会社の帳簿に載っている当座預金の残高と、銀行が発行する残高証明書の残高は、しばしば一致しません。原因の多くは「決済のタイミングのズレ」です。小切手を振り出しても相手が銀行に持ち込むまで銀行の残高は動かず、逆に銀行が引き落としても会社に連絡が届くまで帳簿は動きません。このズレの原因を一つずつ突き止め、会社側の原因は修正仕訳で直し、銀行側の原因は放っておけば自然に解消する。その調整の過程を一枚にまとめたものが銀行勘定調整表です。
この記事では、当座預金と当座借越の基礎から、不一致の6つの原因と修正仕訳、銀行勘定調整表の3つの作成方法、当座借越の決算処理までを整理します。
- 当座預金は小切手・手形の決済に使う無利息の預金。残高を超えて振り出すと当座借越になる
- 帳簿残高と銀行残高証明書の不一致には6つの原因があり、会社側の原因だけ修正仕訳が必要
- 銀行側の原因(時間外預入・未取立小切手・未取付小切手)は仕訳不要
- 作成方法は両者区分調整法・企業残高基準法・銀行残高基準法の3つ。基本は両者区分調整法
- 当座借越は決算時に当座預金の貸方残高を短期借入金(当座借越)へ振り替える
当座預金と当座借越とは
当座預金は、小切手や手形の決済に使う無利息の預金です。取引の支払いを小切手で行い、その決済口座として使います。受け取った小切手のうち、他人が振り出した小切手(他人振出小切手)は通貨代用証券として現金で処理し、自社が過去に振り出した小切手を受け取った場合は当座預金の増加として処理します。小切手や手形の詳しい扱いは手形・電子記録債権(でんさい)の仕訳もあわせてご覧ください。
当座借越は、当座預金の残高を超えて小切手を振り出したときに生じる、銀行からの一時的な借入れです。あらかじめ銀行と当座借越契約を結んでいることが前提です。期中は当座預金勘定で処理し、決算時に当座預金勘定が貸方残高(マイナス)になっている場合、その金額を当座借越または短期借入金へ振り替えます。翌期首には、これを元に戻す再振替を行います。
| 場面 | 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|---|
| 決算時(借越へ振替) | 当座預金 | 10,000 | 当座借越(短期借入金) | 10,000 |
| 翌期首(再振替) | 当座借越(短期借入金) | 10,000 | 当座預金 | 10,000 |
不一致の6つの原因
帳簿の当座預金残高と銀行残高証明書が一致しない原因は、大きく6つに分けられます。ポイントは「どちら側の事情か」です。会社側の記帳に原因がある3つは修正仕訳が必要で、銀行側の処理タイミングによる3つは、放っておけば決済されて一致するため仕訳は不要です。
| 原因 | どちら側 | 仕訳 | 内容 |
|---|---|---|---|
| 時間外預入 | 銀行側 | 不要 | 営業時間外に預入れ、銀行は翌営業日に入金処理 |
| 未取立小切手 | 銀行側 | 不要 | 他人振出小切手を取立依頼したが、銀行が未取立 |
| 未取付小切手 | 銀行側 | 不要 | 振り出した小切手を相手がまだ銀行に呈示していない |
| 誤記入 | 会社側 | 必要 | 金額や貸借を誤って記帳していた |
| 連絡未通知 | 会社側 | 必要 | 入金や引落を銀行は処理済だが、会社に連絡が未達で未記帳 |
| 未渡小切手 | 会社側 | 必要 | 小切手を振り出して減額記帳したが、相手にまだ渡していない |
会社側の原因の修正仕訳
修正仕訳が必要なのは会社側の3つ(誤記入・連絡未通知・未渡小切手)だけです。以下は代表的な例です。
| 原因(例) | 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|---|
| 連絡未通知(売掛金入金) | 当座預金 | 20,000 | 売掛金 | 20,000 |
| 連絡未通知(手数料引落) | 支払手数料 | 1,000 | 当座預金 | 1,000 |
| 誤記入(入金10,000を1,000と誤記) | 当座預金 | 9,000 | 売掛金 | 9,000 |
| 未渡小切手(買掛金の支払用) | 当座預金 | 10,000 | 買掛金 | 10,000 |
| 未渡小切手(費用の支払用) | 当座預金 | 10,000 | 未払金 | 10,000 |
未渡小切手の相手科目は、何のために振り出した小切手かで変わります。買掛金の支払用なら、当座預金を減らした仕訳を取り消すため貸方は買掛金です。一方、すでに費用として計上済みの支払用に振り出した場合は、費用そのものは残るため、貸方は未払金にします。掛け取引の記帳は商品売買の記帳を参照してください。
銀行勘定調整表の3つの作成方法
銀行勘定調整表の作り方には3つあります。言い切ると、基本は両者区分調整法です。両者の残高をそれぞれ調整して同じ「適正残高」に一致させる方法で、この金額がそのまま貸借対照表の当座預金の金額になります。まず両者区分調整法で作り、必要に応じて他の方法へ書き換えると間違えにくくなります。
| 方法 | 基準にする残高 | 特徴 |
|---|---|---|
| 両者区分調整法 | 両方を調整し適正残高へ | 基本。適正な当座預金残高(貸借対照表計上額)が求まる |
| 企業残高基準法 | 会社の帳簿残高 | 帳簿残高から銀行残高証明書残高へ合わせる |
| 銀行残高基準法 | 銀行残高証明書残高 | 銀行残高証明書残高から帳簿残高へ合わせる |
両者区分調整法の作り方
両者区分調整法では、修正仕訳が必要な会社側の原因を「会社側の残高」に加減し、修正仕訳が不要な銀行側の原因を「銀行側の残高」に加減します。両側を調整した結果、適正残高が左右で一致すれば正解です。加算・減算の振り分けは次のとおりです。
| 区分 | 加算する項目 | 減算する項目 |
|---|---|---|
| 会社側の残高 | 連絡未通知(入金)、未渡小切手、誤記入(不足) | 連絡未通知(引落)、誤記入(過大) |
| 銀行側の残高 | 時間外預入、未取立小切手 | 未取付小切手 |
この調整は決算整理の一環です。ほかの決算整理仕訳とあわせて、経過勘定の仕訳も確認しておくと、決算の全体像がつかめます。
実務上の落とし穴
未渡小切手と未取付小切手を混同する
名前が似ていますが正反対です。未渡小切手は「振り出したが相手に渡していない」会社側の原因で修正仕訳が必要、未取付小切手は「渡したが相手が銀行に呈示していない」銀行側の原因で仕訳不要です。渡したかどうかで見分けます。
未渡小切手の相手科目を一律に買掛金にする
未渡小切手の貸方は、振り出した目的で変わります。買掛金の支払用なら買掛金、すでに計上済みの費用の支払用なら未払金です。費用の場合に買掛金と一律で処理すると、科目を誤ります。
銀行側の原因に修正仕訳を切る
時間外預入・未取立小切手・未取付小切手は銀行側の処理タイミングの問題で、会社の帳簿は正しいままです。ここで修正仕訳を切ると、かえって帳簿が誤ります。修正仕訳が必要なのは会社側の3つだけです。
当座借越の決算振替を忘れる
決算時に当座預金が貸方残高になっている場合、そのままにすると資産がマイナス表示になります。当座借越または短期借入金へ振り替え、負債として表示します。翌期首の再振替も忘れないようにします。
加算・減算の向きを取り違える
企業残高基準法や銀行残高基準法は、両者区分調整法での加算・減算が逆になります。慣れないうちは、まず両者区分調整法で適正残高を出してから書き換えると、向きの間違いを防げます。
判断フロー
| 手順 | 確認すること |
|---|---|
| 1 | 帳簿の当座預金残高と銀行残高証明書残高を突き合わせ、不一致額を把握する |
| 2 | 不一致の原因を6つの型に分類する |
| 3 | 会社側の原因(誤記入・連絡未通知・未渡小切手)は修正仕訳を切る |
| 4 | 銀行側の原因(時間外預入・未取立・未取付)は仕訳せず、調整表で調整する |
| 5 | 両者区分調整法で適正残高を確定し、当座借越があれば決算振替を行う |
想定Q&A集
Q1. 銀行勘定調整表は何のために作りますか
帳簿の当座預金残高と銀行残高証明書残高が一致しないとき、その原因を突き止めて正しい残高を確定するために作ります。会社側の記帳ミスや未記帳を発見でき、決算で計上すべき当座預金の適正額を求められます。
Q2. どの原因のときに修正仕訳が必要ですか
会社側に原因がある誤記入・連絡未通知・未渡小切手の3つです。銀行側の時間外預入・未取立小切手・未取付小切手は、時間が経てば決済されて一致するため、仕訳は不要です。
Q3. 未渡小切手と未取付小切手はどう違いますか
未渡小切手は振り出して減額記帳したのに相手に渡していない状態で、会社側の原因のため修正仕訳が必要です。未取付小切手は相手に渡したものの相手がまだ銀行に呈示していない状態で、銀行側の原因のため仕訳は不要です。渡したかどうかが分かれ目です。
Q4. 未渡小切手の相手科目は買掛金と未払金のどちらですか
何のために振り出したかで変わります。買掛金の支払用なら貸方は買掛金です。すでに費用として計上済みのものの支払用なら、費用は残るため貸方は未払金にします。いずれも当座預金を元に戻す点は共通です。
Q5. 3つの作成方法のどれを使えばよいですか
基本は両者区分調整法です。両者の残高をそれぞれ調整して適正残高に一致させる方法で、その金額が貸借対照表の当座預金額になります。企業残高基準法・銀行残高基準法は、両者区分調整法から加減算を組み替えて作れます。
Q6. 当座借越とは何ですか
当座預金の残高を超えて小切手を振り出したときに生じる、銀行からの一時的な借入れです。あらかじめ当座借越契約を結んでいることが前提で、実質的には短期の資金調達にあたります。
Q7. 当座借越は決算でどう処理しますか
決算時に当座預金勘定が貸方残高(マイナス)なら、その金額を当座借越または短期借入金へ振り替え、負債として表示します。翌期首には元に戻す再振替を行い、期中はまた当座預金で処理します。
Q8. 他人が振り出した小切手を受け取ったら当座預金ですか
いいえ、他人振出小切手は通貨代用証券として現金勘定で処理します。当座預金が増えるのは、自社が過去に振り出した小切手を受け取った場合など、当座預金口座の残高が実際に動くときです。
Q9. 誤記入があったときの修正仕訳の考え方は
正しい金額と誤った金額の差額を調整します。たとえば入金10,000円を1,000円と少なく記帳していたら、不足する9,000円を当座預金の増加として追加計上します。貸借を逆に記帳していた場合は、正しい向きに直す仕訳を行います。
Q10. 銀行勘定調整表の適正残高は決算書のどこに使いますか
両者区分調整法で求めた適正残高が、貸借対照表に計上する当座預金の金額になります。会社側の修正仕訳を反映した後の帳簿残高と一致するため、決算整理後残高試算表の当座預金とも整合します。
まとめ
帳簿の当座預金残高と銀行残高証明書のズレは、6つの原因に分けて考えます。会社側の誤記入・連絡未通知・未渡小切手は修正仕訳が必要で、銀行側の時間外預入・未取立小切手・未取付小切手は仕訳不要です。銀行勘定調整表は両者区分調整法を基本に作り、求めた適正残高が貸借対照表の当座預金額になります。当座借越は決算時に短期借入金へ振り替える。この流れを押さえれば、当座預金まわりの決算整理は迷いません。
- 当座預金は小切手・手形の決済用の無利息預金。残高超過分は当座借越
- 不一致の6原因のうち、会社側(誤記入・連絡未通知・未渡小切手)だけ修正仕訳が必要
- 銀行側(時間外預入・未取立・未取付)は仕訳不要
- 作成は両者区分調整法が基本。適正残高が貸借対照表の当座預金額になる
- 当座借越は決算で短期借入金へ振替、翌期首に再振替
※本記事は作成時点の会計慣行・簿記の一般的な処理に基づく解説です。個別の事案や採用する記帳方法(当座勘定を用いる一勘定制など)によって処理が異なる場合があるため、具体的な判断は最新の基準の確認や、顧問税理士への相談をおすすめします。

