法人住民税と法人事業税は、事務所等が所在する地方団体がそれぞれ課税します。したがって、2以上の都道府県や市町村に事務所等がある法人は、課税標準額の総額を一定のものさしで按分し、各自治体に振り分けて申告しなければなりません。このものさしが分割基準です。
考え方の根っこは単純で、その自治体でどれだけ事業活動をしたかに応じて税を分け合うということです。ただし、何をもって活動量とみるかは税目と業種で異なり、従業者に誰を含めるか、期中に事務所を作ったらどう数えるか、といった細部で誤りが生じます。さらに、同じ「従業者の数」という言葉でも、均等割の判定に使う人数とは一致しません。本記事では、地方税法72条の48を軸に、実務で迷う箇所を計算例つきで整理します。支店を設けたときの届出は異動届出書の提出先を完全整理をご覧ください。
- 分割基準は、2以上の都道府県・市町村に事務所等がある法人が課税標準額を按分するものさし
- 法人住民税法人税割は業種を問わず従業者の数。法人事業税は業種で異なる
- 法人事業税は、製造業なら従業者の数、非製造業なら2分の1ずつを事務所等の数と従業者の数で按分
- 従業者には非常勤役員・アルバイト・派遣労働者・出向先の従業者を含み、1か月以上の欠勤者や出向元では含めない
- 期中に新設・廃止した事務所等は、所在した月数で按分する
- 均等割の判定に使う従業者数は、分割基準の従業者数とは一致しない
分割基準とは(制度の趣旨)
法人税が本店所在地の税務署にまとめて申告するのに対し、法人住民税・法人事業税は事務所等が所在する自治体ごとに納税します。ある会社が東京と大阪に事務所を持つなら、東京都と大阪府がそれぞれ課税権を持ちます。しかし所得は会社全体で1つしか計算されません。そこで、課税標準額の総額を各自治体に分ける必要が生じます。
その分け方が分割基準です。逆にいえば、事務所等が1つの都道府県内にしかない法人には分割基準の適用がありません。支店を別の県に出した瞬間から、この計算が始まります。
税目・業種ごとの分割基準
| 税目・業種 | 分割基準 |
|---|---|
| 法人住民税法人税割 | 業種を問わず従業者の数 |
| 法人事業税(製造業) | 従業者の数 |
| 法人事業税(非製造業) | 課税標準額の2分の1を事務所等の数、残り2分の1を従業者の数で按分 |
| その他(ガス供給業・倉庫業・鉄道軌道事業など) | 有形固定資産の価額、軌道のキロメートル数など、業種ごとに別に定められている |
分割基準の異なる事業を併せて行う法人は、主たる事業の分割基準を使います。主たる事業の判定は原則として売上金額が最も大きいもので行い、これによりがたい場合は従業者の配置や施設の状況から総合的に判断します。なお、製造小売は小売業に該当し、製造業にはなりません。
従業者の数の数え方
従業者とは、給与等の支払いを受けるべき労務等を提供している者です。常勤・非常勤の別、給与支払いの有無を問いません。原則として事業年度終了の日に在籍する人数で数えます。
| 取扱い | 対象者 |
|---|---|
| 含める | アルバイト、パートタイマー、契約社員、嘱託社員、取締役・監査役・非常勤役員、派遣会社から派遣を受けている労働者、他社から出向してきた者(出向先で計上) |
| 含めない | 他社への出向者(出向元では除く)、連続して1か月以上の病気欠勤者(産休・育休を含む)、組合専従者、国外勤務者、研修施設で研修を受ける者 |
期中に新設・廃止した場合は月数按分
事業年度の途中で事務所等を新設または廃止した場合、その事務所等の従業者数は、所在した月数に応じて按分します。月数は暦に従って計算し、1か月に満たない端数は1か月とします。従業者数に1人未満の端数が生じたときは1人とします(切上げ)。
著しい変動があるときは各月の平均
事業年度中の各月末日の従業者数のうち、最大の人数が最小の人数の2倍を超える事務所等については、期末の人数ではなく各月末日の平均を従業者の数とします。季節変動の大きい業種では確認が必要です。
資本金1億円以上の製造業は工場の2分の1加算
事業年度終了の日における資本金(出資金)が1億円以上で、主たる事業が製造業である法人は、工場の従業者について、その従業者数の2分の1を加算します(地方税法72条の48第4項)。工場の従業者数が奇数のときは、1を加えた数の2分の1を加算します。結果として工場の従業者は1.5倍で数えられます。
事務所等の数の数え方
非製造業の法人事業税で使う「事務所等の数」は、直感に反する数え方をします。事業年度に属する各月末日現在の事務所等の数を合計した数値です。つまり、1つの事務所が1年間存在した場合、数値は1ではなく12になります。
計算例(非製造業)
非製造業なので、課税標準額300万円のうち150万円を事務所等の数で、150万円を従業者の数で按分します。事務所等の数はA県が12(1事務所×12か月)、B県も12で総数24。従業者の数はA県6人、B県4人で総数10人です。
| 按分の内訳 | A県 | B県 |
|---|---|---|
| 事務所等の数で按分 | 75万円 | 75万円 |
| 従業者の数で按分 | 90万円 | 60万円 |
| 分割課税標準額 | 165万円 | 135万円 |
事務所等の数は同数なので75万円ずつ、従業者の数は6対4なので90万円と60万円です。合計してA県165万円、B県135万円を各県の分割課税標準額とし、それぞれの税率を乗じて税額を計算します。実際の申告では、所得を年400万円以下・800万円以下・800万円超の区分に分けたうえで按分し、千円未満の端数処理を行います。この計算は課税標準の分割に関する明細書(第十号様式)で行い、課税標準額のない法人(欠損法人)も提出が必要です。
なお、法人住民税法人税割は業種を問わず従業者の数だけで按分するため、上の例なら法人税額を6対4で分けます。外形標準課税の対象法人であれば、付加価値割・資本割も同じ分割基準で按分します。計算方法は外形標準課税の計算方法をご覧ください。
均等割の従業者数とは一致しない
法人住民税の均等割は、資本金等の額と従業者数の区分で金額が決まります。ここでも「従業者数」という言葉が出てきますが、分割基準の従業者数とは別物です。混同すると均等割の区分を誤ります。
| 論点 | 分割基準の従業者数 | 均等割の従業者数 |
|---|---|---|
| 期中新設・廃止の按分 | 月数で按分する | 按分しない。廃止した事業所の従業者数は0人 |
| 著しい変動の特例 | 各月の平均による | 適用されない |
| アルバイトの計算 | 実人数で数える | 直前1か月の総勤務時間数を170で除した数値によることができる(端数切上げ) |
実務上の落とし穴
想定Q&A集
Q1. 分割基準はどんなときに必要ですか
2以上の都道府県または市町村に事務所等を設けて事業を行う法人が必要です。1つの都道府県内にしか事務所等がない法人には適用されません。別の県に支店を出した時点から、按分計算が始まります。
Q2. 法人住民税と法人事業税で分割基準は同じですか
異なります。法人住民税法人税割は業種を問わず従業者の数だけです。法人事業税は業種で分かれ、製造業は従業者の数、非製造業は2分の1ずつを事務所等の数と従業者の数で按分します。
Q3. 製造業と非製造業を両方やっています
主たる事業の分割基準を使います。主たる事業は原則として売上金額が最も大きい事業で判定し、これによりがたい場合は従業者の配置や施設の状況から総合的に判断します。判定は事業年度終了の日の現況によります。
Q4. アルバイトや非常勤役員も従業者に含めますか
含めます。アルバイト、パートタイマー、契約社員、嘱託社員のほか、取締役・監査役・非常勤役員も含めます。無給の非常勤役員も対象です。給与支払いの有無や常勤・非常勤の別を問いません。
Q5. 出向者や派遣社員はどちらで数えますか
出向者は出向先の従業者に含め、出向元では除きます。派遣会社から派遣を受けている労働者は、派遣先の従業者に含めます。実際に労務を提供している場所で数える、という考え方です。
Q6. 育休中の社員は含めますか
連続して1か月以上勤務していない者は含めません。病気欠勤、産休、育休、組合専従者が該当します。国外勤務者や研修施設で研修を受ける者も含めません。
Q7. 期中に支店を作りました。従業者数はどう数えますか
所在した月数で按分します。期末の従業者数に、所在月数を事業年度の月数で除した割合を乗じます。月数は暦により計算し、1か月に満たない端数は1か月とします。従業者数に1人未満の端数が出たら1人に切り上げます。
Q8. 事務所等の数はどう数えますか
事業年度に属する各月末日現在の事務所等の数を合計します。1つの事務所が1年間存在すれば12です。同一県内に複数ある場合は、それぞれ1つの事務所等として数えます。
Q9. 期末に誰もいない事務所はどうなりますか
事業年度末日に従業者が一人もいなくても、人的設備と物的設備があり継続して事業が行われていれば、地方税法上の事業所等に該当します。この場合、分割基準の従業者の数は0人となりますが、非製造業では事務所等の数として計上されます。
Q10. 工場の2分の1加算はどんなときに行いますか
事業年度終了の日の資本金(出資金)が1億円以上で、主たる事業が製造業である法人の法人事業税に限られます。工場の従業者数の2分の1を加算し、奇数のときは1を加えた数の2分の1を加算します。法人住民税では行いません。
Q11. 従業者数が季節で大きく変動します
各月末日の従業者数のうち、最大の人数が最小の人数の2倍を超える事務所等については、期末の人数ではなく各月末日の平均を従業者の数とします。事務所等ごとに判定します。
Q12. 均等割の従業者数と同じ数字を使えますか
使えません。均等割の従業者数には、期中新設・廃止の月数按分や著しい変動の特例が適用されず、廃止した事業所の従業者数は0人になります。またアルバイトについて総勤務時間数を170で除する特例計算は、均等割の判定にのみ使えます。
Q13. 赤字なら明細書の提出は不要ですか
必要です。課税標準額のない法人も、課税標準の分割に関する明細書(第十号様式)を提出します。都道府県は県外にも事務所等を置く法人を対象に分割基準の調査を行っており、誤りは是正の対象になります。
分割基準の判断フロー
| 手順 | 確認すること |
|---|---|
| 1 | 2以上の都道府県・市町村に事務所等があるかを確認する(なければ分割不要) |
| 2 | 主たる事業を判定し、製造業か非製造業か(またはその他の業種か)を決める |
| 3 | 事務所等ごとに期末の従業者数を集計する(出向先・派遣先で計上、1か月以上の欠勤者は除外) |
| 4 | 期中新設・廃止は月数按分、著しい変動があれば各月平均に置き換える |
| 5 | 資本金1億円以上の製造業なら、事業税に限り工場の従業者数の2分の1を加算する |
| 6 | 第十号様式で按分し、均等割の従業者数は別に判定する |
まとめ
分割基準は、複数の自治体に事務所等がある法人が課税標準額を按分するための仕組みです。法人住民税法人税割は従業者の数、法人事業税は製造業なら従業者の数、非製造業なら事務所等の数と従業者の数を半分ずつ使います。誤りが集中するのは、従業者に誰を含めるか、事務所等の数を各月末日の合計で数えること、工場の2分の1加算が事業税限定であること、そして均等割の従業者数とは一致しないことの4点です。支店を新たに設けたら、届出とあわせて分割基準の計算体制も整えてください。
- 2以上の都道府県・市町村に事務所等がある法人が課税標準額を按分する仕組み
- 法人住民税法人税割は従業者の数。法人事業税は製造業なら従業者の数、非製造業なら2分の1ずつ
- 従業者には非常勤役員・アルバイト・派遣先・出向先を含み、1か月以上の欠勤者や出向元では含めない
- 事務所等の数は各月末日現在の数の合計。1事務所が1年あれば12
- 資本金1億円以上の製造業は、事業税に限り工場の従業者数の2分の1を加算
- 均等割の従業者数は分割基準と別。月数按分も変動特例も適用されない
※本記事は作成時点の法令・公表資料(地方税法72条の48、地方税法施行令35条、総務省「地方税制度」、東京都主税局・埼玉県・島根県等の分割基準のガイドブック等)に基づく一般的な解説です。分割基準の細部の取扱いは業種や事実関係により異なり、自治体の運用にも差があるため、具体的な判断は最新の法令・通知の確認、提出先の都道府県税事務所への照会、または税理士へのご相談をおすすめします。

