簡易課税制度では、売上に係る消費税額に業種ごとのみなし仕入率を掛けて仕入控除税額を計算します。この率を決めるのが事業区分で、第一種から第六種まで6つに分かれ、率は90%から40%まで大きく開きます。区分を1つ間違えるだけで納税額が変わるうえ、判定は会社単位ではなく取引単位で行うため、同じ会社でも取引ごとに区分が変わります。この記事では、国税庁No.6509と消費税法施行令57条を軸に、6区分とみなし仕入率、判定の手順、卸売と小売・製造小売・手間請け・飲食店・固定資産売却など間違えやすい業種の区分、複数事業の計算、区分しない場合の取扱いまでを整理します。
この記事のポイント
- 事業区分は第一種(90%)から第六種(40%)まで6つ。みなし仕入率が高いほど納税額は小さくなる。
- 判定は会社単位でなく取引単位。本業がサービス業でも固定資産の売却は第四種になる。
- 卸売(第一種)と小売(第二種)の分岐点は販売先が事業者か消費者か。パン屋等の製造小売は第三種。
- 材料の支給を受けた加工・手間請けは第四種、飲食店業は第五種でなく第四種と、直感と外れる区分が多い。
- 売上を事業区分ごとに区分していないと、最も低いみなし仕入率で計算される。75%ルールも要確認。
目次
簡易課税の事業区分とは(取引単位で判定)
簡易課税制度は、基準期間の課税売上高が5,000万円以下の中小事業者が選択でき、売上に係る消費税額にみなし仕入率を掛けた金額を仕入控除税額とみなす制度です(消費税法37条)。実際の仕入れを集計する必要がない代わりに、業種ごとのみなし仕入率で控除額が決まります。このみなし仕入率を左右するのが事業区分です。
最初に押さえるべき原則は、事業区分は原則として資産の譲渡等ごと、すなわち取引単位で判定するという点です(消費税法基本通達13-2-1)。会社全体の主要業種で一律に決まるのではなく、一つひとつの取引がどの性質を持つかを検証します。たとえば本業がサービス業(第五種)でも、事業用の固定資産を売却した収入は第四種として区分する必要があります。制度の全体像は消費税の簡易課税制度を完全解説を参照してください。
6つの事業区分とみなし仕入率
事業区分とみなし仕入率は次のとおりです。率が高いほど控除できる金額が大きく、納税額は小さくなります。第三種・第五種・第六種は、おおむね総務省の日本標準産業分類の大分類を基礎として判定します。
| 区分 | みなし仕入率 | 主な事業 |
|---|---|---|
| 第一種 | 90% | 卸売業(購入した商品を性質・形状を変えず事業者に販売) |
| 第二種 | 80% | 小売業(購入した商品を性質・形状を変えず消費者に販売)、飲食料品の譲渡に係る農林漁業 |
| 第三種 | 70% | 建設業、製造業(製造小売を含む)、鉱業、電気・ガス・水道業、飲食料品以外の農林漁業 |
| 第四種 | 60% | 飲食店業、他の区分に該当しない事業、加工賃等の役務、固定資産の売却 |
| 第五種 | 50% | 運輸通信業、金融・保険業、サービス業(飲食店業を除く) |
| 第六種 | 40% | 不動産業(貸付け・仲介・管理等) |
ヒント:平成27年4月1日以後開始する課税期間から、金融・保険業が第四種から第五種へ、不動産業が第五種から第六種へと引き下げられました。古い資料の区分をそのまま使うと誤るため、現行の区分で判定してください。
事業区分の判定手順
取引ごとの区分は、次の順序で考えると整理しやすくなります。国税庁も事業区分のフローチャートを公開しており、取引単位でこの流れにあてはめて判定します。
| 順序 | 判定内容 | 結論 |
|---|---|---|
| 1 | 購入した商品を性質・形状を変えず販売しているか | 事業者向けは第一種、消費者向けは第二種 |
| 2 | 製造・建設・加工などでモノを作り出しているか | 原則第三種(材料支給の加工賃だけは第四種) |
| 3 | 飲食店業に該当するか | 第四種 |
| 4 | 運輸通信・金融保険・サービスの役務提供か | 第五種 |
| 5 | 不動産業に該当するか | 第六種 |
| 6 | 上記のいずれにも当たらない | 第四種 |
ヒント:「性質・形状を変更しない」販売とは、商品を仕入れてそのまま売ることです。商標やラベルの貼付、複数商品の詰め合わせ、簡易な包装などは性質・形状の変更に当たらないものとして取り扱われ、卸売・小売の判定に影響しません。
間違えやすい業種の判定
事業区分は直感と外れるものが多く、区分を誤ると納税額が変わります。実務で特に判定を誤りやすいものを、判定軸と結論で整理します。
| 取引 | 区分 | 判定軸 |
|---|---|---|
| 同じ商品を事業者に販売 | 第一種 | 販売先が事業者(帳簿等で明らか) |
| 同じ商品を消費者に販売 | 第二種 | 販売先が消費者 |
| パン屋・ケーキ店(自家製造して店頭販売) | 第三種 | 製造小売は小売でなく製造業 |
| 材料の支給を受けた加工・手間請け | 第四種 | 加工賃等の役務提供(製造でない) |
| 材料を自ら調達して施工する建設 | 第三種 | 建設業(材料自己負担) |
| 飲食店(店内飲食の提供) | 第四種 | 飲食店業はサービス業から除かれる |
| 美容室・エステ・マッサージ | 第五種 | 飲食店以外の対人サービス業 |
| 事業用の固定資産を売却 | 第四種 | 本業の区分によらず第四種 |
| 製造工程で生じた加工くず・廃材の売却 | 第三種 | 製造業に付随する売却 |
注意点:製造小売を小売と誤る:パン屋やケーキ店、菓子の製造販売のように、自ら製造した商品を消費者に販売する製造小売業は、第二種(小売業80%)ではなく第三種(製造業70%)です。小売の店頭で売っている見た目に引きずられて第二種にすると、みなし仕入率を10%高く取ってしまい、過少申告になります。
注意点:手間請け・加工賃を製造と誤る:建設業で材料の支給を受け労務だけを提供する手間請けや、材料の支給を受けた加工は、製造(第三種)ではなく加工賃等の役務提供として第四種です。材料を誰が負担しているかで第三種と第四種が分かれる点を見落とすと、区分を誤ります。
注意点:固定資産の売却を本業区分で処理:本業がサービス業(第五種)や小売業(第二種)でも、事業用の車両や機械などの固定資産を売却した収入は第四種です。本業のみなし仕入率で計算すると誤りになります。売却がある年は区分の抜けに注意してください。
2種類以上の事業を営む場合の計算
2種類以上の事業を営む場合、原則は事業区分ごとの課税売上高に応じてそれぞれのみなし仕入率を適用します(加重平均)。ただし、事務負担を軽くする特例として、いわゆる75%ルールがあります。
| 計算方法 | 内容 |
|---|---|
| 原則(加重平均) | 区分ごとの売上に係る消費税額にそれぞれのみなし仕入率を掛けて合計する |
| 75%ルール(1種類) | 1種類の事業の課税売上高が全体の75%以上なら、その区分のみなし仕入率を全体に適用できる |
| 75%ルール(2種類) | 3種類以上の事業があり、うち2種類で75%以上なら、その2種類のうち低い率を残りに適用できる |
たとえば小売業(第二種)と不動産賃貸(第六種)を営み、第二種の課税売上高が全体の80%を占める場合、75%ルールにより第二種のみなし仕入率80%を全体に適用できます。原則計算と特例のどちらが有利かは売上構成で変わるため、両方を試算して有利な方を選びます。
ヒント:75%ルールは強制ではなく選択適用です。適用した方が納税額が増えるなら使わなければよく、原則の加重平均で計算できます。複数事業では、原則・1種類特例・2種類特例のうち最も有利なものを選べます。
区分しない場合の取扱いと2割特例との有利判定
2種類以上の事業を営むのに、売上を事業区分ごとに区分して記帳していない場合は、その区分していない部分について最も低いみなし仕入率が適用されます。区分の記帳を怠ると不利になるため、帳簿で区分を明確にしておくことが重要です。
注意点:区分記帳を怠ると最低率:複数の事業があるのに帳簿で事業区分を分けていないと、区分していない売上には営んでいる事業のうち最も低いみなし仕入率が適用されます。第一種と第五種を営むのに区分がないと、第一種の売上まで50%で計算され、納税額が大きく増えます。
インボイスを機に課税事業者になった事業者は、簡易課税のほかに2割特例(売上税額の8割を控除、実質みなし仕入率80%相当)も選べる場合があります。事業区分ごとの有利不利の目安は次のとおりです。
| 事業区分 | みなし仕入率 | 2割特例(80%相当)との比較 |
|---|---|---|
| 第一種(卸売業) | 90% | 簡易課税が有利になりやすい |
| 第二種(小売業) | 80% | おおむね同等(要試算) |
| 第三種〜第六種 | 70〜40% | 2割特例が有利になりやすい |
みなし仕入率が80%より高い第一種は簡易課税、80%より低い第三種以下は2割特例が有利になりやすい、というのが大まかな目安です。ただし複数事業の構成や届出状況で変わるため、必ず試算して判断します。2割特例の詳細はインボイスの2割特例とはを参照してください。
判断フロー(事業区分の判定)
| 順序 | 判断内容 |
|---|---|
| 1 | 取引単位で判定する(会社の主要業種で一律に決めない) |
| 2 | 仕入れた商品を性質・形状を変えず販売なら、事業者向け第一種・消費者向け第二種 |
| 3 | 製造・建設・製造小売なら第三種。材料支給の加工賃・手間請けは第四種 |
| 4 | 飲食店業は第四種、その他の役務は第五種、不動産業は第六種 |
| 5 | 固定資産の売却は第四種。複数事業は区分記帳し、原則・75%ルールで有利判定 |
想定Q&A(簡易課税の事業区分)
Q1. 事業区分は会社ごとに1つ決めればよいですか
いいえ。事業区分は原則として取引単位で判定します。会社全体の主要業種で一律に決めるのではなく、一つひとつの取引がどの性質かを検証します。本業がサービス業でも、固定資産の売却は第四種になるなど、同じ会社で複数の区分が生じます。
Q2. 卸売業と小売業はどう区別しますか
販売先で区別します。仕入れた商品を性質・形状を変えずに事業者へ販売すれば第一種(卸売業90%)、消費者へ販売すれば第二種(小売業80%)です。同じ商品でも販売先が事業者か消費者かで区分が変わり、事業者向けであることは帳簿・書類等で明らかにしておく必要があります。
Q3. パン屋やケーキ店は第何種ですか
第三種(製造業70%)です。自ら製造した商品を消費者に販売する製造小売業は、小売業(第二種)ではなく製造業として第三種に区分されます。店頭で売っている見た目から第二種と誤りやすいので注意が必要です。
Q4. 建設業は第何種ですか
材料を自ら調達して施工する場合は第三種(建設業70%)です。一方、材料の支給を受け労務だけを提供する手間請けは、加工賃等の役務提供として第四種(60%)になります。材料を誰が負担しているかで区分が分かれます。
Q5. 飲食店は第何種ですか
第四種(60%)です。飲食店業はサービス業(第五種)から除かれ、第四種に区分されます。第五種と混同しやすい代表例です。なお、テイクアウト専門で調理して販売する形態は製造小売として第三種になる場合があり、提供形態で区分が変わります。
Q6. 美容室やエステは第何種ですか
第五種(サービス業50%)です。接客業だから飲食店と同じ第四種と誤解されがちですが、飲食店以外の対人サービスは第五種です。マッサージ、クリーニング、修理業なども原則として第五種のサービス業に区分されます。
Q7. 事業用の車や機械を売ったときは第何種ですか
第四種(60%)です。事業用固定資産の売却収入は、本業の区分にかかわらず第四種に区分されます。本業のみなし仕入率で計算すると誤りになるため、売却があった年は第四種としての区分を忘れないようにします。
Q8. 事業区分を分けて記帳していないとどうなりますか
区分していない部分には、営んでいる事業のうち最も低いみなし仕入率が適用されます。第一種と第五種を営むのに区分がないと第一種の売上まで50%で計算され、納税額が大きく増えます。帳簿で事業区分を明確にしておくことが不可欠です。
Q9. 75%ルールとは何ですか
1種類の事業の課税売上高が全体の75%以上を占める場合、その区分のみなし仕入率を全体に適用できる特例です。3種類以上の事業があり、うち2種類で75%以上のときは、その2種類のうち低い率を残りに適用できます。いずれも選択適用で、原則計算と有利な方を選べます。
Q10. 簡易課税と2割特例はどちらが有利ですか
目安として、みなし仕入率が80%より高い第一種(卸売業90%)は簡易課税、第三種以下(70〜40%)は2割特例(80%相当)が有利になりやすいです。第二種(80%)はおおむね同等です。ただし売上構成や届出状況で変わるため、両方を試算して判断します。
Q11. 加工くずや廃材を売った収入は第何種ですか
製造業の工程で生じた加工くず・廃材の売却は、製造業に付随するものとして第三種に区分されます。本業が製造業(第三種)であれば、その副産物の売却も同じ第三種で処理します。固定資産の売却(第四種)とは扱いが異なる点に注意が必要です。
まとめ
- 事業区分は第一種(90%)から第六種(40%)の6つ。判定は会社単位でなく取引単位で行う。
- 卸売と小売は販売先(事業者か消費者か)、製造小売は第三種、材料支給の手間請けは第四種。
- 飲食店業は第四種、その他サービスは第五種、不動産業は第六種、固定資産売却は第四種。
- 複数事業は区分ごとに計算するのが原則。区分記帳がないと最低率が適用される。75%ルールは選択適用。
- 2割特例との有利判定は、第一種は簡易課税、第三種以下は2割特例が有利になりやすいが要試算。
あわせて読みたい(消費税シリーズ)
出典・参考(2026年8月時点)
- 国税庁タックスアンサー No.6509 簡易課税制度の事業区分
- 国税庁タックスアンサー No.6505 簡易課税制度
- 国税庁 質疑応答事例 簡易課税の事業区分について(フローチャート)
- 消費税法37条、消費税法施行令57条、消費税法基本通達13-2-1〜13-4-2
※本記事は令和8年(2026年)8月時点の法令等に基づく一般的な解説です。事業区分の判定は取引の実態により異なり、日本標準産業分類や質疑応答事例の確認が必要な場合があります。実際の申告・判断にあたっては、必ず国税庁ホームページや税務署、顧問税理士にご確認ください。

