修繕のための支出であっても、資産の使用可能期間を延長させたり価値を増加させたりするものは、その効果が将来にわたって及びます。支出した期に一括して費用にすると、効果の及ぶ期間と費用の計上時期がずれるため、資本的支出は資産として計上し減価償却を通じて配分することになります。ここまでは修繕費との区分の話です。
問題はその先で、資本的支出と判定された金額をどう償却するかです。平成19年度改正により、資本的支出は原則として本体とは別個の新たな資産を取得したものとして扱われることになりました。物理的には一体でありながら税務上は2つの資産として管理する構造で、ここに複数の特例が重なるため実務が複雑になっています。本記事では法人税法施行令55条に即して整理します。修繕費との区分そのものは修繕費と資本的支出の区分をご覧ください。
原則は別個の資産として償却する
法人税法施行令55条1項は、法人が有する減価償却資産について資本的支出を行った場合、その支出金額を取得価額として、本体と種類および耐用年数を同じくする減価償却資産を新たに取得したものとすると定めています。本体はそれまでの償却を継続し、資本的支出は別の資産として新たに償却を開始する形です。
| 項目 | 原則の取扱い |
|---|---|
| 取得価額 | 資本的支出の金額そのもの |
| 種類と耐用年数 | 本体と同じものを用いる |
| 取得日 | 資本的支出をした日。その日から月割で償却する |
| 償却方法 | その資産の種類について選定している方法 |
| 本体の扱い | 従来の償却方法と耐用年数のまま償却を継続する |
耐用年数は本体と同じものを使う点が重要です。残存耐用年数ではなく、本体に適用される法定耐用年数をあらためて最初から適用します。したがって、取得から15年経過した耐用年数22年の建物に資本的支出をすれば、その資本的支出部分は22年かけて償却することになります。本体が償却を終えた後も資本的支出部分の償却が続く形です。
平成19年3月31日以前取得資産への加算特例
平成19年3月31日以前に取得した減価償却資産に資本的支出をした場合には、原則によらず、その支出金額を本体の取得価額に加算することができます(法令55条2項)。この場合は加算後の金額全体について、本体の種類・耐用年数・償却方法に基づいて償却します。旧定額法や旧定率法を適用している資産であれば、その方法のまま全体を償却する形です。
| 区分 | 原則 | 加算特例 |
|---|---|---|
| 償却方法 | 本体は旧方法を継続し支出分は新方法 | 全体を従来の旧方法で償却する |
| 管理 | 台帳に2行で管理 | 台帳に1行で管理 |
| 償却限度額 | それぞれ別に計算 | 合算後の金額で一括計算 |
| 変更 | 後から特例へ移れない | 一度適用すると戻せない |
定率法採用資産の合算特例
本体と資本的支出のいずれについても定率法を採用している場合、資本的支出をした事業年度の翌事業年度開始の時において、本体の帳簿価額と資本的支出の帳簿価額の合計額を取得価額とする一の減価償却資産を新たに取得したものとすることができます(法令55条4項)。台帳を1行に戻せるため、実務では最も多く使われる特例です。
注意すべきは、合算できるのは翌期首であって支出した期ではないという点です。資本的支出をした事業年度は、原則どおり本体と資本的支出を別個に償却します。台帳が2行になるのは1期だけで、翌期首に1行へ戻せるという流れです。
合算できない期間がある
定率法の償却率は改正により変遷しており、償却率が異なると合算特例を使えません。平成19年4月1日から平成24年3月31日までに取得した資産は250%定率法、平成24年4月1日以後に取得した資産は200%定率法が適用されます。前者に対して後者の期間に資本的支出をした場合、両者の償却率が異なるため合算は認められません。
| 本体の取得時期 | 資本的支出の時期 | 合算の可否 |
|---|---|---|
| 平成19年4月から平成24年3月 | 平成24年4月以後 | できない |
| 平成24年4月以後 | 平成24年4月以後 | できる |
取扱いの選び方
| 本体の状況 | 選べる取扱い |
|---|---|
| 平成19年3月31日以前に取得 | 原則または取得価額への加算特例 |
| 平成19年4月1日以後に取得し定額法 | 原則のみ。合算特例は定率法が前提のため使えない |
| 平成19年4月1日以後に取得し定率法 | 原則。償却率が同じなら翌期首に合算特例を選べる |
加算特例と合算特例のいずれについても、適用後に原則へ戻すことはできません。台帳管理の簡便さを取るか、資本的支出を別個に管理して除却時に個別対応できる余地を残すかという判断になります。とくに一部を将来撤去する可能性がある設備では、分離して管理しておく実益があります。
混同しやすい隣接論点との使い分け
結論を先に言い切ると、資本的支出は新たな資産の取得とされても少額減価償却資産や一括償却資産の対象にはならず、耐用年数は残存年数ではなく本体の法定耐用年数を用い、特別な償却の方法は本体と同じ方法によるなら改めての承認申請は不要です。
| 論点 | 資本的支出との関係 |
|---|---|
| 少額減価償却資産 | 資本的支出は新たな資産の取得とされても各種少額特例の対象にならない |
| 耐用年数 | 本体の残存年数ではなく本体と同じ法定耐用年数を最初から適用する |
| 特別な償却の方法 | 本体と同じ方法で計算するなら改めての承認申請は不要 |
| 中古資産の簡便法 | 事業供用までの資本的支出が一定額を超えると簡便法を使えなくなる |
中古資産における50%の判定は少額減価償却資産40万円への改正で扱う各種特例との使い分けとあわせて確認してください。償却方法そのものの選定は減価償却の定額法と定率法の違いと減価償却資産の償却方法の届出で解説しています。
実務の落とし穴
1: 本体の残存耐用年数で償却してしまう
2: 支出した期に合算してしまう
3: 償却率が異なるのに合算する
4: 特例を適用した後に原則へ戻そうとする
5: 少額判定を資本的支出に当てはめる
判断フロー
| 手順 | 判定内容 |
|---|---|
| 1 | その支出が修繕費か資本的支出かを判定する |
| 2 | 本体の取得日を確認し、平成19年3月31日以前なら加算特例の適用可否を検討する |
| 3 | 原則による場合、本体と同じ種類・耐用年数で新たな資産として台帳に登録する |
| 4 | 支出した事業年度は本体と資本的支出を別個に償却する |
| 5 | 定率法で償却率が同じなら、翌事業年度開始の時に合算特例を選ぶかを判断する |
| 6 | 将来の除却や売却の予定を踏まえ、分離管理の必要があれば原則のまま維持する |
想定Q&A
Q1 資本的支出の耐用年数は本体の残り年数ですか
違います。本体と種類および耐用年数を同じくする資産を新たに取得したものとするため、本体に適用される法定耐用年数を最初から適用します。耐用年数22年の建物であれば、取得から何年経過していても資本的支出は22年で償却します。残存年数で償却すると償却超過額が生じます。
Q2 台帳を2行に分けたくないのですが方法はありますか
本体が定率法で償却率が同じなら、翌事業年度開始の時に合算特例で1行に戻せます。本体が平成19年3月31日以前取得なら加算特例で当初から1行にできます。それ以外、たとえば定額法の建物への資本的支出は2行管理を続けるほかありません。建物は定額法に一本化されているため、この場面が最も多く生じます。
Q3 合算特例は届出が必要ですか
届出や申請は不要です。翌事業年度開始の時に合算した金額で償却費を計上すれば適用したことになります。逆に言えば、いったん合算して償却費を計上した時点で選択が確定し、翌々事業年度以後に分離することはできません。適用するかどうかは翌期の決算で判断することになります。
Q4 資本的支出だけを先に除却できますか
原則により別個の資産として管理していれば、その資本的支出に対応する部分を除却することは考えられます。ただし合算特例や加算特例を適用して一の資産にしている場合は、分離して別々に償却することができないため、資本的支出部分だけを取り出して除却損を計上することは困難です。将来の撤去が想定される設備は分離管理が有利です。
Q5 20万円未満の資本的支出は一括償却資産にできますか
できません。資本的支出は新たな資産を取得したものとされますが、少額の減価償却資産や一括償却資産、中小企業者等の少額減価償却資産の特例の対象にはなりません。金額の大小にかかわらず、本体と同じ耐用年数で償却します。少額であるほど誤りやすい論点です。
Q6 中古資産に資本的支出をした場合の耐用年数は
本体が簡便法により短い耐用年数を適用しているなら、資本的支出もその短い耐用年数によります。ただし事業供用までに支出した資本的支出が本体の取得価額の50%を超えると簡便法自体が使えなくなり、再取得価額の50%を超えると法定耐用年数の適用になります。取得直後の改修か供用後の改修かで結論が分かれます。
Q7 旧定率法の建物に資本的支出をした場合の償却方法は
原則によるときは定額法に限られます。建物は平成10年4月1日以後に取得したものから定額法に一本化されており、資本的支出は新たな取得として扱われるためです。本体は旧定率法を継続しながら資本的支出は定額法という組み合わせになります。加算特例を選べば全体を旧定率法で償却できます。
Q8 特別な償却の方法の承認を受けている資産の場合は
本体に適用する特別な償却の方法により資本的支出の償却限度額を計算するのであれば、改めて承認を受ける必要はありません。資本的支出を新たな資産の取得として償却限度額を別個に計算するとしても、本体と物理的に一体だからです。ただし本体とは異なる特別な償却の方法によるなら、改めて申請が必要です。
Q9 個人事業主も同じ取扱いですか
同じです。所得税法施行令127条が法人税法施行令55条と同趣旨の規定を置いており、原則は別個の資産、平成19年3月31日以前取得資産には加算特例、定率法採用資産には合算特例という構造も共通です。賃貸不動産に大規模修繕を行うケースが典型で、判断の枠組みは法人と変わりません。
Q10 資本的支出を修繕費として処理していた場合の是正は
税務調査で資本的支出と認定されると、損金算入した金額のうち償却限度額を超える部分が否認されます。ただし全額が否認されるのではなく、資本的支出として償却できる部分は損金になるため、否認額は限度超過額に限られます。過少申告加算税と延滞税の対象になるため、判断に迷う支出は事前に検討しておくのが安全です。
あわせて読みたい(減価償却シリーズ)
本記事は令和8年8月1日現在の法令・通達等に基づいて作成しています。出典:法人税法施行令48条・48条の2・55条、法人税基本通達7-3-15の4・7-4-2の2、所得税法施行令127条、所得税基本通達49-1の2・49-31、国税庁タックスアンサーNo.5405(資本的支出後の減価償却資産の償却方法等)。個別の適用に当たっては顧問税理士等にご確認ください。

