損益通算とは?できる所得・できない所得と順序を完全解説|所得税法69条

所得税

損益通算は「赤字と黒字を相殺する制度」と説明されがちですが、その本質は、10種類に区分して別々に計算した所得を、担税力(税金を負担する力)に応じて再統合する仕組みにあります。日本の所得税は各種所得ごとに損益を計算する一方で超過累進税率を採用しているため、ある所得の損失を他の所得の利益から差し引けるかどうかで、最終的な税負担が大きく変わります。ただし、どの赤字でも自由に引けるわけではありません。対象は所得税法69条が限定列挙する4つの所得に限られ、しかも施行令198条が定める厳密な順序に従う必要があります。この記事では、通算できる所得とできない所得の切り分け、条文が定める順序、そして「対象所得なのに通算できない」例外までを、一次情報に基づいて整理します。

この記事のポイント

  • 損益通算できる損失は「不動産所得・事業所得・譲渡所得・山林所得」の4つだけ(覚え方は「不事譲山=富士山上」)
  • 配当・給与・一時・雑の損失は他の所得と通算できない。利子・退職はそもそも損失が生じない
  • 通算には所得税法69条・施行令198条が定める順序(経常所得グループ、譲渡一時グループ、山林退職)がある
  • 対象の不動産所得・譲渡所得でも、土地取得の借入金利子や申告分離課税の株式等の譲渡損など「通算できない例外」が多い
  • 通算しきれない損失は、青色申告なら純損失として翌年以後3年間繰り越せる(所得税法70条)

損益通算とは(定義と趣旨・所得税法69条)

損益通算とは、不動産所得・事業所得・譲渡所得・山林所得の金額の計算上生じた損失を、一定の順序に従って、総所得金額・退職所得金額・山林所得金額を計算する際に他の各種所得の金額から控除することをいいます(所得税法69条1項)。国税庁タックスアンサーNo.2250も、対象となる損失を(1)不動産所得(2)事業所得(3)譲渡所得(4)山林所得の4区分に限定したうえで、同じ定義を採用しています。

効果を具体例で確認します。会社員として給与所得600万円を得ている人が、不動産投資で不動産所得の損失100万円を出した場合、損益通算をしなければ600万円に課税されます。損益通算を適用すると、600万円から100万円を控除した500万円が課税の基礎となり、超過累進税率のもとで税額が下がります。赤字を「なかったこと」にするのではなく、担税力に応じて所得を再計算するのが損益通算の趣旨です。

覚え方は「不事譲山(ふじさんじょう=富士山上)」。通算できる4所得の頭文字です。ここに含まれない配当・給与・一時・雑・利子・退職の損失は、原則として他の所得から引けません。

損益通算できる4つの所得「不事譲山」

損益通算の対象となるのは、次の4つの所得区分で生じた損失に限られます。ただし後述のとおり、対象区分に該当していても損失の中身によっては通算できない例外があるため、まずは入口の判断軸として押さえます。

所得区分 損失が生じる典型例 通算の可否 根拠
不動産所得 賃貸経営の赤字 可(一部例外) 法69条1項
事業所得 開業初期や本業の赤字 法69条1項
譲渡所得 総合課税の資産の譲渡損 可(分離課税は不可) 法69条1項
山林所得 山林の伐採・譲渡の損 法69条1項

事業所得と不動産所得の関連論点は、副業は事業所得か雑所得かもあわせて確認すると、赤字の通算可否の入口が整理できます。

損益通算できない所得と損失

4区分以外の所得は、計算上損失が出ても他の所得と通算できません。理由は所得の性質ごとに異なります。

所得区分 損失の扱い 理由
配当所得 通算不可 損失が生じ得るが法69条の対象外
給与所得 通算不可 特定支出控除超過分の損失も対象外
一時所得 損失は打ち切り 通算後に残っても切り捨て
雑所得 通算不可 同じ雑所得内の内部通算のみ可
利子所得 損失が生じない 必要経費の概念がない
退職所得 損失が生じない 計算構造上マイナスにならない

落とし穴:副業の雑所得の赤字

ウェブライティングや配達などの副業が赤字でも、それが雑所得に区分される限り、給与所得と相殺することはできません。給与と通算したい場合は、その活動が事業所得と認められる実態(帳簿・継続性・営利性)を備えているかがカギになります。

損益通算の順序(69条・施行令198条)

損益通算は任意の順番で行えるわけではなく、所得税法施行令198条が順序を定めています。まず所得を、経常的に生じるAグループ(利子・配当・不動産・事業・給与・雑)と、臨時的に生じるBグループ(譲渡・一時)、そして山林・退職に分け、次の順で控除します。

順序 内容 根拠
(1) 不動産所得・事業所得の損失を、まずAグループ内の他の所得から控除 令198条
(2) 譲渡所得の損失を一時所得から控除(一時所得の損失は打ち切り) 令198条
(3) (1)で引ききれないAグループの損失を、Bグループ(通算後)から控除 令198条
(4) (2)で引ききれない譲渡所得の損失を、Aグループ(通算後)から控除 令198条
(5) なお残る損失を山林所得、次いで退職所得から順に控除 令198条

簡単な計算例です。事業所得が損失120万円、不動産所得が300万円、譲渡所得(総合)が損失50万円、一時所得が70万円のケースでは、まず(1)でAグループ内を通算し300万円から120万円を引いて180万円、次に(2)でBグループの譲渡損失50万円を一時所得70万円から引いて20万円となり、この年の総所得金額は180万円と20万円の合計200万円になります。

対象所得なのに通算できない例外

実務で最もつまずくのがこの論点です。不動産所得・譲渡所得は対象区分ですが、損失の中身によっては通算が制限されます。

不動産所得の損失の制限

不動産所得の赤字のうち、土地等を取得するための借入金の利子に対応する部分は損益通算できません(措置法41条の4、国税庁No.1391)。また、別荘など生活に通常必要でない資産の貸付けによる赤字、国外中古建物の簡便法による減価償却費相当額(措置法41条の4の3)も通算対象から除かれます。

譲渡所得の損失の制限

申告分離課税となる上場株式等の譲渡損(措置法37条の10・37条の11)や、土地建物等の譲渡損(措置法31条・32条)は、原則として給与所得など他の所得と通算できません。ゴルフ会員権など生活に通常必要でない資産の譲渡損も通算対象外です。総合課税となる譲渡損だけが通算できる点に注意します。

株式や不動産の譲渡損の扱いは、株式・投資信託の税金不動産の譲渡所得で、それぞれの分離課税の仕組みまで確認できます。

内部通算・総合課税と分離課税との違い

損益通算と混同されやすい概念を、言い切りで整理します。内部通算は同じ所得区分の中での相殺、損益通算は異なる所得区分の間での相殺です。また、分離課税の所得は原則として損益通算の枠の外にあります。

用語 意味 具体例
内部通算 同一所得区分内で利益と損失を相殺 雑所得内でFX益と暗号資産損を相殺
損益通算 異なる所得区分の間で損失を控除 事業所得の損失を給与所得から控除
総合課税 各所得を合算して累進税率で課税 給与・事業・総合譲渡など
分離課税 他と分けて固有の税率で課税 上場株式等・土地建物の譲渡など

暗号資産の損失は総合課税の雑所得内でしか相殺できません。詳しくは仮想通貨暗号資産の税金で扱っています。

特例で通算できるケース

原則は通算できない分離課税の損失でも、租税特別措置法の特例に該当すれば通算や繰越が認められます。代表的なものは次の3つです。

特例 通算できる相手 根拠
上場株式等の譲渡損と配当等 申告した上場株式等の配当・利子 措置法37条の12の2
居住用財産の買換え等の譲渡損失 給与所得など他の各種所得 措置法41条の5
特定居住用財産の譲渡損失 給与所得など他の各種所得 措置法41条の5の2
マイホームを売って損が出た場合、原則は給与と通算できませんが、買換え等の特例(措置法41条の5、国税庁No.3382)に該当すれば通算と3年繰越が可能です。適用には床面積や所有期間などの要件があります。

通算しきれない損失の繰越(純損失の繰越控除)

損益通算をしてもなお控除しきれない損失は「純損失」となり、青色申告書を提出している場合に限り、翌年以後3年間にわたって繰り越し、各年の総所得金額等から控除できます(所得税法70条)。白色申告では原則として繰り越せず、変動所得の損失や被災事業用資産の損失など一部に限って認められます。

申告方法 純損失の繰越 繰越期間
青色申告 全額を繰越可 3年
白色申告 原則不可(一部の損失のみ可) 3年

青色申告の要件と特典は、青色申告特別控除65万円の要件もあわせて確認すると、繰越との関係が整理できます。

損益通算の判断フロー

手順 確認内容
1 損失は不動産・事業・譲渡・山林のいずれかで生じたか(それ以外は通算不可)
2 対象所得でも例外(土地取得借入金利子・分離課税・生活に必要でない資産)に当たらないか
3 施行令198条の順序でグループ内、次いでグループ間を通算する
4 引ききれない損失は、青色申告なら純損失として3年繰り越す

確定申告での手続と記載

損益通算は確定申告で行います。通算後になお損失が残り繰越を受ける場合は、確定申告書第一表・第二表に加えて、損失申告用の第四表を添付します。純損失の繰越控除を受ける年も、連続して確定申告書を提出しておく必要があります。

場面 必要な様式等 留意点
年内で通算が完結 確定申告書 第一表・第二表 通算後の金額を記載
損失を翌年へ繰越 第四表(損失申告用)を追加 青色申告が前提
繰越損失を控除する年 確定申告書 第四表(二) 連続申告が必要

よくある質問(Q&A)

Q1. 会社員の副業が赤字です。給与と通算できますか

結論は、その副業が事業所得なら通算でき、雑所得なら通算できません。理由は、損益通算の対象が事業所得を含む4区分に限られるためです。反対に、記帳や継続性・営利性を備え事業所得と認められれば、給与所得との通算が可能になります。

Q2. 株で損をしました。給与と通算できますか

結論は原則できません。上場株式等の譲渡損は申告分離課税であり、給与など他の所得とは通算できないためです。ただし、申告を選択すれば、同一年の他の上場株式等の譲渡益や、申告した上場株式等の配当・利子とは通算できます(措置法37条の12の2)。

Q3. FXや暗号資産の損失はどう扱いますか

結論は、いずれも給与や事業所得とは通算できません。FXは申告分離課税の先物取引に係る雑所得等で、その枠内でのみ通算できます。暗号資産は総合課税の雑所得で、同じ雑所得内の内部通算に限られます。反対に、雑所得どうしの相殺は可能です。

Q4. 不動産所得の赤字は全額通算できますか

結論は、原則できますが例外があります。土地等を取得するための借入金の利子に対応する部分の損失は通算できません(措置法41条の4、国税庁No.1391)。反対に、建物の借入金利子や通常の必要経費による赤字は通算対象です。

Q5. 一時所得が赤字のとき通算できますか

結論はできません。一時所得の計算上生じた損失は打ち切られ、他の所得から控除できないためです。反対に、譲渡所得の損失は一時所得の黒字から差し引くことができます。

Q6. 譲渡所得の損失はいつでも通算できますか

結論は、総合課税の譲渡損なら通算でき、分離課税の譲渡損は原則できません。株式や土地建物の譲渡損は分離課税のため他の所得と通算できないのが原則です。反対に、機械や車両など総合課税となる資産の譲渡損は通算可能です。

Q7. 通算の順番は自由に選べますか

結論は選べません。所得税法施行令198条が順序を定めており、納税者が有利になるよう任意に変更することはできません。反対に、順序どおり計算すれば結果は一意に定まります。

Q8. 通算しきれない赤字は捨てるしかないですか

結論は、青色申告なら捨てずに繰り越せます。純損失として翌年以後3年間の所得から控除できるためです(所得税法70条)。反対に、白色申告では原則として繰り越せません。

Q9. 白色申告でも純損失を繰り越せますか

結論は原則できません。純損失の繰越控除は青色申告が前提だからです。反対に、変動所得の損失や被災事業用資産の損失は、白色でも一定の範囲で繰越が認められます。

Q10. マイホームを売って損しました。給与と通算できますか

結論は、原則できませんが特例で可能な場合があります。居住用財産の買換え等の譲渡損失の特例(措置法41条の5、国税庁No.3382)に該当すれば、給与所得などと通算し3年繰り越せます。反対に、要件を満たさない売却損は通算できません。

Q11. 事業所得と不動産所得が両方赤字です。どう通算しますか

結論は、まず同じAグループ内でまとめて他の経常所得から控除します。両者は経常所得グループに属するためです。反対に、それでも引ききれない損失は、次の順序で譲渡・一時、山林、退職の各所得から控除します。

Q12. 損益通算は住民税にも影響しますか

結論は影響します。住民税の所得金額も、原則として損益通算後の金額をもとに計算されるためです。反対に、分離課税など通算できない損失は、住民税でも同様に通算対象外です。

まとめ

損益通算のまとめ

  • 通算できる損失は不動産・事業・譲渡・山林の4区分「不事譲山」だけ(所得税法69条)
  • 配当・給与・一時・雑は通算不可、利子・退職は損失が生じない
  • 順序は施行令198条で固定。グループ内、グループ間、山林、退職の順に控除する
  • 対象所得でも土地取得借入金利子や分離課税の譲渡損など通算できない例外がある
  • 引ききれない損失は青色申告なら純損失として3年繰越(所得税法70条)

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出典・参考

本記事は令和8年8月時点の法令等に基づく一般的な解説です。個別の適用可否は要件により異なるため、具体的な判断は所轄税務署または税理士にご確認ください。

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