売上をいつ、いくら計上するか。当たり前のようでいて、商品の販売とサービスが混ざった契約や、ポイント付与、値引きが絡むと、途端に判断が難しくなります。従来は「実現主義」という大まかな考え方のもとで、会社ごとに出荷基準・引渡基準・検収基準などを選んでいたため、同じような取引でも会社によって売上計上のタイミングが違うという問題がありました。
これを統一するために作られたのが、収益認識に関する会計基準(企業会計基準第29号)です。国際的な基準であるIFRS第15号を取り込み、「顧客への約束(履行義務)を果たしたときに、その分の収益を認識する」という考え方を、5つのステップで判断します。この記事では、収益認識基準の背景と実現主義との違い、5つのステップ、履行義務を一時点で充足するか一定期間で充足するかの判定、変動対価や本人・代理人などの個別論点、中小企業の扱いまでを、企業会計基準第29号に沿って整理します。
- 収益認識基準は、顧客への約束(履行義務)を果たしたときに収益を認識する包括的な会計基準
- 収益は5つのステップ(契約の識別・履行義務の識別・取引価格の算定・配分・充足による認識)で判断する
- 履行義務は、一時点で充足されるものと、一定期間にわたり充足されるものに分かれる
- 変動対価・本人と代理人の区分・ポイント制度など、判断が分かれる個別論点がある
- 上場企業や大会社などに強制適用され、中小企業は従来どおり実現主義による処理も認められる
収益認識基準とは
収益認識に関する会計基準は、顧客との契約から生じる収益について、計上する単位・時期・金額を定めた包括的な会計基準です。基本となる考え方は、約束した財やサービスを顧客に移転し、その履行義務を果たしたときに、企業が得ると見込む対価の額で収益を認識する、というものです。従来の実現主義が「出荷した」「引き渡した」といった形式的なイベントで判断していたのに対し、収益認識基準は「顧客が資産に対する支配を得たか」という実質で判断する点が大きく変わりました。
収益認識の5つのステップ
収益は、次の5つのステップを順に適用して認識します。ステップ1・2で「何を(計上単位)」、ステップ3・4で「いくら(金額)」、ステップ5で「いつ(時期)」を決める流れです。
| ステップ | 内容 | ポイント |
|---|---|---|
| 1 | 契約の識別 | 承認・権利の識別・支払条件・経済的実質・対価回収可能性が高いことの5要件を満たす契約を識別 |
| 2 | 履行義務の識別 | 契約中の約束を、別個の財・サービスごとに履行義務として分解する |
| 3 | 取引価格の算定 | 変動対価・重要な金融要素・現金以外の対価などを考慮して取引価格を算定する |
| 4 | 取引価格の配分 | 取引価格を、各履行義務の独立販売価格の比で配分する |
| 5 | 履行義務の充足による認識 | 履行義務を充足した時(一時点)、または充足するにつれて(一定期間)、配分額で収益を認識する |
一時点の充足と一定期間の充足
ステップ5では、その履行義務が一時点で充足されるか、一定期間にわたり充足されるかを判定します。次の3つの要件のいずれかを満たせば一定期間にわたる充足、いずれも満たさなければ一時点での充足です。
| 区分 | 内容 |
|---|---|
| 一定期間にわたる充足 | ①履行につれ顧客が便益を享受、②履行につれ生じる資産を顧客が支配、③別に転用できない資産が生じ完了部分の対価を収受する権利がある、のいずれかを満たす。進捗度に応じて認識(保守サービス、工事など) |
| 一時点の充足 | 上記を満たさない場合。資産に対する支配が顧客に移転した時に認識(物品の販売など) |
一時点での支配の移転は、対価を収受する権利、法的所有権、物理的占有の移転、リスクと経済価値の移転、顧客の検収などの指標で判断します。一定期間にわたる充足で、進捗度を合理的に見積れないものの発生費用の回収が見込まれる場合は、原価回収基準(回収が見込まれる費用の額で収益を認識する方法)で処理します。
国内の販売で、出荷時から顧客への支配移転(検収など)までが通常の期間である場合には、出荷時や着荷時などの一時点で収益を認識することが認められています。日数が短く、金額的な重要性が乏しいと考えられるためです。従来の出荷基準に近い処理が、一定の条件下で引き続き使えます。
主な個別論点
収益認識基準では、次のような論点で従来と処理が変わることがあります。
| 論点 | 内容 |
|---|---|
| 変動対価 | リベート・値引き・返品など、将来変動しうる対価を見積って取引価格に反映する |
| 本人と代理人 | 本人なら対価の総額、代理人なら手数料部分の純額で計上。在庫リスク・価格裁量・主たる責任で判定 |
| ポイント制度 | 付与したポイントを別個の履行義務とし、その分の対価を繰り延べて、使用時に収益認識する |
| 返品権付き販売 | 返品されると見込む分は収益に計上せず、返金負債などとして処理する |
仕訳例(商品+保守サービス)
商品(独立販売価格10,000円)と2年間の保守サービス(同5,000円)を合計15,000円で販売し、代金を現金で受け取ったケースです。商品は引渡時に、保守は2年間で収益認識します。
| 場面 | 借方 | 貸方 |
|---|---|---|
| 販売時 | 現金 15,000 | 売上 10,000/契約負債 5,000 |
| 1年目末 | 契約負債 2,500 | 売上 2,500 |
| 2年目末 | 契約負債 2,500 | 売上 2,500 |
商品と保守を別個の履行義務と識別し、取引価格15,000円を独立販売価格の比で配分します。商品分10,000円は引渡時(一時点)に、保守分5,000円は2年間(一定期間)にわたり各期2,500円ずつ収益認識します。従来、契約時に15,000円を全額売上にしていた処理とは、時期と金額が変わります。まだ収益にできない保守分は契約負債(前受金の性格)で処理します。
適用対象と税務・中小企業の扱い
収益認識基準は、2021年4月1日以後開始する事業年度から、上場企業や会社法上の大会社などに強制適用されています。これに合わせて法人税法も改正され、資産の販売等に係る収益の計上時期・計上額を明確化する規定が設けられました。一方、中小企業については、従来どおり企業会計原則等(実現主義)による会計処理が認められており、収益認識基準の適用は義務づけられていません。適用対象かどうかで、求められる処理が変わります。
見落としやすい落とし穴
複数の履行義務を一括で売上にする
商品と保守サービスなど、性格の異なる約束が含まれる契約は、別個の履行義務に分けて収益認識します。契約時に全額を一括で売上にすると誤りです。それぞれの独立販売価格で取引価格を配分し、履行義務ごとに充足時期で認識します。
本人・代理人の判定を誤る
自社が本人か代理人かで、売上を総額で計上するか手数料の純額で計上するかが変わります。代理人なのに総額で計上すると、売上高が過大になります。在庫リスクの負担、価格の裁量権、顧客への主たる責任の所在を総合的に判定します。
ポイントを付与時に全額売上にする
付与したポイントは、将来商品と交換する別個の履行義務です。付与時に対価の全額を売上にすると、ポイント相当分を過大に計上してしまいます。ポイント相当分の対価を繰り延べ、ポイントが使用された時などに収益認識します。
変動対価を見積らずに計上する
リベートや値引き、返品など将来変動する対価は、見積って取引価格に反映します。額面どおりに計上すると、後の値引き・返品で売上を減らすことになり、収益が過大になります。変動対価を見積り、収益の著しい減額が生じない範囲で取引価格に含めます。
収益認識の判定フロー
| 手順 | 確認内容 |
|---|---|
| 1 | 5要件を満たす顧客との契約を識別する(ステップ1) |
| 2 | 契約中の約束を、別個の財・サービスごとに履行義務へ分解する(ステップ2) |
| 3 | 変動対価などを考慮して取引価格を算定し、各履行義務に配分する(ステップ3・4) |
| 4 | 履行義務ごとに一時点か一定期間かを判定する(ステップ5) |
| 5 | 充足時(一時点)または進捗度に応じて(一定期間)、配分額で収益を認識する |
想定Q&A(収益認識基準)
Q1. 従来の実現主義と何が違いますか
判断の基準が実質に変わりました。実現主義が出荷・引渡しなど形式的なイベントで収益を認識していたのに対し、収益認識基準は顧客が資産の支配を得たかという実質で、履行義務の充足により認識するからです。反対に、包括的なルールで会社間の比較可能性が高まります。同じ取引でも計上の時期や金額が変わることがあります。
Q2. 履行義務とは何ですか
顧客への約束の単位です。契約の中で顧客に移転すると約束した、別個の財やサービスのことで、これが収益を認識する単位になるからです。反対に、1つの契約に複数の約束が含まれる場合は、それぞれを別個の履行義務として識別します。商品の販売と保守サービスなら、2つの履行義務に分けます。
Q3. 一時点と一定期間はどう見分けますか
3つの要件を満たすかで判定します。履行につれ顧客が便益を享受する、資産を顧客が支配する、転用できない資産が生じ完了部分の対価を収受できる、のいずれかを満たせば一定期間、満たさなければ一時点だからです。反対に、物品の販売は通常一時点、保守や工事は一定期間になりやすいです。要件で機械的に判定します。
Q4. 出荷基準はもう使えないのですか
条件付きで使えます。国内販売で、出荷から支配移転(検収など)までが通常の期間なら、出荷時や着荷時の一時点で収益認識する代替的な取扱いが認められているからです。反対に、これは日数が短く重要性が乏しいことを前提とした簡便法です。原則は支配の移転時ですが、実務上は従来に近い処理も一定範囲で可能です。
Q5. 本人と代理人で何が変わりますか
売上を総額で出すか純額で出すかが変わります。本人なら対価の総額を売上に、代理人なら受け取る手数料部分の純額を売上に計上するからです。反対に、代理人なのに総額で計上すると売上高が大きく見えてしまいます。在庫リスク・価格裁量・主たる責任の所在を総合して、自社の立場を判定します。
Q6. ポイントはどう会計処理しますか
別個の履行義務として繰り延べます。付与したポイントは将来商品と交換する約束であり、独立した履行義務と考えるため、その分の対価を繰り延べて使用時に収益認識するからです。反対に、付与時に全額を売上にするとポイント分を過大計上します。ポイント相当額は契約負債などで繰り延べます。
Q7. 変動対価とは何ですか
将来変動しうる対価です。リベート、値引き、返品など、確定していない金額が対価に含まれる場合、それを見積って取引価格に反映するからです。反対に、見積らずに額面で計上すると、後の値引き・返品で収益を減らすことになります。収益の著しい減額が生じない範囲で、見積った変動対価を取引価格に含めます。
Q8. 契約負債とは何ですか
まだ収益にできない前受けの対価です。代金を受け取っても、履行義務をまだ果たしていない部分は収益にできないため、その分を負債として計上するからです。反対に、履行義務を果たすにつれて契約負債を取り崩し、収益に振り替えます。前受金に近い性格で、保守サービスの未経過分などが典型です。
Q9. 中小企業も適用しなければなりませんか
義務ではありません。収益認識基準は上場企業や大会社などに強制適用される一方、中小企業は従来どおり企業会計原則等(実現主義)による処理が認められているからです。反対に、中小企業が任意で収益認識基準を適用することは可能です。適用対象かどうかで求められる処理が異なるため、自社の区分を確認します。
Q10. 税務(法人税)への影響はありますか
あります。収益認識基準の導入に合わせて法人税法が改正され、資産の販売等に係る収益の計上時期・計上額を明確化する規定が設けられたからです。反対に、会計と税務で完全に一致するわけではなく、貸倒れや返品の見積りなど一部で調整が必要になることがあります。会計処理と税務上の取扱いの両方を確認します。
Q11. 消費税の計上時期も変わりますか
必ずしも一致しません。消費税は課税資産の譲渡等を課税対象とし、その時期は資産の引渡し等の時とされるため、会計上の収益認識の時期とずれることがあるからです。反対に、多くの取引では大きなずれは生じませんが、ポイントや変動対価などでは会計と消費税の扱いが異なる場合があります。消費税の課税時期は別に確認します。
まとめ
収益認識基準は、顧客への約束(履行義務)を果たしたときに収益を認識する包括的な会計基準です。契約の識別・履行義務の識別・取引価格の算定・配分・充足による認識という5つのステップで、売上をいつ・いくら計上するかを判断します。履行義務は一時点か一定期間かで認識のタイミングが変わり、変動対価・本人代理人・ポイントなどの個別論点で従来と処理が変わることがあります。上場企業などに強制適用され、中小企業は従来の実現主義も認められます。契約内容を履行義務に分解して考えることが出発点です。
- 収益認識基準は履行義務の充足により収益を認識する包括的な基準(企業会計基準第29号)
- 5ステップ=契約の識別・履行義務の識別・取引価格の算定・配分・充足による認識
- 履行義務は一時点(物品販売等)か一定期間(保守・工事等)かで認識時期が変わる
- 変動対価・本人代理人・ポイント・返品権付き販売などの個別論点に注意
- 上場企業等に強制適用、中小企業は従来の実現主義も可。税務・消費税の時期は別に確認
※本記事は作成時点の会計基準・法令および公表資料(企業会計基準第29号「収益認識に関する会計基準」、企業会計基準適用指針第30号、法人税法22条・22条の2、法人税基本通達、国税庁「収益認識に関する会計基準への対応について」、中小企業の会計に関する指針等)に基づく一般的な解説です。仕訳例は簡略な設例です。制度・取扱いは改正により変わる場合があるため、個別の判断は最新の基準・法令の確認、または顧問税理士・公認会計士へのご相談をおすすめします。
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