事業供用日と減価償却の開始時期を徹底解説|取得の日との違い・資産別の判定・月割償却

会計

高い機械や車を買っても、買った日からすぐ減価償却できるとは限りません。減価償却の起点は、資産を取得した日ではなく、事業の用に供した日だからです。取得と使用開始の間に時間があくと、償却を始められる時期がずれ、その期に落とせる償却費が変わります。

本記事では、取得の日と事業の用に供した日の違い、事業の用に供した日の意味、資産ごとの判定の考え方、稼働前や稼働休止の扱い、そして期中に供用したときの月割償却を、条文と国税庁の取扱いに沿って整理します。取得価額そのものの範囲は「固定資産の取得価額と付随費用を参照してください。

この記事のポイント
  • 減価償却は取得の日ではなく、事業の用に供した日から始まります。
  • 事業の用に供した日とは、その資産を本来の目的で使用し始めた日です。
  • 機械の搬入や試運転の段階では、まだ事業の用に供したとはいえません。
  • 賃貸建物は、入居がなくても入居募集を始めれば供用とみなされます。
  • 期の中途で供用したときは、供用月から期末までの月割で償却します。

取得の日と事業の用に供した日は違う

減価償却費を計上できるのは、取得の日ではなく事業の用に供した日からです。この2つは似ていますが、意味する時点が異なります。会計ソフトの固定資産台帳でも、両方の日付を分けて入力するようになっています。

用語 意味する時点
取得の日 引渡しを受けた日(検収する場合は検収終了日)
事業の用に供した日 本来の目的で使用を開始した日

引渡しを受けても、据付や試運転が残っていれば、まだ事業の用に供したとはいえません。減価償却の計算の起点はあくまで事業の用に供した日である点を押さえておきます。

事業の用に供した日とは

国税庁No.5400-2によれば、事業の用に供した日とは、その減価償却資産のもつ属性に従って本来の目的のために使用を開始するに至った日をいいます。たとえば機械を購入した場合、工場に搬入しただけでは足りず、据え付けて試運転を完了し、製品の生産を開始した日が事業の用に供した日です。

ただし、物理的に使い始めた日だけを指すわけではありません。賃貸マンションのように、建物が完成して現実の入居がなくても、入居募集を始めていれば事業の用に供したものと考えられます。資産の業種や使い方を総合的に見て判断します。

資産の例 供用日となる時点
機械装置 据付・試運転を終え生産を開始した日
車両 登録し業務に使い始めた日
賃貸建物 入居募集を開始した日
パソコン・備品 設定を終え業務で使い始めた日

稼働前と稼働休止の扱い

まだ稼働していない資産は、原則として減価償却できません。倉庫に置いたままの機械や、据付前の設備は、事業の用に供していないため償却の対象外です。一方、いったん使い始めた資産を一時的に止めている場合は、扱いが変わります。

稼働休止資産は償却できる
稼働を休止している資産でも、その休止期間中に必要な維持補修が行われ、いつでも稼働できる状態にあるものは、減価償却資産として償却できます。単に使っていないのではなく、すぐに再稼働できる状態を保っていることが条件です。

期の中途で供用したときの月割

事業年度の途中で事業の用に供した資産は、1年分の償却費をまるまる計上できるわけではありません。供用した月から期末までの月数に応じて、月割で償却します。供用が期末に近いほど、その期の償却費は小さくなります。

計算例(3月決算・1年分の償却費120万円)
10月に事業の用に供した場合、供用月の10月から期末の3月まで6か月です。その期の償却費 = 120万円 × 6か月 ÷ 12か月 = 60万円となります。供用が2月なら2か月分の20万円にとどまります。

なお、取得価額が少額の資産は、供用した年度に全額または3年で費用にできる特例があります。これらの特例も事業の用に供したことが起点になる点は同じです。詳しくは「少額減価償却資産」や「一括償却資産」を参照してください。

供用日を裏づける資料

いつ事業の用に供したかは、後から客観的に示せるようにしておきます。とくに大きな設備投資では、供用日が争点になりやすいため、記録を残すことが重要です。

資料 示すこと
検収書・稼働記録 試運転を終え稼働を始めた日を示す
入居募集の記録 賃貸建物の供用開始日を示す
電気・水道の使用開始 実際に使い始めた時期を裏づける

実務でありがちな落とし穴

落とし穴1:取得の日から償却を始めてしまう
引渡しや検収を受けた取得の日ではなく、事業の用に供した日が償却の起点です。取得日で償却を始めると、供用前の期間まで償却したことになり、否認される可能性があります。
落とし穴2:決算月に取得すれば必ず償却できると思う
決算月に取得・搬入しても、据付や試運転が終わらず供用が翌期になると、償却はその翌期からです。決算月に取得したのに供用は翌事業年度と判断された事例もあり、大きな設備投資では特に注意が必要です。
落とし穴3:賃貸物件を放置したまま償却する
賃貸建物は入居募集を始めれば供用とみなせますが、募集もせず貸せる状態にもない物件は供用とはいえません。仲介業者への募集依頼もなく、すぐ賃貸できない状態では、減価償却が認められなかった事例があります。
落とし穴4:1年分の償却費を全額計上する
期の中途で供用した資産は、供用月から期末までの月割です。期の後半に供用したのに1年分を計上すると過大償却になります。供用月を正しく把握して月数按分してください。

償却開始の判断フロー

確認する内容
1 引渡し・検収を受けたか。これは取得の日であり償却開始ではない
2 据付・試運転を終え、本来の目的で使用を開始したか
3 賃貸なら入居募集を始めたか。始めていれば供用とみなせる
4 供用月から期末までの月数で月割償却する
判定 供用日を裏づける資料を保存しておく

想定問答

問1 減価償却はいつから始められますか

結論として、事業の用に供した日から始められます。理由は、税法が減価償却費の計上を取得の日ではなく事業の用に供した日を起点としているためです。取得しても、据付や試運転が残っていて本来の目的で使えていない間は償却できません。使用を開始した日を正しく把握することが出発点です。

問2 取得の日と事業の用に供した日はどう違いますか

結論として、取得の日は引渡しや検収を受けた日、事業の用に供した日は本来の目的で使用を開始した日です。理由は、資産を手に入れることと、実際に事業で使い始めることが別の段階だからです。両者が同じ日になることもありますが、据付や試運転を要する資産ではずれます。償却の起点は後者です。

問3 機械を搬入しただけでは償却できませんか

結論として、搬入だけでは償却できません。理由は、工場に搬入した段階では本来の目的で使用を開始したとはいえないためです。据え付けて試運転を完了し、製品の生産を開始した日が事業の用に供した日になります。試運転や技術指導を受けている段階も、まだ供用とはいえないと解されています。

問4 賃貸物件は入居がなくても償却できますか

結論として、入居募集を始めていれば償却できます。理由は、賃貸建物は現実の入居がなくても、入居募集を開始すれば事業の用に供したと考えられるためです。ただし、募集もせず、すぐに貸せる状態にもない物件は供用とはいえません。募集の記録を残しておくことが大切です。

問5 使っていない設備も償却できますか

結論として、まだ稼働していない設備は償却できませんが、稼働休止中の設備は条件つきで償却できます。理由は、いったん供用した資産を一時的に止めている場合は、事業用資産としての性格を失っていないためです。休止期間中も必要な維持補修を行い、いつでも稼働できる状態を保っていることが条件です。据付前でまだ稼働したことのない設備は対象外です。

問6 決算月に買えばその期に償却できますか

結論として、決算月に供用まで完了すればその期に月割で償却できますが、供用が翌期になると翌期からです。理由は、償却の起点が取得ではなく供用だからです。決算月に取得・搬入しても、据付や試運転が終わらず供用が翌事業年度になれば、その期には償却できません。決算対策で駆け込み取得する場合は、供用まで間に合うかを確認してください。

問7 期の途中で供用した場合の償却費はどう計算しますか

結論として、供用月から期末までの月数で月割します。理由は、その事業年度に事業の用に供していた期間に応じて償却するためです。1年分の償却費が120万円で、10月に供用し3月決算なら、10月から3月までの6か月分で60万円です。1か月未満の端数は1か月として数えます。

問8 中古資産を買った場合の償却開始も同じですか

結論として、償却開始が事業の用に供した日である点は中古でも同じです。理由は、供用日を起点とする取扱いは新品か中古かで変わらないためです。中古資産は耐用年数の見積りに簡便法があり新品と異なりますが、償却を始める時期は供用日です。中古の耐用年数は「中古資産の耐用年数」を参照してください。

問9 供用日はどうやって証明しますか

結論として、検収書や稼働記録、入居募集の記録、電気や水道の使用開始などで示します。理由は、供用日は税務調査で争点になりやすく、客観的な裏づけが必要だからです。機械なら試運転完了と生産開始の記録、賃貸建物なら募集を始めた日の記録が有効です。大きな設備投資ほど、供用日の証拠を意識して残しておきます。

問10 なぜ取得ではなく供用が起点なのですか

結論として、減価償却が資産を事業に使うことで生じる価値の減少を費用に配分する制度だからです。理由は、まだ使っていない資産は事業に貢献しておらず、価値の減少も始まっていないと考えられるためです。したがって、収益を生み始める供用の時点から、対応する費用として償却を始めるのが理にかなっています。

まとめ
  • 減価償却は取得の日ではなく、事業の用に供した日から始まります。
  • 事業の用に供した日は、本来の目的で使用を開始した日で、搬入や試運転だけでは足りません。
  • 賃貸建物は入居募集を始めれば供用とみなせます。
  • 稼働休止資産は、維持補修をしていつでも稼働できるなら償却できます。
  • 期の中途供用は供用月から月割。供用日の資料を残しておきます。
出典・参考

※本記事は令和8年8月時点の法令および公表資料(法人税法31条、同法施行令13条・59条、法人税基本通達7-1-2・7-1-3、国税庁タックスアンサーNo.5400-2)に基づく一般的な解説です。事業の用に供した日の判定は資産の業種・業態や使用状況により異なり、個別の事実認定を要します。具体的な判断は、顧問税理士または所轄の税務署にご確認ください。

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