留保金課税とは|特定同族会社の計算・税率・適用除外を解説

法人税

オーナー社長が支配する会社では、利益が出ても配当せずに社内に貯め込むことができます。これを放置すると、配当したときにかかるオーナー個人の所得税を回避できてしまうため、法人税には留保金課税という特別なブレーキがあります。一定の会社が過大に利益を内部留保すると、通常の法人税に加えて特別税率の法人税が上乗せされる仕組みです。

ただし、この課税の対象は資本金1億円超の特定同族会社に限られ、中小企業の多くは対象外です。本記事では、留保金課税の対象になる会社の範囲、課税される金額の計算(留保金額・留保控除額・特別税率)、そして対象になった場合の対策を、法人税法67条に沿って整理します。自社が対象かどうかの判定から、実際の税額イメージまで押さえます。

この記事のポイント
  • 留保金課税は、特定同族会社が過大に利益を内部留保した場合の特別課税(法人税法67条)
  • 対象は原則として資本金1億円超の特定同族会社。資本金1億円以下は原則適用除外
  • ただし資本金5億円以上の大法人の完全支配下にある会社は、資本金額にかかわらず対象
  • 課税留保金額(留保金額-留保控除額)に特別税率(10%・15%・20%)を乗じて計算
  • 留保控除額は所得基準40%・定額基準2,000万円・利益積立金基準の最も多い額

留保金課税とは・制度の趣旨

留保金課税は、特定同族会社が許容額を超えて利益を社内に留保した場合、その超える部分に対して、通常の法人税とは別に特別税率の法人税を上乗せする制度です(法人税法67条)。なぜこのような制度があるのかを理解すると、対象や計算の考え方が見えてきます。

制度の趣旨:所得税回避の防止

会社が利益を配当すると、受け取ったオーナー個人に所得税(累進課税)がかかります。所得税は所得が多いほど税率が上がるため、オーナーが支配する会社では、あえて配当せずに会社に利益を貯め込み、個人の所得税を先送り・回避する動機が働きます。法人税は累進ではないため、会社に留めておく方が全体の税負担が軽くなることがあるのです。これを放置すると、個人企業や配当をきちんと出す会社との間で不公平が生じるため、過大な内部留保に特別税を課すのが留保金課税です。

つまり、留保金課税は「配当すれば個人にかかったはずの税負担」とのバランスを取るための調整措置です。この趣旨から、対象は配当をコントロールしやすいオーナー支配の会社(特定同族会社)に限られ、また一定額までの留保は許容(留保控除額)される仕組みになっています。

対象になる会社(特定同族会社)

留保金課税の対象は特定同族会社です。まず同族会社と特定同族会社の違いを整理します。

区分 判定
同族会社 上位3株主グループが発行済株式等(議決権)の50%超を保有する会社
特定同族会社 上位1株主グループだけで発行済株式等(議決権)の50%超を保有する会社(被支配会社)

同族会社は「3グループで50%超」、特定同族会社は「1グループで50%超」です。留保金課税の対象は、より支配が集中した特定同族会社だけです。オーナー一族だけで過半の株式を握っているような会社が典型例です。なお、被支配会社かどうかの判定の基礎となる株主グループのなかに被支配会社でない法人株主がいる場合は、その法人を除いて判定してもなお被支配会社になるものに限られます(法人株主を通じた判定の調整)。

特定同族会社に該当するかは、法人税申告書の別表二(同族会社等の判定に関する明細書)で判定します。別表二で「特定同族会社」と判定された会社が、留保金課税の検討対象になります。まずは別表二での判定を確認することが出発点です。

資本金による適用除外

特定同族会社に該当しても、資本金の額が1億円以下の会社は、原則として留保金課税の対象外です(平成19年度改正)。中小企業は財務基盤が弱く外部からの資金調達が難しいことに配慮した措置で、これにより実際に留保金課税の対象になる会社は大きく減りました。

会社の状況 留保金課税
資本金1億円超の特定同族会社 対象
資本金1億円以下の特定同族会社 原則対象外
資本金1億円以下でも、資本金5億円以上の大法人の完全支配下にある会社 対象

落とし穴:大法人の子会社は資本金1億円以下でも対象

資本金1億円以下でも、資本金5億円以上の大法人による完全支配関係(100%子会社など)がある場合は、資本金の額にかかわらず留保金課税の対象になります(平成22年度改正)。大企業グループの子会社は、資本金が小さくても対象になりうるので注意が必要です。判定は事業年度終了の時点で行います。

課税される金額の計算

留保金課税は、通常の法人税に「留保金課税額」を上乗せする形で計算します。全体の流れは次のとおりです。

課税留保金額 = 当期留保金額 - 留保控除額
留保金課税額 = 課税留保金額 × 特別税率(区分ごと)

まず当期に社内に留保した金額(当期留保金額)を求め、そこから一定額まで許容される「留保控除額」を差し引きます。残った「課税留保金額」に、金額の区分ごとの特別税率を掛けて、上乗せ税額を計算します。

当期留保金額とは

当期留保金額は、大まかにいうと、その期の所得等の金額から、社外に流出した金額(剰余金の配当など)と法人税・住民税等を差し引いた、社内に残る金額です。配当を多く出すほど当期留保金額は小さくなり、課税されにくくなります。逆に、利益を出しても配当せず社内に貯めると、当期留保金額が大きくなります。

特別税率(3段階)

課税留保金額には、金額の区分に応じて次の3段階の特別税率が適用されます。金額が大きいほど税率が上がる超過累進的な構造です。

課税留保金額の区分 特別税率
年3,000万円以下の部分 10%
年3,000万円超1億円以下の部分 15%
年1億円超の部分 20%

留保控除額の3つの基準

留保控除額は、一定額までの内部留保を許容するための控除枠です。次の3つの基準額を計算し、そのうち最も多い金額を留保控除額として使います(法人税法67条5項)。会社にとって最も有利な(控除枠が大きい)基準を選べる仕組みです。

基準 計算
所得基準額 その期の所得等の金額 × 40%
定額基準額 2,000万円 × 当期の月数 ÷ 12
利益積立金基準額 期末資本金額 × 25% - 期末利益積立金額(一定の調整後)
多くの中堅企業では、定額基準額(2,000万円)が最も大きくなることが多いです。つまり、年2,000万円程度までの内部留保は留保控除額でカバーされ、課税されないケースが一般的です。所得が非常に大きい会社では所得基準額(40%)が効いてきます。3基準の最大値を使える点が、会社に有利に働きます。

計算例

前提:資本金1.5億円の特定同族会社(事業年度12か月)

所得等の金額4,300万円、期末利益積立金2,000万円。当期留保金額(配当等・法人税等控除後)は2,600万円とする。

まず留保控除額を、3基準で計算して最大値を選びます。

基準 計算 金額
所得基準額 4,300万円 × 40% 1,720万円
定額基準額 2,000万円 × 12 ÷ 12 2,000万円
利益積立金基準額 1.5億円 × 25% - 2,000万円 1,750万円

最も多い定額基準額2,000万円が留保控除額です。課税留保金額は、当期留保金額2,600万円 - 留保控除額2,000万円 = 600万円。これは3,000万円以下なので特別税率10%が適用され、留保金課税額は600万円 × 10% = 60万円となります。この60万円が、通常の法人税に上乗せされます。

この例で、もし配当をもっと多く出していれば、当期留保金額が減り、留保金課税は小さくなります。仮に配当を増やして当期留保金額が2,000万円以下になれば、課税留保金額はゼロ、留保金課税もゼロになります。配当額のコントロールが留保金課税に直結することが分かります。

留保金課税への対策

留保金課税の対象になりそうな場合、主に次のような対策が考えられます。ただし、いずれもメリット・デメリットがあるため、他の税負担とあわせて総合的に判断する必要があります。

対策 内容と注意点
減資して資本金1億円以下に 事業年度末までに資本金1億円以下にすれば、原則として留保金課税の対象外に。ただし外形標準課税など他の判定にも影響
配当を増やす 社外流出を増やせば当期留保金額が減る。ただしオーナー個人の所得税(配当課税)が増える
損金を増やす 設備投資・従業員の待遇改善・寄附などで損金を増やし、留保金額を圧縮する

落とし穴:減資・配当は他の税目に波及する

資本金1億円以下への減資は、留保金課税を回避できる一方で、外形標準課税・法人住民税の均等割・中小法人の各種特例など、資本金を基準とする他の制度にも影響します。配当を増やせばオーナー個人の所得税が増えます。留保金課税だけを見て対策すると、他でかえって損をすることもあるため、全体最適で判断することが重要です。

想定Q&A

Q1. 資本金1,000万円の同族会社ですが留保金課税は心配ですか?

原則として心配ありません。資本金1億円以下の会社は、留保金課税の対象外です。多くの中小企業はこれに該当するため、留保金課税を気にする必要はありません。ただし、資本金5億円以上の大法人に完全支配されている子会社の場合は、資本金1億円以下でも対象になるので、親会社の資本金規模を確認してください。

Q2. 同族会社と特定同族会社はどう違いますか?

同族会社は「上位3株主グループで発行済株式等の50%超」、特定同族会社は「上位1株主グループだけで50%超」を保有する会社です。特定同族会社の方が支配が集中しています。留保金課税の対象は特定同族会社(かつ資本金1億円超)だけで、同族会社であっても特定同族会社でなければ対象になりません。判定は別表二で行います。

Q3. なぜ内部留保に課税されるのですか?

オーナー支配の会社が、配当を出せばオーナー個人にかかる所得税を避けるために、あえて利益を社内に貯め込む行為を抑えるためです。所得税は累進課税で高額になりやすい一方、法人に留保すればその課税を先送りできます。これを放置すると、配当をきちんと出す会社や個人企業との間で不公平になるため、過大な内部留保に特別税を課しています。

Q4. 留保控除額はどう決めますか?

所得基準額(所得等の金額×40%)、定額基準額(2,000万円×月数÷12)、利益積立金基準額(期末資本金×25%-期末利益積立金)の3つを計算し、最も多い金額を使います。会社に有利な(控除枠が大きい)基準を選べるため、3つとも計算して最大値を採用します。中堅企業では定額基準額(2,000万円)が最大になることが多いです。

Q5. 配当を出せば留保金課税は減りますか?

減ります。配当は社外流出なので、配当を増やすと当期留保金額が減り、課税留保金額も小さくなります。配当を十分に出して当期留保金額が留保控除額以下になれば、留保金課税はゼロになります。ただし、配当を受け取ったオーナー個人には所得税(配当課税)がかかるため、会社の留保金課税と個人の所得税を合わせて、どちらが有利かを比較して判断する必要があります。

Q6. 減資すれば必ず留保金課税を避けられますか?

資本金を1億円以下にすれば原則として対象外になりますが、注意が必要です。減資は、外形標準課税(資本金1億円超が対象)、法人住民税の均等割、中小法人向けの各種特例など、資本金を基準にする他の制度にも影響します。留保金課税だけを見て減資すると、他の面で不利になることもあります。また、大法人の完全支配下にある会社は減資しても対象のままです。総合的な判断が必要です。

Q7. 判定はいつの時点で行いますか?

特定同族会社に該当するかや資本金の額は、原則として事業年度終了の時点で判定します。そのため、事業年度末までに減資して資本金を1億円以下にすれば、その事業年度から対象外にできます。逆に、期中に資本金を増やして1億円を超えると、対象になる可能性があります。期末時点の状態が基準になる点を押さえておきましょう。

Q8. 特別税率はどのくらいの負担ですか?

課税留保金額のうち、年3,000万円以下の部分に10%、3,000万円超1億円以下に15%、1億円超に20%が適用されます。これは通常の法人税に「上乗せ」される税額です。たとえば課税留保金額が1億1,000万円なら、3,000万円まで10%、3,000万円超1億円までに15%、1億円超の1,000万円に20%を掛けた合計が上乗せされます。金額が大きいほど負担率が上がる構造です。

Q9. どの申告書で留保金課税を計算しますか?

まず別表二で特定同族会社かどうかを判定し、該当し資本金1億円超であれば、専用の別表(別表三(一)など)で留保金額・留保控除額・課税留保金額・留保金課税額を計算します。当期留保金額の算定には別表四の留保欄の金額や配当額などを用います。計算過程が複雑なので、対象になる会社は税理士に確認するのが確実です。

Q10. 赤字でも留保金課税はかかりますか?

当期に留保する利益がなければ、留保金課税はかかりません。留保金課税は「当期に社内に留保した金額」が留保控除額を超える場合に課されるものなので、赤字で留保する利益がない期には課税留保金額が生じません。あくまで、利益が出ていて、かつそれを配当せず社内に貯め込んでいる場合に問題になる制度です。

まとめ

留保金課税は、特定同族会社が配当を抑えて利益を過大に社内留保することによる所得税回避を防ぐための特別課税です。対象は原則として資本金1億円超の特定同族会社に限られ、多くの中小企業は対象外です。課税留保金額(留保金額-留保控除額)に3段階の特別税率(10%・15%・20%)を掛けて計算し、留保控除額は3基準の最大値を使えます。対象になる会社は、減資・配当・損金増などの対策がありますが、いずれも他の税目に波及するため、全体で判断することが重要です。

この記事のまとめ
  • 留保金課税は特定同族会社の過大な内部留保への特別課税(法人税法67条)。趣旨は所得税回避の防止
  • 対象は原則資本金1億円超の特定同族会社。1億円以下は原則対象外(大法人の完全子会社は例外的に対象)
  • 課税留保金額(留保金額-留保控除額)×特別税率(3,000万円以下10%・1億円以下15%・1億円超20%)
  • 留保控除額は所得基準40%・定額基準2,000万円・利益積立金基準の最大値
  • 対策は減資・配当増・損金増だが、外形標準課税や個人所得税など他への波及に注意

※本記事は作成時点の法令・公表資料(法人税法66条・67条、法人税法施行令139条の8〜140条、国税庁公表資料等)に基づく一般的な解説です。判定・計算は事実関係により異なり、改正もあり得るため、具体的な判断は最新の条文・国税庁公表情報の確認、または顧問税理士へのご相談をおすすめします。

コメント

タイトルとURLをコピーしました