会社が従業員に支給する通勤手当は、一定額まで所得税が非課税となります。このうちマイカー(自動車)通勤の非課税限度額は、長年据え置かれていましたが、ガソリン価格の高騰などを背景に、令和7年と令和8年の2段階で大きく引き上げられました。特に令和8年4月からは、片道65km以上の新しい距離区分が新設され、さらに駐車場代の一部も非課税にできるようになりました。
これらの改正は、遠距離をマイカー通勤する従業員がいる企業にとって、給与計算・年末調整の実務に直結します。改正前の基準のまま処理していると、本来非課税にできた分を課税してしまうおそれもあります。本記事では、通勤手当の非課税の仕組みから、最新の距離区分ごとの金額表、令和7年・令和8年の改正内容、駐車場代の取扱い、実務上の注意点まで、国税庁の取扱いに基づいて正確に解説します。
目次
1. 通勤手当の非課税制度とは
通勤手当は、本来は給与の一部です。しかし、通勤は仕事をするうえで必要な費用であることから、所得税法上、通常の給与に加算して支給する通勤手当は、一定の限度額まで非課税とされています(所得税法9条、所得税法施行令20条の2)。非課税となった部分は、所得税・住民税の計算上、収入から除かれます。
非課税限度額を超えて通勤手当を支給した場合、その超える部分の金額が給与として課税されます。超過部分は、通勤手当を支給した月の給与に上乗せして源泉徴収を行うことになります。
非課税限度額は通勤手段で異なる
非課税限度額は、通勤手段(電車・バスなどの公共交通機関か、マイカー・自転車などの交通用具か)によって異なります。電車・バス通勤は最高月15万円までが非課税ですが、マイカー・自転車通勤は片道の通勤距離に応じた区分で限度額が定められています。今回の改正で引き上げられたのは、このマイカー・自転車通勤の部分です。
2. 通勤手段ごとの非課税限度額
通勤手当の非課税限度額は、通勤手段によって次の3つのパターンに分かれます。
| 通勤手段 | 非課税限度額 |
|---|---|
| 電車・バスなど(公共交通機関) | 最も経済的かつ合理的な経路の運賃等(最高月15万円) |
| マイカー・自転車など(交通用具) | 片道の通勤距離に応じた区分ごとの限度額(後述) |
| 両方を併用 | 運賃等とマイカー区分の限度額の合計(最高月15万円) |
電車・バス通勤の場合、定期券代など「最も経済的かつ合理的な経路および方法」による運賃等が、月15万円を上限に非課税となります。マイカーと電車・バスを併用している場合は、マイカー部分の距離区分の限度額と、電車・バス部分の運賃等を合計した金額(月15万円が上限)が非課税限度額となります。
電車・バスの15万円は今回据え置き
今回の一連の改正で引き上げられたのは、マイカー・自転車通勤(交通用具を使用する人)の距離区分の限度額です。電車・バスなど公共交通機関の非課税限度額(最高月15万円)は変更されておらず、据え置きとなっています。
3. マイカー通勤の距離区分と金額表
マイカー・自転車などで通勤している人の非課税限度額は、片道の通勤距離(通勤経路に沿った長さ)に応じて区分されています。次の表は、令和7年4月1日以後に支払われる通勤手当に適用される、現行の非課税限度額です(国税庁タックスアンサーNo.2585)。
| 片道の通勤距離 | 1か月当たりの限度額 |
|---|---|
| 2km未満 | 全額課税 |
| 2km以上10km未満 | 4,200円 |
| 10km以上15km未満 | 7,300円 |
| 15km以上25km未満 | 13,500円 |
| 25km以上35km未満 | 19,700円 |
| 35km以上45km未満 | 25,900円 |
| 45km以上55km未満 | 32,300円 |
| 55km以上 | 38,700円 |
なお、上の「55km以上」の区分は、令和8年4月の改正でさらに細分化されています(詳しくはセクション5で解説します)。また、有料道路を利用した場合の料金も、その経路・方法が「最も経済的かつ合理的」と認められれば、非課税の通勤手当に含めることができます(マイカー区分と運賃等の合計で月15万円が上限)。
距離は「通勤経路に沿った片道距離」で判定
距離区分の判定に用いるのは、直線距離ではなく実際の通勤経路に沿った片道の距離です。最も経済的かつ合理的な経路で測定します。なお、片道2km未満の場合は、マイカー通勤手当は全額が課税対象となる点にも注意が必要です。
4. 令和7年の改正(11年ぶりの引上げ)
マイカー通勤の非課税限度額は、令和7年(2025年)に約11年ぶりに引き上げられました。これは、令和7年の人事院勧告で国家公務員の通勤手当が引き上げられたことに伴い、所得税法施行令が改正されたものです(令和7年11月19日改正・11月20日施行)。
重要なのは、この改正が令和7年4月1日以後に支払われるべき通勤手当にさかのぼって適用(遡及適用)される点です。各距離区分の限度額が引き上げられ、例えば「55km以上」の区分は、改正前の31,600円から38,700円へと引き上げられました。
遡及適用による年末調整での精算に注意
令和7年4月1日以後の支給分に遡及適用されるため、改正前の旧限度額で源泉徴収していた場合は、本来非課税にできた金額について精算が必要になります。具体的には、令和7年分の年末調整で、旧限度額で課税していた超過分のうち新限度額までの部分を非課税として精算します。給与計算ソフトの設定が新限度額に更新されているか、確認しておくことが重要です。
5. 令和8年改正①:65km以上の新区分
令和8年度税制改正により、マイカー通勤の非課税限度額にさらに2つの見直しが加えられ、令和8年4月1日以後に支払われるべき通勤手当から適用されています。1つ目が、片道65km以上の新しい距離区分の新設です。
令和7年改正の時点では「55km以上」が一律38,700円の最上位区分でした。令和8年改正では、この上に65km以上の区分が複数新設され、遠距離通勤者の非課税枠が大幅に拡充されました。最上位の区分では月額66,400円まで非課税となります。
| 片道の通勤距離 | 1か月当たりの限度額 |
|---|---|
| 55km以上65km未満 | 38,700円 |
| 65km以上75km未満 | 45,700円 |
| 75km以上85km未満 | 52,700円 |
| 85km以上95km未満 | 59,600円 |
| 95km以上 | 66,400円 |
「55km以上65km未満」の区分は、令和7年改正で定められた38,700円が引き続き適用されます。令和8年改正で新設されたのは「65km以上」の部分で、距離が長くなるほど非課税枠が大きくなる設計です。これにより、遠距離をマイカー通勤する従業員の負担が軽減されます。
区分の金額は人事院勧告に連動
マイカー通勤の非課税限度額は、国家公務員に支給される通勤手当(人事院勧告で定められる)の水準に合わせて設定される仕組みです。具体的な金額は、最新の国税庁タックスアンサーNo.2585や、所得税法施行令の改正内容で必ず確認するようにしてください。
6. 令和8年改正②:駐車場代の非課税化
令和8年改正のもう1つのポイントが、駐車場代の一部を非課税にできるようになったことです。これまでは、距離区分に応じた限度額のみが非課税で、駐車場代は別枠で考慮されていませんでした。
改正により、マイカー通勤者が一定の要件を満たす駐車場等を利用し、その料金を負担している場合、距離区分に応じた非課税限度額に駐車場等の料金相当額(1か月当たり5,000円が上限)を加算できるようになりました。
非課税限度額 = 距離区分の限度額 + 駐車場等の料金相当額(上限5,000円)
6-1. 駐車場代を加算する場合の計算例
【設例】片道50kmのマイカー通勤者に、通勤手当33,000円+駐車場代4,400円を支給
・距離区分(45km以上55km未満)の限度額:32,300円
・駐車場等の料金相当額:4,400円(5,000円以下なので全額)
・非課税限度額:32,300円 + 4,400円 = 36,700円
→ 支給額37,400円のうち、36,700円までが非課税。超過分700円が課税対象
駐車場代の上限は月5,000円
駐車場等の料金相当額として加算できるのは月額5,000円が上限です。実際の月極駐車場料金がこれを超える場合でも、加算できるのは5,000円までです。都市部では駐車場代が5,000円を大きく超えることも多く、実際の負担額との乖離が生じる点には留意が必要です。また、この加算は所定の要件を満たす駐車場の利用が常態化している場合に認められるものです。
6-2. 対象となる「一定の要件を満たす駐車場等」とは
駐車場代の加算が認められる「一定の要件を満たす駐車場等」とは、通勤のために使用する交通用具の駐車のための施設のうち、勤務する場所の周辺、または通勤に利用する駅・停留所などの周辺にあるものをいいます(国税庁Q&A)。どこの駐車場でもよいわけではない点に注意が必要です。
| 対象になる駐車場等 | 対象にならない駐車場等 |
|---|---|
| 勤務先の周辺の駐車場 | 自宅付近の駐車場 |
| 通勤に使う駅・停留所などの周辺の駐車場 | 片道2km未満の人の駐車場 |
| 通勤用の自転車・バイクの駐輪場 |
自宅付近の駐車場は対象外
見落としやすいのが、自宅付近の駐車場は対象にならないという点です。非課税の対象となるのは、あくまで勤務先周辺や駅周辺など「通勤先側」の駐車場です。マイカーを自宅で保管するための自宅付近の駐車場代は、駐車場等の料金相当額には含められません。また、会社が従業員に代わって駐車場を契約し料金を負担している場合も、実態として駐車場代相当の通勤手当を支給しているものとして、同様に非課税限度額(上限5,000円)の計算対象になります。
6-3. 駐車場料金相当額の計算方法
「1か月当たりの駐車場等の料金相当額」は、料金の定め方に応じて次のように計算します(いずれも消費税込みの金額で計算します)。
| 料金の定め方 | 1か月当たりの料金相当額 |
|---|---|
| 月単位 | その月額(3か月分など複数月分はその月数で割る) |
| 年単位 | 年額を12で割った金額(例:年79,200円→月6,600円) |
| 都度払い | 1か月間に実際に負担した料金の合計額(または1回分×利用回数など合理的な方法) |
いずれの方法でも、計算した料金相当額のうち非課税にできるのは月5,000円が上限です。なお、駐車場代の非課税の取扱いを行うには、その金額を確認する必要があるため、従業員から契約書や領収書など料金が確認できる書類の提示を受けて金額を把握しておくことが望ましいとされています(提示を受ける法令上の義務まではありませんが、金額の確認は必要です)。
7. 実務上の注意点
7-1. 超過分は給与として源泉徴収
非課税限度額を超えて通勤手当を支給した場合、その超過部分は給与として課税されます。超過分は、通勤手当を支給した月の給与に上乗せして、所得税および復興特別所得税の源泉徴収を行います。年末調整でも、課税対象となる通勤手当を給与に含めて精算します。
7-2. 改正に伴う精算と給与計算ソフトの更新
令和7年改正は令和7年4月1日に遡及適用されるため、旧限度額で課税していた企業は、年末調整で精算が必要です。また、令和8年改正(65km新区分・駐車場代)も令和8年4月から適用されているため、給与計算ソフトの設定や通勤手当の計算ロジックが最新の限度額に更新されているか、必ず確認してください。古い設定のままだと、本来非課税にできる分を課税してしまうことになります。
7-3. 社会保険料との違いに注意
注意したいのは、通勤手当の所得税の非課税限度額と、社会保険料の取扱いは異なる点です。社会保険(健康保険・厚生年金)では、通勤手当は非課税部分も含めて報酬(標準報酬月額)に含めるのが原則です。つまり、所得税では非課税でも、社会保険料の計算上は通勤手当が含まれます。所得税の非課税限度額と社会保険の取扱いを混同しないよう注意が必要です。
8. まとめ
マイカー通勤手当の非課税限度額の改正について解説しました。重要なポイントを整理します。
通勤手当の非課税限度額改正の重要ポイント
1. 通勤手当の非課税の仕組み
・通勤手当は一定額まで非課税(所法9条・所令20条の2)
・超過分は給与として課税
2. 通勤手段ごとの限度額
・電車・バス:最高月15万円(今回据え置き)
・マイカー・自転車:片道距離の区分による
3. 令和7年改正(11年ぶり)
・令和7年4月1日に遡及適用
・各距離区分を引上げ(55km以上は31,600円→38,700円)
4. 令和8年改正①(65km新区分)
・令和8年4月1日以後の支給分から適用
・65km以上を細分化、最高66,400円(95km以上)
5. 令和8年改正②(駐車場代)
・距離区分の限度額に駐車場代(上限月5,000円)を加算可
・対象は勤務先・駅周辺の駐車場(自宅付近は対象外)
6. 実務上の注意点
・遡及適用による年末調整での精算
・給与計算ソフトの限度額更新
・社会保険料は非課税部分も報酬に含める(所得税と取扱いが異なる)
マイカー通勤手当の非課税限度額は、令和7年・令和8年と立て続けに引き上げられ、特に遠距離通勤者や駐車場を利用する従業員の非課税枠が拡充されました。改正への対応を怠ると、本来非課税にできた分を課税してしまうおそれがあります。給与計算の設定を最新の限度額に更新し、年末調整での精算を正しく行うことが重要です。判断に迷う場合は、顧問税理士などの専門家に相談することをおすすめします。
※本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の税務判断を保証するものではありません。具体的な金額や要件は、国税庁タックスアンサーNo.2585など最新の情報をご確認のうえ、実際の処理にあたっては顧問税理士にご相談ください。
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