返還インボイス(適格返還請求書)とは?記載事項・1万円未満の免除・振込手数料の実務

消費税

返品や値引き、割戻し、販売奨励金など、いったん行った売上げの対価を後から返したり減額したりすることを「売上げに係る対価の返還等」といいます。適格請求書発行事業者がこれを行うときに、取引先へ交付しなければならないのが返還インボイス(適格返還請求書)です。うっかり見落としやすいのが、銀行の振込手数料を売手が負担するケースで、これも売上値引きとして扱えば返還インボイスの対象になります。ただし、税込1万円未満の対価の返還等は交付義務が免除されるため、多くの振込手数料は実際には交付不要です。この記事では、消費税法57条の4第3項とインボイスQ&Aを軸に、返還インボイスの記載事項5項目を記載例つきで示し、1万円未満の免除、振込手数料の実務処理、適格請求書との一体交付までを整理します。

この記事のポイント

  • 返還インボイスは、売上げに係る対価の返還等(返品・値引き・割戻し等)を行う適格請求書発行事業者の交付義務。
  • 記載事項は5項目。適格請求書の6項目と似るが、返還の年月日と元取引の内容がポイント。
  • 税込1万円未満の対価の返還等は、返還インボイスの交付義務が免除される(恒久措置)。
  • 振込手数料を売手負担にする場合、売上値引きとして処理すれば返還インボイスの対象だが、通常1万円未満で交付不要。
  • 適格請求書と適格返還請求書は1枚の書類にまとめて交付してもよい。

返還インボイス(適格返還請求書)とは

返還インボイス(適格返還請求書)とは、適格請求書発行事業者が、国内で行った課税資産の譲渡等について売上げに係る対価の返還等を行う場合に、その相手方に交付しなければならない書類をいいます(消費税法57条の4第3項)。売上げに係る対価の返還等には、返品、値引き、割戻し、販売奨励金、事業分量配当金などが含まれます。買い手はこの返還インボイスに基づき、仕入れに係る対価の返還等として仕入税額控除を調整します。

なお、返品や値引きによって売り手側の消費税額をどう調整するか(税額控除の計算)は、書類とは別の論点です。売り手の税額計算は売上げに係る対価の返還等・貸倒れの消費税で解説しています。本記事は交付する書類(返還インボイス)に絞って説明します。

記載事項5項目と記載例

返還インボイスの記載事項は、消費税法57条の4第3項で次の5つと定められています。適格請求書の記載事項と似ていますが、返還等を行う年月日に加えて、その基となった元の取引を行った年月日も記載する点が特徴です。

番号 記載事項 内容
発行者の氏名又は名称及び登録番号 売り手の名称と、Tから始まる登録番号
対価の返還等を行う年月日と元取引の年月日 返品・値引き等の年月日と、その基となった課税資産の譲渡等の年月日
元取引の内容(軽減税率の対象品目である旨) 返還の基となる商品・役務の内容。軽減対象は「※」等で明示
税率ごとに区分した対価の返還等の金額 8%対象・10%対象それぞれの返還金額(税抜又は税込)
返還金額に係る消費税額等又は適用税率 税率ごとの消費税額等、又は適用税率のいずれか

ヒント:元取引の年月日は、月単位など一定期間の記載でも差し支えないとされています。日々の返品を継続的に処理する場合、返還の基となった取引を「〇月分」などとまとめて記載する運用も認められます。適格請求書の宛名(交付先)は返還インボイスの必須記載事項ではありません。

記載事項がどこに入るかを記載例で示します。丸数字は上の表の①〜⑤に対応します。

適格返還請求書

(①)株式会社ゼイム商事
登録番号 T1234567890123

まつもと工業 御中
(②)返還年月日 令和8年8月25日 / 元取引 令和8年7月分

返還の内容(③) 返還金額(④) 消費税額(⑤)
事務用品 返品(10%対象) 3,000円 300円
お茶 返品 ※(8%対象) 1,000円 80円

※は軽減税率(8%)対象品目(③)。宛名は必須記載事項ではない。

税込1万円未満は交付義務が免除される

売上げに係る対価の返還等の金額が税込1万円未満である場合には、返還インボイスの交付義務が免除されます。これは事業者の規模を問わない恒久的な措置で、少額な返品・値引きのたびに書類を作る負担をなくすものです。

注意点:1万円の判定単位を誤る:1万円未満かどうかは、返還の基となった請求や取引ごとの返還金額で判定します。免除されるのは交付義務であって、消費税額の調整(税額控除)まで不要になるわけではありません。1万円未満で返還インボイスを交付しない場合でも、売り手は帳簿に基づいて売上げに係る対価の返還等の税額調整を行います。

振込手数料を売手負担にするときの実務

買い手が代金を振り込む際の振込手数料を売り手が負担する(値引きする)ケースは、インボイス制度で特に問い合わせの多い論点です。売り手側の会計処理により、必要な書類が変わります。

売り手の処理 性質 必要な書類
売上値引きとして処理 売上げに係る対価の返還等 返還インボイス(1万円未満は交付不要)
支払手数料として処理 売り手が受けた課税仕入れ 金融機関等のインボイス(又は特例)

実務上は、振込手数料相当額を売上値引き(対価の返還等)として処理する方法が簡便です。振込手数料は通常数百円で税込1万円未満に収まるため、返還インボイスの交付義務が免除され、書類の作成が不要になるからです。一方、支払手数料として仕入税額控除する方法では、金融機関等からのインボイスの保存が必要になり、事務が煩雑になります。

ヒント:売上値引き処理を選ぶ場合でも、税額調整(売上げに係る対価の返還等の税額控除)は必要です。交付義務が免除されるのは書類だけで、帳簿での処理は行います。どちらの処理を採るかは社内で統一し、継続適用するのが実務的です。

適格請求書との一体交付

適格請求書と適格返還請求書は、1枚の書類にまとめて交付できます。たとえば継続的な取引で、当月分の売上げ(適格請求書)と前月分の返品・値引き(適格返還請求書)を同じ請求書に記載する方法です。それぞれに必要な記載事項がすべて記載されていれば、2つの書類を別々に交付する必要はありません。

さらにインボイスQ&Aでは、当月の課税資産の譲渡等の対価の額から売上げに係る対価の返還等の金額を差し引いた後の金額を税率ごとに記載し、その金額に基づく消費税額等を記載する方法も認められています。この場合、継続して同じ方法で処理することが要件となります。適格請求書そのものの記載事項はインボイス制度とは?を参照してください。

適格請求書・少額特例との違い

「1万円未満」という数字は、返還インボイスの交付義務免除のほかにも登場するため混同されがちです。それぞれ対象も効果も異なるので、次のとおり整理します。

制度 内容 対象・効果
返還インボイスの交付義務免除 税込1万円未満の対価の返還等 全事業者・恒久措置。返還インボイスの交付が不要
少額特例(仕入側) 税込1万円未満の課税仕入れ 一定の中小事業者・期限付き。帳簿保存のみで仕入税額控除

返還インボイスの1万円未満免除は全事業者が対象の恒久措置で、売り手が交付する書類の話です。一方の少額特例は、買い手側が1万円未満の課税仕入れについて帳簿の保存のみで仕入税額控除を受けられる期限付きの措置で、対象事業者に制限があります。詳細はインボイスの少額特例とは|1万円未満の帳簿保存で解説しています。

判断フロー(返還インボイスの交付要否)

順序 確認内容
1 自社は適格請求書発行事業者か(免税事業者は交付義務なし)
2 返品・値引き・割戻し等の売上げに係る対価の返還等に当たるか
3 その返還等の金額が税込1万円未満か(1万円未満なら交付不要)
4 1万円以上なら、記載事項5項目を満たす返還インボイスを交付する
5 交付の有無にかかわらず、帳簿で税額調整を行う

想定Q&A(返還インボイス)

Q1. 返還インボイスとは何ですか

適格請求書発行事業者が、返品・値引き・割戻し等の売上げに係る対価の返還等を行うときに、相手方へ交付する適格返還請求書のことです。買い手はこれに基づき仕入れに係る対価の返還等として仕入税額控除を調整します。免税事業者には交付義務がありません。

Q2. 記載事項は何項目ですか

5項目です。①発行者名と登録番号、②返還等を行う年月日と元取引の年月日、③元取引の内容(軽減対象である旨)、④税率ごとの返還金額、⑤返還金額に係る消費税額等または適用税率です。適格請求書と異なり、交付先の宛名は必須ではありません。

Q3. 適格請求書と何が違いますか

適格請求書は売上げそのものに、返還インボイスは売上げの返還等(返品・値引き等)に交付する書類です。返還インボイスは記載事項が5項目で、元取引の年月日を書く点と、宛名が必須でない点が異なります。1枚の書類にまとめて交付することもできます。

Q4. 1万円未満なら交付しなくてよいのですか

はい。売上げに係る対価の返還等の金額が税込1万円未満であれば、返還インボイスの交付義務は免除されます。全事業者が対象の恒久措置です。ただし免除されるのは書類の交付だけで、消費税額の調整(税額控除)は帳簿に基づいて行う必要があります。

Q5. 振込手数料を当社が負担するときはどうしますか

売上値引き(対価の返還等)として処理する方法が簡便です。振込手数料は通常数百円で税込1万円未満に収まるため、返還インボイスの交付義務が免除されます。支払手数料として処理する場合は、金融機関等のインボイスの保存が必要になり、事務が煩雑になります。

Q6. 少額特例と1万円未満免除は同じですか

別の制度です。返還インボイスの1万円未満免除は、売り手が交付する書類を不要とする全事業者対象の恒久措置です。少額特例は、買い手が1万円未満の課税仕入れについて帳簿保存のみで仕入税額控除できる期限付きの措置で、対象事業者に制限があります。方向も対象も異なります。

Q7. 元取引の年月日は正確に書く必要がありますか

日単位で厳密に書く必要はなく、「〇月分」など一定期間の記載でも差し支えないとされています。日々の返品を継続的に処理する場合、元取引をまとめて記載する運用が認められています。返還を行う年月日とあわせて記載します。

Q8. 請求書に売上と返品をまとめて書けますか

できます。適格請求書と適格返還請求書は1枚にまとめて交付でき、当月の売上げと前月の返品を同じ請求書に記載する運用が可能です。それぞれの必要記載事項を満たせばよく、当月の対価から返還額を差し引いた後の金額と税額を記載する方法も、継続適用を条件に認められています。

Q9. 販売奨励金や割戻しも返還インボイスの対象ですか

対象です。売上げに係る対価の返還等には、返品や値引きのほか、割戻し、販売奨励金、事業分量配当金などが含まれます。これらを適格請求書発行事業者が支払う場合、原則として返還インボイスの交付義務がありますが、税込1万円未満であれば免除されます。

Q10. 交付した返還インボイスは保存が必要ですか

必要です。適格請求書と同様に、交付した返還インボイスの写し(控え)を保存する義務があります。保存期間は、課税期間の末日の翌日から2月を経過した日から7年間です。電子で交付した場合は電子帳簿保存法に従って保存します。

まとめ

  • 返還インボイスは、返品・値引き・割戻し等の対価の返還等を行う適格請求書発行事業者の交付義務。
  • 記載事項は5項目。元取引の年月日を書き、宛名は必須でない点が適格請求書と異なる。
  • 税込1万円未満の対価の返還等は、全事業者・恒久措置で交付義務が免除される。
  • 振込手数料の売手負担は売上値引き処理が簡便で、通常1万円未満のため返還インボイス不要。
  • 交付を省略しても税額調整は必要。適格請求書との一体交付や写しの7年保存も押さえる。

出典・参考(2026年8月時点)

※本記事は令和8年(2026年)8月時点の法令・国税庁公表資料に基づく一般的な解説です。記載例は説明用に簡略化したもので、実際の様式や金額とは異なります。個別の判断にあたっては、必ず国税庁ホームページや税務署、顧問税理士にご確認ください。

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