土地や建物を売って利益が出ると、その利益(譲渡所得)に所得税・住民税がかかります。ところがこの譲渡所得は、給与や事業の所得とはまったく別の仕組みで課税される「分離課税」で、しかも所有していた期間によって税率が約2倍も変わるという独特の性質を持っています。さらに、税額を左右する最大の要素である「取得費」は、昔の資料が残っていないと大きく不利になることもあります。
言い換えると、不動産の譲渡所得は「いくらで売ったか」よりも「取得費と特例をどう組み立てるか」で手取りが決まる税金です。本記事では、譲渡所得の計算の全体像から、長期・短期の税率、取得費・譲渡費用の中身、マイホームの3,000万円特別控除や軽減税率といった特例、そして申告手続きと落とし穴まで、国税庁タックスアンサー(No.1440・3208・3211・3252・3302・3305ほか)に沿って実務目線で整理します。
- 不動産の譲渡所得は給与等と分けて計算する分離課税。譲渡益=収入金額-(取得費+譲渡費用)-特別控除
- 税率は所有期間で激変。長期(売却年1月1日で所有5年超)は20.315%、短期(5年以下)は39.63%
- 取得費が不明なら概算取得費(収入金額の5%)。建物は減価償却相当額を差し引く
- マイホームなら3,000万円特別控除、所有10年超なら軽減税率(14.21%)も併用できる
- 相続・贈与でもらった不動産は、前の所有者の取得日と取得費を引き継ぐ
譲渡所得の計算の全体像
土地・建物の譲渡所得は、次の式で計算します。給与所得などと合算せず、この所得だけを取り出して税率を掛ける「申告分離課税」である点が、まず押さえるべき基本です。
税額 = 課税譲渡所得金額 × 税率(所有期間により長期・短期で異なる)
| 要素 | 中身 |
|---|---|
| 収入金額 | 売買代金。買主から受け取る未経過固定資産税・都市計画税の精算金も収入金額に算入する |
| 取得費 | 買ったときの購入代金・購入手数料・改良費など。建物は減価償却相当額を差し引く。不明なら概算取得費(収入金額の5%) |
| 譲渡費用 | 売るために直接かかった費用。仲介手数料・売買契約書の印紙代・測量費・立退料・建物の取壊し費用など |
| 特別控除 | 一定の要件を満たす場合のみ。居住用財産の3,000万円特別控除など |
長期・短期の区分と税率
不動産の譲渡所得は、所有期間によって「長期譲渡所得」と「短期譲渡所得」に分かれ、税率が大きく変わります。ここを間違えると税額が倍近くずれるため、最初に正確に判定します。
判定の基準日は「売った年の1月1日」
長期・短期の分かれ目は所有期間5年ですが、この5年は売った日ではなく、売った年の1月1日時点で判定します。取得日の翌日から売却年の1月1日までの期間が5年を超えていれば長期、5年以下なら短期です。実際の保有が5年を過ぎていても、1月1日基準では5年以下となり短期になるケースがあるため注意が必要です。
| 区分 | 所有期間(売却年1月1日時点) | 税率(所得税+住民税、復興特別所得税込み) |
|---|---|---|
| 長期譲渡所得 | 5年超 | 合計20.315% (所得税15%+復興0.315%+住民税5%) |
| 短期譲渡所得 | 5年以下 | 合計39.63% (所得税30%+復興0.63%+住民税9%) |
復興特別所得税は、所得税額に対して2.1%を上乗せするもので、令和19年(2037年)分まで課されます。長期なら所得税15%の2.1%で0.315%、短期なら所得税30%の2.1%で0.63%が加算されます。相続や贈与で取得した不動産は、前の所有者(被相続人・贈与者)の取得日を引き継ぐため、自分の保有が短くても長期になることが多い点も覚えておきましょう。
取得費:税額を最も左右する項目
取得費は、売った不動産を手に入れたときの購入代金や購入手数料、その後の改良費などの合計です。譲渡所得の計算で最も金額が大きく、ここをどう把握するかで税額が大きく変わります。
建物は減価償却相当額を差し引く
土地は減価しませんが、建物は使ううちに価値が下がるため、取得費は建物の購入代金から所有期間中の減価償却相当額を差し引いて計算します。自宅など非業務用の建物は、建物取得価額に0.9を乗じ、法定耐用年数の1.5倍の年数に応じた償却率と経過年数を掛けて減価償却相当額を求めます。事業用(店舗・賃貸物件など)は、実際に計上してきた減価償却費の累計を差し引きます。
取得費が分からないときは「概算取得費(5%)」
先祖代々の土地や、購入時の契約書を紛失した不動産では、取得費が分からないことがあります。この場合は収入金額の5%を取得費(概算取得費)とすることができます。また、実際の取得費が判明していても、それが収入金額の5%より少ないときは、概算取得費(5%)を使うほうが有利です。実額と概算のどちらか有利な方を選べます。
譲渡費用に含まれるもの・含まれないもの
譲渡費用は「売るために直接かかった費用」に限られます。保有中の費用や、売却に直接関係しない支出は含められません。混同しやすいので、含まれるものと含まれないものを整理します。
| 譲渡費用に含まれる | 譲渡費用に含まれない |
|---|---|
| 仲介手数料 売買契約書の印紙代 測量費 売却のために支払った立退料 建物を取り壊して土地を売るときの取壊し費用 |
保有中の修繕費・維持費 保有中の固定資産税 抵当権抹消の登記費用 引越し費用 売却代金の取立て費用 |
マイホーム・相続不動産の特例
譲渡所得には、税負担を大きく軽くする特例がいくつもあります。とくにマイホーム(居住用財産)の特例は効果が大きく、使えるかどうかで税額がまったく変わります。主な特例を、内容・要件・併用の可否で比較します。
| 特例 | 内容 | 主な要件・併用 |
|---|---|---|
| 居住用3,000万円特別控除 | 譲渡益から最高3,000万円を控除 | マイホームであること。住まなくなって3年後の年末までに売却。前年・前々年に同特例未適用。親族等への売却でないこと。軽減税率と併用可 |
| 10年超所有の軽減税率 | 課税長期譲渡所得のうち6,000万円以下の部分を14.21%、超える部分を20.315%で課税 | 売却年1月1日で家屋・敷地とも所有10年超。親族等への売却でないこと。3,000万円控除と併用可 |
| 特定居住用財産の買換え特例 | 課税を将来の売却時まで繰り延べ(非課税ではない) | 所有・居住10年超、売却1億円以下ほか。3,000万円控除・軽減税率とは併用不可 |
| 取得費加算の特例 | 支払った相続税の一部を取得費に加算できる | 相続財産を、相続税の申告期限の翌日から3年以内に売却。3,000万円控除等と併用可 |
| 相続空き家の3,000万円特別控除 | 被相続人が住んでいた空き家の売却で最高3,000万円を控除 | 昭和56年5月31日以前建築・区分所有以外・一定の耐震改修または取壊しほか。別記事で詳述 |
とくに使い分けで迷いやすいのが、居住用の3,000万円特別控除・軽減税率と買換え特例です。3,000万円控除と軽減税率は併用できる一方、買換え特例はこれらと併用できず、しかも買換え特例は非課税ではなく課税の繰延べ(先送り)にすぎません。多くのケースでは、まず3,000万円控除+軽減税率で足りるかを検討し、それで課税が残る高額譲渡のときに買換え特例を比較するのが実務の順序です。相続した空き家を売る場合は、相続空き家の3,000万円特別控除の要件も確認してください。
計算例で確認する
ここまでの内容を、具体的な数字で確認します。所有10年超のマイホームを売ったケースです。
(1) 課税前の譲渡益 = 1億円 – 4,000万円 = 6,000万円
(2) 3,000万円特別控除後 = 6,000万円 – 3,000万円 = 3,000万円
(3) 所有10年超なので軽減税率を適用。3,000万円は6,000万円以下なので全額14.21%
(4) 税額 = 3,000万円 × 14.21% = 約426万円
仮に取得費が不明で概算取得費(5%=500万円)しか使えず、特例も使えない短期譲渡だった場合、課税譲渡所得は約9,300万円、税率39.63%で税額は約3,685万円にもなります。取得費の把握と特例の適用が、いかに税額を左右するかが分かります。
申告と納付の手続き
不動産を売って譲渡所得が生じた場合や、特例の適用を受ける場合は、確定申告が必要です。分離課税なので、確定申告書に加えて分離課税用の申告書(第三表)と譲渡所得の内訳書を使います。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 申告時期 | 売却した年の翌年2月16日から3月15日まで |
| 主な添付書類 | 譲渡所得の内訳書、売買契約書の写し、取得費・譲渡費用の領収書、特例ごとの必要書類(住民票・登記事項証明書等) |
| 所得税の納付 | 確定申告期限(原則3月15日)までに納付 |
| 住民税 | 確定申告の内容をもとに、その年の6月以降に課税・納付(普通徴収または給与天引き) |
よくある落とし穴
所有期間は売却年の1月1日で判定します。2020年3月取得・2025年5月売却は、実保有は5年超でも、2025年1月1日時点では4年10か月で短期です。あと1年待てば税率が39.63%から20.315%に下がるケースもあり、売却時期の1点で税額が倍近く変わります。
契約書が見つからないからと安易に5%で申告すると、実際の取得費との差額が課税されます。購入時の資料や、当時のローン残高証明・通帳などから取得費を合理的に説明できる場合もあります。まず探すのが鉄則です。
買換え特例と3,000万円控除は併用できません。マイホームを売って買い換える場合、3,000万円控除・軽減税率を使うと、買換先の住宅ローン控除が同時期に受けられません。有利判定を必ず事前に行ってください。
売買時に買主から受け取る固定資産税・都市計画税の精算金は、譲渡収入金額に算入します。売買代金だけで計算すると収入の計上漏れになります。
譲渡所得を計算する判断フロー
不動産の譲渡所得は、次の順序で考えると漏れなく計算できます。
| 手順 | やること |
|---|---|
| 1 | 売った不動産の種類(居住用・事業用・更地など)を確認する |
| 2 | 収入金額を把握する(売買代金+未経過固定資産税の精算金) |
| 3 | 取得費を計算する(実額と概算5%の有利判定。建物は減価償却を控除) |
| 4 | 譲渡費用を集計する(仲介手数料・印紙・測量・取壊し等) |
| 5 | 所有期間を売却年1月1日で判定する(5年超=長期、5年以下=短期) |
| 6 | 使える特例を確認する(3,000万円控除・軽減税率・買換え・取得費加算・空き家) |
| 7 | 課税譲渡所得×税率で税額を計算する |
| 8 | 売却の翌年2月16日から3月15日に分離課税で確定申告・納付する |
想定Q&A
Q1. 売って損失(赤字)が出たら税金はどうなりますか
土地・建物の譲渡損失は、原則として給与など他の所得と損益通算できません(分離課税のため)。ただし、一定の要件を満たすマイホームの買換えや売却で生じた譲渡損失は、例外的に他の所得と損益通算し、控除しきれない分を翌年以降に繰り越せる特例があります。マイホーム以外の不動産の損失には、この救済はありません。
Q2. 所有期間5年は売った日から数えるのですか
いいえ。売った年の1月1日時点で5年を超えているかで判定します。実際の保有が5年を過ぎていても、1月1日基準では5年以下となり短期になることがあります。長期と短期では税率が20.315%と39.63%で倍近く違うため、売却時期の判断は慎重に行ってください。
Q3. 実家が古く、取得費が分かりません
取得費が不明なときは概算取得費(収入金額の5%)を使えますが、これは多くの場合きわめて不利です。まずは購入時の売買契約書・領収書・当時の通帳・住宅ローンの契約書などを探してください。見つかれば実額で計算でき、税額を大きく下げられます。相続で取得した不動産なら、被相続人が買ったときの資料も探す価値があります。
Q4. 3,000万円控除で税金がゼロなら申告は不要ですか
必要です。3,000万円特別控除をはじめとする特例は、確定申告をして初めて適用されます。申告しないと特例が使えず、本来ゼロだった税額に課税されるおそれがあります。税額がゼロでも必ず申告してください。
Q5. 相続した土地を売りました。取得費はどうなりますか
相続・贈与で取得した不動産は、被相続人・贈与者の取得日と取得費を引き継ぎます。したがって、亡くなった方が昔いくらで買ったかが取得費になります。加えて、相続税を払っている場合は、相続税の申告期限の翌日から3年以内に売れば、支払った相続税の一部を取得費に加算できる「取得費加算の特例」も使えます。
Q6. 3,000万円控除と住宅ローン控除は一緒に使えますか
同じ時期には併用できません。マイホームを売って新居を買う場合、売却で3,000万円控除や軽減税率を使うと、その年の前後2年に入居した新居では住宅ローン控除が受けられなくなります。売却益への課税を抑えるか、買換先で住宅ローン控除を取るか、どちらが有利かを必ず試算してください。
Q7. 抵当権の抹消費用や引越し代は譲渡費用になりますか
なりません。譲渡費用は「売るために直接かかった費用」に限られます。仲介手数料・印紙代・測量費・立退料・取壊し費用は含まれますが、抵当権抹消の登記費用、引越し代、保有中の修繕費・固定資産税は含まれません。
Q8. 夫婦の共有名義の家を売ったらどう計算しますか
共有の場合は、持分割合に応じて各人がそれぞれ譲渡所得を計算します。居住用の3,000万円特別控除も、要件を満たせば共有者それぞれが最高3,000万円まで使えます。夫婦共有のマイホームなら、合計で最大6,000万円の控除になり得ます。
Q9. 概算取得費と実額は選べますか
選べます。実際の取得費が判明していても、それが収入金額の5%より少なければ、概算取得費(5%)を使ったほうが有利です。逆に実額が5%を超えるなら実額を使います。有利な方を選択できるため、両方を計算して比べるのが実務です。
Q10. 店舗や賃貸アパートを売った場合も同じ計算ですか
譲渡所得の基本の計算構造(収入-(取得費+譲渡費用)-特別控除)や長期・短期の税率は同じです。ただし、建物取得費の減価償却は、事業用は実際に計上してきた減価償却費の累計で計算します。また、居住用財産の3,000万円特別控除や軽減税率は原則としてマイホームが対象で、事業用不動産には使えません。事業用は事業用の買換え特例など別の制度を検討します。
Q11. 未経過固定資産税の精算金も収入になりますか
なります。売買のときに買主から受け取る、引渡し後の期間分の固定資産税・都市計画税の精算金は、譲渡収入金額に算入します。売買代金だけで計算すると収入の計上漏れになるため注意してください。
まとめ
不動産の譲渡所得は、収入金額から取得費と譲渡費用、特別控除を差し引いて計算する分離課税の所得です。税率は所有期間で大きく変わり、売却年1月1日で5年超なら長期20.315%、5年以下なら短期39.63%です。税額を最も左右するのは取得費で、不明な場合の概算取得費(5%)は不利になりがちなため、購入時の資料を徹底的に探すことが節税の第一歩です。マイホームなら3,000万円特別控除と10年超の軽減税率を併用でき、相続不動産なら取得日・取得費の引継ぎや取得費加算の特例が使えます。特例は申告して初めて適用されるため、税額がゼロでも確定申告を忘れないようにしましょう。
- 譲渡所得=収入金額-(取得費+譲渡費用)-特別控除。給与等と分ける分離課税
- 長期(売却年1月1日で5年超)20.315%、短期(5年以下)39.63%
- 取得費が不明なら概算取得費(5%)。建物は減価償却相当額を控除
- マイホームは3,000万円特別控除+10年超軽減税率(14.21%)を併用可
- 相続・贈与は前所有者の取得日・取得費を引継ぎ。取得費加算の特例も
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※本記事は作成時点の法令・公表資料(所得税法、租税特別措置法、国税庁タックスアンサーNo.1440・No.3208・No.3211・No.3252・No.3258・No.3302・No.3305等)に基づく一般的な解説です。特例の適用要件や税額は個別の事実関係により異なります。具体的な判断は、最新の条文・国税庁資料の確認、または税理士へのご相談をおすすめします。

