毎月の給与から源泉徴収した所得税を、年末に1年分の正しい税額と精算する手続きが年末調整です。源泉徴収事務の1年の総仕上げにあたり、令和7年分は基礎控除・給与所得控除の引き上げ、特定親族特別控除の新設という大きな改正が重なりました。本記事は、制度の概要にとどまらず、控除額の具体的な数値・計算例・実務で頻発する誤りまで踏み込んで解説します。
- 年末調整とは(源泉徴収の年間精算)
- 対象になる人・ならない人
- 提出を受ける各種申告書
- 令和7年改正①:基礎控除(段階別の額)
- 令和7年改正②:給与所得控除・扶養所得要件・配偶者特別控除
- 特定親族特別控除の新設(控除額早見表)
- 年末調整の計算手順と計算例
- 実務で頻発する誤り・落とし穴
- 令和8年1月以後の源泉徴収事務
- 源泉徴収票・法定調書への反映
- まとめ
1. 年末調整とは(源泉徴収の年間精算)
給与の支払者は、毎月の給与・賞与から源泉徴収税額表に基づいて所得税を天引き(源泉徴収)しています。これは概算であり、1年間の正しい所得税額とは通常ズレが生じます。源泉徴収税額表は、扶養親族等の数や社会保険料控除後の給与額だけで機械的に税額を求める仕組みのため、生命保険料控除や配偶者特別控除など各人の事情が毎月の段階では反映されていないからです。
2. 対象になる人・ならない人
| 対象になる人 | 対象にならない人 |
|---|---|
| 扶養控除等申告書を提出し、年末まで勤務している人 | 給与収入が2,000万円を超える人 |
| 年の中途で就職し年末まで勤務している人 | 扶養控除等申告書を提出していない人(乙欄・丙欄) |
| 年の中途で退職した一定の人(死亡退職・心身障害による退職等) | 2か所以上から給与を受け、他で年末調整を受ける人 |
3. 提出を受ける各種申告書
年末調整では、従業員から次の申告書の提出を受けます。
| 申告書 | 主な役割 |
|---|---|
| 扶養控除等(異動)申告書 | 扶養親族等の申告。甲欄適用と年末調整の前提 |
| 基・配・特・所 申告書 (基礎・配偶者控除等・特定親族特別・所得金額調整控除) |
令和7年分から1枚に統合。基礎控除額・配偶者(特別)控除・特定親族特別控除・所得金額調整控除を申告 |
| 保険料控除申告書 | 生命保険料・地震保険料・社会保険料(申告分)・小規模企業共済等掛金 |
| (該当者)住宅借入金等特別控除申告書 | 2年目以降の住宅ローン控除 |
4. 令和7年改正①:基礎控除(段階別の額)
基礎控除は、従来の一律48万円(合計所得2,400万円以下)から、合計所得金額に応じた段階制に変わり、最大95万円まで引き上げられました。令和7年・8年分は時限的な上乗せ(加算特例)があり、令和9年分以後は一部が縮小されます。
| 本人の合計所得金額 (給与収入のみの目安) |
令和7・8年分 | 令和9年分以後 |
|---|---|---|
| 132万円以下(〜200.3万円) | 95万円 | 95万円 |
| 132万円超336万円以下(〜475.1万円) | 88万円 | 58万円 |
| 336万円超489万円以下(〜665.5万円) | 68万円 | 58万円 |
| 489万円超655万円以下(〜850万円) | 63万円 | 58万円 |
| 655万円超2,350万円以下 | 58万円 | 58万円 |
| 2,350万円超(2,400万円超で逓減・2,500万円超で0) | 改正なし | 改正なし |
5. 令和7年改正②:給与所得控除・扶養所得要件・配偶者特別控除
| 項目 | 改正内容 |
|---|---|
| 給与所得控除 | 最低保障額 55万円→65万円(給与収入190万円以下に適用) |
| 扶養親族・同一生計配偶者の所得要件 | 48万円以下→58万円以下(給与収入103万円→123万円) |
| 配偶者特別控除 | 満額(38万円)の上限が給与収入150万円→160万円に |
| 勤労学生控除の所得要件 | 75万円以下→85万円以下 |
| 特定親族特別控除 | 新設(次章) |
6. 特定親族特別控除の新設(控除額早見表)
大学生年代の子のアルバイト収入が増えても、親の税負担が急増しないようにするため、特定親族特別控除が新設されました。対象は、生計を一にする19歳以上23歳未満の親族(配偶者・事業専従者を除く)で、合計所得金額58万円超123万円以下(給与収入123万円超188万円以下)の人です。控除額は所得に応じて逓減します。
| 特定親族の合計所得金額 (給与収入のみの目安) |
控除額(所得税) |
|---|---|
| 58万円超85万円以下(〜150万円) | 63万円 |
| 85万円超90万円以下 | 61万円 |
| 90万円超95万円以下 | 51万円 |
| 95万円超100万円以下 | 41万円 |
| 100万円超105万円以下 | 31万円 |
| 105万円超110万円以下 | 21万円 |
| 110万円超115万円以下 | 11万円 |
| 115万円超120万円以下 | 6万円 |
| 120万円超123万円以下(〜188万円) | 3万円 |
7. 年末調整の計算手順と計算例
- その年の給与・賞与の総額を集計(中途入社は前職分も合算)
- 給与総額から給与所得控除を差し引き、給与所得を算出
- 各種所得控除(基礎・配偶者・扶養・特定親族特別・保険料・社会保険料等)を差し引き、課税給与所得金額を算出(1,000円未満切捨て)
- 課税給与所得金額に所得税の税率を適用し、算出所得税額を計算
- (該当者)住宅ローン控除を差し引く(年調所得税額)
- 年調所得税額に102.1%を乗じ、復興特別所得税込みの年調年税額を確定(100円未満切捨て)
- 毎月の源泉徴収済み合計額との過不足を精算(還付または徴収)
前提:給与収入500万円、社会保険料75万円、生命保険料控除10万円、配偶者・扶養なし
- 給与所得 = 500万円 - 給与所得控除144万円 = 356万円
- 基礎控除:合計所得356万円は「336万円超489万円以下」なので68万円
- 所得控除合計 = 社保75万+生保10万+基礎68万 = 153万円
- 課税給与所得 = 356万 - 153万 = 203万円
- 算出税額 = 203万×10% - 97,500円 = 105,500円
- 年調年税額 = 105,500 × 102.1% ≒ 107,700円(100円未満切捨て)
- 毎月の源泉徴収済み合計が13万円なら、差額約22,300円が還付
8. 実務で頻発する誤り・落とし穴
- 扶養親族の年齢判定はその年12月31日時点。19歳・23歳・70歳などの境目は基準日で判定する。特定扶養親族(19歳以上23歳未満)・特定親族(同年齢帯)の年齢も同様
- 「控除対象配偶者」と「源泉控除対象配偶者」は別概念。源泉控除対象配偶者(本人の所得900万円以下かつ配偶者の所得95万円以下)は月次の扶養人数にカウントするが、年末調整の配偶者控除・配偶者特別控除の判定は別途行う
- 所得金額調整控除(給与収入850万円超で、本人が特別障害者・23歳未満の扶養親族や特別障害者の同一生計配偶者等がいる場合)の適用漏れ。「基・配・特・所」申告書の所得金額調整控除欄を確認する
- 生命保険料控除の新旧区分。平成24年契約以降の新契約と旧契約で限度額・計算式が異なる。証明書の区分を取り違えると控除額がズレる
- 基礎控除欄の所得区分の誤記。改正で自己申告制になったため、本人の合計所得の見積りを誤ると基礎控除額(95万〜)が変わり年税額がズレる
- 過不足税額の精算。還付は通常その年最後の給与で支給、不足の徴収は翌年に繰り越せるが、原則は年内精算。納付書では年末調整による超過税額を翌月以後の納付分から差し引いて調整する(納期特例なら1月20日納付分等で充当)
9. 令和8年1月以後の源泉徴収事務
改正は年末調整だけでなく、令和8年1月以後の毎月の源泉徴収事務にも及びます。
- 扶養控除等申告書等の記載が「控除対象扶養親族」→「源泉控除対象親族」に変更
- 「源泉控除対象親族」=控除対象扶養親族+合計所得金額100万円以下の特定親族(給与収入165万円以下)
- 毎月の源泉徴収では、特定親族のうち合計所得100万円以下の人を「扶養親族等の数」にカウント
- 令和8年分源泉徴収税額表が改定(同じ給与でも源泉税額が変わる)
10. 源泉徴収票・法定調書への反映
11. まとめ
- 年末調整は源泉徴収の年間精算。扶養控除等申告書の提出(甲欄)が前提
- 基礎控除は合計所得に応じた段階制(令和7・8年は95/88/68/63/58万円)。年収でなく合計所得で判定
- 給与所得控除65万円・扶養所得要件58万円・配偶者特別控除160万円に改正
- 特定親族特別控除新設(19〜22歳・給与123万超188万以下・63万→3万で逓減・専用申告書)
- 令和7年分は月次税額表に加算特例が未反映で年末調整の還付が大きくなりやすい
- 年齢判定の基準日・所得金額調整控除・保険料の新旧区分など誤りやすい点に注意
- 令和8年1月以後は「源泉控除対象親族」・新税額表で毎月の源泉徴収事務が変わる
- 配偶者控除と配偶者特別控除|令和7年改正後の壁と控除額を解説
- 150万円・160万円の壁とは|配偶者特別控除と令和7年改正を解説
- マイカー通勤手当はいくらまで非課税?距離区分と改正を解説
- 国税庁「令和7年度税制改正による所得税の基礎控除の見直し等について」
- 国税庁タックスアンサーNo.1177(特定親族特別控除)
- 国税庁タックスアンサーNo.2665(年末調整の対象となる人)
- 国税庁「令和7年分 年末調整のしかた」、令和7年度・令和8年度税制改正
※本記事は作成時点(令和7年・令和8年改正反映)の法令・国税庁の取扱いに基づく一般的な解説です。計算例は理解のための概算であり、実際の税額は各人の事情により異なります。控除額・要件・様式は国税庁の最新資料でご確認のうえ、個別の判断は税理士へのご相談をおすすめします。


コメント