売上げに係る対価の返還等・貸倒れの消費税|値引き・返品・割戻しと税額控除

消費税

商品を売った後で値引きや返品が生じたり、売掛金が回収できず貸倒れになったりすると、いったん計上した売上げに対応する消費税を、後から売上税額(課税標準額に対する消費税額)から差し引く調整が必要になります。これが売上げに係る対価の返還等(消費税法38条)貸倒れに係る消費税額の控除(消費税法39条)です。どちらも納める消費税を減らす方向の調整で、適用を忘れると消費税を過大に納めてしまいます。この記事では、対価の返還等の範囲と税額計算、返還インボイスの交付義務、貸倒れの範囲と回収時の調整、免税事業者期間の売上げの扱いまでを、条文・通達・国税庁タックスアンサーに基づいて整理します。

この記事のポイント

  • 売上げに係る対価の返還等(消法38条)は、値引き・返品・割戻し(リベート)・売上割引が対象で、返還した税込額に7.8/110(軽減税率は6.24/108)を乗じた消費税を売上税額から控除する
  • インボイス発行事業者は、対価の返還等について返還インボイス(適格返還請求書)の交付義務がある。ただし税込1万円未満の返還等は交付が免除される
  • 貸倒れに係る消費税額の控除(消法39条)は、更生計画の切捨てなど貸倒れの事実が生じた課税期間に、貸倒額の税込価額に係る消費税を控除する
  • 控除した貸倒れを後に回収したら、回収額に係る消費税を回収した課税期間の売上税額に加算する。免税事業者だった期間の課税売上げには38条・39条とも適用がない

売上税額を減らす2つの調整(全体像)

対価の返還等も貸倒れも、いったん課税売上げとして計上した取引が、後の事情で減少・回収不能になった点が共通します。その分だけ売上税額を減らすのが両制度の役割です。仕入税額控除(仕入側)ではなく、売上税額(課税標準額に対する消費税額)から控除する点に特徴があります。

制度 対象 効果
対価の返還等(38条) 値引き・返品・割戻し・売上割引 返還額に係る消費税を売上税額から控除
貸倒れ(39条) 売掛金等の回収不能 貸倒額に係る消費税を売上税額から控除

売上げに係る対価の返還等とは(消法38条)

売上げに係る対価の返還等とは、課税資産の譲渡等を行った後に、その税込価額の返還または売掛金その他の債権の額の減額をすることをいいます(消費税法38条1項)。具体的には次のものが該当します。

区分 内容
返品 販売した商品が返品され、代金を返還または売掛金を減額した場合
値引き 販売後に価格を引き下げ、代金を返還または売掛金を減額した場合
割戻し 一定期間の取引高等に応じて支払うリベート(売上割戻金)
売上割引 売掛金の早期回収に伴う割引。消費税では対価の返還等として扱う

売上割引は、会計では営業外費用として処理することが多いですが、消費税では利息ではなく対価の返還等として扱います。会計処理の区分にかかわらず、消費税の税額調整の対象になる点に注意します。

対価の返還等の税額計算と返還インボイス

控除する消費税額は、返還した税込価額または減額した債権の額に、標準税率なら110分の7.8、軽減税率なら108分の6.24を乗じて計算します。例えば税込11万円(標準税率)の返品なら、11万円×7.8/110=7,800円を売上税額から控除します。

控除を受けるには、対価の返還等をした金額の明細等を記録した帳簿の保存が必要です。加えて、インボイス発行事業者は、取引先(他の事業者)に対して返還インボイス(適格返還請求書)を交付する義務があります(消費税法57条の4第3項)。

落とし穴:振込手数料相当額の返還インボイス:売手が負担する振込手数料相当額を売上値引きとして処理する場合、これも対価の返還等に当たります。ただし、返還等の金額が税込1万円未満であれば返還インボイスの交付義務は免除されます(令和5年度改正)。振込手数料のような少額の値引きは、この免除により返還インボイスの発行が不要です。

貸倒れに係る消費税額の控除(消法39条)

課税資産の譲渡等を行った相手方に対する売掛金その他の債権について、更生計画認可の決定による切捨てなど一定の貸倒れの事実が生じ、税込価額の全部または一部を領収できなくなったときは、その領収できなくなった課税期間の売上税額から、貸倒額の税込価額に係る消費税額(税込価額×7.8/110、軽減税率は6.24/108)を控除します(消費税法39条1項)。

控除するには、貸倒れの事実を証する書類の保存が必要です。なお、貸倒れとして認められる範囲は法人税の貸倒損失とほぼ同様に考えられており、法人税で貸倒れが否認されれば消費税でも否認される関係にあります。貸倒れそのものの判定は貸倒損失の3類型を参照してください。

貸倒れの範囲(法律上・事実上・形式上)

消費税で貸倒れとして控除できる事実は、消費税法施行令59条などに定められており、次のように整理できます。

類型 主な事実
法律上の貸倒れ 更生計画・再生計画の認可決定による切捨て、特別清算の協定認可、書面による債務免除など
事実上の貸倒れ 債務者の資産状況・支払能力からみて債権の全額が回収不能であることが明らかになった場合
形式上の貸倒れ 継続的取引の停止後1年以上経過した場合など(備忘価額を控除した残額)

事実上の貸倒れは全額が回収不能であることが要件で、一部でも回収見込みがあれば控除できません。形式上の貸倒れは、法人税と同様に備忘価額(通常1円)を残して控除します。

貸倒れを回収したときの調整

いったん貸倒れとして消費税額を控除した後に、その売掛金等の全部または一部を回収した場合には、回収した金額に係る消費税額を、回収した日の属する課税期間の売上税額に加算します(消費税法39条3項)。控除しっぱなしにはできず、回収時に戻す仕組みです。

加算する消費税額も、回収した税込価額に7.8/110(軽減税率は6.24/108)を乗じて計算します。貸倒れの控除と回収時の加算は、いずれもその事実が生じた課税期間で処理する点に注意が必要です。

落とし穴:回収時の加算忘れ:過去に貸倒れとして消費税を控除した債権を後から回収したのに、回収額に係る消費税の売上税額への加算を失念するケースがあります。貸倒処理は控除の年度と回収の年度が離れることが多く、管理から漏れやすい論点です。貸倒れとして控除した債権は、回収の可能性がある限り継続して管理しておく必要があります。

免税事業者期間の売上げ・簡易課税での扱い

対価の返還等・貸倒れの調整は、もともと課税売上げとして消費税が課された取引について行うものです。したがって、免税事業者であった課税期間に行った課税売上げについて、課税事業者になった後に返品・値引き・貸倒れが生じても、38条・39条の控除は適用されません(消費税法基本通達14-1-6、14-2-4)。免税期間の売上げには消費税が課されていないためです。

簡易課税制度を選択している場合、売上げに係る対価の返還等は課税標準額に対する消費税額の計算に反映されますが、貸倒れに係る消費税額の控除は、みなし仕入率による控除とは別に、売上税額から控除できます。簡易課税の仕組みは消費税の簡易課税制度を参照してください。また、対価の返還等は課税売上割合の計算にも影響します(課税売上割合とは)。

想定Q&A(対価の返還等・貸倒れの消費税)

Q1. 売上割引は利息のようなものですが消費税ではどう扱いますか

会計では営業外費用として処理することが多いですが、消費税では対価の返還等として扱い、税額調整の対象になります。会計上の区分にかかわらず、売上税額から控除できます。

Q2. 対価の返還等はどう税額計算しますか

返還した税込価額に、標準税率なら110分の7.8、軽減税率なら108分の6.24を乗じます。税込11万円の返品なら11万円×7.8/110=7,800円を売上税額から控除します。

Q3. 返還インボイスは必ず発行しなければなりませんか

インボイス発行事業者が他の事業者に対価の返還等を行う場合は交付義務があります。ただし、返還等の金額が税込1万円未満であれば交付義務は免除されます。振込手数料相当額の値引きなどはこの免除の対象です。

Q4. 振込手数料を売手負担にした場合の消費税はどうなりますか

売手負担の振込手数料相当額を売上値引きとして処理する場合、対価の返還等として売上税額から控除できます。金額が税込1万円未満なら返還インボイスの交付は不要です。

Q5. 貸倒れの消費税額はいつの課税期間で控除しますか

貸倒れの事実が生じ、税込価額を領収できなくなった日の属する課税期間で控除します。前期以前に発生した売掛金でも、貸倒れになった課税期間で調整します。

Q6. どこまでが消費税で控除できる貸倒れですか

更生計画等による切捨てや書面による債務免除(法律上)、全額回収不能が明らかな場合(事実上)、取引停止後1年以上経過(形式上)などです。範囲は法人税の貸倒損失とほぼ同様で、法人税で否認されれば消費税でも否認されます。

Q7. 貸倒れで控除した後に一部回収できたらどうしますか

回収した金額に係る消費税額を、回収した課税期間の売上税額に加算します。控除しっぱなしにはできず、回収時に戻す必要があります。

Q8. 免税事業者のときの売掛金が課税事業者になってから貸倒れになりました

その売掛金は免税期間の課税売上げで消費税が課されていないため、貸倒れに係る消費税額の控除は適用されません(基通14-2-4)。対価の返還等も同様に適用がありません(基通14-1-6)。

Q9. 簡易課税でも貸倒れの控除はできますか

できます。貸倒れに係る消費税額の控除は、みなし仕入率による控除とは別枠で、売上税額から控除できます。売上げに係る対価の返還等も課税標準額に対する消費税額の計算に反映されます。

Q10. 控除を受けるのに必要な書類は何ですか

対価の返還等は、返還した金額の明細等を記録した帳簿の保存が必要です(交付した返還インボイスの写しがあれば併せて保存)。貸倒れは、貸倒れの事実を証する書類の保存が必要です。

判断フロー(売上税額の調整)

手順 判断内容
1 対象の売上げは課税事業者として計上した課税売上げか(免税期間の売上げは対象外)
2 値引き・返品・割戻し・売上割引か(対価の返還等・38条)、回収不能か(貸倒れ・39条)
3 税込額に7.8/110(軽減6.24/108)を乗じて控除税額を計算し、生じた課税期間で控除
4 対価の返還等は返還インボイスの要否(税込1万円未満は免除)と帳簿保存を確認
5 貸倒れを後に回収したら、回収額に係る消費税を回収した課税期間の売上税額に加算

まとめ

  • 対価の返還等(38条)は値引き・返品・割戻し・売上割引が対象で、返還税込額×7.8/110を売上税額から控除する。
  • インボイス発行事業者は返還インボイスの交付義務があるが、税込1万円未満の返還等は交付免除。
  • 貸倒れ(39条)は貸倒れの事実が生じた課税期間に貸倒額の消費税を控除。範囲は法人税の貸倒損失とほぼ同様。
  • 控除した貸倒れを回収したら回収額の消費税を売上税額に加算。免税期間の課税売上げには38条・39条とも適用なし。

出典・参考(条文・通達・タックスアンサー)

※本記事は令和8年8月時点の法令・通達・国税庁公表資料(消費税法38条・39条・57条の4、消費税法施行令59条、消費税法基本通達14-1-6・14-2-4、国税庁タックスアンサーNo.6359・6367)に基づく一般的な解説です。個別の判定は事実関係により異なるため、具体的な適用は顧問税理士または所轄税務署にご確認ください。

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