退職所得・不動産関係の支払調書【完全ガイド④】役員のみ提出・権利金・譲受け・あっせん

法定調書

【法定調書 完全ガイド・全5回】 ① 総論編/② 給与所得の源泉徴収票編/③ 報酬・料金の支払調書編/④ 退職所得・不動産関係編(本記事)/⑤ 合計表・提出実務編

本記事(パート4)では、退職所得の源泉徴収票不動産関係の3つの支払調書を扱います。退職所得は「役員のみ提出」「死亡退職は別の調書」など独特のルールがあり、不動産使用料は「法人へは権利金等のみ」という見落としやすい取扱いがあります。記載要領に沿って解説します。

目次
  1. 退職所得の源泉徴収票:提出範囲(役員のみ)
  2. 死亡退職は相続税法の支払調書
  3. 受給申告書の有無と税率
  4. 勤続年数・退職所得控除・特定役員
  5. 退職の提出先・期限・交付
  6. 不動産の使用料等:提出義務者と範囲
  7. 法人へは権利金・更新料等のみ
  8. 使用料の記載欄
  9. 譲受けの対価・あっせん手数料
  10. 次回(パート5)の予告

1. 退職所得の源泉徴収票:提出範囲(役員のみ)

税務署・市区町村提出は役員分のみ

退職所得の源泉徴収票・特別徴収票を税務署・市区町村へ提出するのは、法人の役員(取締役・執行役・会計参与・監査役・理事・監事・清算人・相談役・顧問等、その年中に役員であった者を含む)に支払う退職手当等です。一般従業員の退職金は本人交付のみで、税務署・市区町村への提出は不要です。

特定役員(役員等勤続年数5年以下)に該当しても、法人の役員でなければ税務署・市区町村への提出は不要です(本人交付のみ)。つまり提出義務の判定は「役員かどうか」で、勤続年数の長短ではありません。なお、令和8年1月1日以後に支払う退職手当等からは、役員分だけでなく全従業員分の提出が必要になる改正が予定されています(施行時期・対象は最新の国税庁資料で確認)。

2. 死亡退職は相続税法の支払調書

死亡退職により退職手当等を支払った場合は、所得税の「退職所得の源泉徴収票」ではなく、相続税法の規定による「退職手当金等受給者別支払調書」を提出します。死亡後に支払う退職金は、所得税ではなく相続税の課税対象(みなし相続財産)になるためです。したがって、退職所得の源泉徴収票は提出しません。被相続人の死亡後3年以内に支給が確定したものが対象になるなど、相続税側のルールに従います。

3. 受給申告書の有無と税率

② 区分(上段・中段・下段)の使い分け
  • 上段:「退職所得の受給に関する申告書」に、その年に受けた他の退職手当等がない旨の記載がある場合
  • 中段:同申告書に、その年に受けた他の退職手当等がある旨の記載がある場合
  • 下段:同申告書の提出がないため、20.42%の税率で源泉徴収する場合
「退職所得の受給に関する申告書」の提出があれば、退職所得控除・2分の1課税を適用した正しい源泉徴収ができます。提出がないと、退職手当等の支払金額に一律20.42%を乗じた源泉徴収となり、本人は確定申告で精算することになります。退職金支払時には、必ず受給申告書を提出してもらうのが実務の鉄則です。

4. 勤続年数・退職所得控除・特定役員

  • ⑦ 勤続年数:源泉徴収税額の計算の基礎となった勤続年数。1年未満の端数は1年に切上げ
  • ⑥ 退職所得控除額:勤続20年以下は40万円×年数(最低80万円)、20年超は800万円+70万円×(年数-20年)。障害退職は100万円加算
  • ⑧ 摘要:勤続年数の計算の基礎を記載。特定役員退職手当等・短期退職手当等が含まれる場合は、その金額・勤続年数・計算の基礎を記載
特定役員退職手当等とは、役員等勤続年数が5年以下の人がその役員等勤続年数に対応して受ける退職手当等で、退職所得の2分の1課税が適用されません短期退職手当等は、役員等以外として勤務した期間が5年以下の場合で、300万円を超える部分は2分の1課税が適用されません。これらが含まれる退職金は、摘要欄に短期勤続年数・特定役員等勤続年数とその計算の基礎を記載します。過去の退職金との勤続期間の重複がある場合も、重複期間等を記載します。
退職所得の源泉徴収税額の計算手順
① 退職所得控除額
 勤続20年以下=40万円×勤続年数(最低80万円)
 勤続20年超=800万円+70万円×(勤続年数-20年)
② 課税退職所得=(退職金 - 退職所得控除額)×1/2(1,000円未満切捨て)
③ 源泉税=(課税退職所得×所得税率 - 速算控除)×102.1%
計算例:勤続30年・退職金2,000万円(役員・受給申告書あり)
  • ① 退職所得控除=800万+70万×(30-20)=1,500万円
  • ② 課税退職所得=(2,000万 - 1,500万)×1/2=250万円
  • ③ 源泉税=(250万×10% - 97,500円)×102.1%=(250,000 - 97,500)×102.1%=約155,700円
  • 源泉徴収票:③支払金額2,000万/⑥退職所得控除1,500万/⑦勤続年数30年/④源泉徴収税額 約155,700円
短期退職手当等(勤続5年以下・役員以外)の計算例

勤続5年・退職金500万円の従業員(役員以外)の場合
退職所得控除=40万×5=200万円。「収入金額 - 退職所得控除」=500万 - 200万=300万円
300万円以下の部分は1/2課税、300万円の部分は1/2なし。この例は差額が300万円ちょうどなので全額1/2課税の範囲で、課税退職所得=300万×1/2=150万円。
もし退職金が700万円なら、差額500万円のうち300万円分は1/2課税(150万円)+300万円超の200万円はそのまま=課税退職所得350万円となり、税負担が重くなります。

5. 退職の提出先・期限・交付

源泉徴収票(税務署) 特別徴収票(市区町村)
提出先 支払事務所の所轄税務署 1月1日現在の住所地の市区町村
提出期限 退職後1か月以内(まとめて翌年1月末でも可) 同左
本人交付 提出範囲にかかわらず退職後1か月以内に全受給者へ交付
税務署・市区町村に提出する場合は、受給者交付分も含めて3枚作成します。提出が不要な場合(一般従業員)は1枚作成して本人交付のみです。特別徴収税額が課されない受給者には、請求がなければ特別徴収票の交付を要しません。
記入サンプル:退職所得の源泉徴収票(役員・勤続30年・退職金2,000万円)

受給に関する申告書の提出あり・他の退職手当なしのケース

区分 上段(申告書あり・他の退職手当なし)
支払金額 20,000,000
源泉徴収税額 155,702(課税退職所得250万×10%-97,500、×102.1%)
特別徴収税額(市町村民税・道府県民税) 課税退職所得250万×10%=250,000(住民税)
退職所得控除額 1,500万円
勤続年数 30年
摘要 役員。勤続期間○年○月〜○年○月

役員なので税務署・市区町村に提出(3枚作成)。一般従業員なら同じ計算でも本人交付のみです。受給申告書がなければ「下段(20.42%)」区分で、2,000万×20.42%=408.4万円もの源泉徴収になり、本人が確定申告で精算します。

6. 不動産の使用料等:提出義務者と範囲

  • 提出義務者:不動産等の使用料等を支払う法人(国・地方公共団体・人格のない社団等を含む)と、不動産業者である個人(建物の賃貸借の代理・仲介が主たる事業の人は除く)
  • 提出範囲:同一人へのその年の支払金額の合計が15万円超
  • 対象:不動産・不動産上の権利・総トン数20トン以上の船舶・航空機の借受けの対価、権利の設定の対価
一般の個人(不動産業者でない)が自宅や事務所を借りているだけなら、提出義務はありません。法人が事務所家賃を払っている場合は提出義務者に該当し、同一の貸主へ年15万円超で対象になります(ただし貸主が法人の場合は次章)。

7. 法人へは権利金・更新料等のみ

貸主が法人か個人かで提出対象が違う

法人に支払う不動産の使用料等については、賃借料(通常の家賃・地代)を除き、権利金・更新料等のみを提出します。つまり、法人オーナーへの通常の家賃は支払調書の提出不要で、権利金・更新料・承諾料・名義書換料を支払った場合だけ対象です。一方、個人オーナーへは家賃・地代も含めて15万円超なら提出対象です。

管理会社を通じて個人オーナーに支払う場合も、支払を受ける者は管理会社でなく物件の所有者(個人)として判定・記載します。管理会社に管理料を払い、その管理会社経由でオーナーに賃料が渡る形でも、賃料部分の支払調書は所有者を相手に作成します。法人オーナーへの通常家賃が提出不要という点は、実務で取り違えやすいので特に注意します。
支払調書の要否・判定の具体例(自社が支払法人の場合)
  • 個人オーナーに事務所家賃 月10万円(年120万円) → 個人へは家賃も対象、15万円超なので提出必要
  • 法人オーナーに事務所家賃 月20万円(年240万円)のみ → 法人へは通常家賃は対象外、権利金等がなければ提出不要
  • 法人オーナーに家賃のほか更新料20万円を支払 → 更新料は対象、更新料20万円のみ記載して提出(家賃は含めない)
  • 個人オーナーに月1万円(年12万円)の駐車場代のみ → 15万円以下で提出不要
  • 管理会社に家賃を払い、実際の所有者が個人で年15万円超 → 所有者(個人)を相手に提出必要

「貸主が法人か個人か」「家賃か権利金等か」「年15万円超か」の3点で判定します。法人オーナーへの家賃だけなら、金額が大きくても原則提出不要です。

8. 使用料の記載欄

  • ① 支払を受ける者:物件の所有者(転貸人)を記載。管理会社に払っていても所有者を記載
  • ② 区分:地代・家賃・権利金・更新料・承諾料・名義書換料・船舶の使用料等
  • ③ 物件の所在地④ 細目:土地の地目(宅地・田畑・山林等)、建物の構造・用途
  • ⑤ 計算の基礎:賃借期間、単位(月・週・日・㎡)当たり賃借料、戸数、面積等
  • ⑥ 支払金額:その年に支払の確定した金額(未払を含む)を区分の支払内容ごとに
権利の設定対価(地上権・賃借権等)の場合は、摘要欄に権利の存続期間を記載します。不動産の借受けであっせん手数料を支払った場合、あっせん手数料の支払調書の作成を省略するときは、この使用料の支払調書の「あっせんをした者」欄にあっせん者の情報・支払金額を記載できます(次章)。
記入サンプル:個人オーナーへの事務所家賃(月20万円・年240万円)
支払を受ける者 物件所有者(個人) ○○○○・住所・マイナンバー
区分 家賃
物件の所在地 ○○市○○ ○-○(事務所)
計算の基礎 月額200,000円 × 12か月
支払金額 2,400,000

個人オーナーなので家賃も対象、年15万円超で提出。これが法人オーナーなら通常家賃は対象外で、権利金・更新料を払った年だけその金額を記載して提出します。

9. 譲受けの対価・あっせん手数料

調書 提出範囲(同一人・年間)
不動産等の譲受けの対価の支払調書 100万円超
不動産等の売買・貸付けのあっせん手数料の支払調書 15万円超
譲受けの対価(不動産を買った場合の支払い)は同一人へ100万円超で提出対象です。提出義務者は使用料と同様、法人と不動産業者である個人です。あっせん手数料は15万円超ですが、使用料や譲受けの支払調書の「あっせんをした者」欄に記載すれば、あっせん手数料の支払調書の作成・提出を省略できます。同じ不動産取引で複数の調書が出る場合、まとめて記載することで枚数を減らせます。

10. 次回(パート5)の予告

最終回のパート5では、法定調書合計表の各欄の書き方と各調書との突合、給与支払報告書とeLTAX、マイナンバーの管理、訂正・追加の方法、消費税の判定、提出前のチェックリストを解説し、シリーズを締めくくります。
このシリーズの記事
  • ① 法定調書の作成と提出【総論編】
  • ② 給与所得の源泉徴収票の書き方【全記載欄】
  • ③ 報酬・料金の支払調書の書き方
  • ④ 退職所得・不動産関係の支払調書(本記事)
  • ⑤ 法定調書合計表と提出実務

※本記事は作成時点(令和7年分)の法令・国税庁の取扱いに基づく一般的な解説です。提出範囲・記載要領・改正の施行時期は変わる場合があります。具体的な判断は国税庁の最新情報の確認および税理士へのご相談をおすすめします。

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