社会保険料は「当月分を翌月末に納付」するため、決算日の時点では決算月分がまだ未払いです。この会社負担分を未払計上して当期の損金にできるのが、決算対策として知られる社会保険料の未払計上です。1か月分とはいえ、社会保険料は給与の約15%と大きく、確実に損金化できれば法人税の節税につながります。
ただし、この処理には「いつ債務が確定するか」という税務上の判断が絡み、決算日が月末かどうかや決算賞与に係る社会保険料かどうかで結論が変わります。安易に未払計上すると、税務調査で否認されるケースもあります。本記事では、未払社会保険料を損金にできる根拠(法人税基本通達9-3-2)、月末決算でないと使えない理由、決算賞与に係る社会保険料の落とし穴までを、国税庁の質疑応答事例や裁決に沿って整理します。
- 会社負担分の社会保険料は、計算対象月の末日の属する事業年度で損金算入できる(法基通9-3-2)
- 根拠は、各月末日の在職の事実で支払債務が確定するという債務確定基準
- 月末決算の法人は決算月分を未払計上できるが、20日締めなど月末以外の決算では日数按分できない
- 決算日が休日で引落が翌月にずれると、2か月分を未払計上できる場合がある
- 決算賞与を未払計上しても、その賞与に係る社会保険料は未払計上できない(債務未確定)
目次
社会保険料の納付の仕組み
まず、未払計上の話の前提となる、社会保険料の納付の流れを確認します。狭義の社会保険料(健康保険・介護保険・厚生年金保険)は、当月分を翌月末までに納付します(健康保険法164条、厚生年金保険法83条)。
たとえば3月分の社会保険料は、従業員負担分を給与から預かり、会社負担分と合わせて4月末に納付します。会社負担分と従業員負担分は原則として折半で、会社負担分は法定福利費、従業員負担分は給与から差し引いた預り金として処理します。従業員側から見た社会保険の負担や加入の基準については、扶養に係る税金と社会保険の違いで解説しています。
決算日時点では決算月分が未払い
未払計上できる根拠(法基通9-3-2)
会社負担分の社会保険料を当期の損金にできる根拠は、法人税基本通達9-3-2です。ここでは、社会保険料のうち会社が負担すべき部分の金額は、その保険料の計算の対象となった月の末日の属する事業年度の損金の額に算入できる、とされています。
法人税基本通達9-3-2(要旨)
法人が納付する社会保険料等の額のうち、当該法人が負担すべき部分の金額は、その保険料等の額の計算の対象となった月の末日の属する事業年度の損金の額に算入することができる。
重要なのは、この通達が「納入告知書の到達」や「実際の納付」を待たずに損金算入できると明らかにしている点です。つまり、3月末決算の法人は、3月分の会社負担分を、翌月4月末の納付を待たずに、3月分の費用として未払計上し、当期の損金にできます。1か月分の社会保険料を、確実に当期の損金として前倒しできるわけです。
債務確定基準との関係
なぜ納付前でも損金にできるのか。その理由は債務確定基準にあります。法人税法22条3項2号は、償却費以外の費用で当期末までに債務が確定していないものは損金にできないと定めています。逆に言えば、債務が確定していれば、未払いでも損金にできます。
債務が確定しているといえるための要件は、法人税基本通達2-2-12で次の3つとされています。
| 要件 | 内容 |
|---|---|
| (1) | 当期末までに、その費用に係る債務が成立していること |
| (2) | 当期末までに、その債務に基づいて具体的な給付をすべき原因となる事実が発生していること |
| (3) | 当期末までに、その金額を合理的に算定できること |
社会保険料の会社負担分は、各月末日に在職している被保険者を基礎に計算されます。月末に在職していれば、その月の保険料の納付義務が生じ、月の途中で退職した人はその月の保険料の納付義務がありません(健康保険法156条3項等)。つまり、各月の末日が到来した時点で、その月の社会保険料の支払債務が確定します。だからこそ、決算月の末日を過ぎていれば、まだ納付していなくても債務は確定しており、当期の損金にできるのです。
仕訳例(会社負担分の未払計上)
3月末決算の会社が、3月分の会社負担分の社会保険料30万円を未払計上する場合の仕訳は、次のとおりです。
| 決算時(3月31日):会社負担分を未払計上 | |
|---|---|
| (借)法定福利費 300,000 | (貸)未払費用 300,000 |
| 翌期の納付時(4月末):従業員負担分の預り金と合わせて納付(会社負担分30万・従業員負担分30万の例) | |
|---|---|
| (借)未払費用 300,000 | (貸)普通預金 600,000 |
| (借)預り金 300,000 | |
従業員負担分は、3月給与から預かった時点で預り金として計上されています(会社負担分だけを未払費用にします)。決算で未払計上するのは会社負担分だけである点に注意してください。なお、実額が決算までに確定しない場合は、前月実績などから見積額を計上し、翌期に実額との差額を洗い替える方法も認められています(継続適用が前提)。
月末決算でないと使えない理由
ここが、大手の一般的な仕訳解説ではあまり触れられない重要な論点です。この未払計上は、決算日が月末の法人でないと使えません。20日締めなど、決算日が月の途中の法人では、決算月分の日数按分による未払計上は認められません。
落とし穴:20日決算法人の日数按分は否認される
この違いは、社会保険料の債務が「日々発生する」のではなく「月末日に一括して確定する」という性質から生じます。給与の締め日とは無関係に、社会保険料は暦月(1日から末日)を単位に、月末在職の事実で確定します。だからこそ、決算日が月末に一致していないと、決算月分を当期に取り込めないのです。
決算日が休日で2か月分になる場合
社会保険料の口座振替は、原則として月末日に行われますが、月末日が土日祝日など金融機関の休業日に当たる場合は、振替が翌月の初日に延期されます。この延期が、決算月末に重なると、2か月分の会社負担分を未払計上できることがあります。
具体例:3月31日決算で3月31日が日曜日の場合
2月分は、2月末日の到来により債務が確定しており、本来3月末に振替される予定だったものが休日で翌期にずれただけなので、当期末では未払いの確定債務として損金算入できます。決算日が月末で、かつその月末が休日となる年は、この2か月分の未払計上ができないか確認する価値があります。
決算賞与に係る社会保険料の落とし穴
決算対策で決算賞与を未払計上する会社は多いですが、ここに大きな落とし穴があります。決算賞与を未払計上できても、その決算賞与に係る社会保険料は未払計上できません。
決算賞与は、一定の要件(全使用人への各人別の通知、通知額を翌期首から1か月以内に支払い、当期に損金経理)を満たせば、当期に未払計上して損金算入できます。この決算賞与の要件は決算賞与の損金算入要件で詳しく解説しています。しかし、賞与に係る社会保険料の債務が確定するのは、その賞与を実際に支払った月の末日です。決算で賞与を未払計上した段階では、まだ賞与を支払っていないため、その社会保険料の債務は確定しておらず、未払計上できません。
落とし穴:賞与本体と社会保険料で損金算入時期がずれる
この論点は、毎月の給与に係る社会保険料の未払計上(当期に損金算入できる)と混同しやすいところです。毎月の給与に係る社会保険料は各月末で債務が確定するので当期損金にできますが、決算賞与に係る社会保険料は賞与支払月の末日まで債務が確定しないため当期損金にできません。決算賞与の未払計上とセットで、社会保険料まで未払計上してしまう誤りに注意が必要です。
想定Q&A
Q1. 決算月分の社会保険料は当期の損金にできますか?
月末決算の法人であれば、決算月分の会社負担分を未払計上して当期の損金にできます。社会保険料は当月分を翌月末に納付しますが、法人税基本通達9-3-2により、会社負担分は計算対象月の末日の属する事業年度で損金算入できるとされています。3月末決算なら、3月分の会社負担分を4月末の納付を待たずに3月期の損金にできます。損金にできるのは会社負担分のみで、従業員負担分は預り金です。
Q2. なぜ納付前なのに損金にできるのですか?
社会保険料の支払債務が、各月の末日に確定するからです。社会保険料は各月末日に在職している被保険者を基礎に計算され、月末に在職していればその月の保険料の納付義務が生じます。したがって、決算月の末日を過ぎていれば、まだ納付していなくても債務は確定しており、債務確定基準(法人税法22条3項2号)を満たすため、未払いでも当期の損金にできます。納入告知書の到達や実際の納付は損金算入の条件ではありません。
Q3. 20日締めの決算でも未払計上できますか?
できません。社会保険料の債務が確定するのはその月の末日なので、20日決算のように決算日が月の途中の法人では、決算月分の債務が期末時点でまだ確定していません。2月20日決算で2月1日から20日分を日数按分して未払計上することは、国税庁の質疑応答事例でも認められないとされています。3月20日決算なら、3月分の債務確定日(3月31日)が翌期になるため、3月分は当期に未払計上できません。この未払計上は月末決算の法人だけが使える処理です。
Q4. 決算賞与の社会保険料も当期に未払計上できますか?
できません。賞与に係る社会保険料の債務が確定するのは、賞与を実際に支払った月の末日です。決算で賞与を未払計上した段階ではまだ賞与を支払っていないため、その社会保険料の債務は確定しておらず、当期に未払計上できません。賞与本体は要件を満たせば当期の損金になりますが、その社会保険料は翌期(賞与支払月)の損金になります。決算賞与に係る法定福利費を当期に未払計上して否認された裁決事例もあるので、注意が必要です。
Q5. 決算日が休日だと2か月分を未払計上できるとは?
社会保険料の口座振替は月末日ですが、月末が休日だと翌月初日に延期されます。たとえば3月31日決算で3月31日が日曜日だと、本来3月末に振替される2月分が4月1日に延期され、決算日時点で2月分と3月分の2か月分が未払いになります。2月分は2月末で債務が確定済みなので、この2か月分の会社負担分を当期の損金として未払計上できます。決算月末が休日となる年は、2か月分の未払計上ができないか確認するとよいでしょう。
Q6. 従業員負担分も未払計上して損金にできますか?
できません。損金にできるのは会社負担分だけです。従業員負担分は、給与から預かったお金(預り金)を会社が代わりに納付するだけで、会社の費用ではありません。したがって、決算で未払計上して損金にするのは会社負担分のみです。従業員負担分は、給与から差し引いた時点で預り金として計上され、納付時に預り金を取り崩します。会社負担分(法定福利費)と従業員負担分(預り金)を混同しないことが大切です。
Q7. 実額が決算までに分からない場合はどうしますか?
決算月分の納入告知書は翌月後半に届くため、決算までに実額が分からないことがあります。この場合は、前月の納付実額などを基礎に見積額を計上し、翌期に実額との差額を洗い替える方法が認められています(継続適用が前提)。従業員の増減や随時改定がなければ、毎月の社会保険料はほぼ同額なので、前月実額をそのまま使えることも多いです。見積計上と実額のズレは、翌期の調整または申告調整で対応します。
Q8. 労働保険料(労災・雇用)も未払計上できますか?
労働保険料は社会保険料とは扱いが異なります。労働保険料は年度更新で概算保険料を納付し、後で確定保険料と精算する仕組みです。概算保険料は申告日または納付日の損金となります。確定保険料が概算保険料を超える(不足する)場合で、確定保険料の申告前に決算を迎えたときは、その不足額を未払計上して損金算入できます。狭義の社会保険料の毎月の未払計上とは考え方が違うので、労働保険料は分けて処理するのが安全です。
Q9. 社会保険料の未払計上に消費税はかかりますか?
社会保険料は消費税の課税対象外(不課税)です。したがって、仕入税額控除の対象にはなりません。法定福利費として計上する社会保険料は、消費税の計算には関係しない点に注意してください。会計ソフトで法定福利費に自動的に課税区分が付く場合は、不課税(対象外)に修正する必要があります。消費税の課税区分の設定ミスは、消費税の申告誤りにつながるので確認が大切です。
Q10. 未払計上は毎期しないといけませんか?
未払計上は義務ではなく、当期の損金にできる権利です。ただし、初めて未払計上する期は、決算月分の1か月分がまるごと損金に上乗せされるため、その期だけ損金が大きくなります。一度未払計上を始めれば、毎期同様に決算月分を計上するので、以後の期は前期末の未払いが当期に納付され当期末に新たな未払いを計上する形になり、損金が一巡します。継続適用が基本なので、始めるなら毎期続ける前提で、税理士と相談して判断するとよいでしょう。
まとめ
会社負担分の社会保険料は、計算対象月の末日の属する事業年度で損金算入でき(法人税基本通達9-3-2)、月末決算の法人は決算月分を未払計上して当期の損金にできます。根拠は、各月末日の在職の事実で支払債務が確定するという債務確定基準です。ただし、20日締めなど月末以外の決算では決算月分を日数按分して未払計上できず、決算賞与に係る社会保険料は賞与支払月まで債務が確定しないため当期に未払計上できません。決算日が休日で引落が翌月にずれる年は、2か月分を未払計上できることもあります。損金にできるのは会社負担分だけで、決算対策として使う際は要件を正しく押さえることが大切です。
- 会社負担分の社会保険料は計算対象月末日の属する事業年度で損金算入できる(法基通9-3-2)
- 根拠は各月末日の在職の事実で支払債務が確定する債務確定基準(法22条3項2号・法基通2-2-12)
- 月末決算の法人は決算月分を未払計上できるが、20日締め等の月末以外決算は日数按分できない
- 決算日が休日で引落が翌月にずれると2か月分を未払計上できる場合がある
- 決算賞与に係る社会保険料は賞与支払月まで債務未確定のため当期に未払計上できない
※本記事は作成時点の法令・公表資料(法人税法22条3項、法人税基本通達9-3-2・2-2-12、健康保険法156条・164条、厚生年金保険法81条・83条、国税庁質疑応答事例「社会保険料の損金算入時期について」等)に基づく一般的な解説です。要件や取扱いは改正や個別事情により変わる場合があるため、具体的な判断は最新の国税庁公表情報の確認、または顧問税理士へのご相談をおすすめします。


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