基準・法令および公表資料(企業会計基準第5号「貸借対照表の純資産の部の表示に関する会計基準」、企業会計基準第1号「自己株式及び準備金の額の減少等に関する会計基準」、会社法445条・446条・448条・452条・461条、会社計算規則等)に基づく一般的な解説です。仕訳例は簡略な設例です。制度・取扱いは改正により変わる場合があるため、個別の判断は最新の基準・法令の確認、または顧問税理士・公認会計士へのご相談をおすすめします。

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