帳簿のみ保存で仕入税額控除できる特例|公共交通機関・自動販売機・出張旅費など

消費税

インボイス制度では、仕入税額控除を受けるために原則として適格請求書(インボイス)の保存が必要です。しかし、電車やバスの運賃、自動販売機での購入のように、そもそもインボイスの交付を受けるのが困難な取引もあります。こうした一定の取引については、インボイスの保存がなくても、一定事項を記載した帳簿の保存だけで仕入税額控除ができます。この記事では、帳簿のみの保存で仕入税額控除ができる9つの取引、よく使う公共交通機関特例・自動販売機特例・出張旅費等特例、3万円の判定単位、帳簿の記載事項、そして混同しやすい少額特例との違いを、条文・国税庁Q&Aに基づいて整理します。

この記事のポイント

  • 一定の取引は、インボイスの保存がなくても一定事項を記載した帳簿の保存だけで仕入税額控除ができる(消費税法30条7項、施行令49条1項1号)
  • 対象は9つの取引。よく使うのは3万円未満の公共交通機関の運送(公共交通機関特例)、3万円未満の自動販売機・自動サービス機での購入(自動販売機特例)、従業員に支給する出張旅費等(出張旅費等特例)
  • 3万円未満かどうかは1回の取引(1回の決済)で判定する。1か月分の合計や複数人分をまとめて3万円以上になると特例は使えない
  • 帳簿には通常の記載事項に加えて「この特例に該当する旨(例:3万円未満の鉄道料金、自販機、出張旅費)」の記載が必要。公共交通機関・自販機・出張旅費などは相手方の住所の記載は不要

帳簿のみ保存で仕入税額控除できるとは

インボイス制度における仕入税額控除の原則は、帳簿とインボイスの両方の保存です。しかし、適格請求書発行事業者が事業の性質上インボイスを交付することが困難な取引などについては、例外として帳簿のみの保存で仕入税額控除が認められます(消費税法30条7項ただし書、施行令49条1項1号)。相手方からインボイスをもらえない取引でも、帳簿に必要事項を記載すれば控除できる仕組みです。制度の全体像はインボイス制度とはを参照してください。

対象となる9つの取引

帳簿のみの保存で仕入税額控除ができる取引は、次の9つです。

番号 取引
1 3万円未満の公共交通機関(船舶・バス・鉄道)による旅客の運送
2 適格簡易請求書の記載事項を満たす入場券等が使用の際に回収される取引
3 古物営業者が適格請求書発行事業者でない者から買い受ける古物
4 質屋が適格請求書発行事業者でない者から取得する質物
5 宅地建物取引業者が適格請求書発行事業者でない者から買い受ける建物
6 適格請求書発行事業者でない者から買い受ける再生資源・再生部品
7 3万円未満の自動販売機・自動サービス機からの商品の購入等
8 郵便切手類のみを対価とする郵便・貨物サービス(郵便ポストに差し出すもの)
9 従業員等に支給する通常必要と認められる出張旅費・宿泊費・日当・通勤手当

このうち実務で頻繁に使うのは、1の公共交通機関特例、7の自動販売機特例、9の出張旅費等特例です。3から6は古物商・質屋・宅建業者・再生資源業者といった特定業種向けで、相手が適格請求書発行事業者でない場合でも一定の要件で控除できるものです。

公共交通機関特例(3万円未満)

船舶・バス・鉄道による旅客の運送で、税込3万円未満のものは、インボイスの保存が不要で帳簿のみで控除できます。3万円未満かどうかは、1回の取引(1回の決済)ごとに判定します。1商品(1区間)ごとでも1か月分の合計でもありません。

落とし穴:複数人分をまとめて購入して3万円以上:3万円未満かどうかは1回の決済金額で判定します。出張者数人分の乗車券をまとめて購入して合計3万円以上になると公共交通機関特例は使えません。3万円以上になる場合は、原則どおりインボイス(適格請求書)の保存が必要です。

なお、税込3万円以上であっても、乗車券等が使用の際に回収される場合(改札で回収される切符など)は、上記2の回収特例により帳簿のみの保存で控除できることがあります。

自動販売機特例(3万円未満)と対象範囲

自動販売機特例の対象になるのは、代金の受領と資産の譲渡等が自動で行われる機械装置で、その機械装置のみで代金の受領と譲渡等が完結するものによる、税込3万円未満の商品の購入等です。飲み物の自動販売機のほか、コインロッカー、コインランドリー、金融機関のATMでの振込手数料・両替手数料などが対象になります。

落とし穴:コインパーキングやネット決済は対象外:コインパーキングや自動精算の駐車場は、機械が精算を行っても「駐車という場所の提供サービス」自体が機械のみで完結していないため、自動販売機特例の対象外でインボイスの保存が必要です。また、インターネットバンキングやオンラインでの購入も、機械装置のみで完結する取引ではないため対象外です。

出張旅費等特例(従業員への支給)

従業員等に支給する通常必要と認められる出張旅費・宿泊費・日当・通勤手当は、帳簿のみの保存で仕入税額控除ができます。ポイントは、これが会社が従業員に支給する場面の特例だという点です。金額基準(3万円)はなく、社会通念上「通常必要」と認められる範囲であることが要件です。

従業員が立て替えた実費を精算する場合でも、通常必要と認められる範囲であればこの特例を使えます。一方、会社が交通機関や宿泊施設に直接支払う場合は、この出張旅費等特例ではなく、公共交通機関特例(3万円未満)に該当するか、原則どおりインボイスの保存が必要かを個別に判定します。

帳簿の記載事項(該当する旨・住所の省略)

帳簿のみの保存で控除するには、通常の帳簿の記載事項(相手方の氏名・名称、取引年月日、取引内容、支払対価の額)に加えて、この特例のいずれに該当するかが分かる旨を記載する必要があります(国税庁インボイスQ&A)。

取引 帳簿の追加記載(例)
公共交通機関特例 「3万円未満の鉄道料金」など
自動販売機特例 「自販機」「ATM」など
出張旅費等特例 「出張旅費」「通勤手当」など

また、公共交通機関特例・自動販売機特例・出張旅費等特例などでは、帳簿に相手方の住所または所在地の記載は不要です。多数の相手方や特定困難な相手方への支払について、住所記載の負担を省けます。

少額特例との違い

同じ「帳簿のみで控除できる」でも、この特例と少額特例(税込1万円未満)は別の制度です。少額特例は一定規模以下の事業者が対象で、取引の種類を問わず税込1万円未満の課税仕入れ全般に使える一方、令和11年9月30日までの時限措置です。これに対して本記事の特例は、対象が特定の取引に限られる代わりに、規模要件も期限もない恒久措置です。

項目 帳簿のみ保存の特例 少額特例
対象取引 公共交通機関・自販機・出張旅費など特定の取引 税込1万円未満のすべての課税仕入れ
対象者 制限なし(全事業者) 一定規模以下の事業者
期限 恒久措置 令和11年9月30日まで

少額特例が使える事業者は、税込1万円未満であれば取引の種類を問わず帳簿のみで控除できるため、まず少額特例の適用を検討し、対象外(1万円以上や少額特例の対象事業者でない場合)のときに本記事の特例を検討します。免税事業者等からの仕入れに対する控除の緩和はインボイス経過措置で控除できない消費税の処理を、簡易課税を選択している場合の扱いは消費税の簡易課税制度を参照してください。

想定Q&A(帳簿のみ保存の特例)

Q1. 電車代はインボイスなしで控除できますか

税込3万円未満の鉄道・バス・船舶の旅客運送は、公共交通機関特例により帳簿のみの保存で控除できます。帳簿に「3万円未満の鉄道料金」などその特例に該当する旨を記載します。

Q2. 3万円未満は1回ごとですか1か月合計ですか

1回の取引(1回の決済)ごとに判定します。1か月分の合計ではありません。複数人分の乗車券をまとめて購入して合計3万円以上になると、公共交通機関特例は使えず原則どおりインボイスが必要です。

Q3. 自動販売機で買った飲み物はインボイスが要りますか

税込3万円未満であれば自動販売機特例により帳簿のみで控除できます。帳簿に「自販機」などと記載します。金融機関のATM手数料も自動販売機特例の対象です。

Q4. コインパーキングも自動販売機特例で控除できますか

できません。コインパーキングは機械で精算しても、駐車という場所の提供サービス自体が機械のみで完結していないため対象外です。原則どおりインボイスの保存が必要です。

Q5. 出張旅費特例に金額の上限はありますか

3万円のような金額基準はありません。従業員に支給する出張旅費・宿泊費・日当・通勤手当のうち、社会通念上「通常必要と認められる」範囲であれば、金額にかかわらず帳簿のみで控除できます。

Q6. 出張旅費特例は会社が交通機関に直接払う場合も使えますか

出張旅費等特例は従業員等に支給する場面の特例です。会社が交通機関や宿泊施設に直接支払う場合は、公共交通機関特例(3万円未満)に該当するか、原則どおりインボイスが必要かを個別に判定します。

Q7. 帳簿には何を記載すればよいですか

相手方の氏名・名称、取引年月日、取引内容、支払対価の額という通常の記載事項に加え、「3万円未満の鉄道料金」「自販機」「出張旅費」など、どの特例に該当するかが分かる旨を記載します。

Q8. 帳簿に相手方の住所も書く必要がありますか

公共交通機関特例・自動販売機特例・出張旅費等特例などでは、相手方の住所または所在地の記載は不要です。多数・不特定の相手方への支払について住所記載の負担を省けます。

Q9. 郵便料金はインボイスなしで控除できますか

郵便切手類のみを対価とし、郵便ポストに差し出す郵便・貨物サービスは、帳簿のみの保存で控除できます。窓口で料金を支払う場合など、この要件に当たらないものは原則どおりの取扱いになります。

Q10. 少額特例と帳簿のみ保存の特例はどちらを使いますか

少額特例が使える事業者なら、税込1万円未満は取引の種類を問わず帳簿のみで控除できるため、まず少額特例を検討します。1万円以上や少額特例の対象事業者でない場合に、公共交通機関特例などの本記事の特例を検討します。

判断フロー(帳簿のみで控除できるか)

手順 判断内容
1 少額特例が使える事業者で、税込1万円未満の課税仕入れか(該当すれば少額特例で控除)
2 9つの帳簿のみ保存の特例のいずれかに該当するか
3 公共交通機関・自販機は1回の決済が税込3万円未満か
4 帳簿に通常の記載事項+該当する特例の旨を記載しているか
5 いずれにも該当しなければ原則どおりインボイスの保存が必要

まとめ

  • 一定の取引はインボイスの保存なしで帳簿のみで仕入税額控除できる(消法30条7項、施行令49条1項1号)。対象は9つ。
  • よく使うのは公共交通機関特例(3万円未満)・自動販売機特例(3万円未満)・出張旅費等特例(従業員支給・金額基準なし)。
  • 3万円未満は1回の決済で判定。自販機特例はコインパーキングやネット決済は対象外。
  • 帳簿に「該当する旨(3万円未満の鉄道料金・自販機・出張旅費など)」を記載。住所は省略可。少額特例(1万円未満・時限)とは別制度。

出典・参考(条文・通達・国税庁資料)

※本記事は令和8年8月時点の法令・通達・国税庁公表資料(消費税法30条、消費税法施行令49条、消費税法施行規則15条の4、消費税法基本通達11-6-3等、国税庁インボイスQ&A)に基づく一般的な解説です。個別の判定は事実関係により異なるため、具体的な適用は顧問税理士または所轄税務署にご確認ください。

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