法人税の確定申告書の提出期限は、原則として各事業年度終了の日の翌日から2か月以内です。3月決算なら5月31日。しかし、定時株主総会で計算書類の承認を受けなければ決算が確定しない会社では、2か月という枠が窮屈です。定款で「定時株主総会は事業年度終了後3か月以内に招集する」と定めている会社なら、なおさらです。
そこで用意されているのが申告期限の延長の特例です。ただし、この制度には実務で必ず引っかかる2つの誤解があります。1つは「法人税の申請を出せば消費税も延びる」という誤解。実際には消費税は別に届出書が必要です。もう1つは「期限が延びれば納付も待ってもらえる」という誤解。延びるのは申告期限だけで、納期限は延びません。だからこそ見込納付という実務が生まれます。本記事では、この2点を軸に、税目ごとの手続きと期限を整理します。
- 定款の定めや特別の事情で2か月以内に定時総会が招集されない常況にある法人が対象
- 法人税の申請期限は、最初に適用を受けようとする事業年度終了の日まで。決算日までに出す
- 15日以内に延長または却下の処分がなければ、1か月延長されたものとみなされる
- 消費税は自動では延びない。別途「消費税申告期限延長届出書」の提出が必要
- 地方税(法人住民税・法人事業税)は、都道府県・市区町村への承認申請が別に必要
- 延長されるのは申告期限だけで納期限は延びない。見込納付をしないと利子税がかかる
法人税の申告期限の延長の特例
法人税法75条の2は、定款等の定めにより、または特別の事情があることにより、各事業年度終了の日の翌日から2か月以内にその事業年度の決算についての定時総会が招集されない常況にある場合に、確定申告書の提出期限を延長できるとしています。会計監査人を置いていなくても、定款に総会の招集時期を定めていれば申請できます。
延長できる期間
| 状況 | 延長期間 |
|---|---|
| 定款の定め等による原則 | 1か月(3月決算なら6月30日まで) |
| 会計監査人を置き、かつ定款等により3か月以内に定時総会が招集されない常況 | 月数の指定を受けられる(4か月以内など) |
| 通算法人 | 原則2か月。別途の定めがある |
申請期限と、みなし延長
「申告期限の延長の特例の申請書」は、最初に適用を受けようとする事業年度終了の日までに、納税地の所轄税務署長へ提出します。3月決算の会社がその期から適用したいなら、3月31日までです。決算が終わってから申請することはできません。
提出後、最初に適用を受けようとする事業年度終了の日の翌日から15日以内に、延長または却下の処分がなかったときは、1か月間の延長がされたものとみなされます。承認の通知を待つ必要はありません。一度承認されれば、その事業年度以後の各事業年度に適用が続くため、毎期の申請は不要です。
消費税は自動では延びない
ここが最大の落とし穴です。法人税の申告期限を延長しても、消費税の確定申告の期限は自動では延長されません。消費税を1か月延長するには、法人税の延長の特例の適用を受ける法人が、「消費税申告期限延長届出書」を別に提出する必要があります(消費税法45条の2)。
| 税目 | 提出書類 | 提出期限・提出先 |
|---|---|---|
| 法人税 | 申告期限の延長の特例の申請書 | 最初に適用を受けようとする事業年度終了の日まで/所轄税務署 |
| 消費税 | 消費税申告期限延長届出書 | 適用を受けようとする事業年度終了の日の属する課税期間の末日まで/所轄税務署 |
| 地方税 | 申告書の提出期限の延長の処分等の届出書・承認等の申請書 | 延長を受けようとする事業年度終了の日まで/都道府県税事務所・市区町村 |
消費税の中間申告の仕組みは消費税の中間申告と納付、法人税の中間申告は法人税の中間申告とはで解説しています。
納期限は延びない(見込納付と利子税)
延長されるのは申告書の提出期限だけです。納付の期限は本来の2か月のままです。したがって、延長された1か月の間に納付すると、本来の納期限の翌日から納付日までの期間について利子税が課されます。
これを避けるための実務が見込納付(仮納付)です。本来の納期限までに税額を概算で計算して納付しておき、確定申告時に差額を精算します。多めに納めておけば利子税は生じません。納めすぎた分は、確定申告により還付を受けます。
利子税・延滞税・延滞金の違い
| 名称 | 生じる場面 | 損金算入 |
|---|---|---|
| 利子税 | 国税の申告期限の延長を受け、延長期間中に納付した場合 | できる |
| 延滞税 | 国税の納付が法定納期限に遅れた場合(ペナルティ) | できない |
| 延滞金 | 地方税で納期限に遅れた場合。延長期間中の分も含む | できない |
役員報酬の「3月経過日等」への影響
申告期限の延長を受けている法人は、定期同額給与の通常改定の期限にも影響があります。原則は期首から3か月以内ですが、延長特例の適用を受けている法人では、この「3月経過日等」が原則の3か月とは異なる月数になる場合があります。役員報酬の改定時期を決める際は、自社の延長の有無と月数を必ず確認してください。詳しくは役員報酬の変更はいつまで?定期同額給与の3か月ルールをご覧ください。
実務上の落とし穴
想定Q&A集
Q1. どんな会社が延長できますか
定款等の定めにより、または特別の事情により、事業年度終了の日の翌日から2か月以内に定時総会が招集されない常況にある法人です。会計監査人を置いていない中小企業でも、定款に総会の招集時期を定めていれば申請できます。
Q2. 申請書はいつまでに出しますか
最初に適用を受けようとする事業年度終了の日までです。3月決算の会社がその期から適用したいなら3月31日まで。決算が終わってからの申請では、その事業年度には適用できません。
Q3. 承認の通知は届きますか
最初に適用を受けようとする事業年度終了の日の翌日から15日以内に、延長または却下の処分がなければ、1か月の延長がされたものとみなされます。通知を待つ必要はありません。
Q4. 毎年申請が必要ですか
不要です。一度延長されれば、その事業年度以後の各事業年度に適用が続きます。やめる場合は取りやめの届出を提出します。
Q5. 消費税も一緒に延びますか
延びません。法人税の延長特例の適用を受ける法人が、別途「消費税申告期限延長届出書」を提出してはじめて1か月延長されます。提出期限は、適用を受けようとする事業年度終了の日の属する課税期間の末日までです。
Q6. 消費税だけ延長できますか
できません。消費税申告期限延長届出書を提出できるのは、法人税の申告期限の延長の特例の適用を受ける法人に限られます。法人税の申請を忘れると、消費税の届出だけでは延長されません。
Q7. 納付も1か月待ってもらえますか
待ってもらえません。延長されるのは申告書の提出期限だけで、納期限は本来のままです。延長期間中に納付すると、その期間について国税は利子税、地方税は延滞金がかかります。
Q8. 見込納付とは何ですか
本来の納期限までに税額を概算で計算して納付しておく方法です。多めに納めておけば利子税や延滞金は生じません。確定申告時に差額を精算し、納めすぎた分は還付を受けます。実務では見込納付が一般的です。
Q9. 利子税と延滞税はどう違いますか
利子税は、正規の手続きで延長を受けた期間に対応する利息的な負担で、法人税の計算上、損金に算入できます。延滞税は納期限に遅れたことに対するペナルティで、損金不算入です。地方税の延滞金も損金不算入です。
Q10. 地方税はどうすればよいですか
法人住民税・法人事業税についても、都道府県税事務所・市区町村に提出期限の延長の承認申請(または処分等の届出)を行います。事務所等が複数の自治体にある場合は、それぞれに提出します。
Q11. 中間申告の期限も延びますか
延びません。消費税の延長が及ぶのは確定申告のみです。中間申告の期限は原則どおりです。
Q12. 災害で申告できないときの延長と同じですか
別の制度です。災害等による期限の延長は国税通則法11条によるもので、本税のみの納付で足り、利子税はかかりません。定款等による延長は法人の都合による制度で、利子税が生じます。
Q13. 延長を受けると役員報酬の改定期限も変わりますか
変わる場合があります。定期同額給与の通常改定の期限である「3月経過日等」は、申告期限の延長の特例の適用を受けている法人では、原則の3か月と異なる月数になることがあります。自社に適用される具体的な期限を個別に確認してください。
申告期限の延長の判断フロー
| 手順 | 確認すること |
|---|---|
| 1 | 定款に定時総会の招集時期の定めがあるか、特別の事情があるかを確認する |
| 2 | 適用したい事業年度終了の日までに、法人税の申告期限の延長の特例の申請書を提出する |
| 3 | 消費税も延長するなら、同じ時期に消費税申告期限延長届出書を提出する |
| 4 | 地方税は都道府県・市区町村へ承認申請する(複数自治体ならすべてに提出) |
| 5 | 本来の納期限までに見込納付を行い、利子税・延滞金の発生を避ける |
| 6 | 役員報酬の改定期限(3月経過日等)が変わらないか確認する |
まとめ
申告期限の延長の特例は、決算作業に1か月の余裕を生む有用な制度です。ただし、税目ごとに手続きが分かれており、法人税の申請だけでは消費税も地方税も延びません。そして延びるのは申告期限だけで、納期限は本来のままです。適用したい事業年度が終わる前に3系統の手続きを済ませ、本来の納期限までに見込納付をする。この2点を押さえれば、利子税も延滞金も生じません。
- 法人税の申請期限は、最初に適用を受けようとする事業年度終了の日まで
- 15日以内に処分がなければ1か月延長されたものとみなされ、以後の各事業年度に継続適用
- 消費税は別途「消費税申告期限延長届出書」が必要。法人税の延長が前提で、中間申告は延びない
- 地方税は都道府県・市区町村への承認申請が別に必要
- 延びるのは申告期限だけ。納期限は延びず、国税は利子税、地方税は延滞金がかかる
- 見込納付をすれば利子税・延滞金は生じない。利子税は損金算入できるが延滞税・延滞金はできない
※本記事は作成時点の法令・公表資料(法人税法75条・75条の2、消費税法45条の2、地方税法72条の25、国税通則法11条、国税庁「C1-17 定款の定め等による申告期限の延長の特例の申請」「D1-2 消費税申告期限延長届出手続」「No.6610 法人に係る消費税の確定申告書の提出期限について」等)に基づく一般的な解説です。通算法人には別の定めがあります。個別の判断は事実関係により異なるため、具体的な取扱いは最新の法令の確認、所轄税務署・都道府県税事務所への照会、または税理士へのご相談をおすすめします。

