本記事(パート4)では、退職所得の源泉徴収票と不動産関係の3つの支払調書を扱います。退職所得は「役員のみ提出」「死亡退職は別の調書」など独特のルールがあり、不動産使用料は「法人へは権利金等のみ」という見落としやすい取扱いがあります。記載要領に沿って解説します。
- 退職所得の源泉徴収票:提出範囲(役員のみ)
- 死亡退職は相続税法の支払調書
- 受給申告書の有無と税率
- 勤続年数・退職所得控除・特定役員
- 退職の提出先・期限・交付
- 不動産の使用料等:提出義務者と範囲
- 法人へは権利金・更新料等のみ
- 使用料の記載欄
- 譲受けの対価・あっせん手数料
- 次回(パート5)の予告
1. 退職所得の源泉徴収票:提出範囲(役員のみ)
退職所得の源泉徴収票・特別徴収票を税務署・市区町村へ提出するのは、法人の役員(取締役・執行役・会計参与・監査役・理事・監事・清算人・相談役・顧問等、その年中に役員であった者を含む)に支払う退職手当等です。一般従業員の退職金は本人交付のみで、税務署・市区町村への提出は不要です。
2. 死亡退職は相続税法の支払調書
3. 受給申告書の有無と税率
- 上段:「退職所得の受給に関する申告書」に、その年に受けた他の退職手当等がない旨の記載がある場合
- 中段:同申告書に、その年に受けた他の退職手当等がある旨の記載がある場合
- 下段:同申告書の提出がないため、20.42%の税率で源泉徴収する場合
4. 勤続年数・退職所得控除・特定役員
- ⑦ 勤続年数:源泉徴収税額の計算の基礎となった勤続年数。1年未満の端数は1年に切上げ
- ⑥ 退職所得控除額:勤続20年以下は40万円×年数(最低80万円)、20年超は800万円+70万円×(年数-20年)。障害退職は100万円加算
- ⑧ 摘要:勤続年数の計算の基礎を記載。特定役員退職手当等・短期退職手当等が含まれる場合は、その金額・勤続年数・計算の基礎を記載
勤続20年以下=40万円×勤続年数(最低80万円)
勤続20年超=800万円+70万円×(勤続年数-20年)
② 課税退職所得=(退職金 - 退職所得控除額)×1/2(1,000円未満切捨て)
③ 源泉税=(課税退職所得×所得税率 - 速算控除)×102.1%
- ① 退職所得控除=800万+70万×(30-20)=1,500万円
- ② 課税退職所得=(2,000万 - 1,500万)×1/2=250万円
- ③ 源泉税=(250万×10% - 97,500円)×102.1%=(250,000 - 97,500)×102.1%=約155,700円
- 源泉徴収票:③支払金額2,000万/⑥退職所得控除1,500万/⑦勤続年数30年/④源泉徴収税額 約155,700円
勤続5年・退職金500万円の従業員(役員以外)の場合
退職所得控除=40万×5=200万円。「収入金額 - 退職所得控除」=500万 - 200万=300万円。
300万円以下の部分は1/2課税、300万円超の部分は1/2なし。この例は差額が300万円ちょうどなので全額1/2課税の範囲で、課税退職所得=300万×1/2=150万円。
もし退職金が700万円なら、差額500万円のうち300万円分は1/2課税(150万円)+300万円超の200万円はそのまま=課税退職所得350万円となり、税負担が重くなります。
5. 退職の提出先・期限・交付
| 源泉徴収票(税務署) | 特別徴収票(市区町村) | |
|---|---|---|
| 提出先 | 支払事務所の所轄税務署 | 1月1日現在の住所地の市区町村 |
| 提出期限 | 退職後1か月以内(まとめて翌年1月末でも可) | 同左 |
| 本人交付 | 提出範囲にかかわらず退職後1か月以内に全受給者へ交付 | |
受給に関する申告書の提出あり・他の退職手当なしのケース
| 区分 | 上段(申告書あり・他の退職手当なし) |
| 支払金額 | 20,000,000 |
| 源泉徴収税額 | 155,702(課税退職所得250万×10%-97,500、×102.1%) |
| 特別徴収税額(市町村民税・道府県民税) | 課税退職所得250万×10%=250,000(住民税) |
| 退職所得控除額 | 1,500万円 |
| 勤続年数 | 30年 |
| 摘要 | 役員。勤続期間○年○月〜○年○月 |
役員なので税務署・市区町村に提出(3枚作成)。一般従業員なら同じ計算でも本人交付のみです。受給申告書がなければ「下段(20.42%)」区分で、2,000万×20.42%=408.4万円もの源泉徴収になり、本人が確定申告で精算します。
6. 不動産の使用料等:提出義務者と範囲
- 提出義務者:不動産等の使用料等を支払う法人(国・地方公共団体・人格のない社団等を含む)と、不動産業者である個人(建物の賃貸借の代理・仲介が主たる事業の人は除く)
- 提出範囲:同一人へのその年の支払金額の合計が15万円超
- 対象:不動産・不動産上の権利・総トン数20トン以上の船舶・航空機の借受けの対価、権利の設定の対価
7. 法人へは権利金・更新料等のみ
法人に支払う不動産の使用料等については、賃借料(通常の家賃・地代)を除き、権利金・更新料等のみを提出します。つまり、法人オーナーへの通常の家賃は支払調書の提出不要で、権利金・更新料・承諾料・名義書換料を支払った場合だけ対象です。一方、個人オーナーへは家賃・地代も含めて15万円超なら提出対象です。
- 個人オーナーに事務所家賃 月10万円(年120万円) → 個人へは家賃も対象、15万円超なので提出必要
- 法人オーナーに事務所家賃 月20万円(年240万円)のみ → 法人へは通常家賃は対象外、権利金等がなければ提出不要
- 法人オーナーに家賃のほか更新料20万円を支払 → 更新料は対象、更新料20万円のみ記載して提出(家賃は含めない)
- 個人オーナーに月1万円(年12万円)の駐車場代のみ → 15万円以下で提出不要
- 管理会社に家賃を払い、実際の所有者が個人で年15万円超 → 所有者(個人)を相手に提出必要
「貸主が法人か個人か」「家賃か権利金等か」「年15万円超か」の3点で判定します。法人オーナーへの家賃だけなら、金額が大きくても原則提出不要です。
8. 使用料の記載欄
- ① 支払を受ける者:物件の所有者(転貸人)を記載。管理会社に払っていても所有者を記載
- ② 区分:地代・家賃・権利金・更新料・承諾料・名義書換料・船舶の使用料等
- ③ 物件の所在地/④ 細目:土地の地目(宅地・田畑・山林等)、建物の構造・用途
- ⑤ 計算の基礎:賃借期間、単位(月・週・日・㎡)当たり賃借料、戸数、面積等
- ⑥ 支払金額:その年に支払の確定した金額(未払を含む)を区分の支払内容ごとに
| 支払を受ける者 | 物件所有者(個人) ○○○○・住所・マイナンバー |
| 区分 | 家賃 |
| 物件の所在地 | ○○市○○ ○-○(事務所) |
| 計算の基礎 | 月額200,000円 × 12か月 |
| 支払金額 | 2,400,000 |
個人オーナーなので家賃も対象、年15万円超で提出。これが法人オーナーなら通常家賃は対象外で、権利金・更新料を払った年だけその金額を記載して提出します。
9. 譲受けの対価・あっせん手数料
| 調書 | 提出範囲(同一人・年間) |
|---|---|
| 不動産等の譲受けの対価の支払調書 | 100万円超 |
| 不動産等の売買・貸付けのあっせん手数料の支払調書 | 15万円超 |
10. 次回(パート5)の予告
- ① 法定調書の作成と提出【総論編】
- ② 給与所得の源泉徴収票の書き方【全記載欄】
- ③ 報酬・料金の支払調書の書き方
- ④ 退職所得・不動産関係の支払調書(本記事)
- ⑤ 法定調書合計表と提出実務
- 国税庁「令和7年分 給与所得の源泉徴収票等の法定調書の作成と提出の手引」
- 国税庁タックスアンサーNo.1420(退職金を受け取ったとき・退職所得)
- 所得税法199条・201条・203条・226条・225条
※本記事は作成時点(令和7年分)の法令・国税庁の取扱いに基づく一般的な解説です。提出範囲・記載要領・改正の施行時期は変わる場合があります。具体的な判断は国税庁の最新情報の確認および税理士へのご相談をおすすめします。


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