減価償却資産の償却方法・棚卸資産の評価方法の届出とは?法定方法と提出期限を解説

法人税

法人税法は、減価償却資産の償却方法や棚卸資産の評価方法について、複数の方法を認めつつ、選ぶなら届け出よという建付けを採っています。届け出なければ、法律があらかじめ定めた方法(法定償却方法・法定評価方法)が自動的に適用されます。会社の恣意的な選択で課税所得が動くのを防ぐための仕組みです。

実務で問題になるのは、この届出が「出さなくても罰則がない」ため放置されやすいことです。しかし放置は選択の放棄であり、いったん法定方法が適用されれば、あとから変えるには承認申請が必要で、しかも原則3年間は変更が認められません。さらに、届出の期限と変更承認申請の期限はまったく違います。前者は確定申告書の提出期限まで、後者は採用しようとする事業年度が始まる前日まで。この違いを知らずに期末を迎えると、1年待つことになります。設立時の届出全体は会社設立後にやるべき税務手続きをご覧ください。

この記事のポイント
  • 法定方法どおりでよいなら届出は不要。法定方法以外を選ぶときだけ届け出る
  • 法人の法定償却方法は、建物・建物附属設備・構築物は定額法、それ以外の有形減価償却資産は定率法
  • 棚卸資産の法定評価方法は、最終仕入原価法による原価法
  • 届出の期限は設立第1期の確定申告書の提出期限まで。新たな区分の資産を取得したときも同様
  • 変更は「変更承認申請書」を、採用しようとする事業年度開始の日の前日までに提出する
  • 変更には合理的な理由が必要で、現在の方法を採用してから3年を経過していないと却下され得る

なぜ届出が必要なのか

償却方法や評価方法が変われば、各期に計上される損金の額が変わり、課税所得が動きます。もし法人が毎期その都度有利な方法を選べるなら、利益調整の余地が生まれます。そこで法人税法は、あらかじめ方法を選定して届け出させ、いったん選んだら継続して適用させるという規律を置いています。届出をしない法人には、法定の方法を強制的に適用します。

裏を返せば、法定方法をそのまま採用するなら届出は不要です。多くの中小企業は法定方法のままで運用しており、それ自体は何の問題もありません。問題は、法定方法が自社に不利だと後から気づいたときに、簡単には変えられないという点にあります。

減価償却資産の償却方法

法定償却方法

届出をしない場合に適用される方法です。資産の区分により異なります。

資産の区分 法定償却方法 選定できる方法
建物 定額法 定額法のみ(平成10年4月1日以後取得分)
建物附属設備・構築物 定額法 定額法のみ(平成28年4月1日以後取得分)
機械装置・車両運搬具・工具器具備品 定率法 定額法または定率法
無形固定資産・生物 定額法 定額法のみ
法人成りでの取り違えが多い
個人事業主の法定償却方法は定額法ですが、法人の法定償却方法は機械装置や車両などについて定率法です。個人時代の感覚のまま定額法で計算していると、償却限度額を誤ります。法人成りの際は必ず確認してください。定額法と定率法の違いは減価償却の定額法と定率法で解説しています。

届出書の提出期限

場面 提出期限
普通法人を設立した場合 設立第1期の確定申告書の提出期限まで
既に選定している資産以外の区分の減価償却資産を取得した場合 その資産を取得した日の属する事業年度の確定申告書の提出期限まで
新たに事業所を設けた場合 その事業所を設けた日の属する事業年度の確定申告書の提出期限まで

提出先は納税地の所轄税務署長です。青色申告の承認申請書と違い、期限が確定申告書の提出期限までと比較的ゆるやかである点が特徴です。設立時に出し忘れても、第1期の申告までに気づけば間に合います。なお、償却方法は資産の区分ごと、事業所ごとに選定できます。

棚卸資産の評価方法

棚卸資産の評価方法を届け出なかった場合、最終仕入原価法による原価法が適用されます。期末に最も近い時期に仕入れた単価を、期末在庫の全部に乗じて評価する方法です。計算が簡単で、多くの中小企業が採用しています。

区分 選定できる方法
原価法 個別法、先入先出法、総平均法、移動平均法、最終仕入原価法、売価還元法
低価法 上記の原価法による評価額と、期末時価とのいずれか低い価額で評価する方法

届出の期限は償却方法と同じく、設立第1期の確定申告書の提出期限までです。新たな種類の事業を開始した場合や、事業の種類を変更した場合も、その事業年度の確定申告書の提出期限までに届け出ます。評価方法は事業の種類ごと、かつ棚卸資産の区分ごとに選定できます。棚卸資産の評価方法の内容は棚卸資産の評価方法と売上原価で解説しています。

低価法を使いたいなら届出が必須
在庫の値下がりリスクが大きい業種では、低価法を選ぶことで評価損を早期に損金算入できます。しかし低価法は法定評価方法ではないため、届出をしなければ使えません。会計上は収益性の低下による簿価切下げが求められる一方、税務では届出がなければ最終仕入原価法による原価法のまま、というズレが生じます。

変更するときは「承認申請」(期限が違う)

いったん選定した方法、または届出をしなかったために適用されている法定方法を変更するには、「変更承認申請書」を提出して税務署長の承認を受ける必要があります。届出ではなく申請であり、期限も異なります。

手続き 場面 期限
届出書 設立時など、はじめて方法を選定するとき その事業年度の確定申告書の提出期限まで
変更承認申請書 既に採用している方法(法定方法を含む)を変えるとき 新たな方法を採用しようとする事業年度開始の日の前日まで
期限の違いが命取りになる
届出は事後(申告期限まで)に間に合いますが、変更承認申請は事前(期首の前日まで)です。3月決算法人が翌期から定額法に変えたいなら、3月31日までに申請しなければなりません。決算作業中に気づいても、その期からは変更できず、さらに1年待つことになります。

合理的な理由と3年の壁

申請すれば必ず承認されるわけではありません。税務署長は、現によっている方法を採用してから相当期間を経過していないとき、または変更しようとする方法では所得金額の計算が適正に行われ難いと認めるときは、申請を却下できます。この「相当期間」は、法人税基本通達7-2-4により原則として3年とされています(合併や分割に伴うなど特別な理由がある場合を除きます)。

申請書には変更しようとする理由を記載します。「税負担を軽くしたいから」では通りません。実務では、設備の長期安定稼働が見込まれるため定率法より定額法が使用実態に合う、といった合理的な説明が求められます。

なお、申請書を提出した後、その事業年度終了の日(中間申告書を提出すべき法人は事業年度開始の日以後6か月を経過した日の前日)までに承認または却下の処分がなかったときは、その日に承認があったものとみなされます。ただし実務上は、承認または却下の処分が書面で通知されます。

あわせて検討する届出

有価証券を取得した場合、一単位当たりの帳簿価額の算出方法を選定して届け出ることができます。届け出なければ法定評価方法である移動平均法が適用されます。提出期限は、有価証券を取得した日の属する事業年度の確定申告書の提出期限までです。有価証券の会計処理は有価証券の会計処理と評価で解説しています。

実務上の落とし穴

変更承認申請の期限を届出と同じだと思う
届出は確定申告書の提出期限までですが、変更承認申請は採用しようとする事業年度開始の日の前日までです。期首を過ぎたらその期の変更はできません。
法人成りで定額法のまま計算する
個人の法定償却方法は定額法、法人は機械装置・車両などについて定率法です。会計ソフトの初期設定を確認しないと、償却限度額を誤ります。
低価法を届出なしで適用する
低価法は法定評価方法ではありません。届出がなければ最終仕入原価法による原価法が適用され、評価損は損金になりません。
3年の継続適用を知らずに毎期変えようとする
現在の方法を採用してから3年を経過していないと、申請は却下され得ます。合理的な理由の記載も必要です。

想定Q&A集

Q1. 届出書は必ず提出しなければなりませんか

法定方法をそのまま採用するなら提出は不要です。法定方法以外の方法を選びたい場合にだけ届け出ます。提出しない場合は法定方法が自動的に適用されます。

Q2. 法人の法定償却方法は何ですか

建物、建物附属設備、構築物は定額法です。機械装置、車両運搬具、工具器具備品などそれ以外の有形減価償却資産は定率法です。無形固定資産や生物は定額法です。

Q3. 個人事業主と法人で法定償却方法は同じですか

異なります。個人の法定償却方法は定額法ですが、法人は機械装置や車両などについて定率法です。法人成りの際に個人時代の設定を引き継ぐと誤りが生じます。

Q4. 棚卸資産の法定評価方法は何ですか

最終仕入原価法による原価法です。期末に最も近い時期に仕入れた単価で期末在庫を評価します。計算が簡単なため、多くの中小企業がこの方法で運用しています。

Q5. 届出書の提出期限はいつですか

普通法人を設立した場合は、設立第1期の確定申告書の提出期限までです。設立後に新たな区分の減価償却資産を取得した場合や、新たな種類の事業を開始した場合も、その事業年度の確定申告書の提出期限までに提出します。

Q6. 設立時に出し忘れました。もう間に合いませんか

第1期の確定申告書の提出期限までなら間に合います。青色申告の承認申請書のように設立から3か月という短い期限ではありません。ただしその期限も過ぎた場合は、法定方法が適用され、変更には承認申請が必要になります。

Q7. 方法を変更するにはどうしますか

「変更承認申請書」を、新たな方法を採用しようとする事業年度開始の日の前日までに提出し、税務署長の承認を受けます。3月決算法人が翌期から変更したいなら3月31日までです。届出とは期限がまったく違います。

Q8. 毎期、有利な方法に変えられますか

できません。現在の方法を採用してから相当期間(原則3年)を経過していないときは、申請が却下され得ます。合併や分割に伴うなど特別な理由がある場合を除きます。合理的な理由の記載も必要です。

Q9. 「合理的な理由」とはどんなものですか

設備の長期安定的な稼働が見込まれるため定額法のほうが使用実態を反映する、といった説明が典型です。単に税負担を軽くしたい、という理由では認められません。

Q10. 変更承認の通知は届きますか

承認または却下の処分が書面で通知されます。なお、その事業年度終了の日(中間申告書を提出すべき法人は事業年度開始の日以後6か月を経過した日の前日)までに処分がなかったときは、その日に承認があったものとみなされます。

Q11. 低価法を使いたいのですが

低価法は法定評価方法ではないため、届出が必要です。届出をしないまま会計上で簿価を切り下げても、税務上は評価損が損金になりません。在庫の値下がりリスクが大きい業種では、届出の要否を検討してください。

Q12. 事業所ごとに違う方法を選べますか

選べます。償却方法は資産の区分ごと、事業所ごとに選定できます。棚卸資産の評価方法も、事業の種類ごと、棚卸資産の区分ごとに選定できます。

Q13. 有価証券にも届出がありますか

あります。一単位当たりの帳簿価額の算出方法を選定して届け出ることができ、提出しない場合は法定評価方法である移動平均法が適用されます。期限は、有価証券を取得した日の属する事業年度の確定申告書の提出期限までです。

届出・申請の判断フロー

手順 確認すること
1 自社の資産区分・事業の種類ごとに、法定方法が何かを確認する
2 法定方法で不都合がないか、償却額と在庫評価額の推移で試算する
3 法定方法以外を選ぶなら、その事業年度の確定申告書の提出期限までに届出書を提出する
4 既存の方法を変えるなら、採用しようとする事業年度開始の日の前日までに変更承認申請書を提出する
5 変更の場合は、3年の継続適用と合理的な理由の記載を確認する
6 有価証券を取得したら、一単位当たりの帳簿価額の算出方法の届出も検討する

まとめ

償却方法と評価方法の届出は、出さなければ法定方法が適用されるという意味で、提出しないこと自体も1つの選択です。問題は、その選択を意識せずに済ませてしまい、後から変えようとしたときに、事前申請という高い壁と3年の継続適用に阻まれることにあります。設立時に法定方法の内容を確認し、自社の資産構成に照らして妥当かを判断しておく。それだけで、後年の手戻りを防げます。

この記事のまとめ
  • 法定方法どおりなら届出不要。それ以外を選ぶときだけ届け出る
  • 法人の法定償却方法は、建物・建物附属設備・構築物が定額法、それ以外の有形資産は定率法
  • 棚卸資産の法定評価方法は最終仕入原価法による原価法。低価法は届出が必要
  • 届出の期限は確定申告書の提出期限まで。事後でも間に合う
  • 変更は承認申請で、採用しようとする事業年度開始の日の前日まで。事前に出す必要がある
  • 変更には合理的な理由が必要で、原則3年の継続適用が求められる

※本記事は作成時点の法令・公表資料(法人税法29条・31条、法人税法施行令28条・29条・30条・51条・52条・53条、法人税基本通達7-2-4、国税庁「C1-33 減価償却資産の償却方法の届出」「C1-25 棚卸資産の評価方法の届出」等)に基づく一般的な解説です。取得時期により適用される償却方法が異なる場合があります。個別の判断は事実関係により異なるため、具体的な取扱いは最新の法令の確認、所轄税務署への照会、または税理士へのご相談をおすすめします。

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